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アンチ・リアル 8
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「アンチ・リアル」 8
山盛から、条件を呑むから手伝って欲しいと連絡があった。
「この案件は、契約に守秘義務条項が盛り込まれているから、一切口外しないでくれ」
山盛らしくない殊勝な口振りは、それだけ神経を尖らせていることを伺わせた。
日出郎が「こちらの言い値」と言ったのは、前回、山盛と仕事をした時の口約束からきている。
それは、契約書を開示して、予め粗利を設定し、それを7対3の割合で分けるという取り決めだ。
簡単にいえば、100万の案件で粗利が30万だと例えたら、そのうちの3割に当たる9万を日出郎が得るという話である。
こんな契約を日出郎が持ちかけたのは、その前にも山盛に一杯食わされているからで、粗利を誤魔化されないために、外注の注文書と請求書は、日出郎がすべて検収するという、普通ならあり得ない縛りまで要求した。
そこまでして、最後に誤魔化されたのは、日出郎の責めきれない性格だろう。
山盛は施工図、製作図など書けない。
普通は図面一枚の単価で請け負うが、山盛の仕事は図面ぐらいで済まないから、3割の成功報酬でも少ないぐらいだ。
その、曰く付きの最後の仕事となった藤田設計の案件は、異常な仕事だった。
「藤田設計」は、呼びにくいので付けている名前で、正式名称は「藤田アーキテクト・アソシエーション」と呼ぶ。
主宰者の藤田明人は、名古屋では注文住宅の設計士としては最も有名な一人で、都市景観賞を何度も受賞し、大学の建築科の非常勤講師としても活動していた。
その藤田設計は、数年前、新聞一面の広告を打って、異例の声明を出した。
「藤田アーキテクト・アソシエーションの葬式」という、広告とは思えぬ刺激的なタイトルで、同設計事務所は解散し、代表の藤田明人は設計士として引退すると唐突に表明したのだ。
理由らしい理由は語られず、それらしい建築理論を関陳した上で、65歳を迎え、藤田明人の人生最期の設計となる建築を募集すると啖呵を切ったのだ。
古今東西、設計士が自分にプレミアムを付けて売り出した話など聞いたことがない。
しかも応募条件は、敷地300坪以上で建坪率30%の風雅地区の地所とし、最も異例だったのは、その説明、デザインは、すべて藤田明人に一任し、これを受容すること、建築予算の下限は、外構造園を含め5億と謳ったことだ。
そんな無茶苦茶な条件をもってして、依頼してくる人間がいるのか、大いに疑問だったが、今思えば、それは一つの戦略だったのかもしれない。
狂気の沙汰という広告の反響は凄まじく、いろいろな媒体で取り上げられることとなったが、事務所を解散し個人となった藤田は、一切取材に応じることなく、これも異例だが、設計依頼の募集は、弁護士法人の代理人に一括された。
この騒ぎは、まだ務め先で、木造作の施工図に勤しんでいた日出郎にもインパクトがある出来事であったが、数年後、まさか自分が関わることになるとは、その時点では知る由もなかった。
山盛から、条件を呑むから手伝って欲しいと連絡があった。
「この案件は、契約に守秘義務条項が盛り込まれているから、一切口外しないでくれ」
山盛らしくない殊勝な口振りは、それだけ神経を尖らせていることを伺わせた。
日出郎が「こちらの言い値」と言ったのは、前回、山盛と仕事をした時の口約束からきている。
それは、契約書を開示して、予め粗利を設定し、それを7対3の割合で分けるという取り決めだ。
簡単にいえば、100万の案件で粗利が30万だと例えたら、そのうちの3割に当たる9万を日出郎が得るという話である。
こんな契約を日出郎が持ちかけたのは、その前にも山盛に一杯食わされているからで、粗利を誤魔化されないために、外注の注文書と請求書は、日出郎がすべて検収するという、普通ならあり得ない縛りまで要求した。
そこまでして、最後に誤魔化されたのは、日出郎の責めきれない性格だろう。
山盛は施工図、製作図など書けない。
普通は図面一枚の単価で請け負うが、山盛の仕事は図面ぐらいで済まないから、3割の成功報酬でも少ないぐらいだ。
その、曰く付きの最後の仕事となった藤田設計の案件は、異常な仕事だった。
「藤田設計」は、呼びにくいので付けている名前で、正式名称は「藤田アーキテクト・アソシエーション」と呼ぶ。
主宰者の藤田明人は、名古屋では注文住宅の設計士としては最も有名な一人で、都市景観賞を何度も受賞し、大学の建築科の非常勤講師としても活動していた。
その藤田設計は、数年前、新聞一面の広告を打って、異例の声明を出した。
「藤田アーキテクト・アソシエーションの葬式」という、広告とは思えぬ刺激的なタイトルで、同設計事務所は解散し、代表の藤田明人は設計士として引退すると唐突に表明したのだ。
理由らしい理由は語られず、それらしい建築理論を関陳した上で、65歳を迎え、藤田明人の人生最期の設計となる建築を募集すると啖呵を切ったのだ。
古今東西、設計士が自分にプレミアムを付けて売り出した話など聞いたことがない。
しかも応募条件は、敷地300坪以上で建坪率30%の風雅地区の地所とし、最も異例だったのは、その説明、デザインは、すべて藤田明人に一任し、これを受容すること、建築予算の下限は、外構造園を含め5億と謳ったことだ。
そんな無茶苦茶な条件をもってして、依頼してくる人間がいるのか、大いに疑問だったが、今思えば、それは一つの戦略だったのかもしれない。
狂気の沙汰という広告の反響は凄まじく、いろいろな媒体で取り上げられることとなったが、事務所を解散し個人となった藤田は、一切取材に応じることなく、これも異例だが、設計依頼の募集は、弁護士法人の代理人に一括された。
この騒ぎは、まだ務め先で、木造作の施工図に勤しんでいた日出郎にもインパクトがある出来事であったが、数年後、まさか自分が関わることになるとは、その時点では知る由もなかった。
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