妹しか見ない家族と全てを諦めた私 ~全てを捨てようとした私が神族の半身だった~

夜野ヒカリ

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4章 始まりの乙女

33 . 願い

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 前話で人物名が混同していたので、確認を……
 清香:水上先生の半身、水神族2位
 琴:悠(龍神族5位)の半身←今回出てくるのはこの方

 一通り確認したのですが、修正し忘れている部分があったらお知らせいただけると助かりますm(。_。)m


~~~~~~~~~~~~



 陰陽師の集落から、前に加奈ちゃん達と来たショッピングモールに移動した。
 人に見られないようにということで、利用者が少ない階段の踊り場に。

 今日は、モール内のカフェで待ち合わせをしてご飯を食べながら話をしようということになっている。

 その後は琴さんの希望でショッピング。
 ここで会うことにした理由の一つが琴さん久しぶりに地上で買い物をしたいと言っていたということなんだけど、私も加奈ちゃんたち以外と出かけるのは初めてだから楽しみ。

「咲空。我は戻るが何かあったらすぐに葵か桃を通して報せてくれ」

「はい。送ってくれてありがとうございます」

「うむ。では、楽しい時間を」

 麗叶さんに手を振って見送って待ち合わせをしているカフェに向かう。
 いつも通り、桃さんと葵さんは姿を消して付いてきてくれている。

 待ち合わせをしているカフェは個室があって、周りを気にすることなく話をすることができるようになっている。
 どうだろう? 約束の時間より少し早いけど、もう来てるかな?

 そう思いながら、店員さんに確認するとなんと2人とも来ているようだ。



「すみません、お待たせしました」

「とんでもございません。まだ時間になっていませんもの」

「久しぶりだね。僕たちは久しぶりの地上だから早く来すぎてしまったんだ」

 個室に入ると、久しぶりに会う2人は笑顔と共に迎えてくれた。
 連絡は取り合っていたけど、こうして直接会うのは久しぶりだから嬉しい。

「そういえば咲空様、妖の王の件に進展があったと聞きましたが大事ありませんでしたか?」
 
「なんでも、監視付きで地上で生活させるとか?」

「昨日のことなのに、耳が早いですね。何の問題もなかったのでご安心ください。……彼も妖としての邪気がすべて浄化されて人間と変わりない状態になっているのでもうかつてのような凶行に及ぶことはないと思います」

 ……彼─清光さんへの処遇は決めかねているけど、今の彼はどのような結果であろうと受け入れると思う。
 だからこそ、正解がわからなくなってしまっているけど……

「……そうか、僕はあまり詳しく聞いていないけれど、人間の悪行によって世を恨むようになった妖の王がそうした負の念を忘れることができたなら喜ばしいことだと思うよ。なにより、姫野さんに大事無くてよかった」

「私もそう思いますわ。件の妖がしたことは赦されることではないとはいえ、恨みや憎しみを背負ったまま消滅していくというのではあまりに救いがありませんもの」

「そうですね」

 2人の私の無事を喜ぶ言葉と眼差しが温かい。
 ……うん、ゆっくり考えよう。後悔しないために。

「お2人は妖についても詳しいんですか?」

「神族にとっては妖から地にすまう者達を護るという使命がございますので、半身として迎え入れられた後に教えていただきましたが、詳しいとまでは……妖については鬼神族が専任となっておりますので、申し訳ございません。何か気になることが?」

「いえ、そんな! その……天代宮の神術が妖の呪いに有効か知りたくて……」

「う~ん、僕もあまり詳しくはないけど、有効なんじゃないかな?」

「あら、奏斗殿は面白い血筋でいらっしゃるのでお詳しいものと思っておりましたわ」

「面白い血筋?」

「面白いかはわからないけど、僕の父の実家が陰陽師の家系だったらしいんだ」
 
「えっ!?」

「ははっ、驚くよね? 父はあまり霊力を持たない人だったから裏の世界から離れていたみたいなんだけど、僕は隔世遺伝なのかそこそこ霊力が強かったらしいんだ」

 水上先生が付け足すように言った「僕に妖の術がかからなかったのは霊力が強かったからだと思う」という言葉で、一つ謎が解けた。
 ずっと、なぜ周りにいる全員が私に敵対していた中で水上先生だけが味方でいてくれていたのか気になっていた。黒邪という力のある妖の術によるものだったと知ってからはなおさら……
 霊力のある人間は妖の術に対してある程度の抵抗力をもっているらしいから、お兄ちゃんに呪いをかけた後で力を押さえていた黒邪の術には十分耐えられたのだと思う。

「……あれ? 『らしい』というのは?」

「あぁ実は、これは清香さんと出会ってから知ったことで僕自身は何も知らなかったんだよ。霊力があるだけで運用なんてできなかったから、当時は妖が見えなかったしね」

 そうか、陰陽師の話は誰にも知られてはいけないから……
 陰陽師の集落は結界で隠されているし、その存在も表の世界に出ることはない。
 名前を聞くことがあっても、それはオカルト話か創作の中の話。

「守秘義務があるから家族にも話せなかったんですね」

「よく知ってるね。……そう、父は裏の世界から離れはしたけど出ることは出来ていない。そして、妻である母にも息子の僕にもそのことは隠していたんだ。……危険の伴う世界だからね」

「……呪いをかけられてしまったりですか?」

「そうそう。……姫野さんも詳しいけど、件の妖への対処の中で陰陽師と協力をしていたからかな?」

「そう、ですね」

 ……陰陽師の存在を知るきっかけとなったのは、神族の術が効かない黒邪に対する対抗策として陰陽師の手を借りたこと。
 初めは、まさかその中にお兄ちゃんがいるなんて思わなかったけど……

「……実は今日お2人にお聞きしたかったこともこのことに関係しているんですけど、私の兄が黒邪の呪いを受けているんです」

「えっ!?」
「まぁ……」

 2人とも目を目を見張って驚いている。
 驚きが収まると、琴さんは痛ましそうな、水上先生は怪訝な表情になる。


「……姫野さん、お兄さんいたっけ?」


 その疑問に琴さんはもう一度目を見張り、水上先生は「僕が忘れているだけかもしれないけど」と自信なさそうにしている。
 そんな水上先生に首を振って答える。

「私も、思い出したのはつい最近なんです」

「……というと?」

「……兄が受けたのは“不可視の呪い”と“消失の呪い”の2つ。不可視の呪いの方は努力の末に解呪に成功したようですが、消失の呪いは解けなかったんです……不可視の呪いは他者が知覚することができなくなってしまう呪いで、消失の呪いは被術者の存在を消し去る─存在していなかった世界に創り変える呪いです」

 険しい顔で息を呑む2人。

「……」
「そんな呪いが……」

「私は少し特殊だったので兄を忘れずにすみましたが、友人も両親ですらも兄の存在を覚えていません。私も幼い頃に分かれたきりだったので思い出したのは最近ですし、多くを覚えているわけではないんです」

 平気なはずがないのに、お兄ちゃんは平気な顔をして『咲空が覚えていてくれれば十分』という。
 悔しくて、手に力が入る。

「咲空様はお兄様の呪いを解きたいのですね?」

「……はい」















~~~~~~~~~~~~~

 ~おまけ~《その頃の麗叶様》

「む……咲空が悲しんでいる?」

【葵、咲空が悲しんでいるようだが何かあったか?】
【姫様はお2人と歓談されていらっしゃいます。過去のお話をされていたので、それによるものではないかと】
【そうか……】
【はい……お帰りになったらそれとなくお声がけくださいませ】
【うむ、そうしよう。この後も頼んだぞ】
【はい】

「主様、姫君に何か?」
「大丈夫なようだ。大和、和泉から報告は?」
「まだ届いておりません」
「では、───」

 繋がってるからね~
 普段問題(?)になってないのは葵さんのおかげです。

 ちなみに、咲空ちゃんが感じているのはどちらかというと“悔しい”という感情ですが、神族である麗叶様には理解が難しい感情となので、“悲しい”と解釈されています。

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