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10【目が覚めた騎士】
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バルトルトが目を開けた時には、身体の熱はすっかり冷めていた。汗が肌に貼り付いて、うっとおしさを感じたほどだ。何も問題ない。いつもの身体に戻っていた。
かたわらにはマレクの姿があった。椅子に座って、上体だけを寝台に預けている。腕に顔を埋めている。安らかな寝息が聞こえてくる。白いうなじを無防備にあらわにしていた。
バルトルトは眉間を開いた。夢ではなかった。熱に浮かされる前の出来事は、現実に起きていたことだ。起きてもなお、マレクの姿を見ることができる。その喜びを噛み締めた。
目の前にいるマレクの頭を撫でようとして、手を止めた。安らかな寝息を邪魔したくない。触ってはならないと考え直す。
布団の中で手首を抑えつけた。昨晩は情けない姿を見せた。図体のでかい男が熱で倒れるなど、見苦しいにも程がある。
隣の部屋の寝台に寝かせたいのだが、身体を動かしていいものかと迷う。足を少し曲げようとしたところで、マレクは小さく声を漏らした。
いったん強く瞑られたかと思うと、ゆっくりと幕が上がっていく。覆われていた青い瞳が現れた。
両腕を上げて、大きく伸びをする。
バルトルトはじっと息を詰めて、その様子を眺めていた。
どこの国にも金髪と青い瞳の者が多いとはいえ、バランスよく整った顔は目を引く。少なくともバルトルトの部下には、細身で美麗な容姿の男は見たことがなかった。
だからだろう。バルトルトがマレクの顔をつい長く見てしまうのは、物珍しいからに他ならない。
観劇には縁がないが、しなやかな体にしろ、綺麗な横顔にしろ、これ以上の演者がいるのだろうか。
身体の熱は消えたはずだが、頭は熱い。くらくらして、マレクの方に吸い込まれてしまいそうだ。
「あ、バルトルト」と目が細められた。
見惚れていたおのれが恥ずかしくて、咳払いをした。
「よく寝ていたな」
「何言ってるの? 全然寝てないよ。バルトルトの熱が下がるまでずっとついていたんだよ。まあ、知らない間に寝てしまったけど」
照れたように目を伏せると、まつ毛の長さが際立つ。金糸の髪は飴細工のように輝いている。口に含むと甘いのではないかと、本気で思った。
こうやって自室で会話していることも夢のようだ。
「心配かけてすまなかったな」
マレクは首を振る。
「それだけ無理したってことでしょ? 責任の一端は僕にもあると思って」
「いや、それはない」
「何で言い切っちゃうの」
呆れたように言われても、バルトルトは引き下がらない。絶対にマレクのせいではなかった。幼い頃に持ってしまった厄介な体質で、時折熱が上がるだけだ。
「詫びに、俺のできることなら何でもしてやる」
「何でも?」
「ああ、何でもだ」
マレクは「そうだなぁ」と腕を組む。考え込むように瞼を閉じてから、急に目を開いた。
「まずはうまいものを食いたい!」
バルトルトは味覚に無頓着で、肉なら何でも構わない。うまいもの――グロッスラリアの名物を食べさせれば、喜んでくれるだろうか。
しかし、名物とは何だろうか。バルトルトは戦い以外、何も知らない。後で家令に相談すべきだと結論づけた。
「それと、少しの間だけ、ここに泊めてくれたらありがたい」
マレクは言いにくそうに声をしぼめたが、バルトルトからすれば渡りに船だった。そのために隣の部屋を整えたし、シモンにまで手を回した。表面上はマレクの素性を明かすためとしている。
内心では喜びを噛み締めながらも、表情はほとんど変わらない。
「少しの間だけか」
マレクはうなずいた後、探るような目をした。
「ダメなら……」
「駄目な訳がない!」
バルトルトは引き止めるのに必死で、自分の声がマレクの耳鳴りを呼ぶほど大きくなっていたことに気づかない。「お前の素性を暴くためにもな」と、取ってつけたように言った。
そこまで言ってくれるならと、マレクは歯を見せて笑った。
「ありがとう、バルトルト」
マレクの笑顔に弱い。たやすく心音が高鳴る。胸にじわっと染みてきた感謝の言葉に、柄にもなく照れていた。
「いや、礼を言われる筋合いはない、ただ、これは詫びというだけで、他意はない。せいぜい、尻尾を出さないように気をつけるんだな」
バルトルトの中に、他意は少なくともある。マレクをできる限り手元に置きたいと思っているのに、嘘をついた。マレクを想うばかりに情けなくなっていく。そんな自分を悟られたくなくて、顔を反らした。
◆
寝台から動けるようになったバルトルトを、窓の前に立たせた。マレクは様々な角度から、まじまじと眺めた。
真新しいシャツに着替えた身体は、服の上からも筋肉に覆われて大きいことを知っている。
艷やかな黒髪は肩まであり、牢獄のなかで伸びたのだろう。元は短かったのかもしれない。
凛々しい眉の間はよくシワが寄っている。マレクが変なことを言って困らせているからかもしれない。
彫りの深さと鼻の高さは、正面からも横からも彫刻のように美しい。簡単には口を割らない平らな唇も、甘い風貌ではない。厳しい軍人の顔だ。
そして、野性的な目に見つめられると、マレクは獲物のように身体が震えてくる。
貴族にはない危うさを持っている。いつ牙を剥くかわからない危うさだ。
その危うさは魅力的に写って、女性にはたまらないだろう。女性が問題というよりかは、バルトルトが寄せ付けないのではないかと勝手に思う。
バルトルトは確かに結婚しないと言い切っていた。なぜか、その時に安心したのを覚えている。笑っていたのは気づかなかったが、嬉しかったのだろう。自分のことながら、嬉しい意味がわからなかった。
首を傾げていると、
「そろそろいいか?」
居心地の悪そうな声が聞こえた。
「あ、うん、いいよ」
マレクが言うと、バルトルトは律義に立つことをやめて、寝台に腰を下ろした。
首も太くて、マレクの腕を回しても捻れそうにない。腕を組むと、鍛えた筋肉が盛り上がる。
「それで、人を見て、何かわかったか?」
「全然、わからなくなった。何で、バルトルトに奥さんがいないのかなって」
「……縁がないだけだ」
「こんなに格好いいのに、もったいないよ」
バルトルトは急に咳をした。若干、頬が上気して見えるのは、まだ熱が残っているからだろうか。マレクが隣に座ると、首はぎくしゃくと動いて、こちらを見た。何かを訴える目だが、マレクには真意がわからない。
「そうか、なら、話は簡単だ。お前が俺の“奥さん”になればいい」
「僕が、バルトルトの奥さん?」
「いや、本気で捉えるな。妻というよりかは補佐のような役割だ。よく言うだろう、相棒とか、女房役とかそういう意味で……」
「いいよ」
屈強な軍人でも、面を食らったように間抜けな顔をするらしい。
「いいのか?」
マレクはうなずく。
「こう見えて、磨けば見られた顔になると思うよ」
バルトルトは上から下までマレクを眺めてから鼻で笑った。確かに今は風呂に何日も入っていないし、多少は臭うだろう。服もあり合わせで、スラム街にいても違和感のない姿になっている。
「どうだかな」
挑戦的な目に、闘志がわく。元貴族で、圧倒的な美貌を持っていたとされる母から譲り受けた容姿と、兄の姿勢から身につけた佇まいを見せつける時だ。
「見ておいてよ」
マレクは自信たっぷりに言った。
かたわらにはマレクの姿があった。椅子に座って、上体だけを寝台に預けている。腕に顔を埋めている。安らかな寝息が聞こえてくる。白いうなじを無防備にあらわにしていた。
バルトルトは眉間を開いた。夢ではなかった。熱に浮かされる前の出来事は、現実に起きていたことだ。起きてもなお、マレクの姿を見ることができる。その喜びを噛み締めた。
目の前にいるマレクの頭を撫でようとして、手を止めた。安らかな寝息を邪魔したくない。触ってはならないと考え直す。
布団の中で手首を抑えつけた。昨晩は情けない姿を見せた。図体のでかい男が熱で倒れるなど、見苦しいにも程がある。
隣の部屋の寝台に寝かせたいのだが、身体を動かしていいものかと迷う。足を少し曲げようとしたところで、マレクは小さく声を漏らした。
いったん強く瞑られたかと思うと、ゆっくりと幕が上がっていく。覆われていた青い瞳が現れた。
両腕を上げて、大きく伸びをする。
バルトルトはじっと息を詰めて、その様子を眺めていた。
どこの国にも金髪と青い瞳の者が多いとはいえ、バランスよく整った顔は目を引く。少なくともバルトルトの部下には、細身で美麗な容姿の男は見たことがなかった。
だからだろう。バルトルトがマレクの顔をつい長く見てしまうのは、物珍しいからに他ならない。
観劇には縁がないが、しなやかな体にしろ、綺麗な横顔にしろ、これ以上の演者がいるのだろうか。
身体の熱は消えたはずだが、頭は熱い。くらくらして、マレクの方に吸い込まれてしまいそうだ。
「あ、バルトルト」と目が細められた。
見惚れていたおのれが恥ずかしくて、咳払いをした。
「よく寝ていたな」
「何言ってるの? 全然寝てないよ。バルトルトの熱が下がるまでずっとついていたんだよ。まあ、知らない間に寝てしまったけど」
照れたように目を伏せると、まつ毛の長さが際立つ。金糸の髪は飴細工のように輝いている。口に含むと甘いのではないかと、本気で思った。
こうやって自室で会話していることも夢のようだ。
「心配かけてすまなかったな」
マレクは首を振る。
「それだけ無理したってことでしょ? 責任の一端は僕にもあると思って」
「いや、それはない」
「何で言い切っちゃうの」
呆れたように言われても、バルトルトは引き下がらない。絶対にマレクのせいではなかった。幼い頃に持ってしまった厄介な体質で、時折熱が上がるだけだ。
「詫びに、俺のできることなら何でもしてやる」
「何でも?」
「ああ、何でもだ」
マレクは「そうだなぁ」と腕を組む。考え込むように瞼を閉じてから、急に目を開いた。
「まずはうまいものを食いたい!」
バルトルトは味覚に無頓着で、肉なら何でも構わない。うまいもの――グロッスラリアの名物を食べさせれば、喜んでくれるだろうか。
しかし、名物とは何だろうか。バルトルトは戦い以外、何も知らない。後で家令に相談すべきだと結論づけた。
「それと、少しの間だけ、ここに泊めてくれたらありがたい」
マレクは言いにくそうに声をしぼめたが、バルトルトからすれば渡りに船だった。そのために隣の部屋を整えたし、シモンにまで手を回した。表面上はマレクの素性を明かすためとしている。
内心では喜びを噛み締めながらも、表情はほとんど変わらない。
「少しの間だけか」
マレクはうなずいた後、探るような目をした。
「ダメなら……」
「駄目な訳がない!」
バルトルトは引き止めるのに必死で、自分の声がマレクの耳鳴りを呼ぶほど大きくなっていたことに気づかない。「お前の素性を暴くためにもな」と、取ってつけたように言った。
そこまで言ってくれるならと、マレクは歯を見せて笑った。
「ありがとう、バルトルト」
マレクの笑顔に弱い。たやすく心音が高鳴る。胸にじわっと染みてきた感謝の言葉に、柄にもなく照れていた。
「いや、礼を言われる筋合いはない、ただ、これは詫びというだけで、他意はない。せいぜい、尻尾を出さないように気をつけるんだな」
バルトルトの中に、他意は少なくともある。マレクをできる限り手元に置きたいと思っているのに、嘘をついた。マレクを想うばかりに情けなくなっていく。そんな自分を悟られたくなくて、顔を反らした。
◆
寝台から動けるようになったバルトルトを、窓の前に立たせた。マレクは様々な角度から、まじまじと眺めた。
真新しいシャツに着替えた身体は、服の上からも筋肉に覆われて大きいことを知っている。
艷やかな黒髪は肩まであり、牢獄のなかで伸びたのだろう。元は短かったのかもしれない。
凛々しい眉の間はよくシワが寄っている。マレクが変なことを言って困らせているからかもしれない。
彫りの深さと鼻の高さは、正面からも横からも彫刻のように美しい。簡単には口を割らない平らな唇も、甘い風貌ではない。厳しい軍人の顔だ。
そして、野性的な目に見つめられると、マレクは獲物のように身体が震えてくる。
貴族にはない危うさを持っている。いつ牙を剥くかわからない危うさだ。
その危うさは魅力的に写って、女性にはたまらないだろう。女性が問題というよりかは、バルトルトが寄せ付けないのではないかと勝手に思う。
バルトルトは確かに結婚しないと言い切っていた。なぜか、その時に安心したのを覚えている。笑っていたのは気づかなかったが、嬉しかったのだろう。自分のことながら、嬉しい意味がわからなかった。
首を傾げていると、
「そろそろいいか?」
居心地の悪そうな声が聞こえた。
「あ、うん、いいよ」
マレクが言うと、バルトルトは律義に立つことをやめて、寝台に腰を下ろした。
首も太くて、マレクの腕を回しても捻れそうにない。腕を組むと、鍛えた筋肉が盛り上がる。
「それで、人を見て、何かわかったか?」
「全然、わからなくなった。何で、バルトルトに奥さんがいないのかなって」
「……縁がないだけだ」
「こんなに格好いいのに、もったいないよ」
バルトルトは急に咳をした。若干、頬が上気して見えるのは、まだ熱が残っているからだろうか。マレクが隣に座ると、首はぎくしゃくと動いて、こちらを見た。何かを訴える目だが、マレクには真意がわからない。
「そうか、なら、話は簡単だ。お前が俺の“奥さん”になればいい」
「僕が、バルトルトの奥さん?」
「いや、本気で捉えるな。妻というよりかは補佐のような役割だ。よく言うだろう、相棒とか、女房役とかそういう意味で……」
「いいよ」
屈強な軍人でも、面を食らったように間抜けな顔をするらしい。
「いいのか?」
マレクはうなずく。
「こう見えて、磨けば見られた顔になると思うよ」
バルトルトは上から下までマレクを眺めてから鼻で笑った。確かに今は風呂に何日も入っていないし、多少は臭うだろう。服もあり合わせで、スラム街にいても違和感のない姿になっている。
「どうだかな」
挑戦的な目に、闘志がわく。元貴族で、圧倒的な美貌を持っていたとされる母から譲り受けた容姿と、兄の姿勢から身につけた佇まいを見せつける時だ。
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