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リルアイゼは、王都の屋敷から毎日王宮に通い、礼儀作法や魔法を習うのだそうだ。そして、やはり第3王子殿下の婚約者となることが決まった。お互いに大層乗り気らしい。第3王子は剣術や馬術を得意とし、威嚇という能力は、リルアイゼのいう“有能な仲間”には最適だ。討伐に向かうためにも、何人か見繕う予定だという。おや、逆ハー、狙っちゃいそうじゃない?
もうひとつ。我が家が伯爵から陞爵され侯爵を賜り、領地として隣接する王領地の一部を下賜されたという。これを聞いた私は冷や汗が流れた。リルアイゼの胆力に脱帽だ。嘘がバレないように愛し子を全うしてもらわねばならない。ここまでされて、嘘でしたとは死んでも言えまい。実際に首が飛ぶ。リルアイゼの発言に不安を抱くお兄様はこれらを辞退したが、現当主であるお父様の意向には逆らえなかった。王太子殿下の取り成しもあったという。正式には2月後の愛し子をお披露目するパーティーで授与されるということだ。
そして、私にとって最大の危機を聞かされた。・・・・。私の婚約についてだ。
「シュシュについては国王陛下と王太子殿下公認のもと私が全権を得たから、なるべくシュシュの希望に沿うようにしたい」
よ、よかったぁ。お父様なら問答無用で利用価値のあるところと結ぶだろう。
「領地で独身でいるのは」
「無理だよ?」
「平民には・・・・」
「なれないね」
にっこり笑顔が怖いです。
「三男とか四男で貴族籍を辞すような方とか」
「長男じゃなく、才能のあるやつってことね?」
有無を言わさぬ笑顔ってこういうのを言うんだ・・・・。
「あ、はい。もうそれでいいです」
“才能のある”は“王宮勤め”のことですよね?若しくは爵位を賜れるほどの能力のある方。ちらっとひとつの顔が浮かんだが、あれは貴族ではない。私はといえば、能力も容姿も並み、利用価値はリルアイゼとの繋がりだけ。だいたいそんな優良物件を世の女性たちが放っておくとも思えない。お兄様の求める物件が私を選ぶ確率は限りなく低いと思われる。よし!一先ず、お兄様にお任せしよう!そんなことを考えた私は自分の甘さにこの後泣くことになるのだ。
それから10日。いつまでも領地を留守にはできないため、私とお兄様は今日、領地に帰る。お兄様に領主代行として領内の全権を譲渡したお父様は宰相府の役人として出仕するべく、王宮に通い始めた。お祖父様とお祖母様は一足早くお兄様に送られて領地に帰った。お母様とクルーガはリルアイゼと共にここで暮らしていく。連れてきた使用人たちはここに留まりリルアイゼを支えていくそうだ。・・・・それでは皆様、ごきげんよう♪
さて、領地の屋敷に帰って一番最初にしたこと。
「シュシュの部屋を用意しないとね」
そう。私の部屋を整えることだった。お兄様が学園を卒業してからは私はお兄様公認で屋根裏暮らしをしていた。さすがに8歳と18歳が同じ部屋はよろしくない。私にもお兄様にもプライベートは必要だ。一度、リルアイゼの衣装部屋を私の部屋に戻すべくお父様とかけ合ったらしい。本当にお兄様には愛されているなぁと思う。兄でなかったら結婚したいくらいだ。
領地に残っている使用人はお兄様を次期領主と認めている人たちばかりだから、さっさと衣装部屋を片付け私が住めるように整えてくれた。お兄様はそれはそれは清々しい表情で私の部屋を眺めている。そのお兄様は2年後の結婚を期に領主を継ぐ。他の部屋もそう遠くない日に作り替えられるだろう。
「疲れたぁ」
『敵ばかりだったからな』
『これからはのびのびと暮らせるね』
「そうだねぇ。明日は久しぶりに森の泉に行こうか?きっと白桃が食べ頃だよ」
『歌、歌ってくれる?』
「いいよ」
『熊でも仕留めてみるか』
「熊はダメだよ、コマちゃん」
『何故だ?』
「???ん?あれ?なんとなく?」
『まあいい。ガイウスのところにも行くんだろ?』
「もちろん!調薬セットも置いてきたし、居心地いいんだよね、あの家」
『じゃあ、薬草と鉱物も探そう♪』
「そうだね。キュウちゃんは鉱物のある場所分かるの?」
『任せて!』
王都に滞在していた間のほとんどをガイウスの工房に押し掛けていた。お兄様は毎日王宮に通っていたから、私を気にかけるものは誰もいなかった。これ幸いとばかりに脱け出し、調薬セットの調達に付き合ってもらったり、屋台を一緒に見て回ったり、ガイウスが鍛冶仕事をしている隅で調薬をしたり。楽しい日々だった。ガイウスもほぼ毎日のようにやって来る私に呆れはしていたけど、追い返されることは一度もなかったのもそう思える要因のひとつだ。
「フフ」
『シュシュ。突然笑い出すなんて不気味だよ』
「ガイウスのことを思い出してたら、笑っちゃったんだよ」
『あいつか。精々、利用してやれ』
「もう!コマちゃんてば。そんなことし・・・・てるかも。ま、いっか」
ガイウスは私がまだ王都にいると思っている。あそこは私の大切な場所。これからもガイウスにいい人ができるまでは通っても許されるかな?胸の奥がチクリとした。
もうひとつ。我が家が伯爵から陞爵され侯爵を賜り、領地として隣接する王領地の一部を下賜されたという。これを聞いた私は冷や汗が流れた。リルアイゼの胆力に脱帽だ。嘘がバレないように愛し子を全うしてもらわねばならない。ここまでされて、嘘でしたとは死んでも言えまい。実際に首が飛ぶ。リルアイゼの発言に不安を抱くお兄様はこれらを辞退したが、現当主であるお父様の意向には逆らえなかった。王太子殿下の取り成しもあったという。正式には2月後の愛し子をお披露目するパーティーで授与されるということだ。
そして、私にとって最大の危機を聞かされた。・・・・。私の婚約についてだ。
「シュシュについては国王陛下と王太子殿下公認のもと私が全権を得たから、なるべくシュシュの希望に沿うようにしたい」
よ、よかったぁ。お父様なら問答無用で利用価値のあるところと結ぶだろう。
「領地で独身でいるのは」
「無理だよ?」
「平民には・・・・」
「なれないね」
にっこり笑顔が怖いです。
「三男とか四男で貴族籍を辞すような方とか」
「長男じゃなく、才能のあるやつってことね?」
有無を言わさぬ笑顔ってこういうのを言うんだ・・・・。
「あ、はい。もうそれでいいです」
“才能のある”は“王宮勤め”のことですよね?若しくは爵位を賜れるほどの能力のある方。ちらっとひとつの顔が浮かんだが、あれは貴族ではない。私はといえば、能力も容姿も並み、利用価値はリルアイゼとの繋がりだけ。だいたいそんな優良物件を世の女性たちが放っておくとも思えない。お兄様の求める物件が私を選ぶ確率は限りなく低いと思われる。よし!一先ず、お兄様にお任せしよう!そんなことを考えた私は自分の甘さにこの後泣くことになるのだ。
それから10日。いつまでも領地を留守にはできないため、私とお兄様は今日、領地に帰る。お兄様に領主代行として領内の全権を譲渡したお父様は宰相府の役人として出仕するべく、王宮に通い始めた。お祖父様とお祖母様は一足早くお兄様に送られて領地に帰った。お母様とクルーガはリルアイゼと共にここで暮らしていく。連れてきた使用人たちはここに留まりリルアイゼを支えていくそうだ。・・・・それでは皆様、ごきげんよう♪
さて、領地の屋敷に帰って一番最初にしたこと。
「シュシュの部屋を用意しないとね」
そう。私の部屋を整えることだった。お兄様が学園を卒業してからは私はお兄様公認で屋根裏暮らしをしていた。さすがに8歳と18歳が同じ部屋はよろしくない。私にもお兄様にもプライベートは必要だ。一度、リルアイゼの衣装部屋を私の部屋に戻すべくお父様とかけ合ったらしい。本当にお兄様には愛されているなぁと思う。兄でなかったら結婚したいくらいだ。
領地に残っている使用人はお兄様を次期領主と認めている人たちばかりだから、さっさと衣装部屋を片付け私が住めるように整えてくれた。お兄様はそれはそれは清々しい表情で私の部屋を眺めている。そのお兄様は2年後の結婚を期に領主を継ぐ。他の部屋もそう遠くない日に作り替えられるだろう。
「疲れたぁ」
『敵ばかりだったからな』
『これからはのびのびと暮らせるね』
「そうだねぇ。明日は久しぶりに森の泉に行こうか?きっと白桃が食べ頃だよ」
『歌、歌ってくれる?』
「いいよ」
『熊でも仕留めてみるか』
「熊はダメだよ、コマちゃん」
『何故だ?』
「???ん?あれ?なんとなく?」
『まあいい。ガイウスのところにも行くんだろ?』
「もちろん!調薬セットも置いてきたし、居心地いいんだよね、あの家」
『じゃあ、薬草と鉱物も探そう♪』
「そうだね。キュウちゃんは鉱物のある場所分かるの?」
『任せて!』
王都に滞在していた間のほとんどをガイウスの工房に押し掛けていた。お兄様は毎日王宮に通っていたから、私を気にかけるものは誰もいなかった。これ幸いとばかりに脱け出し、調薬セットの調達に付き合ってもらったり、屋台を一緒に見て回ったり、ガイウスが鍛冶仕事をしている隅で調薬をしたり。楽しい日々だった。ガイウスもほぼ毎日のようにやって来る私に呆れはしていたけど、追い返されることは一度もなかったのもそう思える要因のひとつだ。
「フフ」
『シュシュ。突然笑い出すなんて不気味だよ』
「ガイウスのことを思い出してたら、笑っちゃったんだよ」
『あいつか。精々、利用してやれ』
「もう!コマちゃんてば。そんなことし・・・・てるかも。ま、いっか」
ガイウスは私がまだ王都にいると思っている。あそこは私の大切な場所。これからもガイウスにいい人ができるまでは通っても許されるかな?胸の奥がチクリとした。
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