せつなときずな

岡田泰紀

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せつなときずな 40

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「せつなときずな」40

実家のサキが住む離れの居間で、刹那はソファーに身体をまかせて、母親の表情をうかがっている。
庭で絆が遊んでいるが、エアコンをかけているので窓は閉め切りで、姿は見えてもその声は聞こえない。

西日が長く斜影を描き、窓を射抜く光と影は、刹那の視界を遮るかのように部屋を支配する。隣のダイニングのカウンターに腕を支えて立ち尽くしているサキは、珍しく言葉を失くしているかにも見えた。

新居には入らないし、ハートスタッフにも戻らないと、はっきり伝えたのだ。
別に自立したい訳ではない。
親子がわだかまっているのでもない。
サキに頼る自分が情けないとも思わない。
しかし、何もかもそんなことじゃない気がして、だからと言ってどんなことを思って決断したのか、それは刹那本人にとっても謎だった。

それを聞いたサキは、しばらく黙りこんでしまった。
意外にも、刹那がどちらも拒否するという想定をまるで持ち合わせていなかったのだ。

「じゃあ、どうするの?」 
心なしかサキの声は掠れているように思えた。

「まだ、わからない。だけど、答えは変わらない」

刹那の声はフラットで、極めて非情に感じられたが、そもそもそんな声なのだしと自分で納得させようとした。

「ごめん、やっぱりアンタのことが、私には全くわからない」
サキは物憂げな眼差しで、自分の腕の間からすり抜けていく娘に投げかけた。

「わからないことは今に始まった訳じゃないし、でも、今の私なら、刹那を支えられるんじゃないかと自分を買い被っていた…
たぶん、きっとね

一つ聞きたいんだけど、刹那のしたいことは一体何?」

「お母さん、私はしたいことなんて何もない。
ただ、したくないことだけがある。

たぶん、きっと」

刹那はリスペクトを込めて、サキの言葉をリフレインした。

「その歳で、それはどうかと思うのが普通の母親。
今の私は、どうやら普通の母親みたいね」

サキのため息混じりのような声に、刹那は罪悪感を禁じ得なかったが、それは仕方がないことだし、自分の決断が変わることもない。

「私もどうかと思うよ…

お母さん、怒らないの?
もっと感情を出しても構わないから、思っていることをはっきり口にしてよ」
それは、刹那の本心だった。

サキは刹那から視線を逸らし、遠い目で窓の向こう側で無邪気に遊ぶ孫を眺めていた。
言葉を選ぶつもりはなかったが、言葉そのものが出てくる気がしなかった。

「今の私には、アンタに伝える言葉の持ち合わせは無いわ」

それは自分の娘に対する諦めなのかはわからなかったが、きっと私がお母さんでも同じ言葉を口にしたに違いないと、刹那ははっきりと自覚することができた。。
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