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アンチ・リアル 6
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「アンチ・リアル」 6
携帯の着信を見て、切ろうかどうか迷ったが、なんとなく出てしまった。
「久しぶり。忙しいかい?」
「忙しかろうがヒマだろうが、お前の話に乗る気はないよ。
まあ、嫌いじゃないから、仕事以外なら付き合ったって構わんけどさ」
日出郎は素っ気なく返事をして、さっさと終わらしたかった。
こいつに関わると、ろくなもんじゃない。
「いや、今度は絶対きちんと払うから、何とか助けてくれないかな?」
「無理だね。未払いの20万を払ってから出直してくれ。
それが常識ってもんだろ?」
山盛のしつこさはわかっているし、なんなら着信拒否にしておいた方が良かったはずなのに、日出郎は何故かそうしなかったし、今日も出てしまった。
「腐れ縁」とは、こういう関係なのだと、人生で初めて自分事として理解したのだが、いささか遅すぎる感がなくもない。
しかも、理解したからといって、この男との付き合い方が好転する訳でもない。
「今回の仕事で一緒に精算できるから!
それに、お前にしかできない仕事なんだよ」
山盛はいつもは締まりのない、ニタついた話し方をするのだが、今日は珍しく興奮している。
それが余計に、ヤバい予感増量中という怪しさに繋がってしまう。
「次に払うとか、今回払うとか、そういうのいらんから。
払わなかった時点で信用なんか無いんだよ。
お前には言ってなかったが、2回目は分かってて付き合ってやったんだからな。
これで払わんかったらアウトって、内心決めてたら、期待通りに繰り返したくれたわ。
ゲームオーバー!」
日出郎は、自分の知人に向かって、こんなぞんざいな口のきき方をしたことは無い。
「いや、やった方がいいから。だって、藤井設計の自宅だぜ。
それも、無茶苦茶クレイジーなんだって!
マジだから。」
そう来たか…
山盛と最後のにした仕事は、名古屋の注文住宅の設計では第一人者の、その藤井設計の最後の仕事だったのだ。
日出郎にとって、最も困難な体験となった難易度の高い物件は、自分の能力を一気に押し上げる機会ともなり、実はそこに、山盛との繋がりを断ち切ることを躊躇する理由が存在している。
また、巻き込まれるのか…
それは避けたいと、日出郎は思う。
今掛かっている物件は、片手間でできるようなレベルでもない。
それに、もう未収金はたくさんだった。
結婚と独立で金が要り用の時に、山盛の未払いのおかげで痛い目を見ている。
頼子との仲にすきま風が吹き出したのは、それがきっかけとなって今に至る、経済的苦労に他ならない。
「当分はムリだ…今の物件で精一杯だ」
つまり俺は、やる気なのか?
「まだこれからだよ。いつから加われるんだ?」
山盛は、さも当然のように話す。
「やるなんて言ってないだろ。
もしやって欲しかったら、法的根拠のある注文書を切れ。それと未払いの先払い。
あと、今回は俺の言い値だ。
この条件の一つでも欠いたら、この話は無しだ」
山盛はしばらく考えたが、ちょっと踏ん切りがつかないらしい。
日出郎は、ふっかけてみるもんだなと思った。
悩むということは、条件を検討しているということで、それぐらい日出郎を必要としているとも考えられる。
断ってきたら、山盛との縁は切れる。
どっちに転んでも、日出郎にはメリットしかない。
「ちょっと見積りみて考えるわ。しばらく時間をくれ。
また連絡するわ」
「お好きなように。
ただし、こちらも次の仕事をどうするか考えなくちゃいけないから、今週中がタイムリミットだ。
連絡がなかったら、こっちで次の物件があり次第契約するからな」
電話を切ると、頼子が「誰からの電話?」と聞いてきた。
完全に不機嫌になっている。
「ご覧の通り、腐れ縁から」
日出郎は頼子の目を避けて、ドラフターに向かった。
携帯の着信を見て、切ろうかどうか迷ったが、なんとなく出てしまった。
「久しぶり。忙しいかい?」
「忙しかろうがヒマだろうが、お前の話に乗る気はないよ。
まあ、嫌いじゃないから、仕事以外なら付き合ったって構わんけどさ」
日出郎は素っ気なく返事をして、さっさと終わらしたかった。
こいつに関わると、ろくなもんじゃない。
「いや、今度は絶対きちんと払うから、何とか助けてくれないかな?」
「無理だね。未払いの20万を払ってから出直してくれ。
それが常識ってもんだろ?」
山盛のしつこさはわかっているし、なんなら着信拒否にしておいた方が良かったはずなのに、日出郎は何故かそうしなかったし、今日も出てしまった。
「腐れ縁」とは、こういう関係なのだと、人生で初めて自分事として理解したのだが、いささか遅すぎる感がなくもない。
しかも、理解したからといって、この男との付き合い方が好転する訳でもない。
「今回の仕事で一緒に精算できるから!
それに、お前にしかできない仕事なんだよ」
山盛はいつもは締まりのない、ニタついた話し方をするのだが、今日は珍しく興奮している。
それが余計に、ヤバい予感増量中という怪しさに繋がってしまう。
「次に払うとか、今回払うとか、そういうのいらんから。
払わなかった時点で信用なんか無いんだよ。
お前には言ってなかったが、2回目は分かってて付き合ってやったんだからな。
これで払わんかったらアウトって、内心決めてたら、期待通りに繰り返したくれたわ。
ゲームオーバー!」
日出郎は、自分の知人に向かって、こんなぞんざいな口のきき方をしたことは無い。
「いや、やった方がいいから。だって、藤井設計の自宅だぜ。
それも、無茶苦茶クレイジーなんだって!
マジだから。」
そう来たか…
山盛と最後のにした仕事は、名古屋の注文住宅の設計では第一人者の、その藤井設計の最後の仕事だったのだ。
日出郎にとって、最も困難な体験となった難易度の高い物件は、自分の能力を一気に押し上げる機会ともなり、実はそこに、山盛との繋がりを断ち切ることを躊躇する理由が存在している。
また、巻き込まれるのか…
それは避けたいと、日出郎は思う。
今掛かっている物件は、片手間でできるようなレベルでもない。
それに、もう未収金はたくさんだった。
結婚と独立で金が要り用の時に、山盛の未払いのおかげで痛い目を見ている。
頼子との仲にすきま風が吹き出したのは、それがきっかけとなって今に至る、経済的苦労に他ならない。
「当分はムリだ…今の物件で精一杯だ」
つまり俺は、やる気なのか?
「まだこれからだよ。いつから加われるんだ?」
山盛は、さも当然のように話す。
「やるなんて言ってないだろ。
もしやって欲しかったら、法的根拠のある注文書を切れ。それと未払いの先払い。
あと、今回は俺の言い値だ。
この条件の一つでも欠いたら、この話は無しだ」
山盛はしばらく考えたが、ちょっと踏ん切りがつかないらしい。
日出郎は、ふっかけてみるもんだなと思った。
悩むということは、条件を検討しているということで、それぐらい日出郎を必要としているとも考えられる。
断ってきたら、山盛との縁は切れる。
どっちに転んでも、日出郎にはメリットしかない。
「ちょっと見積りみて考えるわ。しばらく時間をくれ。
また連絡するわ」
「お好きなように。
ただし、こちらも次の仕事をどうするか考えなくちゃいけないから、今週中がタイムリミットだ。
連絡がなかったら、こっちで次の物件があり次第契約するからな」
電話を切ると、頼子が「誰からの電話?」と聞いてきた。
完全に不機嫌になっている。
「ご覧の通り、腐れ縁から」
日出郎は頼子の目を避けて、ドラフターに向かった。
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