アンチ・リアル

岡田泰紀

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アンチ・リアル 5

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「アンチ・リアル」 5

居心地の悪さも、3日も過ぎれば互いに繕う。

ただし、繕うだけで、何かが変わる訳でもない。

日出郎は、現場のない時は、午前中は自宅で仕事をすることが多い。
頼子ととる朝食は、1日の始まりになる。

毎朝のルーティンで、バナナと牛乳をミキサーにかけたバナナジュース、そしてハムトーストを頼子が用意する。
日出郎はそれを、朝刊を読みながら食す。

それが、頼子は我慢できない。
毎朝、新聞を読みながら食べるなと咎める。

日出郎は曖昧な返事しかしない。
毎朝変わらずやっているのに、この女は諦めもせず文句を言う。
いい加減、諦めたらいいものを。

日出郎はそのルーティンを、変えるつもりは全くない。
頼子は日出郎をゆるさないが、日出郎は頼子と向き合おうともしない。

「いい大人が、これだよ」と、日出郎は思う。

その日は保育園の行事で話があるからとのことで、頼子は日斗志を自転車に乗せて保育園へ行った。

日出郎は自室に戻り、仕事にかかるのが億劫で、TVを点けた。

ケーブルTVの番組は、映画を中心に活動する若い女優のインタビューを映している。
インタビュアーの男が、「今回初めて、撮影でお脱ぎになりましたが、○○さんはどのような気持ちで撮影に挑まれましたか」と間抜けな質問をしている。

「私は演者です。監督の思いに答えるだけです。
それ以上でも以下でもありません」

女優の目は笑っていない。

「逆にお聞きしたいのですが、試写を観て、その質問ですか?

どんな質問にもお答えしますが、質問もクリエイティブであって欲しいと願います」

日出郎は唖然としながら、画面を観ていた。

地上波でないとはいえ、よく編集せずに流したものだ。
2ちゃんねるあたりで盛り上がるかもな。
最も、俺はパソコンもないからネットのことはよくわからんが。

あまり映画は観ないが、観たくなった。
映画好きの深田薫を誘おう。この話をして。

演者か…

日出郎は、スタジオのスタッフが起こしたプランを具現化するのが仕事だ。
アニメでいうなら、原作者がいて、それを背景やらキャラクターやら彩色やらの各々スタッフの仕事が積み重なって、一つの作品になる。

その各々の仕事とやらを、ほとんど一人で仕切っているのが自分だが、原作に加わる機会は限られている。

俺も、演者だ。
しかし、俺たちの世界はアートではない。
原作者にしても、クライアントの意向を具現化するのが仕事だ。

プランを作るスタッフも、その能力には個人差があり、深田薫は、キャリアが浅いこともあって、決して優れたスタッフではない。
しかし、自分の拙さに向き合い、ひたむきに仕事に没頭する姿は、日出郎の心に響いた。

演者が、演者に惹かれた。そのあがき故に。

昼食をとれば、スタジオに行って発注業務にかかる。
気になる女に会えるの日々は、仕事とはいえ、嬉しくない訳がない。
しかし、頼子を想うと、それを素直に感じることができるほど、日出郎には覚悟はなかった。

夫婦で演者になるのも、楽ではない。

最も、演じているのは、自分の方だけかもしれない。
その拙い役者を、演者と呼ぶことができればの話だが。
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