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ポルノグラフィア 5
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「ポルノグラフィア」5
日斗志が怪物の絵を描いていた。
井上に似たのか、絵を描くのが好きで、いつもリビングの机で絵を描いている。
その姿を見ていると、井上はいつも、80年代にポストモダンの建築で一世を風靡した、高松伸が語った回想を思い出す。
ごく普通の家庭で育った高松は、幼い頃、絵を描くのが大好きだった。
彼の母は、いつも息子のために、裏面が無地の新聞の折り込みちらしをとっておいてくれた。
母は何も言わず、ただニコニコと、息子が絵を描く姿を見ていたそうである。
高松は後年になって、自分は何かになろうと目標があった訳でもなく、ただ毎日絵を描いていた、そのために毎日ちらしを用意してくれた母の存在があったからこそ、今の自分がいるのだろうと語っていた。
井上は日斗志に、絵画教室に通うか?と聞いたことがある。
「ぼくは自分の好きな絵を描きたいだけだから、絵は習いたくない」とはっきり答えた。
それが正しいのだ。
井上は若い頃、性的な女性像をよく描いていた。
妻は蛇蝎の如くそれを嫌った。
それが普通の感覚だ。
妻を抱けない腹いせに、絵は日増しに性交そのものを描くようになった。
井上がポルノを買うようになったのは、モデルの代わりに使い始めたのがきっかけだった。
オレは正しくはないな。
いや、正しいとか、正しくないとか、そんなことじゃない…
日菜子が帰ってきた。
井上は、魚が好きな日斗志のために、鮭のホイル焼きにしようと準備を始めた。
肩越しに、日菜子が覗いた。
「なんだか嫁さんみたいだから止めてくれ」
「それも悪くないんじゃないの?」
今年で40になる年子の妹に言われてもなと、井上は独りごちた。
何度か日菜子をモデルにしたいと思ったことがある。
しかし、それは避けねばなるまい。
人として、それは間違っている…
「日菜子」
井上は残念な報告をしなくてはならない。
「「茨」はゲームオーバーだ」
その日秋田から電話があった。
どうせ、ろくな話じゃないだろうと思って出ると、本当にろくな話じゃなかった。
「今すぐって訳じゃないけど、来月ぐらいに店たたむわ」
「山田さんはどうするの?」
秋田のことより、山田を心配した自分に、井上はちょっと驚いた。
「お前、俺より山ちゃんのこと心配するかぁ?
まあ、日出さんはそんなところだろうな」
「いや、もうずっと前から、やめやめ詐欺みたいに言ってたから、もう驚かんでしょ。
秋さんはやめてどうするつもりなの?」
「ノープランだよ。
とりあえず、日出さんには言っとこうと思ったからさ。俺、案外友達少ないからな。
山ちゃんはそのままじゃない?店やめるって言ったら、特に何も言わんかったよ」
そんなやり取りを日菜子に話しているうちに、日斗志の夕食は仕上がった。
「日斗志、留守番できるか?」
井上が聞くと、日斗志は「じゃあ日出郎と取引だね」と親指を上げた。
「だからオレを名前で呼ぶなって」
ブツは奮発して、ハーゲンダッツのトリプルパックといったところか。
「それでは行きますか。お姫さま」
「えーっ、「wilde」に美味しいつまみないじゃん」
日菜子は、それでも満更ではない筈だ。
「山田さんがいたら、なんか適当なもんがあるだろ」
いい加減なことを言って言いくるめると、日出郎はタクシーを呼んで、日菜子と「茨」に向かった。
日斗志が怪物の絵を描いていた。
井上に似たのか、絵を描くのが好きで、いつもリビングの机で絵を描いている。
その姿を見ていると、井上はいつも、80年代にポストモダンの建築で一世を風靡した、高松伸が語った回想を思い出す。
ごく普通の家庭で育った高松は、幼い頃、絵を描くのが大好きだった。
彼の母は、いつも息子のために、裏面が無地の新聞の折り込みちらしをとっておいてくれた。
母は何も言わず、ただニコニコと、息子が絵を描く姿を見ていたそうである。
高松は後年になって、自分は何かになろうと目標があった訳でもなく、ただ毎日絵を描いていた、そのために毎日ちらしを用意してくれた母の存在があったからこそ、今の自分がいるのだろうと語っていた。
井上は日斗志に、絵画教室に通うか?と聞いたことがある。
「ぼくは自分の好きな絵を描きたいだけだから、絵は習いたくない」とはっきり答えた。
それが正しいのだ。
井上は若い頃、性的な女性像をよく描いていた。
妻は蛇蝎の如くそれを嫌った。
それが普通の感覚だ。
妻を抱けない腹いせに、絵は日増しに性交そのものを描くようになった。
井上がポルノを買うようになったのは、モデルの代わりに使い始めたのがきっかけだった。
オレは正しくはないな。
いや、正しいとか、正しくないとか、そんなことじゃない…
日菜子が帰ってきた。
井上は、魚が好きな日斗志のために、鮭のホイル焼きにしようと準備を始めた。
肩越しに、日菜子が覗いた。
「なんだか嫁さんみたいだから止めてくれ」
「それも悪くないんじゃないの?」
今年で40になる年子の妹に言われてもなと、井上は独りごちた。
何度か日菜子をモデルにしたいと思ったことがある。
しかし、それは避けねばなるまい。
人として、それは間違っている…
「日菜子」
井上は残念な報告をしなくてはならない。
「「茨」はゲームオーバーだ」
その日秋田から電話があった。
どうせ、ろくな話じゃないだろうと思って出ると、本当にろくな話じゃなかった。
「今すぐって訳じゃないけど、来月ぐらいに店たたむわ」
「山田さんはどうするの?」
秋田のことより、山田を心配した自分に、井上はちょっと驚いた。
「お前、俺より山ちゃんのこと心配するかぁ?
まあ、日出さんはそんなところだろうな」
「いや、もうずっと前から、やめやめ詐欺みたいに言ってたから、もう驚かんでしょ。
秋さんはやめてどうするつもりなの?」
「ノープランだよ。
とりあえず、日出さんには言っとこうと思ったからさ。俺、案外友達少ないからな。
山ちゃんはそのままじゃない?店やめるって言ったら、特に何も言わんかったよ」
そんなやり取りを日菜子に話しているうちに、日斗志の夕食は仕上がった。
「日斗志、留守番できるか?」
井上が聞くと、日斗志は「じゃあ日出郎と取引だね」と親指を上げた。
「だからオレを名前で呼ぶなって」
ブツは奮発して、ハーゲンダッツのトリプルパックといったところか。
「それでは行きますか。お姫さま」
「えーっ、「wilde」に美味しいつまみないじゃん」
日菜子は、それでも満更ではない筈だ。
「山田さんがいたら、なんか適当なもんがあるだろ」
いい加減なことを言って言いくるめると、日出郎はタクシーを呼んで、日菜子と「茨」に向かった。
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