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Lady steady go! 21
しおりを挟むぼんやりと思っていたことの一つを自分の中で明確にするため、美環は少しの気後れをもて余したまま実家に行くことを決断した。
母の佳苗を迎えに行くと、買い物がてら近所の店に昼食に赴いた。
日曜日の昼過ぎ、穏やかな陽光を照り返す往来を眺めながら、なんでそんなことを思ったのか自問自答した昨夜の気持ちを振り返る。
結局、その答えは曖昧で、「本当に欲しいものなんか無いのよ」とエマに詰められたような気がして、でも曖昧なままそこに行きたいという気持ちだけが日に日に強くなっていったのも事実だった。
時折、亡き早苗が残したノートを見てはぽつりぽつりとレシピを真似て料理する。
そんな日々はもう半年も続いた。
その後、私はどうするの?
「まだね、伯母さんの遺した原稿は読んでないよ」
美環は最初に佳苗に言った。
「もう少し落ち着いたら読むつもり。
それに、なんて言うか、なんかやっぱり生々しいんだよね。
知らなかった伯母さんの本当の姿を覗き見するような気がして…
でもきっと、読んでもらうため、あの原稿をわかるように遺したとは思う」
確かにそうよねと頷きながら、佳苗はカニクリームコロッケを食べている。
この店は古くて小汚なく油っぽい匂いが染み着いた小さな洋食屋で、かつて旅客船のコックをやっていた人が奥さんと二人で始めたと聞いたことがある。
子どもの頃から家族で通ったが、油切れがいまいちのカニクリームコロッケが思い出の味みたいになっている。
「で、百人町の実家の件だけど、美環に言ってないことがあるのよ」
佳苗は少し眉をひそめて困惑気味の表情を浮かべた。
「おじいちゃんが亡くなる前に相続をどうするかって思っていたら、伯母さんがね、とんでもない形で相続することにしたの。
後から知ったんだけど、宗教法人って名義が転売される業界があって、後継者がいない岐阜の寺院の幽霊法人を買って、おじいちゃんが地所を法人に寄付する形にして法人の代表に修まり、その後伯母さんが代表を交替する体で継承したのよ。
その時お母さんも共同名義で、今はお母さんがそれを継いでいる。
相続税が発生しない。宗教法人には申告も必要なければ監査も入らない。
そう伯母さんから言われて、じゃあそれでいいのかなと思って全部任せていたから…
それって、いいの? 美環」
初めて聞く話に美環は愕然とした。
慎ましやかに生きていたと思っていた伯母は、恐ろしくしたたかに合法的な脱税スキームを平然とやっていたのだ。
しかも図書館で司書をやっていた伯母が、一体どこでこんな知識を得たのか、それとも私たち家族が知らないバックがいたのか?
もし後者なら、それはかなり危険なことを意味するが、亡くなって半年が過ぎても未知の外野が一ノ瀬家に介入してきたことはない…
とすれば、早苗一人の仕業なのか?
「とりあえず、登記簿と宗教法人の登記と伯母さんの通帳、その他考えつく限りの書類や資料を私に頂戴!」
こんなところで自分の仕事が役に立つとはなんという皮肉だろうか。
この日「実は百人町の実家に住みたい」と母に伝えるつもりの言葉は言えず終いのまま、美環はそのつもりで佳苗が持参した登記簿の封筒を受け取ることしかできなかった。
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