トリプティック

岡田泰紀

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トリプティック 26

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行為が終わった後、巴は女に戻った。
気だるい微睡みを全身にまとい、佐藤の背中を抱いてじっとしていた。

言葉は要らなかったが、どうして最初からこんな風に愛おしい感情を互いに融かすことができなかったのか、そんなわかりきったことをぼんやりと想う。

「するんじゃなかった?」

背に巴を抱いたまま、佐藤は手を伸ばして巴の右手を握った。
躊躇いが、男の背中を通して余熱になる。
いつもそうだ。あなたは自分の感情に向き合うことが苦手で、それでもなんとかしようと足掻き、そしてそれは届かない。
もどかしいのはあなたではなく、私なのだ。

後ろから髪に手を伸ばし、そっと撫でる。
耳元にキスをする。
普通に男と女がそうするように、私たちにもできないことはなかった。
でもわかっている。
二人は恋人にはなれない。
この男には恋い焦がれている男がいる。
憧れと嫉妬と羨望に焦れながら、そして異性の私との関係にも苦悶する、優柔不断な駄目な男。

「こんな風にするつもりはなかった…」

なんか言い訳じみていたが、いや、違う。
本当はこうしたかったんだ。
だってそうでしょ?
あなたはこの先もずっとどっちつかずのままいい歳をした思春期を堂々巡りするに決まっている。
私は…

私はあたなを犯してやりたかった。
心はどっち付かずのまま私のところに帰ってはこない。
だから、あなたを許したくはない。
あなたを辱しめてやりたかった。

だってそうでしょ?
あなたはどうしたいの?
私はどうすれば良かったの?
あなたは私に応えられるの?
私たちはこの先どうなるの?

どうもなりはしないんでしょ?

そんなことを思いながら、口にすることができない私も大概に馬鹿な女だ…

「何か言うことはないの?」

巴は身体を起こし佐藤の唇を吸った。

「わからない」

佐藤は目を閉じて、禍々しかった官能の夜に敗れ去った惨めな男のままだった。

「そうでしょうね。

今のところの私の希望は、朝までここにいて欲しいということ。

こうして二人でじっとして、充たされない後悔にうつらうつらして、好きなのかはっきりしない気持ちを肌でごまかすの。

どうせ何もできないでしょ?輝くんには
だから今夜は私の抱き枕でいてよ」

女なんて弱いものよ
水みたいに…

照明を落とした部屋の狭いベッドで佐藤と肌を合わせながら、その暗闇の向こうの本棚の背表紙にフランシス・ベーコンの画集をおぼろげに見てしまった巴は、これまでの数ヶ月がフラッシュバックのように一瞬でリプレイされるような感覚にはっとした。

私は、ただ普通に人を好きになり、人から好かれたかった。
父も姉もそんな私の人生に水を注した。
娘に惑乱した男。
妹に嫉妬した姉。
娘を手懐けたかった父親。
妹に復讐したかった姉。
家族でいながら家族でなかった母親。
何者にもなれなかった私。

姉はあの男とどんなセックスをするのだろうかと考えた巴は、それを振り払うように佐藤に再びキスをした。
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