愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する

紅子

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リルアイゼのお披露目パーティーから帰ってきてから、お兄様は時々私に何か問いたげな視線を寄越すことがある。婚約者のことだろうか?丁度よい候補が見つからないか問合せばかり多いのかもしれない。私に価値がなくとも愛し子の姉というネームバリューに魅力を感じる人は多い。

「コマちゃん、キュウちゃん。ガイウスのところに行こう!」

そのガイウスも最近ちょっと様子がおかしい。彼女でも出来たのかと直球で聞いたところ、頭を軽くはたかれ溜め息を吐かれた。気安い感じがくすぐったい。お祖父様やお祖母様と顔を会わせることもなく、お兄様の執務のお手伝いをしたり、ガイウスのところで調薬をしたり、のんびりのびのびとした2年はあっという間に過ぎた。

そして、今日、いよいよお兄様はプルメアお姉様と結婚する。愛し子の兄であること、ハワード辺境伯家のご令嬢がお相手であることもあって、領内の神殿でも領民へのお披露目もかねて行うが、それに先んじて王宮神殿で盛大に行われることになった。久しぶりに訪れた王都の屋敷は以前の2倍の大きさになっていて、庭も広くなっていた。

「おめでとう、プルメア様と仲良くね」

「この2年、よく頑張ったな。安心して領地を任せられる。おめでとう」

「お兄様、おめでとうございます。わたくしもお兄様の顔に泥を塗らぬよう、愛し子の勤めを果たしますわ」

「兄様、おめでとうございます」

「みんな、ありがとう。クルーガは、今年授けの儀だね。楽しみだよ。リル、大変だろうけど頑張ってね。母上、いつでも領地に戻ってきてください。父上、まだまだです。これからもご助力をお願いします」

お兄様は、この2年の間に何度も王都の家族に会っているからか、普通に溶け込んでいる。私は無理だ。気付かれないように小さくなって部屋の隅に居るのが精一杯。もっとも誰も私を気にすることはないけど。

「さあ、花嫁様がお待ちよ。私たちは会場に参りましょう」

お母様に促され、お兄様と私を残して部屋を移動していった。

「お兄様、おめでとうございます」

「ありがとう、シュシュ。よく似合っているよ。君のエスコート役を呼んでおいたんだけど・・・・、ちょっと遅れてるみた」

コンコンコン



お兄様が最後まで言い終わらないうちにノックがあり、こちらが声をかける前に扉が開いた。やって来たのは・・・・。

「よう!ライナス、おめでとう」

「やっと来たか」

「シュシュ。馬子にも衣装だな」

どういうこと?!!!なんで、なんでいるの?!!!

「目を見開いてどうした?」

「ななななな、なんなんなん、ああああ」

いるはずのない人が、私の・・お兄様と親しげに話をしているという現実に頭が追い付かない。

「俺はライナスの悪友。学園で後輩だった。シュシュなんて珍しい名前そうそう無いからな。お前がライナスの妹だってことは知ってたぞ?」

なにぃ~ !!!じゃ、じゃあ、私が領地にいることも?!いや、それはない。王都の屋敷にいると思ってるはず。それにしても、身バレしてたなんて。不覚だった。

「おい。シュシュに話してなかったのか?」

「まっ、タイミングがなくてな。それに、不便でもなかったし」

「なら、あのことは?」

「これからだ」

お兄様は呆れたように溜め息をついている。あのことって何?!まだ、何かあるの? 

「それより、時間だ。シュシュ、行くぞ?」

ガイウスは私の手首を掴むと強引に部屋を後にした。

「もう!お兄様を知ってるなら言ってよ!」

「一番初めに家名を聞いたとき、答えなかっただろ?内緒にしたいんだと思った」

「そうだけど・・・・。ところで、あのことって?」

私の事情に付き合ってくれたってことか。

「それは、追々な。それより、今日は俺から離れるなよ?お前は愛し子の姉だ。狙われてると思え。ライナスが悉く婚約の申込みを断ってるからな。お前は人前に出ないだろ?チャンスとばかりに強行手段に出るやつもいそうだ」

なにそれ、怖い。ガイウスは、顔色の悪くなった私の頬を両手で挟み目を合わせてきた。

「そのために俺がいる」
『・・・・・・僕がいる』

デ・ジャ・ヴュ既視感。私、同じ台詞を誰かこの人から言われたことがある?

「おい?大丈夫か?」

一瞬の間。瞬きすらできない僅かな空白。にもかかわらずガイウスは私の意識が揺らめいたのに気付き声をかけてきた。

「あ、うん。よろしくね。ガイウスも貴族だったんだ?」

「侯爵家の三男。今は鍛冶の修行中のほぼ平民。お前が学園を卒業するくらいに修行を終えて領地に戻る予定だ。お前んとこの領地の隣だぞ?ライオネル領。知ってるか?」

「うん。鉱山が4つあって、装飾品と武器で有名だよね。あと、最近ではシルクの生産が軌道に乗り出してる」

「お、よく勉強してるな」

「それくらいは覚えてるよ」

他愛のない話ができることが嬉しい。会場に入った私たちは後ろの端にいる。私が家族席にいても、きっとあの人たちにいい顔はされないし、他の貴族に目を付けられるのが落ちだ。自衛のためにも目立つのは避けたい。暫くするとお兄様がお姉様と神殿に入場してきた。お姉様は、お兄様の瞳の色のドレスを纏っている。白からキレイなグラデーションを描き、徐々に染まっていくという仕様だ。「ほぅ」とい羨望の溜め息がそこかしこから聞こえる。本邦初公開の一品なのだ。貴方の色に染まりたい・・・・なんてね。

「汝ら、お互いを妻とし、夫とし、末永く慈しみ共に歩まんことを女神様に誓うならば、この神聖なる葉に御名を刻まん」

へぇ。この世界では、葉っぱに名前を書いて誓約するんだ。書きにくそう。

「続きまして、新たなる試みではありますが、実に神聖であり夫婦となった象徴という意味でも素晴らしいことから、お互いに指輪を交換すること認めます」

この言葉に来客がざわざわとざわめいた。これも私の提案だ。折角なので記念になるようなものを、とお姉様に相談され、お薦めした。お兄様たちはざわめきを気にすることなく、お互いに指輪を交換し、その指輪にキスを落とした。ん?そんなこと言ってないよね?実に絵になる演出だことで・・・・。今度は溜め息ではなく、あちこちから「きゃー♪」という黄色い悲鳴が飛び出し、会場が祝福に包まれた。
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