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第80話 魔女
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『はじめまして、
私はグラディスよ』
『ええっと、橘椿です』
気さくに声を掛けてくる美女、これが椿の先代にあたる聖女らしい。
しかしその格好は、どこからどう見ても魔女である。石碑が見せた景色の記憶にはなかった鍔広帽子を被り、その手の杖にしなだれ掛かるように立っていた。深いクビレを強調するようなポーズが生々しい色気を醸している。これは間違いなく魔女だ、それも男を堕落させるタイプの。
その容貌は、まるっきりの西洋人だ。光を受けた部分だけ明るく見える、濃い色素の金髪をしている。彫りは深く、そこに綺麗に釣り上がる眉が乗る。高く通った鼻に、唇は薄いが真一文字で、左の口角だけ僅かに上がっていた。
イギリスかそこらの人間じゃないかな。
魔王のおっさんが椅子を引くと、魔女はそこへ流れるように腰掛ける。侍の格好でやると違和感ありまくりだが、明らかにエスコート慣れしている。それは、一緒に居た時間が長いのだと想像できるような遣り取りだった。
余所にも椅子は空いているのに、おっさんは魔女が座る椅子の背に立って離れない。1ミリでも近くに居たいらしい。やっている事が白侍女シェロブと変わらない。シェロブは可愛いから許されるが、このおっさんがやると犯罪行為だよ、見た目的に。
ちょうど食後のタイミング、神官スターシャがお茶を振る舞うところだった。当たり前のようにお茶を受け取り口にする魔女、一息つけたのだろうか。ぐるりと皆を見回してから、話を始めた。
『さて、何から話しましょうか?
いえ、まず、お礼ね。
ちゃんと、お礼を言わせて貰わないと。
タチバナさん、私たちを救ってくれてありがとう』
『はぁ』
いや、霊穴を閉じたら怪しい魔女が出てきただけで、救い出したつもりはなかったんだが…… 私たちって表現するあたり、魔王のおっさんも救われたと言うことだが。よほど特別な霊穴だったのだろうか。
『なんだかお互いに、
色々と説明が必要そうね』
そりゃそうよ。
『霊穴の守り人の様子から、我々は
ここが最終決戦の心づもりでした』
そこに口を挟んできたのはイメケン眼鏡のマーリンだ。
『なんだか上手いこと利用された感がありますわ』
単に霊穴の対処が終わっただけなら、オリガ嬢のそんな感想は出なかっただろう。事情も知らされず、救い出されたらしい魔女とおっさんがイチャイチャするエンディングを見せられたのだ。不満も貯まるというもの。
そんな皆の感想に、魔女は怪訝な顔をして後ろを振り向く。非難がましい視線もどこ吹く風で、おっさんが答えたのはこうだ。
『説明が足りなかったのは認めよう。
なんせ我らが顔を合わせてから、
まだ1日も経っておらんからな』
『へえ? そんなにあっさりと?』
私たちが50年掛けて成し得なかった事なのにと、魔女は続ける。口振りから、出し抜かれて口惜しいのかと思ったが、そうでもないらしい。
『霊穴は閉じられた事がないのよ』
それは初耳である。眼鏡やオリガ嬢も同じらしい。
では、歴代の聖女は何をしていたんだ?
『これまでも塞ぐことはできたわ。
さっきも見たでしょう、私の仕事を。
でも、あれは傷を覆っただけなのよ』
対処療法だったのか。
『塞ぐのではなく癒やして閉じた、
貴女がもたらした成果よ』
――規格外なのよ、貴女は。
そう言って、じっと見つめてくる魔女、何やら興味を隠しきれない様子だ。
広場を見回してみる。先程まで、ここは霊脈から溢れた魔力に満ちて寒々しい雰囲気であった。洞窟の奥底にあることを差し引いても、だ。あのぼんやりとした明かりが、寂しさを増す要因になっていたし。
ここに露出していた霊脈は、今は少し深い位置を流れている。広場の雰囲気も変わり、竈で揺れる炎の明かりを壁に受け、暖房の効いた冬の部屋の様相だ。広すぎる事を除けば、落ち着く感じに変わっている。
『さて、南の様子はどう変わるか……』
椿に同調するように部屋を見回していた魔王が、ふと呟いた。
この霊脈は、南の大陸に向かっている。その大陸には、最も古い霊穴が存在すると魔女が言う。そして、それを管理する者も。
おとぎ話では、それは魔王の役割だった。
でも、魔王さん、ここに居ますよね。
『南には、もっと凄いのが居るのだ』
戦闘力だけで言えば、椿とカザンを足して何倍しても届きそうにない魔王と魔女、その2人を持ってしても敵わない相手が居るらしい。戦力が分かっている、つまり、会ったことがある?
『うむ、ここの対処を諦めた事があってな。
大将首をとれば、道が拓けるかもしれんと』
『勇んで押し掛けたけど、
見かけた瞬間に逃げ帰ったわ』
えぇ…… 何が居るんだ。
『それからは魔法の研鑽を積んだわね』
『今度は、ここを塞ぐことで、
アレが弱体化する事に望みをかけたのだ』
だから、何が居るんだってばよ。
『分からん、分からんかった。
ただ、見て思ったのは
<最初の黒いヒト>でなかろうかと。
ほれ、おとぎ話の』
『聖女に滅ぼされたのでは?』
『だから、分からんのだよ』
そこからは、ひたすら鍛錬の日々だったらしい。
そして遂に、この地の霊穴を対処する手立てにたどり着いた。空間転移魔法で、この地を流れる霊脈をバイパスする発想らしい。転移の魔法が発動する魔法陣で、この地の裂け目で途切れる霊脈を繋ぐのだ。
霊脈の魔力を動力源に、半永久的に霊穴に対処できる。
『完璧な設計だったわ!
ただ、動力源の霊脈から注ぐ魔力が多過ぎてね。
霊脈は私ごと、別の世界に飛んじゃったわけ』
――テヘッ! って感じの顔をする魔女、馬鹿ですか。
『ちゃんと扉の外に居たんだけどなぁ』
『そうこうしているうちに、
再び裂け目ができよった』
ただの昔話のような口振りの2人、軽いノリで話す内容じゃないだろうに。その結果で300年も留まったんでしょ? この世界に。
『まあでも、霊穴を塞ぐ仕事だけは続けたわよ』
『あの扉は特別でな。
グラディスが飛ばされた側にも現れたのだ』
扉に書いた文字は、世界を跨いで認識できたのだそうな。手紙のように、文字をやりとりして情報を交換しつつ、魔王は独りで霊穴の対処を続けたらしい。
<黒いヒト>に会うまでが50年、その対策に100年、隔離されてから150年、数字を並べるだけなら簡単だが、気が遠くなりそうな時間だよ。2人はお互いに、150年を孤独に暮らしたと言うのだろうか。ってか、寿命はどうした。
そんな2人に、茜がポツリと質問を投げつける。
『おふたりは300年もここに留まっているんですよね?
霊穴の対処が終われば帰れるって聞いていたけれど、
本当に帰れるか不安になってきました』
まあ、不安は分かる。300年前と言えば、暴れん坊将軍の時代だ。この魔王が今更、現代に戻ったとして、生活していけるのだろうか。知人も居ない、戸籍もない、まるっきり浦島太郎だ。
椿達だって、そろそろ1年をここで過ごそうとしている。
『あら、いつでも戻れるでしょう?』
『『はぁ?!』』
女神に聞いていないの? などと魔女が言う。
いやいや、聞いていない。そもそもあの女神には言葉が通じないのだ。説明も糞もなかったのだ。
『椿さん!?』
わっ、茜が睨んでくる。いや、本当に知らないって! 知ってたら帰ってるし!
では、なぜ2人は300年も留まっているのだ。律儀に女神の頼みを聞いて、霊穴の対処に充てていたのだろうか。そのうち、魔女だけが更なる異世界に飛ばされて、魔王も独りで帰る気になれなかったのか?
『え、だって魔法の存在する世界よ?
折角だもの、研究したいじゃない』
何だそれは。
あー、科学が未発達な時代の人だ。文化的にも魔術などの痕跡が濃かったのかも。魔法はイメージが物を言う。なるほど、魔法陣の運用方法など、案外あっさりと思い浮かんだのかもしれない。空間転移魔法なんて、どうやって辿り着いたか想像できないけど。
椿は結局のところ、身体強化魔法とポーションを利用した治癒しか身に着けていない。治癒ですら強化魔法の延長だし。この魔女が起こした、霊穴をまるごと別の空間に逃がす魔法の方が、よっぽど奇跡染みていると思うんだけどね。
まあ、そのポーションの延長だけが、霊穴を閉じるに至ったのだけれども。
『じゃあ、帰還の方法は?』
堪えきれずに茜が問う。
『教えてもいいけど、
私達と同じかは分からないわよ』
茜の真剣な顔に、魔女も感じ入るところがあるのか、その方法を教えてくれた。安易に試さないでねと、前置いてからだが。
『えっとね、私達の身体、
これがこの世界に魂を縛り付ける楔なのよ』
そっくり同じ姿の入れ物を造り、そこに魂を閉じ込めたのだと言う。
『つまり、だ。
この世界での死が解放を意味する』
入れ物、肉体の死が魂を解き放つ条件になる、と。
はぁ…… そりゃ簡単には試せない。
あまりの方法に呆然となる茜、椿だって同じだ。
寿命がないのは、作り物だから? 椿は2度ほど死にかけた。死んでから、蘇ったのだと思っていたが、どうやら違うようだ。あのお風呂、椿を死なせないための、女神の干渉だったのだろうか。
空間転移の魔法を実現する人物が目の前に居る。よく考えたら、シェロブだって壁抜けで遠距離を移動している。女神も似たような事ができて不思議ではない。
『でも、確かめようがないでしょう?』
魔王と魔女、どちらかが先に試したとしても、残った方に成否を伝える方法はないのだ。それならと、飽きるまで留まることにしたらしい。
『素直に、霊穴を閉じなさいな。
女神がご褒美に、還してくれるかもしれないわ』
確かに、やる事は変わらないか。茜と視線を交わす。うむ、良かった、茜も同じ気持ちらしい。とっとと済ませれば良いだけだ。ふたりで頷きあって、その意思を確認する。
さあ、次の仕事は南の大陸で待っている。
私はグラディスよ』
『ええっと、橘椿です』
気さくに声を掛けてくる美女、これが椿の先代にあたる聖女らしい。
しかしその格好は、どこからどう見ても魔女である。石碑が見せた景色の記憶にはなかった鍔広帽子を被り、その手の杖にしなだれ掛かるように立っていた。深いクビレを強調するようなポーズが生々しい色気を醸している。これは間違いなく魔女だ、それも男を堕落させるタイプの。
その容貌は、まるっきりの西洋人だ。光を受けた部分だけ明るく見える、濃い色素の金髪をしている。彫りは深く、そこに綺麗に釣り上がる眉が乗る。高く通った鼻に、唇は薄いが真一文字で、左の口角だけ僅かに上がっていた。
イギリスかそこらの人間じゃないかな。
魔王のおっさんが椅子を引くと、魔女はそこへ流れるように腰掛ける。侍の格好でやると違和感ありまくりだが、明らかにエスコート慣れしている。それは、一緒に居た時間が長いのだと想像できるような遣り取りだった。
余所にも椅子は空いているのに、おっさんは魔女が座る椅子の背に立って離れない。1ミリでも近くに居たいらしい。やっている事が白侍女シェロブと変わらない。シェロブは可愛いから許されるが、このおっさんがやると犯罪行為だよ、見た目的に。
ちょうど食後のタイミング、神官スターシャがお茶を振る舞うところだった。当たり前のようにお茶を受け取り口にする魔女、一息つけたのだろうか。ぐるりと皆を見回してから、話を始めた。
『さて、何から話しましょうか?
いえ、まず、お礼ね。
ちゃんと、お礼を言わせて貰わないと。
タチバナさん、私たちを救ってくれてありがとう』
『はぁ』
いや、霊穴を閉じたら怪しい魔女が出てきただけで、救い出したつもりはなかったんだが…… 私たちって表現するあたり、魔王のおっさんも救われたと言うことだが。よほど特別な霊穴だったのだろうか。
『なんだかお互いに、
色々と説明が必要そうね』
そりゃそうよ。
『霊穴の守り人の様子から、我々は
ここが最終決戦の心づもりでした』
そこに口を挟んできたのはイメケン眼鏡のマーリンだ。
『なんだか上手いこと利用された感がありますわ』
単に霊穴の対処が終わっただけなら、オリガ嬢のそんな感想は出なかっただろう。事情も知らされず、救い出されたらしい魔女とおっさんがイチャイチャするエンディングを見せられたのだ。不満も貯まるというもの。
そんな皆の感想に、魔女は怪訝な顔をして後ろを振り向く。非難がましい視線もどこ吹く風で、おっさんが答えたのはこうだ。
『説明が足りなかったのは認めよう。
なんせ我らが顔を合わせてから、
まだ1日も経っておらんからな』
『へえ? そんなにあっさりと?』
私たちが50年掛けて成し得なかった事なのにと、魔女は続ける。口振りから、出し抜かれて口惜しいのかと思ったが、そうでもないらしい。
『霊穴は閉じられた事がないのよ』
それは初耳である。眼鏡やオリガ嬢も同じらしい。
では、歴代の聖女は何をしていたんだ?
『これまでも塞ぐことはできたわ。
さっきも見たでしょう、私の仕事を。
でも、あれは傷を覆っただけなのよ』
対処療法だったのか。
『塞ぐのではなく癒やして閉じた、
貴女がもたらした成果よ』
――規格外なのよ、貴女は。
そう言って、じっと見つめてくる魔女、何やら興味を隠しきれない様子だ。
広場を見回してみる。先程まで、ここは霊脈から溢れた魔力に満ちて寒々しい雰囲気であった。洞窟の奥底にあることを差し引いても、だ。あのぼんやりとした明かりが、寂しさを増す要因になっていたし。
ここに露出していた霊脈は、今は少し深い位置を流れている。広場の雰囲気も変わり、竈で揺れる炎の明かりを壁に受け、暖房の効いた冬の部屋の様相だ。広すぎる事を除けば、落ち着く感じに変わっている。
『さて、南の様子はどう変わるか……』
椿に同調するように部屋を見回していた魔王が、ふと呟いた。
この霊脈は、南の大陸に向かっている。その大陸には、最も古い霊穴が存在すると魔女が言う。そして、それを管理する者も。
おとぎ話では、それは魔王の役割だった。
でも、魔王さん、ここに居ますよね。
『南には、もっと凄いのが居るのだ』
戦闘力だけで言えば、椿とカザンを足して何倍しても届きそうにない魔王と魔女、その2人を持ってしても敵わない相手が居るらしい。戦力が分かっている、つまり、会ったことがある?
『うむ、ここの対処を諦めた事があってな。
大将首をとれば、道が拓けるかもしれんと』
『勇んで押し掛けたけど、
見かけた瞬間に逃げ帰ったわ』
えぇ…… 何が居るんだ。
『それからは魔法の研鑽を積んだわね』
『今度は、ここを塞ぐことで、
アレが弱体化する事に望みをかけたのだ』
だから、何が居るんだってばよ。
『分からん、分からんかった。
ただ、見て思ったのは
<最初の黒いヒト>でなかろうかと。
ほれ、おとぎ話の』
『聖女に滅ぼされたのでは?』
『だから、分からんのだよ』
そこからは、ひたすら鍛錬の日々だったらしい。
そして遂に、この地の霊穴を対処する手立てにたどり着いた。空間転移魔法で、この地を流れる霊脈をバイパスする発想らしい。転移の魔法が発動する魔法陣で、この地の裂け目で途切れる霊脈を繋ぐのだ。
霊脈の魔力を動力源に、半永久的に霊穴に対処できる。
『完璧な設計だったわ!
ただ、動力源の霊脈から注ぐ魔力が多過ぎてね。
霊脈は私ごと、別の世界に飛んじゃったわけ』
――テヘッ! って感じの顔をする魔女、馬鹿ですか。
『ちゃんと扉の外に居たんだけどなぁ』
『そうこうしているうちに、
再び裂け目ができよった』
ただの昔話のような口振りの2人、軽いノリで話す内容じゃないだろうに。その結果で300年も留まったんでしょ? この世界に。
『まあでも、霊穴を塞ぐ仕事だけは続けたわよ』
『あの扉は特別でな。
グラディスが飛ばされた側にも現れたのだ』
扉に書いた文字は、世界を跨いで認識できたのだそうな。手紙のように、文字をやりとりして情報を交換しつつ、魔王は独りで霊穴の対処を続けたらしい。
<黒いヒト>に会うまでが50年、その対策に100年、隔離されてから150年、数字を並べるだけなら簡単だが、気が遠くなりそうな時間だよ。2人はお互いに、150年を孤独に暮らしたと言うのだろうか。ってか、寿命はどうした。
そんな2人に、茜がポツリと質問を投げつける。
『おふたりは300年もここに留まっているんですよね?
霊穴の対処が終われば帰れるって聞いていたけれど、
本当に帰れるか不安になってきました』
まあ、不安は分かる。300年前と言えば、暴れん坊将軍の時代だ。この魔王が今更、現代に戻ったとして、生活していけるのだろうか。知人も居ない、戸籍もない、まるっきり浦島太郎だ。
椿達だって、そろそろ1年をここで過ごそうとしている。
『あら、いつでも戻れるでしょう?』
『『はぁ?!』』
女神に聞いていないの? などと魔女が言う。
いやいや、聞いていない。そもそもあの女神には言葉が通じないのだ。説明も糞もなかったのだ。
『椿さん!?』
わっ、茜が睨んでくる。いや、本当に知らないって! 知ってたら帰ってるし!
では、なぜ2人は300年も留まっているのだ。律儀に女神の頼みを聞いて、霊穴の対処に充てていたのだろうか。そのうち、魔女だけが更なる異世界に飛ばされて、魔王も独りで帰る気になれなかったのか?
『え、だって魔法の存在する世界よ?
折角だもの、研究したいじゃない』
何だそれは。
あー、科学が未発達な時代の人だ。文化的にも魔術などの痕跡が濃かったのかも。魔法はイメージが物を言う。なるほど、魔法陣の運用方法など、案外あっさりと思い浮かんだのかもしれない。空間転移魔法なんて、どうやって辿り着いたか想像できないけど。
椿は結局のところ、身体強化魔法とポーションを利用した治癒しか身に着けていない。治癒ですら強化魔法の延長だし。この魔女が起こした、霊穴をまるごと別の空間に逃がす魔法の方が、よっぽど奇跡染みていると思うんだけどね。
まあ、そのポーションの延長だけが、霊穴を閉じるに至ったのだけれども。
『じゃあ、帰還の方法は?』
堪えきれずに茜が問う。
『教えてもいいけど、
私達と同じかは分からないわよ』
茜の真剣な顔に、魔女も感じ入るところがあるのか、その方法を教えてくれた。安易に試さないでねと、前置いてからだが。
『えっとね、私達の身体、
これがこの世界に魂を縛り付ける楔なのよ』
そっくり同じ姿の入れ物を造り、そこに魂を閉じ込めたのだと言う。
『つまり、だ。
この世界での死が解放を意味する』
入れ物、肉体の死が魂を解き放つ条件になる、と。
はぁ…… そりゃ簡単には試せない。
あまりの方法に呆然となる茜、椿だって同じだ。
寿命がないのは、作り物だから? 椿は2度ほど死にかけた。死んでから、蘇ったのだと思っていたが、どうやら違うようだ。あのお風呂、椿を死なせないための、女神の干渉だったのだろうか。
空間転移の魔法を実現する人物が目の前に居る。よく考えたら、シェロブだって壁抜けで遠距離を移動している。女神も似たような事ができて不思議ではない。
『でも、確かめようがないでしょう?』
魔王と魔女、どちらかが先に試したとしても、残った方に成否を伝える方法はないのだ。それならと、飽きるまで留まることにしたらしい。
『素直に、霊穴を閉じなさいな。
女神がご褒美に、還してくれるかもしれないわ』
確かに、やる事は変わらないか。茜と視線を交わす。うむ、良かった、茜も同じ気持ちらしい。とっとと済ませれば良いだけだ。ふたりで頷きあって、その意思を確認する。
さあ、次の仕事は南の大陸で待っている。
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