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新しい人生の始まり
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今日も朝からいい天気。私は伸びをしてベッドから降りた。
「おはよ、ヴィーグ」
『おはよう。よく眠れたようだな。今日は、魔法ギルドか?家で仕事か?』
「ギルドだね。お昼からは魔インクの材料を集めに森に行きたい」
『分かった』
私とヴィーグはこの身体の持ち主が暮らしていた国から3つほど先にある亜人の国クレイガー王国にいる。王都ではなく、シーアーバンスという比較的治安のいい海辺の領都だ。近くには大きな森もあり浅いところなら私でも採取に出掛けられる。海に行けば、貝や昆布、わかめが簡単に手に入るし、いいところだ。ここに来て半年。神様が生前の私の実績を反映させてくれたおかげで、なかなか希有な魔法陣描きとして、お金に困ることなく生活している。ヴィーグは、私の従魔として登録されていた。家と身分証があるのは大きい。
「ナーサリー、おはよ~う。納品に来たよ」
「おはよう、サイカ。助かったわ。実は、さっき急ぎだって、治癒と解毒の魔法陣をあるだけ持って行かれたのよ、騎士団に。灯りの魔法陣も出せるだけ引き取っていかれちゃって、困ってたの」
私は、定期的に納めている魔法陣と個別に受注した魔法陣を受付に出した。
「治癒と解毒の魔法陣をあるだけなんて、穏やかじゃないね」
「腐敗の森でラフランシアが大量発生したらしくて、その殲滅にてこずってるらしいわ」
腐敗の森は、私が素材を集めに行く森の最奥の名称で、街に近い方から、実りの森、駆け出しの森、見極めの森、強者の森、腐敗の森と呼ばれる。ラフランシアとは、生き物を糧とする魔植物で、毒があり、滅多に繁殖しないが、繁殖し出すとひと晩で百体ほど増えるため、大事になることが多い。
「腐敗の森で?!そりゃあ、買い占められるわ。じゃあ、これなんて売れる?」
私は、無限鞄から大量の屑魔石を取り出した。防毒の魔法陣と灯りの魔法陣を刻んである。この無限鞄は、この世界なら誰でも持っている容量の一番小さなもの。大切なものは、ヴィーグが持つ無限収納に入れてあって、ヴィーグは私の眷族だから、私もアクセス権限をもっている。
「こんなに?!」
「防毒の魔法陣は、4月前に個別依頼で作った余り。灯りの魔法陣は、手土産代わりになるからちょこちょこ作ってるやつ」
灯りの魔法陣や湧き水の魔法陣は、お礼に渡すと喜ばれるから、常備している。魔石自体の質はそんなによくはないから、持って1月ほど。防毒は、大量にほしいと言われて作ったが、多すぎて買い取ってもらえなかったのだ。こっちは、1回使い捨て。
「そういえば、そんな依頼、受けてたわね。これだけあれば大分戦況が変わるわ。灯りの魔法陣は、さすがに買い占められると市民生活に支障を来すから、最低限しか売れなかったし」
ラフランシアは、明るいところでは動きが鈍くなるし、弱い個体は眠ってしまう。が、腐敗の森は常に薄暗くほとんど陽が差さない。
「じゃあ、買い取ってもらえる?特に防毒の魔法陣なんて使いどころがなくて困ってたんだ」
「量を考えなさいよ!この常識なしめ!」
「それは、亡き養い親に言って。これが普通だとずっと信じてきたんだから」
私は、この世界では、超有名な魔法陣描きでAランクの魔法剣士の唯一の養い子という肩書になっている。私がこの街に来る2月前に他界しているという設定付きだ。神様がちょこっと記憶の操作をして創り出した実在しない人物。強いて言うなら、前の世界の職場の先輩たちがその師匠になるのかも?
「まあ、今回はそれで助かる訳だから、罵倒もしにくいわね。すぐに騎士団に持って行くわ」
よかった。不良債権が裁けた。
「今日は実りの森には行かない方がいいかなぁ」
私は、ヴィーグと依頼が張り出してある掲示板を見ながら呟いた。私の買い取りを処理しているナーサリーにもその声が届いたらしい。処理をしながら教えてくれた。
「そうねぇ~。南から東は騎士団と魔法剣士やそのパーティーでごった返してるから近づかない方が無難ねぇ。でも、暫くはこの状態が続くから、急ぎなら西側で済ますのをお薦めするわ」
「そうする。ありがとう」
「はい。これね。現金?カード?」
「端数は現金で、残りはカードに入れてほしい。今日は、これを受けるわ」
私は、張り出してある依頼から、期限が7日後の無限鞄に使う魔法陣100枚と期限が10日後の氷を作る魔法陣10個の依頼を受けることにした。
「ああ、それ、期限と数がキツくて誰も受けてくれないやつだから、助かるわ。やだぁ。この魔石、刻印していないじゃない!誰よ!ちょっと待ってて。もう!・・・・・・・・お待たせ。はい」
神様から魔法陣創造の能力とそれに付随した専用スキルをもらったから、期限は私にはあまり関係がない。その依頼の受付を済ませた私は、お昼を済ませると、ヴィーグと一緒に実りの森の西側に向かった。街から出る際に西門を通ったが、結構人が出入りしている。が、衛兵に「腐敗の森の南東にラフランシアが出たから気をつけるように」と声をかけられる程度には、いつもと違う森のようだ。ヴィーグがいれば、大丈夫だよね?
「どう、ヴィーグ?」
『駆け出しの森までいつもなら見極めの森にいる奴らが下がってきてるな。実りの森にいる魔物の数もいつもの5倍くらいだ』
「なら、街道沿いで見つけることにする」
私は、交渉の末、神様から戴いた鑑定を使って必要なキノコや木の実や皮を採取した。
『むっ。誰か来る』
森に目を向けても誰もいないが、私はヴィーグの近くに寄った。ヴィーグが居るというなら居るのだ。
「襲われてるとか?」
『いや、こちらに歩いて来る』
「なら、もう充分採取できたし、戻ろう」
『そうだな』
私たちは、その誰かを待つことなくその場を離れた。面倒ごとに巻き込まれたくはない。ただでさえ、蒼狼に擬態しているヴィーグを譲れと脅してくる馬鹿が後を絶たないのだから。ヴィーグに促されるままの私は気付かなかった。街に帰る私たちの後ろ姿をじっと見る人影があったことに。
「おはよ、ヴィーグ」
『おはよう。よく眠れたようだな。今日は、魔法ギルドか?家で仕事か?』
「ギルドだね。お昼からは魔インクの材料を集めに森に行きたい」
『分かった』
私とヴィーグはこの身体の持ち主が暮らしていた国から3つほど先にある亜人の国クレイガー王国にいる。王都ではなく、シーアーバンスという比較的治安のいい海辺の領都だ。近くには大きな森もあり浅いところなら私でも採取に出掛けられる。海に行けば、貝や昆布、わかめが簡単に手に入るし、いいところだ。ここに来て半年。神様が生前の私の実績を反映させてくれたおかげで、なかなか希有な魔法陣描きとして、お金に困ることなく生活している。ヴィーグは、私の従魔として登録されていた。家と身分証があるのは大きい。
「ナーサリー、おはよ~う。納品に来たよ」
「おはよう、サイカ。助かったわ。実は、さっき急ぎだって、治癒と解毒の魔法陣をあるだけ持って行かれたのよ、騎士団に。灯りの魔法陣も出せるだけ引き取っていかれちゃって、困ってたの」
私は、定期的に納めている魔法陣と個別に受注した魔法陣を受付に出した。
「治癒と解毒の魔法陣をあるだけなんて、穏やかじゃないね」
「腐敗の森でラフランシアが大量発生したらしくて、その殲滅にてこずってるらしいわ」
腐敗の森は、私が素材を集めに行く森の最奥の名称で、街に近い方から、実りの森、駆け出しの森、見極めの森、強者の森、腐敗の森と呼ばれる。ラフランシアとは、生き物を糧とする魔植物で、毒があり、滅多に繁殖しないが、繁殖し出すとひと晩で百体ほど増えるため、大事になることが多い。
「腐敗の森で?!そりゃあ、買い占められるわ。じゃあ、これなんて売れる?」
私は、無限鞄から大量の屑魔石を取り出した。防毒の魔法陣と灯りの魔法陣を刻んである。この無限鞄は、この世界なら誰でも持っている容量の一番小さなもの。大切なものは、ヴィーグが持つ無限収納に入れてあって、ヴィーグは私の眷族だから、私もアクセス権限をもっている。
「こんなに?!」
「防毒の魔法陣は、4月前に個別依頼で作った余り。灯りの魔法陣は、手土産代わりになるからちょこちょこ作ってるやつ」
灯りの魔法陣や湧き水の魔法陣は、お礼に渡すと喜ばれるから、常備している。魔石自体の質はそんなによくはないから、持って1月ほど。防毒は、大量にほしいと言われて作ったが、多すぎて買い取ってもらえなかったのだ。こっちは、1回使い捨て。
「そういえば、そんな依頼、受けてたわね。これだけあれば大分戦況が変わるわ。灯りの魔法陣は、さすがに買い占められると市民生活に支障を来すから、最低限しか売れなかったし」
ラフランシアは、明るいところでは動きが鈍くなるし、弱い個体は眠ってしまう。が、腐敗の森は常に薄暗くほとんど陽が差さない。
「じゃあ、買い取ってもらえる?特に防毒の魔法陣なんて使いどころがなくて困ってたんだ」
「量を考えなさいよ!この常識なしめ!」
「それは、亡き養い親に言って。これが普通だとずっと信じてきたんだから」
私は、この世界では、超有名な魔法陣描きでAランクの魔法剣士の唯一の養い子という肩書になっている。私がこの街に来る2月前に他界しているという設定付きだ。神様がちょこっと記憶の操作をして創り出した実在しない人物。強いて言うなら、前の世界の職場の先輩たちがその師匠になるのかも?
「まあ、今回はそれで助かる訳だから、罵倒もしにくいわね。すぐに騎士団に持って行くわ」
よかった。不良債権が裁けた。
「今日は実りの森には行かない方がいいかなぁ」
私は、ヴィーグと依頼が張り出してある掲示板を見ながら呟いた。私の買い取りを処理しているナーサリーにもその声が届いたらしい。処理をしながら教えてくれた。
「そうねぇ~。南から東は騎士団と魔法剣士やそのパーティーでごった返してるから近づかない方が無難ねぇ。でも、暫くはこの状態が続くから、急ぎなら西側で済ますのをお薦めするわ」
「そうする。ありがとう」
「はい。これね。現金?カード?」
「端数は現金で、残りはカードに入れてほしい。今日は、これを受けるわ」
私は、張り出してある依頼から、期限が7日後の無限鞄に使う魔法陣100枚と期限が10日後の氷を作る魔法陣10個の依頼を受けることにした。
「ああ、それ、期限と数がキツくて誰も受けてくれないやつだから、助かるわ。やだぁ。この魔石、刻印していないじゃない!誰よ!ちょっと待ってて。もう!・・・・・・・・お待たせ。はい」
神様から魔法陣創造の能力とそれに付随した専用スキルをもらったから、期限は私にはあまり関係がない。その依頼の受付を済ませた私は、お昼を済ませると、ヴィーグと一緒に実りの森の西側に向かった。街から出る際に西門を通ったが、結構人が出入りしている。が、衛兵に「腐敗の森の南東にラフランシアが出たから気をつけるように」と声をかけられる程度には、いつもと違う森のようだ。ヴィーグがいれば、大丈夫だよね?
「どう、ヴィーグ?」
『駆け出しの森までいつもなら見極めの森にいる奴らが下がってきてるな。実りの森にいる魔物の数もいつもの5倍くらいだ』
「なら、街道沿いで見つけることにする」
私は、交渉の末、神様から戴いた鑑定を使って必要なキノコや木の実や皮を採取した。
『むっ。誰か来る』
森に目を向けても誰もいないが、私はヴィーグの近くに寄った。ヴィーグが居るというなら居るのだ。
「襲われてるとか?」
『いや、こちらに歩いて来る』
「なら、もう充分採取できたし、戻ろう」
『そうだな』
私たちは、その誰かを待つことなくその場を離れた。面倒ごとに巻き込まれたくはない。ただでさえ、蒼狼に擬態しているヴィーグを譲れと脅してくる馬鹿が後を絶たないのだから。ヴィーグに促されるままの私は気付かなかった。街に帰る私たちの後ろ姿をじっと見る人影があったことに。
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