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第八話 王子とルイナ妃

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「王子様…女人の事でお伝えしたいことがあります」

 冷徹に微笑むルイナ妃に王子は首をかしげた

「…それはそうと…いつもと様子が違うな…一体どうしたと言うのだ」

訝しげに王子はルイナ妃の表情を読み取ろうとする。

「…いえなんでもございません」

鋭く王子に視線を向けふーっと息をつくと彼女は続けた。

「…あの女人、王子様は気に入っておられる様ですけど…実は……男であるのにお気づきですか」

しんと静寂が広がる。王子何か考えるようにして口を開いた。

「知っておった」

「ならばなぜ……?!」

こみ上げる怒りと驚きを抑えルイナ妃は言った。

「……そなたは…目の前で怪我している者を目の当たりして放っておくのか…?」

「………」
ルイナ妃は何も答えなかった。

「看病するのが道理であろう」

王子は言い放った

「……では……あの者に抱く胸の内は…怪我人に対する同情であって…そこに寵愛はないのですか?」

ほっと安堵したように強い口調でルイナ妃は言い放つ。

「…いつものそなたらしくない…」

「……話をそらさないでください!……その者に恋愛感情を抱いているのですか?」

「……分からぬ」

「…どういうことですか?」

「そなたがそこまでして怒り狂う理由がわからないのだ」

「……分かりませんか…??
私は……私は……王子様を愛しているのです…愛しているからこんなに気を揉めているのですよ!」

「愛がすべてではなかろう」

「……何をおっしゃるのですか?」

「…少なくともそなたの心には……私と結びつき権力、名声、富を得ようと考えているのだろう?」

「………そのようなはずはありません」

「…いいやその筈だ…本当に私の事が好きなのであれば私の陰口など言わないはずだ…そなたには失望した」

瞳に影を見せ王子はルイナ妃を見つめる。

ルイナ妃は王子を睨むように視線を向ける。

「……あの者はそなたとは違う……私を命懸けで守ってくれた…自分の命を投げうってでも私を助けようとしてくれた…
おぬしにそんなことはできまい」

ルイナ妃の美しい顔は崩れ別人のようになっていた。
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