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2章 巡り逢う者達
17 . 友達②
しおりを挟む杉野さんは私の親友を自称していたけど、加奈ちゃんが晴海ちゃんと結華ちゃんにした杉野さんの紹介は私の同級生になっていた。
……加奈ちゃんは私と杉野さんの関係に気が付いているのかな?
「……二人じゃなかったんですね」
杉野さん達は私と加奈ちゃんが二人だけではなかったと知ると 、一瞬たじろいだように見えたものの、すぐに笑顔を戻した。
「いや~あのサラちゃんが他の人と一緒にいるなんて考えてもみなかったので、ビックリしました」
「私、咲空ちゃんの友達なんです。河野っていいます」
「へぇ~そうですか! じゃあコウノさん、サラちゃんを借りてってもいいですか? さっきキムラさんに『3年振りの再会だから姫野ちゃんを貸してほしい』って言ったら断られちゃって……。ヒドイですよね~?」
「そうだったんですか。……なら、私もヒドイ人間みたいですね。私も貴女に咲空ちゃんと遊ぶ時間を大切にしたいので」
「っ……姫野ちゃん。姫野ちゃんだって私達と遊びたいよね? 自分から言いなよ? ね?」
「っ!」
杉野さんがコテンと首を傾げて私に視線を向けてくる。“自分で言え”と強い圧力のある目を。
……杉野さんはキケンなのだ。
私が中学一年生の頃、杉野さんのお願いを断った子がいたらしい。入学したばかりだったし、その時は杉野さんと知り合ってなかったしで、他の子達が噂していたのを聴いた程度だけと、その杉野さんのお願いを断った子は程なくして転校してしまったらしい。
杉野さんの4歳年上のお兄さんは、妹である杉野さんをとっても可愛がっているらしい。そして重要なのは、そのお兄さんが暴力団に所属しているというウワサ。これも本当のことかは分からないけど……
どれも噂程度で信憑性はないけど、中学時代に杉野さんに逆らう子はいなかった。最初に転校してしまった子以外は。
──私が杉野さん達に付いていかないと加奈ちゃん達が酷い目にあってしまうかもしれない。
そう思うと、自然と椅子から腰が浮いた。
「わ、私……」
「あはっ、来てくれるの? 嬉し────っ! なに!?……えっ?」
「?」
立ち上がりかけた私に笑顔になった杉野さんだけど、急に振り返ってキョロキョロしている。そんな杉野さんの様子に他の二人は怪訝そうにしているし、私自身、杉野さんの豹変についていけていない。
「どーした?」
「なに、怖いんだけど?」
「───っ!……ヤバい……………ちょっ、私用事思い出したから帰るね。みんなも行くよ!」
「えっ、何?」
「マジでどうしたん? 姫野はいいの?」
「いいからっ!」
……何があったの?
立ち去る時の杉野さんの表情は恐怖に染まっていた。
きっと桃さんと葵さんがなにかしてくれたんだろうけど……あの杉野さんがあんなに取り乱すなんて……
「あの人達どうしたの?」
「ね。急に様子がおかしくなったけど……」
晴海ちゃんと加奈ちゃんも、杉野さんの様子を訝しく思ったみたい。……本当に、葵さんと桃さんは何て言ったんだろう……?
「咲空ちゃん! 大丈夫だった? ……ごめんね……私、何にもできなくて……」
「ううん、すっごく心強いかったよ。ありがとう」
結華ちゃんはずっと私の方を心配した様子で見ていてくれた。それが私の不安な心に寄り添ってくれているみたいで嬉しかった。
「……咲空ちゃん、私めちゃくちゃな対応しちゃったけど、大丈夫だった? 仲の良い子だったらごめんね! ……なんか魂が拒絶しちゃったみたいな感じで……」
「大丈夫だよ。正直あんまり得意な子じゃなかったから助かった。晴海ちゃんもありがとう」
「いや、私も好き勝手やっちゃったから……」
晴海ちゃんは加奈ちゃんの隣 、結華ちゃんは私の隣の席に座った。
「……嫌なこと聞くかもだけど、咲空ちゃんさっきの子達のこと怖がってたよね?」
「………うん……。中学生の頃に少し、イジメというか……その……」
「あっ、話したくないことは話さないでいいよ。……それで、あの子達に付いていこうとしてたのはウチ達のためだよね?」
「そう……私、ただでさえ何にもできないから、みんなに迷惑かけたけなくて……」
今だって、桃さんと葵さんがどうにかしてくれなかったらどうなってたか……
「いや、友達って迷惑掛け合うもんじゃん? 宿題忘れた時に見せてもらったり、勉強で分からないところ教えあったり」
「そうそう、咲空ちゃんいつも私達に勉強教えてくれるじゃん」
「うん、いつも助かってるよ」
「みんな………」
「てか、咲空ちゃんに迷惑かけられたなんて思ったことと一度もないけど? 何もできないのになんてこともまったくないし!」
「ははっ、迷惑なら加奈の方がかけてるよね?」
「ハルミン! いや、確かにそうなんだけどさ……!」
加奈ちゃんは不満そうな表情で晴海ちゃんを見ていて、そんな二人を結華ちゃんと私が笑いをこらえながら眺める………うん、いつもの感じだ。
さっきまでの重く沈んでしまった空気はどこへやら、私達の周りにある空気は、いつものポカポカとした暖かい空気に戻っていた。
「咲空ちゃん、これからは我慢するの禁止だよ?」
「そうそう、嫌なら嫌でいいんだから。“自分が我慢すれば”なんて考えちゃダメ」
「私も他の二人みたいにはできないけど、頼ってもらえたら嬉しい。友達なんだもん! お互いに助け合っていこう?」
この子達は……私の友達はいつもこうして私を連れていこうと助けてくれる。
「……ありがとう」
いつも私の心を護ってくれて。
「──さ、加奈と咲空ちゃんも早く注文してこないとね!」
「そうだよ! 咲空ちゃんはうどんだったよね?」
「うん。加奈ちゃんは海鮮だよね?」
「そ! じゃあ行こっか!」
──でも、助けられるだけなんて私は嫌だ。
こんなに弱い私だけど、私もみんなを助けられるように頑張りたい。
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