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ポルノグラフィア 19
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「ポルノグラフィア」19
「wilde」のカウンターでは横並びになってしまうので、ギャラリーに置いたガーデニングテーブルに料理を並べた。
山田は、井上が好きなことを知っているので、以前出したエビマヨを作っていた。
どこから仕入れたのか、鹿肉を自分でローストする手の込みようで、「何につけても拘ることは好きではありません」などと、どの口が言うのかと井上は苦笑した。
日菜子と誂えた南蛮漬けに、ブロッコリーと帆立貝のサラダ、つまみのチーズの盛り合わせ、ミックスナッツと並ぶと、そこそこの雰囲気になった。
平日の昼過ぎに、4人の大人が酒を囲む。
「茨」の外は、いよいよ風が強さを増し、空気を裂く音は、真冬の厳しさを思い起こさせる。
秋田は、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「ロバート・クゥィン・テープ」を流して、バローロの赤とワイングラスを持ってくる。
「茨」に響くホワイトノイズに、アンディ・ウォーホールの「ファクトリー」も、こんな感じだったのだろうかと井上は思った。
「それは排斥のプロセスだった。
最初は、アンディはいらない。
次はジョン(ケイル)はいらない。
最後に、ヴェルヴェッツはいらない」
ルー・リードは自身のバンド、ヴェルヴェッツを、後にそう語った。
秋田もそうなのだろうか。
最初は、「茨」はいらない。
次に、井上はいらない。
最後は…山田なのか?とにかく、いらない…
挨拶らしき言葉もなく、「今日はありがとう」とだけ言って乾杯したのは秋田らしいとも思ったが、テーブルを囲んだことで、さっきまでの互いの距離感は、きもち緩んだ。
しかし、
秋田は、これからのことを、話はしない。
井上は何度も聞こうと思ったが、以前のように煙に巻かれるだけだと考えてしまい、結局何も言い出せずにいる。
それは、日菜子も、同じだった。
遅い昼食が始まってしばらく経った時、一人の男が「茨」にやってきた。
唐突の来場者に、井上は、以前「wilde」のカウンターで見かけた気がするのだが、その記憶は曖昧なままだ。
「立川だ。今日はオレが呼んだんだ。よろしく」
秋田は男を紹介したが、特に説明する気もなさげで、それでも、特別な関係であることは伺いしれた。
「立川と言います。どうぞよろしくお願いします。」
男もまた、自分の名前以外何も話すでもなかった。
型どおりに握手を交わした井上と日菜子だったが、互いに名刺を出すでもない。
会話をするでもない。
立川のために、グラスに注ぐ山田は、多分二人の関係を知っている。
その関係性は、井上が感じているものと同じであろう。
まだ30半ばとおぼしき、背の高いその男と秋田の姿が重なって見える。
秋田の「非」人情的な側面を、最後に知ることになるのか?
井上は、日菜子の顔を見た。
日菜子は黙って頷くと、グラスを一気に空けた。
アンプからは「i'm waiting for the man」が流れている。
男は、男を待っていた訳だ。
「wilde」のカウンターでは横並びになってしまうので、ギャラリーに置いたガーデニングテーブルに料理を並べた。
山田は、井上が好きなことを知っているので、以前出したエビマヨを作っていた。
どこから仕入れたのか、鹿肉を自分でローストする手の込みようで、「何につけても拘ることは好きではありません」などと、どの口が言うのかと井上は苦笑した。
日菜子と誂えた南蛮漬けに、ブロッコリーと帆立貝のサラダ、つまみのチーズの盛り合わせ、ミックスナッツと並ぶと、そこそこの雰囲気になった。
平日の昼過ぎに、4人の大人が酒を囲む。
「茨」の外は、いよいよ風が強さを増し、空気を裂く音は、真冬の厳しさを思い起こさせる。
秋田は、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「ロバート・クゥィン・テープ」を流して、バローロの赤とワイングラスを持ってくる。
「茨」に響くホワイトノイズに、アンディ・ウォーホールの「ファクトリー」も、こんな感じだったのだろうかと井上は思った。
「それは排斥のプロセスだった。
最初は、アンディはいらない。
次はジョン(ケイル)はいらない。
最後に、ヴェルヴェッツはいらない」
ルー・リードは自身のバンド、ヴェルヴェッツを、後にそう語った。
秋田もそうなのだろうか。
最初は、「茨」はいらない。
次に、井上はいらない。
最後は…山田なのか?とにかく、いらない…
挨拶らしき言葉もなく、「今日はありがとう」とだけ言って乾杯したのは秋田らしいとも思ったが、テーブルを囲んだことで、さっきまでの互いの距離感は、きもち緩んだ。
しかし、
秋田は、これからのことを、話はしない。
井上は何度も聞こうと思ったが、以前のように煙に巻かれるだけだと考えてしまい、結局何も言い出せずにいる。
それは、日菜子も、同じだった。
遅い昼食が始まってしばらく経った時、一人の男が「茨」にやってきた。
唐突の来場者に、井上は、以前「wilde」のカウンターで見かけた気がするのだが、その記憶は曖昧なままだ。
「立川だ。今日はオレが呼んだんだ。よろしく」
秋田は男を紹介したが、特に説明する気もなさげで、それでも、特別な関係であることは伺いしれた。
「立川と言います。どうぞよろしくお願いします。」
男もまた、自分の名前以外何も話すでもなかった。
型どおりに握手を交わした井上と日菜子だったが、互いに名刺を出すでもない。
会話をするでもない。
立川のために、グラスに注ぐ山田は、多分二人の関係を知っている。
その関係性は、井上が感じているものと同じであろう。
まだ30半ばとおぼしき、背の高いその男と秋田の姿が重なって見える。
秋田の「非」人情的な側面を、最後に知ることになるのか?
井上は、日菜子の顔を見た。
日菜子は黙って頷くと、グラスを一気に空けた。
アンプからは「i'm waiting for the man」が流れている。
男は、男を待っていた訳だ。
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