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2【ふたりの出会い】
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一年前にはまだ、敵対していたアラバンド王国があった。グロッスラリア王国と長年に渡り、緊張状態が続いていた。
十年ほど前に即位したアラバンド王は、さらに国内も国外も悪政の限りを尽くした。
国民は高い徴税に疲弊し、手足を切られた虫のようにもがき苦しんだ。白亜で統一された街並みは均等に美しいものの、その裏では階級差別が生まれている。貧しいものはスラム街で育ち、這い上がることもできない。
国王は愚かにもグロッスラリア王国の騎士団長バルトルトを捕らえて、牢獄に閉じ込めた。外交の切り札に使うという愚策だった。
王城の地下深くに、その牢獄はあった。
天井からの露が落ちていき、寝ていたバルトルトの頭に降ってくる。
薄暗い部屋には季節も時間も知らせるものがない。鉄格子を挟んだ通路にある壁掛け松明が、牢獄を照らす唯一の明かりだった。
袖なしの粗末な服を身に纏いながら、バルトルトは寒さに震えて目を覚ました。毛布は軍人の体躯には小さすぎる。それも一枚しかないため、裸足でむき出しの床の上で眠るのは寒すぎた。
寝返りを打ちにくいのは枷のせいだ。両足につけられた枷の間に鎖が一本垂れていて、丸く黒い重りもあった。両手につけられた枷の間も鎖が繋がっている。ものを食べるときにたいへん不便である。
何の縛りもなく、満足に食べて熟睡できたのは捕まる前のことだったか。
ここに来てからはじっと寝ていることもできない。
朝から看守三人がやってきて、牢屋の鍵を開けた。囚人を無抵抗に虐待することが日課なのだろう。
耳障りな笑い声と、聞くに値しない罵声。
三人の看守が代わる代わる、バルトルトの腹や背中を蹴っていく。這いつくばりながら睨みつけると、生意気だと顔を殴りつけられた。口の端は裂けて、血が伝っていた。
バルトルトは体を丸めて俯く。口の中に溜まった血を、床に吐いた。
手と頭を同時に踏みつけられる。靴先でじりじりと圧力をかけられると、床に擦り付けられた頬が摩擦で痛む。床はところどころ岩がむき出しになっているため、痛みが増した。
――痛い、か。
こんなことで痛みを感じるとは、自分の体力も気力も日に日に落ちているせいかもしれない。軍人の拷問はこの程度では済まない。手足の指を一本ずつでも詰められても仕方ない。
この国の軍人を戦いのときに何人も殺してきた。その報いが、たった三人に折檻されるだけとは。ここはどうも生ぬるい。
バルトルトはどこか他人事のように笑った。
もっと死と隣合わせだった時期がある。子供の頃、短剣一つで死地から生き延びてみせた。おのれの力を頼りに、これまでやってきたのだ。その矜持は、騎士となり、囚人に墜ちた今でも変わらずに、胸の中にある。
バルトルトは看守を見上げて、鼻で笑う。
看守はにらみつけて、何を笑っているのかと、気にしているらしい。
――胸の内を教えてやるものか。
看守の一人が真っ赤な顔を膨らませて、バルトルトを殴りつけた。他の二人も殴る蹴るの暴行を加える。
痛みが引くまでは寝返りは打てないだろう。
最後に蹴飛ばされて、耳の奥で音が鳴った。どうやら強く頭を打ったようだった。
◆
バルトルトが次に目を覚ましたのは、見飽きた床の上だった。看守はおらず、手当てもされないまま、長く放置されていたらしい。
鉄格子近くに食事が差し入れられていた。木製のトレーの上に、木の器に入った冷たいスープと、硬いパンがひとつ。一日に二回の食事がある。
スープには萎びた葉が底に貼り付いているだけで、ほぼ具はない。硬いパンも無理に噛みちぎろうとしてはいけない。スープに浸して、ふやかしてから少しずつ食べる。美味いとは言えないが、何もしなくても腹は減るし、虫よりはマシだと思えた。
何日も食べないで野営する訓練もしているが、食えるものはありつけるときに食っておく精神だ。
手を伸ばそうとしたとき、鉄格子の前に看守が現れた。目元が隠れるくらいの甲冑を被っている。だから、明らかに笑っている口元が目に入った。バルトルトは半分腫れて見えづらい目で睨みつけた。
「何を笑っている?」
「いや、ひどくやられたと思ってね」
若い男の声だった。下町の話し方で、貴族特有の回りくどさがない。笑われたというのに、バルトルトは不思議と馬鹿にされたような気にはならなかった。懐かしく感じた。
「怪我の状態はどう? 痛む?」
しかも、体の状態を気にされている。他の看守とはまったく会話にならなかった。一方的な罵声と、バルトルトの抵抗心からどちらも歩み寄れなかった。いや、歩み寄っては本来いけないのだが。
鉄格子の扉が開いた。音を最小限にするためか、ゆっくりと慎重に扉は開かれた。看守は体をかがめさせながら入ってきた。背後を見せないように、後ろ手で扉を閉める。牢の中に入るときは、外で別の看守が監視しているものだ。
バルトルトが疑問の目を向けると、
「これは秘密にしておいて」
察しのいい看守は人差し指を口元につけた。
手には丸く厚みのある缶を持っていた。看守が絞るように缶の蓋を開けると、中には軟膏が入っていた。バルトルトはあぐらをかいて座りながら、看守の動きを目で追っていた。
看守はしゃがみこむと、片手でバルトルトの服をめくった。朝に殴られたアザは黄色く変色している。背中にまで回って、服の裾を上げられた。どうやら、傷に薬をつけようとしているらしい。
「おい、余計なことはしなくていい」
軟膏の入った缶を床に置いて、清潔な布で血を拭こうとする。遠慮なく肌を擦ってくる。ある程度、擦ってから、看守は指で傷をなぞった。朝に受けた傷はもう塞がっていて、治りかけている。
「あんた、これ」
看守と目が合った。明かりが瞳の中で反射して、輝いて見える。バルトルトはその中に捕らわれたように動きを止めた。
「化け物なの?」
看守は言葉を選ばなかった。確かにこれまで化け物と呼ばれたことは何度もある。類稀なる剣を握る腕っぷしと、頑丈さからそう揶揄されることはある。ただ、直接的に聞かれると、純粋な疑問のようで悪い気はしない。
「ああ、俺の体質だ。傷の治りが早い」
調子がいい時には、痛みすら感じなくできる。負った傷が早く治るのは、軍人としてはかなり助かった。命からがら戦場から帰ることも度々あった。
この体質がなければ、すでに息絶えていただろう。
ただ大分治りが遅くなってきているのが気になった。体の中の“血”が足りないのだろう。
「ごめん、化け物は言いすぎた」
囚人に謝る看守がいるとは、バルトルトは目を瞠った。
看守は治りかけた傷に、軟膏を塗っていった。痛みはないが、指が傷をなぞるのを見ているとくすぐったく感じた。なぜか、下半身までも。禁欲を強いられているために、指の感触にも反応するようになったのか。腹筋にまで指が近づいたとき、バルトルトは手首を掴んだ。
看守の手首は決して細いわけではなかったが、軍人の手が大きすぎた。
「そこはいい」
「痛くないの?」
「ああ、くすぐったいくらいだ」
そんなものかと看守は首を傾げた。缶の蓋を閉めてから薬を懐に収めた、その時、
「何をしている!」
別の看守が鉄格子の向こうに現れた。途端、バルトルトの腹は蹴りつけられた。不意打ちで大げさに倒れたが、演技としては正解だった。
「口答えをするからだ」と吐き捨てると、別の看守は怒気を収めて、にやついた。
「おい、あまりひどくするなよ。こいつが死んじまったら俺らも終わりだからな。死なない程度にやるんだぞ」
「大丈夫。こいつはちょっとやそっとじゃ壊れねぇよ。なあ、軍人さん?」
肩を軽く蹴り飛ばした。看守は軽薄そうに笑って見下ろした。ただ隠れて片目をつむっていたのは、この男なりの謝罪の意味に捉えた。
◆
バルトルトが囚われの身となって半月が経った。髪も伸びて、髭も目立ってきた。
暇さえあれば、冷たい床にあぐらをかいて、頭を働かせた。おのれの身に起きた出来事と、これから起こりうる事柄を頭に浮かべる。
襲われたその日は、バルトルト率いる分隊(少数の部隊)が、国境にほど近い拠点を視察する予定だった。
度重なる隣国との戦いで、バルトルトは何度となく相手の戦力を削いできた。
最前線の拠点でもここ数日は動きはない。隣国からの亡命者を三人、受け入れた報告を受けたほどだった。
その日は気候にも恵まれなかった。分隊の大方を先に返した。残りの隊で、雨風の被害が出ないように見回ってから帰ることにした。万事うまく行き、帰還する道中に、敵の小隊に襲われることとなった。
幸いにも部下たちは逃げることができたものの、しんがりをつとめたバルトルトは、怪我をして捕まってしまった。
一度、動けないほどの怪我を食らったが、勝手に回復した。今やその時の傷は薄くなっていて、今朝の看守からの怪我のほうが色濃かった。
そろそろ外で、何か動きがあってもいい頃合いだった。
アラバンド王国としては、バルトルトを交渉に使いたいのだろうが、グロッスラリア王国の優秀な国王が黙っているとは思えない。
若くして国王となったため、周囲の反発は大きかった。それを時には軍の力で弾圧し、政治の結果で黙らせてきた。
次の手立てでは鉄道を整備しようとしている。格段に人々の移動が楽になり、物流が動き出すだろう。先見の眼も、人々を従わせるカリスマ性も、国王の才能といっていい。
そして、身分も関係なく、力だけでのし上がってきたバルトルトを団長に推した。
不本意ながら、国王を信頼している。もし、切り捨てられることになったとしても、バルトルトは受け入れるつもりでいた。野垂れ死ぬ前に、気に食わない看守を道連れにしてもいいかもしれない。
それでも殺してやりたい一覧の中に、あの看守だけは入れていなかった。
十年ほど前に即位したアラバンド王は、さらに国内も国外も悪政の限りを尽くした。
国民は高い徴税に疲弊し、手足を切られた虫のようにもがき苦しんだ。白亜で統一された街並みは均等に美しいものの、その裏では階級差別が生まれている。貧しいものはスラム街で育ち、這い上がることもできない。
国王は愚かにもグロッスラリア王国の騎士団長バルトルトを捕らえて、牢獄に閉じ込めた。外交の切り札に使うという愚策だった。
王城の地下深くに、その牢獄はあった。
天井からの露が落ちていき、寝ていたバルトルトの頭に降ってくる。
薄暗い部屋には季節も時間も知らせるものがない。鉄格子を挟んだ通路にある壁掛け松明が、牢獄を照らす唯一の明かりだった。
袖なしの粗末な服を身に纏いながら、バルトルトは寒さに震えて目を覚ました。毛布は軍人の体躯には小さすぎる。それも一枚しかないため、裸足でむき出しの床の上で眠るのは寒すぎた。
寝返りを打ちにくいのは枷のせいだ。両足につけられた枷の間に鎖が一本垂れていて、丸く黒い重りもあった。両手につけられた枷の間も鎖が繋がっている。ものを食べるときにたいへん不便である。
何の縛りもなく、満足に食べて熟睡できたのは捕まる前のことだったか。
ここに来てからはじっと寝ていることもできない。
朝から看守三人がやってきて、牢屋の鍵を開けた。囚人を無抵抗に虐待することが日課なのだろう。
耳障りな笑い声と、聞くに値しない罵声。
三人の看守が代わる代わる、バルトルトの腹や背中を蹴っていく。這いつくばりながら睨みつけると、生意気だと顔を殴りつけられた。口の端は裂けて、血が伝っていた。
バルトルトは体を丸めて俯く。口の中に溜まった血を、床に吐いた。
手と頭を同時に踏みつけられる。靴先でじりじりと圧力をかけられると、床に擦り付けられた頬が摩擦で痛む。床はところどころ岩がむき出しになっているため、痛みが増した。
――痛い、か。
こんなことで痛みを感じるとは、自分の体力も気力も日に日に落ちているせいかもしれない。軍人の拷問はこの程度では済まない。手足の指を一本ずつでも詰められても仕方ない。
この国の軍人を戦いのときに何人も殺してきた。その報いが、たった三人に折檻されるだけとは。ここはどうも生ぬるい。
バルトルトはどこか他人事のように笑った。
もっと死と隣合わせだった時期がある。子供の頃、短剣一つで死地から生き延びてみせた。おのれの力を頼りに、これまでやってきたのだ。その矜持は、騎士となり、囚人に墜ちた今でも変わらずに、胸の中にある。
バルトルトは看守を見上げて、鼻で笑う。
看守はにらみつけて、何を笑っているのかと、気にしているらしい。
――胸の内を教えてやるものか。
看守の一人が真っ赤な顔を膨らませて、バルトルトを殴りつけた。他の二人も殴る蹴るの暴行を加える。
痛みが引くまでは寝返りは打てないだろう。
最後に蹴飛ばされて、耳の奥で音が鳴った。どうやら強く頭を打ったようだった。
◆
バルトルトが次に目を覚ましたのは、見飽きた床の上だった。看守はおらず、手当てもされないまま、長く放置されていたらしい。
鉄格子近くに食事が差し入れられていた。木製のトレーの上に、木の器に入った冷たいスープと、硬いパンがひとつ。一日に二回の食事がある。
スープには萎びた葉が底に貼り付いているだけで、ほぼ具はない。硬いパンも無理に噛みちぎろうとしてはいけない。スープに浸して、ふやかしてから少しずつ食べる。美味いとは言えないが、何もしなくても腹は減るし、虫よりはマシだと思えた。
何日も食べないで野営する訓練もしているが、食えるものはありつけるときに食っておく精神だ。
手を伸ばそうとしたとき、鉄格子の前に看守が現れた。目元が隠れるくらいの甲冑を被っている。だから、明らかに笑っている口元が目に入った。バルトルトは半分腫れて見えづらい目で睨みつけた。
「何を笑っている?」
「いや、ひどくやられたと思ってね」
若い男の声だった。下町の話し方で、貴族特有の回りくどさがない。笑われたというのに、バルトルトは不思議と馬鹿にされたような気にはならなかった。懐かしく感じた。
「怪我の状態はどう? 痛む?」
しかも、体の状態を気にされている。他の看守とはまったく会話にならなかった。一方的な罵声と、バルトルトの抵抗心からどちらも歩み寄れなかった。いや、歩み寄っては本来いけないのだが。
鉄格子の扉が開いた。音を最小限にするためか、ゆっくりと慎重に扉は開かれた。看守は体をかがめさせながら入ってきた。背後を見せないように、後ろ手で扉を閉める。牢の中に入るときは、外で別の看守が監視しているものだ。
バルトルトが疑問の目を向けると、
「これは秘密にしておいて」
察しのいい看守は人差し指を口元につけた。
手には丸く厚みのある缶を持っていた。看守が絞るように缶の蓋を開けると、中には軟膏が入っていた。バルトルトはあぐらをかいて座りながら、看守の動きを目で追っていた。
看守はしゃがみこむと、片手でバルトルトの服をめくった。朝に殴られたアザは黄色く変色している。背中にまで回って、服の裾を上げられた。どうやら、傷に薬をつけようとしているらしい。
「おい、余計なことはしなくていい」
軟膏の入った缶を床に置いて、清潔な布で血を拭こうとする。遠慮なく肌を擦ってくる。ある程度、擦ってから、看守は指で傷をなぞった。朝に受けた傷はもう塞がっていて、治りかけている。
「あんた、これ」
看守と目が合った。明かりが瞳の中で反射して、輝いて見える。バルトルトはその中に捕らわれたように動きを止めた。
「化け物なの?」
看守は言葉を選ばなかった。確かにこれまで化け物と呼ばれたことは何度もある。類稀なる剣を握る腕っぷしと、頑丈さからそう揶揄されることはある。ただ、直接的に聞かれると、純粋な疑問のようで悪い気はしない。
「ああ、俺の体質だ。傷の治りが早い」
調子がいい時には、痛みすら感じなくできる。負った傷が早く治るのは、軍人としてはかなり助かった。命からがら戦場から帰ることも度々あった。
この体質がなければ、すでに息絶えていただろう。
ただ大分治りが遅くなってきているのが気になった。体の中の“血”が足りないのだろう。
「ごめん、化け物は言いすぎた」
囚人に謝る看守がいるとは、バルトルトは目を瞠った。
看守は治りかけた傷に、軟膏を塗っていった。痛みはないが、指が傷をなぞるのを見ているとくすぐったく感じた。なぜか、下半身までも。禁欲を強いられているために、指の感触にも反応するようになったのか。腹筋にまで指が近づいたとき、バルトルトは手首を掴んだ。
看守の手首は決して細いわけではなかったが、軍人の手が大きすぎた。
「そこはいい」
「痛くないの?」
「ああ、くすぐったいくらいだ」
そんなものかと看守は首を傾げた。缶の蓋を閉めてから薬を懐に収めた、その時、
「何をしている!」
別の看守が鉄格子の向こうに現れた。途端、バルトルトの腹は蹴りつけられた。不意打ちで大げさに倒れたが、演技としては正解だった。
「口答えをするからだ」と吐き捨てると、別の看守は怒気を収めて、にやついた。
「おい、あまりひどくするなよ。こいつが死んじまったら俺らも終わりだからな。死なない程度にやるんだぞ」
「大丈夫。こいつはちょっとやそっとじゃ壊れねぇよ。なあ、軍人さん?」
肩を軽く蹴り飛ばした。看守は軽薄そうに笑って見下ろした。ただ隠れて片目をつむっていたのは、この男なりの謝罪の意味に捉えた。
◆
バルトルトが囚われの身となって半月が経った。髪も伸びて、髭も目立ってきた。
暇さえあれば、冷たい床にあぐらをかいて、頭を働かせた。おのれの身に起きた出来事と、これから起こりうる事柄を頭に浮かべる。
襲われたその日は、バルトルト率いる分隊(少数の部隊)が、国境にほど近い拠点を視察する予定だった。
度重なる隣国との戦いで、バルトルトは何度となく相手の戦力を削いできた。
最前線の拠点でもここ数日は動きはない。隣国からの亡命者を三人、受け入れた報告を受けたほどだった。
その日は気候にも恵まれなかった。分隊の大方を先に返した。残りの隊で、雨風の被害が出ないように見回ってから帰ることにした。万事うまく行き、帰還する道中に、敵の小隊に襲われることとなった。
幸いにも部下たちは逃げることができたものの、しんがりをつとめたバルトルトは、怪我をして捕まってしまった。
一度、動けないほどの怪我を食らったが、勝手に回復した。今やその時の傷は薄くなっていて、今朝の看守からの怪我のほうが色濃かった。
そろそろ外で、何か動きがあってもいい頃合いだった。
アラバンド王国としては、バルトルトを交渉に使いたいのだろうが、グロッスラリア王国の優秀な国王が黙っているとは思えない。
若くして国王となったため、周囲の反発は大きかった。それを時には軍の力で弾圧し、政治の結果で黙らせてきた。
次の手立てでは鉄道を整備しようとしている。格段に人々の移動が楽になり、物流が動き出すだろう。先見の眼も、人々を従わせるカリスマ性も、国王の才能といっていい。
そして、身分も関係なく、力だけでのし上がってきたバルトルトを団長に推した。
不本意ながら、国王を信頼している。もし、切り捨てられることになったとしても、バルトルトは受け入れるつもりでいた。野垂れ死ぬ前に、気に食わない看守を道連れにしてもいいかもしれない。
それでも殺してやりたい一覧の中に、あの看守だけは入れていなかった。
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