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sideイツキ
勇者は皇子に恋をする①
しおりを挟む─ある日突然、日常が壊された。
学校帰り、妹の桜といつもの道を歩いていた。お喋りな桜の、たわいの無い話を、適当に相槌をうちながら帰る。今日の夕食は唐揚げだって。早く家に帰ろう。そんな風に笑う桜を、お前は食い気ばっかりだな。って呆れた顔で見下ろす。夕餉の匂いが漂う。暖かく、柔らかな夕暮れの道。いつもの光景。繰り返される当たり前の景色。……それが崩れた。
なんの前触れもなく、いきなり。
─足元に魔法陣が現れ、光包まれたと思ったらこの世界にいた。
……辺りにはひんやりとした空気が漂っていた。冷たく白い大理石、無機質な神殿の中心で蹲る俺と桜。その周りを騎士や神官……ロープレみたいなコスプレをした集団が囲み、歓喜と興奮に包まれた歓声をあげていた。異様だった。異質で現実味がなくて、夢だと思った。そう思いたかった。その願いは、すぐに否定されたが……
曰く、この世界は復活した魔王に滅ぼされようとしている。曰く、異世界から召喚された、聖女と勇者によって世界は救われる。
どうか、この世界を魔の手から救って欲しい……と。
金髪に青い瞳。キラキラした顔でにこやかに笑う若い王が、俺と桜にそう告げた。
─ふざけるなと思った。勝手に呼び出して、世界を救えと。魔王を倒すのは、勇者と聖女の役目だからと。俺達の拉致して、日常を壊しておいて、自分達の為に命を投げ出し救ってくれるなどと、どうして思えるのか……当たり前のように救えというその態度に吐き気がした。
なかなか頷かない俺達に、王は、あの手この手で懐柔しようとしてきた。桜にはイケメン共を宛てがい、俺には女を……。クソみたいな恋愛で俺達を縛り、情や恋心とやらで国の思うように動かそう。―奴らの思考が透けてみえて、嫌悪しか湧かなかった。
桜と俺は、兄妹ということを隠し、お互いがお互いを想い合ってる振りをした。勇者の想い人。桜に手を出したら殺す。そう牽制したら、周りのイケメン共は面白いように桜から手を引いた。どんな手を使っても妹は守る。俺はそう決めた。
魔王を倒せば、元の世界に戻れる。問い詰める俺に、国の魔導士は答えた。王もそれを認めた。約束もさせた。違えた場合は、この国を滅ぼす。そう制約もかけた。
魔王に恨みなんてない。この国にも世界にも興味も愛着もない。ただ、妹を無事に元の世界に戻してやりたい。母さんの元に。それだけだった。
「勇者イツキ……聖女サクラ。魔王ディアボロを倒し、この世界を救ってくれ」
一刻も早く元の世界に戻りたい。こんな城になど居たくないと旅立つ事を決めた俺達に、王は仲間とやらを押し付けた。魔法にしか興味のないぶっ飛んだ思考の年齢性別不詳の魔導士。王家に忠誠を誓う、筋肉自慢の騎士隊長。それにへらへらした頭の弱そうな第三王子。
体のいい監視だろう。
邪魔で、鬱陶しいが、仕方ない。
「くふふ。宜しくなのじゃ。イツキ、サクラ。期待しておるぞ」
「ハッハッハ。勇者は筋肉が不足しているようだ。筋肉を鍛えないとダメだぞ!?健全な精神は健全な肉体に宿る!筋肉を付けて、共に魔王を打ち倒そう!」
差し出された右手を、俺は無言で睨んだ。馴れ合うつもりはない。
俺達が魔王を倒すのは、当たり前だと思っている奴ら。その為に旅にでるのは当然だと思っている、この世界の人間に怒りが沸き起こる。
傲慢で恥知らずな魔導士と騎士隊長とは対照的に、黙って決まり悪そうにこちらをみる、もう一人の男。第五王子。ソイツを睨むと、男は眉根を下げ困ったように微笑んだ
「……ごめんね」
その顔と言葉に、一瞬息を飲んだ。
「オレ達のせいで……ごめんね」
「二人が少しでも快適に過ごせるよう……オレ、なんとかするから」
役立たずだけど……がんばるね
ふわりと笑うその顔から、オレは目が離せなくなっていた。
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