愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する

紅子

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私は2月前に学園を無事卒業し、今日ガイウスと結婚する。ライオネル領にある神殿で、ガイウスの家族と私のお兄様の家族、クルーガが出席してくれる。お祖父様は3年前、お祖母様は2年前に亡くなり、両親もリルアイゼも来なかった。来るわけないよねぇ♪

お兄様とプルメアお姉様の間には、5歳の男の子と2歳の女の子がいる。閣下はふたりにメロメロだ。クルーガは3年生になった。クルーガもまた、お兄様同様、超優秀。剣術はもとより、弓術も得意で難易度の高い流鏑馬も難なくこなす。ガイウスの作った魔剣を愛用しており、それを自在に操って魔獣を屠る様は美しくも妖しい死神のようだともっぱらの噂だ。こんなにも優良物件にも関わらず、女性に辛辣なせいか婚約者はいない。ますます、女性不振に磨きがかかったようだ。

私の大好きな人たちに祝福されて、私は今日ガイウスの奥さんになった。指輪の交換?したよ!

この日、世界の至るところに虹が架かり、花びらが舞い上がった。この幻想的な風景を見た人々は女神様の祝福と大騒ぎになったが、規模が世界中に及んだため私にスポットライトが当たることはなかった。おーい、女神様よ!バレるようなことは慎んで!でも、祝福をありがとう♪





その半年後、リルアイゼが第3王子殿下との結婚式が国をあげて盛大に行われた。王太子妃様はおろか王妃様ですら軽~く越えるド派手なドレスと装飾に、我が領の年間予算の半分以上が費やされたとか。お兄様は、結婚したからには、これ以上の支援はしないと宣言して帰って来たという。確かに沿道からみたパレードの馬車に乗ったリルアイゼはギラギラと光輝いていた。ドレスと装飾品が・・・・。お疲れさまでした。




幸せな日々は、心無い者によって簡単に破壊される。お兄様の宣言に腹を立てた両親とリルアイゼ、リルアイゼの散財を知った王家がというより、国王陛下と王妃様が共謀してお兄様を陥れようと画策しているとガイウスから知らされた。ガイウスは王太子殿下からその事実を伝えられた。その同じ日。リルアイゼが自分のハーレム(笑)を引き連れて、私たちの工房へやって来た乗り込んで来たのだ。愛し子として。

店の入り口で喚きたてられて迷惑この上ない。営業妨害も甚だしい。久しぶりに会ったリルアイゼは、胸元の大きく開いたドレスを着て、じゃらじゃらとアクセサリーを着けている。その姿に幼い日の可憐さは何処にもなく、その美貌を全面に押し出した姿が妖艶な娼婦に見えるのは私だけだろうか?

「リル様がお前を鍛冶師として我らの仲間に加えることを望んでいる。光栄に思え!」

「このように名誉なこと中々ありませんよ」

「但し、婚姻は破棄してもらうがな」

「明日、手続きに王宮に来るように」

「お姉様。わたくしたちにはガイウスが必要なの。喜んでわたくしにくださるわよね?世界のために」

リルアイゼが“ガイウス”と呼ぶ声にどうしようもない苛立ちを感じた。あなたがその名前を呼ばないで!

「俺は鍛冶師だ。依頼品を作るのは吝かじゃない。だが、魔獣の討伐は専門外だ。ついていったところで、炉がなければ剣は打てない。修理すら無理だ。仲間になる必要性を感じない。まして、婚姻の破棄などと言う理不尽な要求をのむ気はない。断らせてもらう」

ガイウスの言葉にほっとした。こんな時なのに、こんな時だから、不安に思う私を引き寄せて抱き締めてくれる。その胸に頬を寄せながら、大切にされてるなぁと、とても擽ったい気持ちが込み上げてきた。

「あなたに断る権利なんてありませんわ。これは、愛し子としての命であり、王命でもありますのよ?」

得意そうな顔で“愛し子の命”と言ってのけるリルアイゼ。愛し子として?偽物がそれを言うの?私の平穏を奪おうとするリルアイゼに、私の堪忍袋の緒は静にぶちギレた。

「理不尽な要求に従うつもりはない」

「あなた方の家がどうなってもよろしいのね?」

「自分の我が儘に他人を巻き込むな」

「強がっても誰も王命には逆らえなくてよ」

「強がって何が悪い?」
『強がって何が悪いの?』

え?

まただ。また、デ・ジャ・ヴュー。意識が引っ張られる。こんな大切なときに、しっかりしなくては。

「最後まで足掻くさ」
『最後まで足掻くよ』

「『大切なものを守るために』」






あ!           蓋が                  外れた。





『修兄。待って』

『待ってるから転ばないようにね』

『うん!』

『まだ、寝てなきゃダメでしょ?』

『もう大丈夫だよ』

『クスクスクスクス。幸せだね』

『幸せだよ』

『こんなにも辛そうなのに、なんで頑張るのよぉ』

『泣かないで』

『強がって何が悪いの?』

『だりあと生きていくためだもの』

『最後まで足掻くよ』

『大切なものを守るために』

『修ちゃん!修ちゃん!目を覚ましてよ!』

『僕と・・だりあは・・ハアハア連理の枝・ハアハアだから、必ずまた・・・・ハアハア会えるよ・・・・』

『置いて、行かないでぇぇぇ』

『しあ・・・・わせ・・に・・・・』

『さよなら、修ちゃん。思い出もこの想いも封印するね』




「シュシュ!シュシュ!しっかりしろ!!!」

「修ちゃん。やっぱりまた会えたね」

「何言ってる!戻ってこい!シュシュ、シュシュ!」

必死に私を呼ぶ声に、引き摺られていた意識が持ち直す。私は封印していた記憶を再び手に入れた。なんのことはない。辛すぎて抱えきれなかっただけのこと。それくらい愛していたし、愛されていた。

「何処か痛いのか?」

頬を拭われ、自分が泣いていることに気がついた。リルアイゼ一行を放ったらかしにして、ガイウスは私へと全神経を集中している。外野がうるさいが、今は聞こえない振りだ。

「ガイウス。ううん。痛くないよ、大丈夫」

「また遠くに行こうとしてたな?」

「もう行かないよ。必要なくなったから」

ガイウスの首に腕を回した。ガイウスもまた私を抱きして返してくれる。

「そうか」

何も覚えていなくても、あなたはまた私を愛してくれた。この上なく大切に慈しんでくれる。私もあなたを愛している。あなたは私の連理の枝であり、比翼の鳥。再び巡り会えた奇跡を、その喜びを噛み締めた。その時、ふと転生前の女神様の言葉を思い出した。『ちゃんとご褒美、用意したから、ね?お・ね・が・い』そうか。女神様は、知っていたんだ。修ちゃんがここに居ること。

「ちょっと!いい加減にイチャイチャと、止めてくださらない?破廉恥ですわよ!ともかく!明日、王宮に来ること!いいですわね?!」

うるさい外野に無理矢理現実に引き戻される。リルアイゼはそれだけ言うと私たちの返事を待たずにプンスカとハーレムを引き連れて帰っていった。

リルアイゼ、今回はちょっとやりすぎだ。私の逆鱗に触れておいて、思い通りなんてさせるわけがない。私の大切なものを壊すというなら、反撃、してもいいよね?

「シュシュ、何考えてる?」

ジト目で私を見るガイウスには私の悪巧みなどお見通しのようだ。なら、お兄様と王太子殿下辺りを巻き込んでしまおう。
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