マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜

潟湖

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第100話 空間魔法陣の付与

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 ラウルに三人分の食事を用意してもらい、食堂で皆いっしょに晩御飯を食べる。
 レオニスはラウルに「簡単なものでいいから」と言ったが、そこは自他ともに認めるグルメ妖精のラウル、そう言われて唯々諾々とハイソウデスカなどと従う訳にはいかない。事食に関しては、妥協など許せないのだ。

 分厚い熟成肉の熱々鉄板焼きステーキ、スライスされたバゲット、じゃがいもの冷製スープ、パスタサラダ、飲み物などはもちろんのこと、お手拭きまでちゃんと三人分、食卓にずらりと並ぶ。
 ラウルが食事を作りに居間を出てから20分もしないうちに呼ばれたから、調理時間はもっと短いはずなのだが。
 この短時間で、一体どうやってこんなにご馳走を用意できたんだろう?とライトは不思議だったが、何とラウルも空間魔法陣を使えるらしい。

 当然のことながら、その空間魔法陣はレオニスに教えてもらったものだという。
 普通の人間では魔力量が足りず、空間魔法陣の習得及び行使には至らないのだが、そもそもラウルは妖精なので魔力量も多く魔法にもそれなりに長けているので、問題なく扱えるのだとか。
 なるほどそれなら作り置きや下準備済みの食材を最高の状態で、しかも時間停止で腐らせることなく保存できる訳だ。

 ちなみに、ラウルが市場や普通の店で買い物をする場合は空間魔法陣は使わず、なるべく自力で持ち運びするらしい。
 確かに、レオニス以外で空間魔法陣をホイホイ使ってる人物がいたら、かなり悪目立ちしそうである。

「いやー、ラウルに空間魔法陣教えといてよかったわー。おかげでこうしてすぐに食事にありつけるもんなー」
「おう、そこはご主人様が教えてくれた魔法以外にも、調理器具などの必要経費なんかも大抵は出してくれるおかげでもある」
「んだってお前、食事や料理のことに関してはすんげー頑固だもんよ……それ買うの駄目と言ったところで、聞きゃしないだろ?」
「そりゃそうだろ。敬愛するご主人様達に美味しいものを食べていただきたい、その一心で俺は日々料理の腕を磨いてるんだぞ?」
「そうなんだね……ラウル、いつもありがとう!」

 ドヤ顔で堂々と言い放つラウルの軽口を真に受けて、キラキラとした瞳でラウルを見つめながら礼を言うライト。
 軽口とはいえ半分本気で言っていることでもあるので、ラウルとしても真っ直ぐに礼を言われて悪い気はしない。というか、感謝のダイレクトアタックに慣れないのか照れているようだ。

「ん、コホン……ま、まぁな。料理に限らずこの家を預かり守るのは、執事たるこの俺の役目だから、な」

 少しだけ顔を赤らめながら、返答するラウル。懸命に平静を装ってはいるが、照れているのは思いっきり丸分かりである。
 そんなライトとラウルの微笑ましい会話を、微笑ましく聞けない人間がここに一人。

「なぁライト、俺もカタポレンの森の家でいつも料理してるよな?」
「うん、レオ兄ちゃんの作るご飯も美味しいよ!いつもありがとう!」
「……レオニス、お前ね、ライトに褒められたいからって変に張り合おうとするんじゃないよ……」
「黙らっしゃい!ライトの賞賛を独り占めしようったって、そうはいかんぞ!」

 ラウルは若干呆れたような声と小さなため息とともに、レオニスをちろりと見遣る。
 もちろんレオニスはそんなことで引くタマではない。
 当のライトは慣れたもので、二人のじゃれ合いなど華麗にスルーしてラウルの特製ご馳走を存分に堪能している。

「んー、このお肉美味しーい!ラウル、これも空間魔法陣で保存してたの?」
「ああ。適度に熟成させて下味もつけて、後は焼くばかり、というところまで仕込んでから空間魔法陣に収納してるんだ。極端な話、焼いてすぐに収納って手もあるが、そこはまぁその日の気分によりけりだな」
「そっかぁ、だから今もこうしてすぐに調理できたんだねー。空間魔法陣って、ホントに便利ですごい魔法なんだなぁ」

 ライトは心底感心したように頷いている。
 ……と思ったら、これまた瞳をキラキラとさせて、くるっとレオニスの方に向いた。

「ねぇ、レオ兄ちゃん、ぼくにはいつ空間魔法陣教えてくれるの?」

 確かに、こんな便利な魔法を身近に使える人がいて、教えてもらわない手はない。
 ゲームの中ではアイテムは個数無制限で持てたが、現実となったこの世界ではそうはいかないと分かった今、空間魔法陣は是非とも覚えたい魔法の筆頭格であった。

「んー、そうだなぁ……前にも言ったが、空間魔法陣てのはその発動条件や容量は使用者の魔力量に比例するんだ」
「お前はカタポレンの森に長年住んでいる以上、現時点でも魔力量は相当あるとは思うんだが」
「身体や年齢で言えば、ライトはまだ成長期にも入らない子供だからなぁ……おそらくまだ使いこなしきれないと思うんだよなぁ」
「えぇー……そうなんだぁ、残念……」

 俯きながらしょんぼりして、見るからに落ち込むライト。
 まるで好物の肉を目の前にして、おあずけを食らって食べたくても食べられない憐れなわんこである。
 ……と思ったら、ライトはパッと顔を上げて再びレオニスに問うた。

「ねぇ、レオ兄ちゃん。空間魔法陣がまだ駄目なら、アイテムボックスとかインベントリとかにはできないの?」
「……何だ?そのインベントリってのは。カラスの親戚か何かか?」

 しまった。アイテムボックスはともかく、インベントリは完全にあっちの世界のゲーム用語だ。
 ライトは慌てて言い募る。

「あーっとね、えっとね?鞄とか箱とか袋なんかに、空間魔法陣を描き入れるとかで魔法付与して、空間魔法陣と同じように物の出し入れができないかなぁ?と思って」
「…………」

 レオニスはライトの提案を聞いて、呆気に取られた顔をした。だがすぐに気を取り直し、真剣な顔つきになってしばし考え込んだ。

「……いや、できないことは、ない……か?……空間の拡張は魔石をいくつか使ってみるとして……出し入れのもとになる器の素材は……」

 眉を顰めながら目を閉じ考え込み、ブツブツと何事か呟いている。
 おそらくは己の知識と経験を頭の中でフル回転させて、ライトの提案を実現させることが可能かどうかを考察しているのだろう。
 そうしてどれくらい時間が経過しただろうか、レオニスは顔を上げてライトの方に向かって口を開いた。

「俺は自身が空間魔法陣を普通に使えるせいか、袋や箱状のものに空間魔法陣を付与するなんて考えたこともなかったが」
「その考えは非常に面白いというか、試してみる価値は大いにあると思う」
「それが果たして可能かどうか、そして付与したとして実際に使い物になるかどうかはやってみないことには分からんが」
「……本当!?うん、ダメ元でいいから、やってみてほしい!レオ兄ちゃん、お願い!」

 レオニスの言葉に、歓喜するライト。
 だが、それにレオニスが待ったをかける。

「その試みが失敗したところで、何も問題はない。ただ単に実現できないだけだからな。もし問題が起きるとすれば、それは成功した場合の方だ」
「空間魔法陣と同じ働きを持つ、鞄なり箱なりが出来上がったとして、だ。それが世に知られれば、間違いなく革命レベルの騒ぎになる」

 ライトはハッとする。言われてみれば確かにそうだ。
 レオニスが普段使いする空間魔法陣は、金剛級冒険者たるレオニスだからこそできる芸当なのだ、と周りからは認識されている。
 それは『伝説級の人物だから可能なのだ』と容認されているということであり、裏を返せば『伝説級の人物以外には不可能』という諦念が人々の根底にある。
 それがもし鞄や袋などの、誰にでも持てるアイテムで具現化した形となって登場したら―――
 間違いなく大騒ぎになり、奪い合いになる可能性が高かった。
  
「空間魔法陣の魔法付与が成功して、アイテムの出し入れができる鞄や箱がもし作れたとして。そのままいけば、おそらくは王侯貴族に巻き上げられることになるだろう」
「いや、表向きには『巻き上げる』なんて人聞きの悪いことはしないだろうが、冒険者ギルドに圧力をかけたり様々な搦手を駆使して、何としてでも没収しようとしてくる可能性は十分にある」

 レオニスの言う通りのことが、起こり得る可能性としてライトにも想像できた。
 出来上がった空間魔法つき収納鞄?袋?を人前で使えば、速攻で大騒ぎレベルの話題になる。
 そうなれば、真っ先に権力者がその力を振るい我が物にしようと動くだろう。
 まだ幼い自分には使いこなせない、と言われてしまった空間魔法陣を使いたさに、それこそゲーム感覚で気軽に提案したことだったのだが。よもやそれが、こんな大事を呼び寄せる可能性を含んでいたとは―――
 ライトは背筋が凍る思いがした。

 青褪めた顔をして、小刻みに震えるライト。
 そんな厄災を呼び寄せるくらいなら、アイテムボックスの実現は断念した方がいいのか―――
 そんな諦めの表情を浮かべ始めるライト。
 だが、それに反してレオニスはそこまで深刻そうな顔をしていない。

「だが、まだ出来てもいないうちから捕らぬ狸の皮算用してもしょうがない。まずは鞄に空間魔法陣を付与できるかどうか、実際にやってみてからだな」

 そう言い切るレオニスは、真面目な顔つきながらもどこか不敵な笑みを浮かべていた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ラウル、すまんがしばらくの間ライトの寝泊まりをこっちでさせる。俺は向こうで研究に専念したい」
「分かった」

 レオニスは、改めてライトの方に向かって話しかける。

「ライトもいいか?研究に専念するとなると、お前の食事や世話が疎かになりそうだから、ラウルとこっちで過ごしてもらう方がお前にとっても良さそうなんだ」
「うん、大丈夫だよ。ぼくもあのカラスのことが気になるから、ラウルといっしょにカラスの看病のお手伝いするね」

 ライトはレオニスの申し出に、一も二もなく快諾した。
 レオニスが専念したいと言った研究課題、空間魔法陣の物質への魔法付与はそもそもライトが言い出したことだ。
 それに、自分が見つけた行き倒れのカラスの回復具合も、ライトとしては非常に気がかりだったのだ。

「ラウル、そういう訳でぼく、しばらくこっちでお世話になります。よろしくね」
「いや、こちらこそよろしく頼む。俺といっしょにマキシを見守ってくれると助かる」
「うん、もちろんぼくもがんばるよ!ぼくにできることや手伝えることがあったら、何でも言ってね!」
「ありがとう。この礼は必ずする。とりあえず今俺ができることとして、毎日美味しいおやつとデザート付きご飯を出すことを確約する」

 ライトも改めてラウルに向かい、しばらく世話になることへの挨拶とともにペコリと頭を下げた。
 ラウルとしても、一人でマキシを見守るよりライトがいっしょにいてくれるだけで心強いことだろう。

「ん?それは俺んとこにも届けてくれていいのよ?」
「「ん?」」
「「「………………」」」

 ラウルの発した『美味しいおやつとデザート付きご飯』という言葉に、速攻で反応するレオニス。レオニスの視線は二人の方、特にラウル寄りに向けられている。
 向かい合わせで話をしていたライトとラウルは、ほぼ同時にレオニスの方に振り向く。
 しばしの沈黙と、見つめ合う三人。

「「…………ぷぷッwww」」

 その何とも言えぬ沈黙と空気、美味しいものにすぐに反応するレオニスの言動が面白おかしくて、ライトは堪えきれずに噴き出す。
 ラウルも己が雇い主のリスのように可愛らしい反応に、ライトとほぼ同時に噴き出す。

「あッ、何だ二人とも、笑うことないだろ!」

 レオニスだけが、笑われたことにむくれてふくれっ面をする。
 その光景が、余計にライトとラウルの腹筋を刺激する。

「だ、大丈夫だよ、レオ兄ちゃん。レオ兄ちゃんとこにもぼくがちゃんと食事とおやつ運ぶから!」
「くくく、そうだぞ、ご主人様。俺だってちゃんと三人分、しかもご主人様の分は多めに作ってライトに届けてもらうから、安心して研究に専念してくれ」
「そ、そうか?ならいいが……」

 笑いだしたことへの贖罪か、あれこれと言い募り懸命にフォローしようとする二人の言に、まだ若干口を尖らせながらも素直に引き下がるレオニス。
 そこがまた余計に愛らしく思えてしまうというのだから、レオニスという人は天然かつ生粋の人たらしなのだろう。

 瀕死のカラスの救出劇の後の食事は、空間魔法陣の魔法付与チャレンジという思わぬ方向に進んだが、和やかなひと時でもあった。




====================

 印弁鳥インベントリ、どこかで実在してそうな感じです。

 そして、これはとても大事なことなので、前回に続き今回もガッツリ書いちゃいます。
 今話は、記念すべき100話目でございます!ぃぇーぃ♪
 この記念すべき100話目を祝して、文字数5000字超えのボリュームマシマシ大増量でお送りいたしました!
 ……いえ、区切りというかちょうどいいところまで書いたら長めになりましただけのことです、はい。
 そして、他に何をどう記念する予定もないのですが。

 まずは、兎にも角にも日々お読みくださっている方々に感謝しつつ、200話300話続けていけるように頑張りたいと思います。
 これからもよろしくお願いいたします。
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