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第49話 入学祝い
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「い、いや、そういうつもりじゃなかったんだ」
「ではどういうつもりです」
「そ、それは、その……」
「すぐに答えられないということは、やはりそれが貴方の本音なのですね」
「いや、ちょ、待……」
二人のやりとりを静かに見ていたライトは、小さなため息をつきながら、二人の間に入り込む。
「レオ兄ちゃん、ダメでしょ?そんな心にもないこと言っちゃ」
「ううう……」
「本を大事にしてるグライフには、とても傷つく言葉でしょ?」
「……うん、そうだな」
「グライフじゃなくても、自分の好きなものや大事なものを貶されたら怒るのは当たり前だよ。レオ兄ちゃんにそのつもりはなくても、結果的にはそういう受け取り方されちゃったんだし」
「ああ、さっきのは俺の言い方が悪かった」
ライトに優しく諭されて、レオニスも己の非を素直に認める。
「こういう時はね、あれこれ言い訳しちゃダメなの」
「……はい」
「ダメなことをしたら、まず何よりも心から謝るの」
「はい……グライフ、さっきは軽はずみな物言いをしてすまなかった」
レオニスはグライフに向かって、深く頭を下げた。
その声色もとても真面目なもので、真摯に謝罪していることがライトやグライフにも伝わる。
それを見届けたライトは、今度はグライフの方に身体を向き直り頭を下げる。
「グライフ、うちのレオ兄ちゃんがとても失礼なことを言ってしまって、本当にごめんなさい」
「いえ、ライト、貴方が謝ることでは……」
「でも、レオ兄ちゃんの言葉はある意味庶民の心の声でもあります」
「……心の、声?」
「ええ。本来この世界における書籍というものは、とても高価なものです」
「…………ええ、そうですね」
「誰もが簡単に、気軽にたくさん買い込めるような値段ではないことは、グライフもご存知のはず」
「…………」
グライフは無言になり、静かにライトの言葉を聞き続ける。
「ぼくだって、先日は値段もよく知らずにここで何冊もの本をレオ兄ちゃんに買ってもらいましたが」
「…………」
「あんな、といってはまた失礼かもしれませんが……あのお値段は、普通の平民にはとても出せません。ぼくだって、あんなものすごく高いものだと知っていたら、もっと中身をじっくり吟味して欲しいものをより慎重に選んでましたよ」
「……そうですね、庶民が気軽に買える値段ではないことは、確かです」
「でしょう?だから、レオ兄ちゃんも思わず『ぼったくる』という言葉が出てしまったんだと思います」
レオニスの方をちろりと見遣るライト。
当のレオニスは、怒られてしょんぼりしている。
「今でこそレオ兄ちゃんは、その腕ひとつで冒険者の最高峰にまで上りつめて、本もさして中身を選ぶことなく好きなだけ買えるようになりましたが」
「もとは片田舎の孤児院育ちです」
「金銭感覚が、庶民のそれよりももっともっと下のところにあるんです」
グライフは、ハッとした顔になった。
ライトは静かに言葉を続ける。
「そしてそれは、ぼくの両親も同じで」
「その両親を亡くしたぼくも、本来ならレオ兄ちゃん達と同じく孤児院育ちになる運命だった、はずです」
「ぼくだって、レオ兄ちゃんに見つけてもらわなかったら、今ここには居ません」
レオニスの方に顔を向け、穏やかな表情でレオニスを見つめるライト。
「ぼくはレオ兄ちゃんのおかげで、孤児院育ちにはなりませんでした。ですから、本当の意味で孤児院で育った子供達の心情や実情は知りません」
「むしろ、分かったつもりになっている分、反感を買うだけかもしれません」
「ですが、どこの世界でも孤児院での世界が決して裕福なものではない、それだけは分かります」
ライトは目を伏せながら続ける。
「生活が決して豊かではない人間にとって、まず第一は食べること。何でもいいから、食べてその日一日を生きていくこと」
「そんな環境にある人間にとって、本は贅沢であり嗜好品です。その日その日を生きるのに精一杯な者にとっては、はるか彼方にあって手の届かない、縁遠いものなんです」
「だから―――そんな人達は、本の尊さになかなか気づくことができない。でも、そのことを責めないでください」
「彼らとて、好きでそんな境遇にいる訳じゃなくて―――日々生きるのに精一杯で、心身ともに余裕がないだけなんです」
ライトはその可愛らしい顔をゆがめ、己の胸元をぎゅっと握りしめた。
もしかしたら、自分も歩んでいたかもしれない道。
レオニスが現れなければ、間違いなく辿っていたであろう未来。
そのことに思いを馳せ、胸を痛めているのだろう。
そこまで静かにライトの言葉を聞いていたグライフが、ようやく口を開いた。
「……ええ、そうですね。全て貴方の仰る通りです」
「私も本のこととなると、どうにも熱が高まり見境なくなるのが悪い癖ですね」
ふぅ、と小さなため息をつきながら、首を横に振る。
「全ての書物の守護者たれ―――これはスレイド家の家訓であり、使命です。その使命に人生を捧げるスレイド家の跡取りとして、私は幼少の頃から数多の本に囲まれながら生きてきました」
「私にとって、本とは人生そのもの。人生の師であり、友であり、愛そのものです」
「それを貶すこと、蔑ろにすることは、私にとっては許し難い暴挙です」
静かな中にも、凛とした口調ではっきりと言い切るグライフ。
「ですが、それは私個人の―――ひいては非常に貴族的な考えが根底にあることもまた事実で、私を含めたスレイド家の者以外には理解し難いものでしょう」
「そして、平民にとって書籍が大変高価なものだということは、普通に分かることですのに」
「怒りに我を忘れて友に食ってかかり、幼子に諭されてしまうとは……全く以てお恥ずかしい限りです」
グライフは改めてライトに向き合い、胸に手を当て静かに頭を下げる。
「この度は、私めに改めて大事なことを思い出させてくださり、心より御礼申し上げます」
「これより以後、瑣末なことで心を乱さぬよう努める所存です」
「とはいえ、本に対して物理的な攻撃を加えられたりすれば、それは我慢すべき範疇ではないので存分に返り討ちにいたしますが」
グライフはパチン、と軽くウィンクをしてみせた。
うん、おちゃめな素振りっぽいが、実は何気にオソロシアなこと言ってるよね。
本に対する物理的な攻撃って、あれでしょ?子供のいたずらによくある『絵本にいたずら描き』とか『教科書に落書き』ってやつでしょ?
うん、俺はそんなこと絶対にしないよ!
もう中身的にもアラフォーだしね!何よりそんなのをグライフに見られたら、絶対に処刑されるの分かってるからね!
あッでも多少の要点書き込みやライン引きくらいは許してほしいなッ!
グライフはレオニスにも向き直り、軽く頭を下げる。
「レオニスも、すみませんでしたね。思えば貴方の言葉に悪意はなく、瑣末な物言いでしたのに」
「いや、俺の方こそ考えなしで申し訳ない。お前が書籍命の本狂いだってことは、ずっと昔から知ってたのにな」
「本狂い……まぁいいでしょう、紛うことなき事実ですし」
考えなしで申し訳ないと言ったその口で、またも考えなしなことをさらっと言い放つレオニス。
グライフも渋々ではあるが、自分が本狂いなのは事実でもあることを自覚している故、そこは怒ることなくスルーした。
「んじゃ、教科書代の精算頼む」
「いいえ、本日の代金はいいですよ。そのままお持ち帰りください」
「ん?何でだ?」
「今回は、ライトのラグーン学園初等部入学祝いとして私から贈らせていただく、ということで」
「いいのか?」
「ええ、このように賢くて立派なライトが学園生活でより多くのことを学ぶ、実に素晴らしく喜ばしいことです」
「そっか。ならそういうことで、ありがたく受け取らせていただく。ライト、良かったな」
そう言いながら、レオニスは教科書類を空間魔法陣に入れた。
前回の訪問時のようにホイホイと放り投げるのではなく、ゆっくり丁寧に一冊づつ入れている。レオニスも日々学んでいるようだ。
「グライフ、ぼくにお祝いをいただけるなんて、とても嬉しいです!ありがとうございます!」
ライトは誰に催促されることなく、自発的にグライフに礼を言った。
「いえいえ、これは先程の喧嘩の仲裁の御礼でもありますよ」
「え?さっきのあれ?いや、そんな大したことはしてな……」
「私達二人が本気で取っ組み合いの喧嘩をしたら、ここら辺一帯がきれいサッパリ吹き飛びかねませんからね」
「…………ハハッ、ソウナンデスネ」
そうだ、すっかり忘れていた。このグライフという人、かつては聖銀級というレオニスの金剛級の次に強いランクの冒険者だった。
今でこそ優雅で紳士然とした穏やかな物腰なので、ついついそのことを忘れてしまう。
このグライフといいアイギス三姉妹といい、ラグナロッツァには怒らせてはならない怖い人達がたくさんいるなぁ……
などと、ライトは頬を若干引き攣らせながらのほほんと考えていた。
その怖い人達の中にレオニスが含まれていないのは、おそらくライトだけの思考であろう。他の人はその中にレオニスも入れて然るべき、なのである。
「では、これから良き学園生活をお送りください」
「はい、ありがとうございます!」
「ああ、そしたらライト、君もこれからラグナロッツァで暮らすことになるのですね?」
「あ、ええ、まぁ、そういうことになりますね」
カタポレンの森に住んだまま、新たな転移門を用いて通学することは大っぴらに言うことでもないので、そこは否定せず軽く受け流しておく。
「ならば、当店にもより気軽にお越しいただけますね」
「……はい!たまに遊びに来てもいいですか?」
「もちろんですとも。貴方ならばいつでも大歓迎ですよ」
「学園からの帰り道にも寄れますね!」
「…………ん?」
レオニスが少しだけ眉を顰める。
何かどこかで同じような会話がなされたような気がする。何だろうこのデジャブ感。
実はそれははるか昔のことではなく、ついさっきの某服屋での出来事なのだが。
「そしたら、グライフの冒険話や父さんや母さんの話、レオ兄ちゃんの昔話など聞かせてくださいね!」
「ええ、たくさんお聞かせして差し上げますよ」
「ライト!学園の帰り道に、寄り道なんてしちゃいけませんよ!!」
グライフの『コイツ何言ってんだ?』顔とレオニスのかーちゃん言葉が面白くて、ライトは笑いが込み上げてくる。
噴き出さないように笑いを噛み殺すライトに、かーちゃん言葉でライトの寄り道を阻止しようとするレオニス、そしてコイツ何言ってんだ顔のグライフ。
三者三様様々な表情が入り乱れる、奇妙な中にも平和な空気が漂う、何とも不思議な光景であった。
====================
実際に何十万円相当もする書籍類はぼったくりとしか思えない値段ですが、それでもその稀少性を考えれば妥当なのです。
要はアンティークとか有名作家の一点物のようなものですね。
「ではどういうつもりです」
「そ、それは、その……」
「すぐに答えられないということは、やはりそれが貴方の本音なのですね」
「いや、ちょ、待……」
二人のやりとりを静かに見ていたライトは、小さなため息をつきながら、二人の間に入り込む。
「レオ兄ちゃん、ダメでしょ?そんな心にもないこと言っちゃ」
「ううう……」
「本を大事にしてるグライフには、とても傷つく言葉でしょ?」
「……うん、そうだな」
「グライフじゃなくても、自分の好きなものや大事なものを貶されたら怒るのは当たり前だよ。レオ兄ちゃんにそのつもりはなくても、結果的にはそういう受け取り方されちゃったんだし」
「ああ、さっきのは俺の言い方が悪かった」
ライトに優しく諭されて、レオニスも己の非を素直に認める。
「こういう時はね、あれこれ言い訳しちゃダメなの」
「……はい」
「ダメなことをしたら、まず何よりも心から謝るの」
「はい……グライフ、さっきは軽はずみな物言いをしてすまなかった」
レオニスはグライフに向かって、深く頭を下げた。
その声色もとても真面目なもので、真摯に謝罪していることがライトやグライフにも伝わる。
それを見届けたライトは、今度はグライフの方に身体を向き直り頭を下げる。
「グライフ、うちのレオ兄ちゃんがとても失礼なことを言ってしまって、本当にごめんなさい」
「いえ、ライト、貴方が謝ることでは……」
「でも、レオ兄ちゃんの言葉はある意味庶民の心の声でもあります」
「……心の、声?」
「ええ。本来この世界における書籍というものは、とても高価なものです」
「…………ええ、そうですね」
「誰もが簡単に、気軽にたくさん買い込めるような値段ではないことは、グライフもご存知のはず」
「…………」
グライフは無言になり、静かにライトの言葉を聞き続ける。
「ぼくだって、先日は値段もよく知らずにここで何冊もの本をレオ兄ちゃんに買ってもらいましたが」
「…………」
「あんな、といってはまた失礼かもしれませんが……あのお値段は、普通の平民にはとても出せません。ぼくだって、あんなものすごく高いものだと知っていたら、もっと中身をじっくり吟味して欲しいものをより慎重に選んでましたよ」
「……そうですね、庶民が気軽に買える値段ではないことは、確かです」
「でしょう?だから、レオ兄ちゃんも思わず『ぼったくる』という言葉が出てしまったんだと思います」
レオニスの方をちろりと見遣るライト。
当のレオニスは、怒られてしょんぼりしている。
「今でこそレオ兄ちゃんは、その腕ひとつで冒険者の最高峰にまで上りつめて、本もさして中身を選ぶことなく好きなだけ買えるようになりましたが」
「もとは片田舎の孤児院育ちです」
「金銭感覚が、庶民のそれよりももっともっと下のところにあるんです」
グライフは、ハッとした顔になった。
ライトは静かに言葉を続ける。
「そしてそれは、ぼくの両親も同じで」
「その両親を亡くしたぼくも、本来ならレオ兄ちゃん達と同じく孤児院育ちになる運命だった、はずです」
「ぼくだって、レオ兄ちゃんに見つけてもらわなかったら、今ここには居ません」
レオニスの方に顔を向け、穏やかな表情でレオニスを見つめるライト。
「ぼくはレオ兄ちゃんのおかげで、孤児院育ちにはなりませんでした。ですから、本当の意味で孤児院で育った子供達の心情や実情は知りません」
「むしろ、分かったつもりになっている分、反感を買うだけかもしれません」
「ですが、どこの世界でも孤児院での世界が決して裕福なものではない、それだけは分かります」
ライトは目を伏せながら続ける。
「生活が決して豊かではない人間にとって、まず第一は食べること。何でもいいから、食べてその日一日を生きていくこと」
「そんな環境にある人間にとって、本は贅沢であり嗜好品です。その日その日を生きるのに精一杯な者にとっては、はるか彼方にあって手の届かない、縁遠いものなんです」
「だから―――そんな人達は、本の尊さになかなか気づくことができない。でも、そのことを責めないでください」
「彼らとて、好きでそんな境遇にいる訳じゃなくて―――日々生きるのに精一杯で、心身ともに余裕がないだけなんです」
ライトはその可愛らしい顔をゆがめ、己の胸元をぎゅっと握りしめた。
もしかしたら、自分も歩んでいたかもしれない道。
レオニスが現れなければ、間違いなく辿っていたであろう未来。
そのことに思いを馳せ、胸を痛めているのだろう。
そこまで静かにライトの言葉を聞いていたグライフが、ようやく口を開いた。
「……ええ、そうですね。全て貴方の仰る通りです」
「私も本のこととなると、どうにも熱が高まり見境なくなるのが悪い癖ですね」
ふぅ、と小さなため息をつきながら、首を横に振る。
「全ての書物の守護者たれ―――これはスレイド家の家訓であり、使命です。その使命に人生を捧げるスレイド家の跡取りとして、私は幼少の頃から数多の本に囲まれながら生きてきました」
「私にとって、本とは人生そのもの。人生の師であり、友であり、愛そのものです」
「それを貶すこと、蔑ろにすることは、私にとっては許し難い暴挙です」
静かな中にも、凛とした口調ではっきりと言い切るグライフ。
「ですが、それは私個人の―――ひいては非常に貴族的な考えが根底にあることもまた事実で、私を含めたスレイド家の者以外には理解し難いものでしょう」
「そして、平民にとって書籍が大変高価なものだということは、普通に分かることですのに」
「怒りに我を忘れて友に食ってかかり、幼子に諭されてしまうとは……全く以てお恥ずかしい限りです」
グライフは改めてライトに向き合い、胸に手を当て静かに頭を下げる。
「この度は、私めに改めて大事なことを思い出させてくださり、心より御礼申し上げます」
「これより以後、瑣末なことで心を乱さぬよう努める所存です」
「とはいえ、本に対して物理的な攻撃を加えられたりすれば、それは我慢すべき範疇ではないので存分に返り討ちにいたしますが」
グライフはパチン、と軽くウィンクをしてみせた。
うん、おちゃめな素振りっぽいが、実は何気にオソロシアなこと言ってるよね。
本に対する物理的な攻撃って、あれでしょ?子供のいたずらによくある『絵本にいたずら描き』とか『教科書に落書き』ってやつでしょ?
うん、俺はそんなこと絶対にしないよ!
もう中身的にもアラフォーだしね!何よりそんなのをグライフに見られたら、絶対に処刑されるの分かってるからね!
あッでも多少の要点書き込みやライン引きくらいは許してほしいなッ!
グライフはレオニスにも向き直り、軽く頭を下げる。
「レオニスも、すみませんでしたね。思えば貴方の言葉に悪意はなく、瑣末な物言いでしたのに」
「いや、俺の方こそ考えなしで申し訳ない。お前が書籍命の本狂いだってことは、ずっと昔から知ってたのにな」
「本狂い……まぁいいでしょう、紛うことなき事実ですし」
考えなしで申し訳ないと言ったその口で、またも考えなしなことをさらっと言い放つレオニス。
グライフも渋々ではあるが、自分が本狂いなのは事実でもあることを自覚している故、そこは怒ることなくスルーした。
「んじゃ、教科書代の精算頼む」
「いいえ、本日の代金はいいですよ。そのままお持ち帰りください」
「ん?何でだ?」
「今回は、ライトのラグーン学園初等部入学祝いとして私から贈らせていただく、ということで」
「いいのか?」
「ええ、このように賢くて立派なライトが学園生活でより多くのことを学ぶ、実に素晴らしく喜ばしいことです」
「そっか。ならそういうことで、ありがたく受け取らせていただく。ライト、良かったな」
そう言いながら、レオニスは教科書類を空間魔法陣に入れた。
前回の訪問時のようにホイホイと放り投げるのではなく、ゆっくり丁寧に一冊づつ入れている。レオニスも日々学んでいるようだ。
「グライフ、ぼくにお祝いをいただけるなんて、とても嬉しいです!ありがとうございます!」
ライトは誰に催促されることなく、自発的にグライフに礼を言った。
「いえいえ、これは先程の喧嘩の仲裁の御礼でもありますよ」
「え?さっきのあれ?いや、そんな大したことはしてな……」
「私達二人が本気で取っ組み合いの喧嘩をしたら、ここら辺一帯がきれいサッパリ吹き飛びかねませんからね」
「…………ハハッ、ソウナンデスネ」
そうだ、すっかり忘れていた。このグライフという人、かつては聖銀級というレオニスの金剛級の次に強いランクの冒険者だった。
今でこそ優雅で紳士然とした穏やかな物腰なので、ついついそのことを忘れてしまう。
このグライフといいアイギス三姉妹といい、ラグナロッツァには怒らせてはならない怖い人達がたくさんいるなぁ……
などと、ライトは頬を若干引き攣らせながらのほほんと考えていた。
その怖い人達の中にレオニスが含まれていないのは、おそらくライトだけの思考であろう。他の人はその中にレオニスも入れて然るべき、なのである。
「では、これから良き学園生活をお送りください」
「はい、ありがとうございます!」
「ああ、そしたらライト、君もこれからラグナロッツァで暮らすことになるのですね?」
「あ、ええ、まぁ、そういうことになりますね」
カタポレンの森に住んだまま、新たな転移門を用いて通学することは大っぴらに言うことでもないので、そこは否定せず軽く受け流しておく。
「ならば、当店にもより気軽にお越しいただけますね」
「……はい!たまに遊びに来てもいいですか?」
「もちろんですとも。貴方ならばいつでも大歓迎ですよ」
「学園からの帰り道にも寄れますね!」
「…………ん?」
レオニスが少しだけ眉を顰める。
何かどこかで同じような会話がなされたような気がする。何だろうこのデジャブ感。
実はそれははるか昔のことではなく、ついさっきの某服屋での出来事なのだが。
「そしたら、グライフの冒険話や父さんや母さんの話、レオ兄ちゃんの昔話など聞かせてくださいね!」
「ええ、たくさんお聞かせして差し上げますよ」
「ライト!学園の帰り道に、寄り道なんてしちゃいけませんよ!!」
グライフの『コイツ何言ってんだ?』顔とレオニスのかーちゃん言葉が面白くて、ライトは笑いが込み上げてくる。
噴き出さないように笑いを噛み殺すライトに、かーちゃん言葉でライトの寄り道を阻止しようとするレオニス、そしてコイツ何言ってんだ顔のグライフ。
三者三様様々な表情が入り乱れる、奇妙な中にも平和な空気が漂う、何とも不思議な光景であった。
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実際に何十万円相当もする書籍類はぼったくりとしか思えない値段ですが、それでもその稀少性を考えれば妥当なのです。
要はアンティークとか有名作家の一点物のようなものですね。
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