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時を遡りました?
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「あなた、たかだか子爵令嬢のくせに、殿下の周りをウロウロするのはおよしなさい!」
「そうですわよ。身のほど知らず、という言葉をご存じ?」
「公爵家のご令嬢であるローズマリー様を差し置いて殿下の隣に居ようなんて図々しいのよ」
「まあ、皆様。おやめになって。そのようなことクリスレイア様も分かっておいでよ?」
こんなことは第3王子殿下の婚約者となってから日常茶飯事だ。王城に来る度に絡まれ、夜会やお茶会ではヒソヒソと遠巻きにされてしまう。私は取り立てて美しいわけでも才があるわけでもなく、家柄が古いだけの子爵令嬢にすぎない。王妃様主催の第3王子殿下の番を探すお茶会で見初められ、12歳で婚約の打診が来たときには畏れ多くて身分を理由にお断りしたのだ。だが・・・・。打診を受けた時点で既に外堀は埋められ、断れなくなっていた。私は第3王子殿下の番だったのだ。番とは魂の求める相手であり、魂の片割れ。出逢えるのはほんの一握りの者だけだ。13歳までに見つけられない場合は、番避けの薫りを纏った装飾品を身に付け、家を繁栄させるための婚約者を探すのが貴族の一般常識。だから、私は運がいいのだろう。
「・・・・」
私が何も言えないでいると、不意に後ろから柔らかく拘束された。
「待たせたね、クリス」
「ウィリアム殿下。いいえ。この方たちがお話し相手になってくださいました」
「そう?手間を掛けたね」
令嬢たちに微笑む殿下は、はっきり言って隣に並びたくないくらいには美しい。切れ長の澄んだエメラルドの瞳に煌めく金髪はスッキリと切り揃えられている。見惚れてしまうのも無理はない。私も1度は婚約を辞退したけれど、番だと言われて嬉しかった。こんなにも素敵な人とこの先の人生を過ごせるなんて、と。だから、妬まれるのも仕方ないのだ。
私はリンデン子爵家の長女として生を受け、お父様やお母様、4歳下の双子の弟たちにかこまれ、のびのびと日々を過ごしてきた。もちろん、貴族令嬢としての教育も受けた。だが、子爵家程度の教育では王子妃は務まらない。毎日王宮に通い、王子妃としての教育を施されている。マナーやダンス、立ち居振舞いを始め、話術や社交術、王室の歴史、執務など多岐にわたったが、私は貪欲にそれらを吸収した。ウィリアム殿下に相応しい女性になりたい、胸を張って隣に立ちたい、その一心だった。だが・・・・。
「漸くだ。長かった」
「ええ。明日はよろしくお願い致します」
「明日は、ではなくて、明日から、だ。明日、君は僕の奥さんになるんだから」
「はい、そうでした」
「明日は朝から忙しいから、ゆっくり休んで」
ウィリアム殿下は愛しそうに私の額に口づけを落とすと名残惜しそうにしながらも部屋を出ていった。結婚式を翌日に控えたその夜、私は警備の厳重な王宮の特別室に泊まったにもかかわらず、何者かが放った暗殺者に心臓をひとつきにされ命を奪われた。18歳だった。
「ん・・・・!!!!」
ガバッと身体を起こした。今、顔を黒い布で覆った侵入者に心臓を・・・・。そこまで考えて身体が震え出す。周りを見回してここが王宮の特別室ではないことが分かった。
「なぜ生きてるの?ここはどこ?」
ポツンとこぼれ落ちた声はいつもよりも高く幼さを含んでいる気がした。思わず抱き締めた身体の違和感に恐る恐る自分の身体を見ると、ペタンコの胸と小さなふっくらとした手が映った。
「え?どういうこと?」
もう一度よく部屋を見る。白で統一された室内を彩るピンクや水色、黄色などのパステルカラーのクッションやカーテン、テーブルクロス。可愛らしいぬいぐるみ。
「ここ、私の部屋だわ」
まだ幼い頃の私のお城に小さくなった身体の私がいた。
「どうなってるの?何が起こったの?」
混乱で頭がクラクラしてくる。
コンコンコン
「失礼致します」
入ってきたのは、私の乳母を勤めていたサリーだった。12歳でウィリアム殿下の婚約者となるまで私に仕えてくれていた。その後は、王宮から派遣された侍女と変わってしまい、サリーはお母様付きになったはずだ。なぜサリーが?
「お嬢様、朝ですよ。あら、起きてらっしゃいますね。珍しいこともあること。さあ、着替えましょう」
ポカンとする私をサリーは笑顔で促す。されるまま鏡の前に座った私は、改めて自分の姿にびっくりした。そこには10歳くらいの私がいたのだ。
「ねえ、サリー。今は王国歴だと56年だったかしら?」
「いいえ。57年ですよ。しっかりしてくださいませ、お嬢様」
「あ、そ、そうだったわね」
今年、11歳になるのね。本当にどうなっているの?あれは夢?いいえ。あれは夢じゃない。あの痛みが夢であるはずがない。夢を見ているのかしら?まだ、殿下と婚約する前の幸せだった頃の夢。誰かに嫌味を言われることも立ち居振舞いを注目されることもないのんびりと過ごせた幼い日の優しい夢。
「さあ、出来上がりましたよ。・・お嬢様?どうかなさいましたか?」
「えっ!いいえ。お腹がすいただけよ」
私は滲みそうになる涙を誤魔化すように首を振った。
「あらあら。では、食堂へ参りましょうか」
ふっくらと笑うサリーに夢ならこのままずっといたいと思ってしまった。
だが、夢にしてはおかしなこと、不思議なことがおこっていた。私の家は子爵だったはずなのに伯爵になっていたり、弟の代わりにお姉様がいたり。変わらないのは、お父様とお母様。それに幾人かの使用人たち。どうなっているのだろう?幸い今の私のことは自分の内にある記憶を辿ることで知ることができた。
そんな疑問は満たされた日々の中で少しずつ薄れて、日常の幸せを噛み締めるように過ごしていたある日。私は、あの日の、胸をひとつきにされたあの日の痛みを思い出す人と出逢うことになる。
これがいつ終わるとも知れぬ、私の死に戻り人生の始まりだった。
「そうですわよ。身のほど知らず、という言葉をご存じ?」
「公爵家のご令嬢であるローズマリー様を差し置いて殿下の隣に居ようなんて図々しいのよ」
「まあ、皆様。おやめになって。そのようなことクリスレイア様も分かっておいでよ?」
こんなことは第3王子殿下の婚約者となってから日常茶飯事だ。王城に来る度に絡まれ、夜会やお茶会ではヒソヒソと遠巻きにされてしまう。私は取り立てて美しいわけでも才があるわけでもなく、家柄が古いだけの子爵令嬢にすぎない。王妃様主催の第3王子殿下の番を探すお茶会で見初められ、12歳で婚約の打診が来たときには畏れ多くて身分を理由にお断りしたのだ。だが・・・・。打診を受けた時点で既に外堀は埋められ、断れなくなっていた。私は第3王子殿下の番だったのだ。番とは魂の求める相手であり、魂の片割れ。出逢えるのはほんの一握りの者だけだ。13歳までに見つけられない場合は、番避けの薫りを纏った装飾品を身に付け、家を繁栄させるための婚約者を探すのが貴族の一般常識。だから、私は運がいいのだろう。
「・・・・」
私が何も言えないでいると、不意に後ろから柔らかく拘束された。
「待たせたね、クリス」
「ウィリアム殿下。いいえ。この方たちがお話し相手になってくださいました」
「そう?手間を掛けたね」
令嬢たちに微笑む殿下は、はっきり言って隣に並びたくないくらいには美しい。切れ長の澄んだエメラルドの瞳に煌めく金髪はスッキリと切り揃えられている。見惚れてしまうのも無理はない。私も1度は婚約を辞退したけれど、番だと言われて嬉しかった。こんなにも素敵な人とこの先の人生を過ごせるなんて、と。だから、妬まれるのも仕方ないのだ。
私はリンデン子爵家の長女として生を受け、お父様やお母様、4歳下の双子の弟たちにかこまれ、のびのびと日々を過ごしてきた。もちろん、貴族令嬢としての教育も受けた。だが、子爵家程度の教育では王子妃は務まらない。毎日王宮に通い、王子妃としての教育を施されている。マナーやダンス、立ち居振舞いを始め、話術や社交術、王室の歴史、執務など多岐にわたったが、私は貪欲にそれらを吸収した。ウィリアム殿下に相応しい女性になりたい、胸を張って隣に立ちたい、その一心だった。だが・・・・。
「漸くだ。長かった」
「ええ。明日はよろしくお願い致します」
「明日は、ではなくて、明日から、だ。明日、君は僕の奥さんになるんだから」
「はい、そうでした」
「明日は朝から忙しいから、ゆっくり休んで」
ウィリアム殿下は愛しそうに私の額に口づけを落とすと名残惜しそうにしながらも部屋を出ていった。結婚式を翌日に控えたその夜、私は警備の厳重な王宮の特別室に泊まったにもかかわらず、何者かが放った暗殺者に心臓をひとつきにされ命を奪われた。18歳だった。
「ん・・・・!!!!」
ガバッと身体を起こした。今、顔を黒い布で覆った侵入者に心臓を・・・・。そこまで考えて身体が震え出す。周りを見回してここが王宮の特別室ではないことが分かった。
「なぜ生きてるの?ここはどこ?」
ポツンとこぼれ落ちた声はいつもよりも高く幼さを含んでいる気がした。思わず抱き締めた身体の違和感に恐る恐る自分の身体を見ると、ペタンコの胸と小さなふっくらとした手が映った。
「え?どういうこと?」
もう一度よく部屋を見る。白で統一された室内を彩るピンクや水色、黄色などのパステルカラーのクッションやカーテン、テーブルクロス。可愛らしいぬいぐるみ。
「ここ、私の部屋だわ」
まだ幼い頃の私のお城に小さくなった身体の私がいた。
「どうなってるの?何が起こったの?」
混乱で頭がクラクラしてくる。
コンコンコン
「失礼致します」
入ってきたのは、私の乳母を勤めていたサリーだった。12歳でウィリアム殿下の婚約者となるまで私に仕えてくれていた。その後は、王宮から派遣された侍女と変わってしまい、サリーはお母様付きになったはずだ。なぜサリーが?
「お嬢様、朝ですよ。あら、起きてらっしゃいますね。珍しいこともあること。さあ、着替えましょう」
ポカンとする私をサリーは笑顔で促す。されるまま鏡の前に座った私は、改めて自分の姿にびっくりした。そこには10歳くらいの私がいたのだ。
「ねえ、サリー。今は王国歴だと56年だったかしら?」
「いいえ。57年ですよ。しっかりしてくださいませ、お嬢様」
「あ、そ、そうだったわね」
今年、11歳になるのね。本当にどうなっているの?あれは夢?いいえ。あれは夢じゃない。あの痛みが夢であるはずがない。夢を見ているのかしら?まだ、殿下と婚約する前の幸せだった頃の夢。誰かに嫌味を言われることも立ち居振舞いを注目されることもないのんびりと過ごせた幼い日の優しい夢。
「さあ、出来上がりましたよ。・・お嬢様?どうかなさいましたか?」
「えっ!いいえ。お腹がすいただけよ」
私は滲みそうになる涙を誤魔化すように首を振った。
「あらあら。では、食堂へ参りましょうか」
ふっくらと笑うサリーに夢ならこのままずっといたいと思ってしまった。
だが、夢にしてはおかしなこと、不思議なことがおこっていた。私の家は子爵だったはずなのに伯爵になっていたり、弟の代わりにお姉様がいたり。変わらないのは、お父様とお母様。それに幾人かの使用人たち。どうなっているのだろう?幸い今の私のことは自分の内にある記憶を辿ることで知ることができた。
そんな疑問は満たされた日々の中で少しずつ薄れて、日常の幸せを噛み締めるように過ごしていたある日。私は、あの日の、胸をひとつきにされたあの日の痛みを思い出す人と出逢うことになる。
これがいつ終わるとも知れぬ、私の死に戻り人生の始まりだった。
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