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アンチ・リアル 30
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9月30日は日曜日だった。
そしてその日は、深田薫の誕生日だ。
先日、自分の想いを打ち明けてから、日出郎は薫と連絡を取っていなかった。
あの謎めいた、「私はあなたが思っているような人じゃないのよ」という言葉は、深い余韻でもって、日出郎の心の奥底に影を落としている。
薫がどんな感じなのか、日出郎には全くわからなかった。
だから躊躇いはあったが、それでも勇気を奮って電話をしてみた。
薫は、電話口では普段通りだった。
「日曜日は予定がある?
よかったら、誕生日のお祝いで、薫ちゃんが行きたいところにご一緒できたらなって思ってさ」
「えっ、ありがとう。私の誕生日覚えてくれていたのね。
うん、嬉しい。
そしたら、お付き合いしてもらおうかな」
薫は素直に喜んでいた。
日出郎はほっとしたと同時に、これが初めてのデートとなったことに内心歓喜した。
根拠のない、一抹の不安をどこかに感じながら…
当日、薫の家の近くまで車で出向いた。
指定された場所で待つと、七分丈の淡い赤色のシャツに、黒いパンツのラフな姿で薫が姿を現した。
「どちらに行きましょうね」
「どこでもいいよ。できたらちょっと遠くがいいかな。
日出さんにお任せするわ」
にっこりと微笑む薫の笑顔が、日出郎の胸にめり込んでいく。
日出郎は特に考えはなかったが、天気のいい初秋に、緑のある場所へ行きたいと考えた。
中央道で中津川まで行くと、付知川沿いに256号線を北上して、下呂まで走っていく。
その道を走ったことは、今まで一度も無かったが、川と共に蛇行しながら登っていく田舎道は期待以上に美しく、いつものように、仕事や音楽や映画の話を交わす薫の横顔もまた、記憶に残るべくそこに在るようにすら思えた。
途中昼を挟み、下呂に着いたのは14時を回っていた。
日出郎は、下呂を少し回って帰るつもりだった。
「日出さん、もう少し遠くに行きたいな。ねぇ、いいかな?」
薫がそんな風に言うことに、日出郎は全く予想外で、慌てそうなほど内心驚いた。
甘えるという感じではなく、薫がこのドライブの二人の間や、やり取りを、もっと続けていたい感じに日出郎は取った。
恋愛が引き金となる言葉にはならない幸福感が、日出郎に痺れるような感情をもたらした。
女の言葉一つので。
薫の願いに添い、下呂で合流する41号線をさらに上がり、高山を目指すことにした。
この緑が赤や黄に移ろう晩秋に、もう一度薫を連れてきたいと、既に気持ちは先走りしている。
「日出さん」
薫は助手席で、少し頬杖をつくような感じで、努めてフラットに言葉を繋いだ。
「この間、私に言ってくれたこと、私は嬉しかった。
日出さんは私にとって、どんな友達より大切で…
だから、素直に嬉しく思ってる。
それは、嘘じゃなくて、本当なの。
日出さん、ありがとう」
その言葉からは、薫と自分が、この先どんな関係になるのかはわからなかった。
薫が、日出郎を異性として意識しているのか、そこに、恋愛の感情がどのくらい内包しているのかも、曖昧なままだ。
しかし、その曖昧さのぎりぎりの端まで、薫は日出郎に寄ったのだ。
「そう言ってくれて、僕も嬉しくて…ありがとう」
ハンドルを握っていなかったら、間違いなく薫を抱き締めてしまっただろうと、日出郎は思った。
妻と息子を、家に置いて出てきたことも忘れて。
そしてその日は、深田薫の誕生日だ。
先日、自分の想いを打ち明けてから、日出郎は薫と連絡を取っていなかった。
あの謎めいた、「私はあなたが思っているような人じゃないのよ」という言葉は、深い余韻でもって、日出郎の心の奥底に影を落としている。
薫がどんな感じなのか、日出郎には全くわからなかった。
だから躊躇いはあったが、それでも勇気を奮って電話をしてみた。
薫は、電話口では普段通りだった。
「日曜日は予定がある?
よかったら、誕生日のお祝いで、薫ちゃんが行きたいところにご一緒できたらなって思ってさ」
「えっ、ありがとう。私の誕生日覚えてくれていたのね。
うん、嬉しい。
そしたら、お付き合いしてもらおうかな」
薫は素直に喜んでいた。
日出郎はほっとしたと同時に、これが初めてのデートとなったことに内心歓喜した。
根拠のない、一抹の不安をどこかに感じながら…
当日、薫の家の近くまで車で出向いた。
指定された場所で待つと、七分丈の淡い赤色のシャツに、黒いパンツのラフな姿で薫が姿を現した。
「どちらに行きましょうね」
「どこでもいいよ。できたらちょっと遠くがいいかな。
日出さんにお任せするわ」
にっこりと微笑む薫の笑顔が、日出郎の胸にめり込んでいく。
日出郎は特に考えはなかったが、天気のいい初秋に、緑のある場所へ行きたいと考えた。
中央道で中津川まで行くと、付知川沿いに256号線を北上して、下呂まで走っていく。
その道を走ったことは、今まで一度も無かったが、川と共に蛇行しながら登っていく田舎道は期待以上に美しく、いつものように、仕事や音楽や映画の話を交わす薫の横顔もまた、記憶に残るべくそこに在るようにすら思えた。
途中昼を挟み、下呂に着いたのは14時を回っていた。
日出郎は、下呂を少し回って帰るつもりだった。
「日出さん、もう少し遠くに行きたいな。ねぇ、いいかな?」
薫がそんな風に言うことに、日出郎は全く予想外で、慌てそうなほど内心驚いた。
甘えるという感じではなく、薫がこのドライブの二人の間や、やり取りを、もっと続けていたい感じに日出郎は取った。
恋愛が引き金となる言葉にはならない幸福感が、日出郎に痺れるような感情をもたらした。
女の言葉一つので。
薫の願いに添い、下呂で合流する41号線をさらに上がり、高山を目指すことにした。
この緑が赤や黄に移ろう晩秋に、もう一度薫を連れてきたいと、既に気持ちは先走りしている。
「日出さん」
薫は助手席で、少し頬杖をつくような感じで、努めてフラットに言葉を繋いだ。
「この間、私に言ってくれたこと、私は嬉しかった。
日出さんは私にとって、どんな友達より大切で…
だから、素直に嬉しく思ってる。
それは、嘘じゃなくて、本当なの。
日出さん、ありがとう」
その言葉からは、薫と自分が、この先どんな関係になるのかはわからなかった。
薫が、日出郎を異性として意識しているのか、そこに、恋愛の感情がどのくらい内包しているのかも、曖昧なままだ。
しかし、その曖昧さのぎりぎりの端まで、薫は日出郎に寄ったのだ。
「そう言ってくれて、僕も嬉しくて…ありがとう」
ハンドルを握っていなかったら、間違いなく薫を抱き締めてしまっただろうと、日出郎は思った。
妻と息子を、家に置いて出てきたことも忘れて。
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