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2章 街で幸せに

16 秘密のお話(ウィリアム視点)

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 私の『泣いてもいい』という言葉で堰が切れたように、、しかし、縋り方を知らずに声を殺し、顔を手で覆って泣くリーナ嬢を自分の胸に引き寄せる。

 普段なら恥ずかしがっていたであろう彼女も、少し肩を揺らしたあとで私に身体を預けた。
 ………この小さく細い肩にどれだけの重荷を背負っていたのであろうか、、リーナ嬢を抱く腕に力が入る。

 リーナ嬢が強いなど、何という思い込みだ。
 強い人間など、一人でも大丈夫な人間などいないであろうに。
 
 今はただ、リーナ嬢が抱え込んでいた重荷を少しでも軽くしてほしい ─── 。


* * *


 しばらくすると、リーナ嬢の泣き声は小さくなり、軈て静かな寝息へと変わった。
 起こさぬよう静かにベットに横に寝かせる。
 よかった………。
 リーナ嬢の顔は目が腫れてはいるものの、心のつかえが取れたかのように穏やかだった。
 
 目尻に残った涙を拭い、額にキスを落としてそっと部屋を出る。



「 ───マチルダさん」

「ウィル、リーナは眠ったかい?」

「はい、、今、少しよろしいですか?」

「もちろんさ」


* * *



 マチルダ殿と共に音を立てぬよう気を付けながら階段を下りて食堂の椅子に座る。

「………アタシもまだまだだね。あの子の苦しみに気が付いてあげられなかったなんて」

「………リーナは元々公爵令嬢でしたから。それに、彼女の境遇を考えれば自分の心を隠す技術は人一倍かと」

「それでもね、、アンタがすぐに追い掛けてったか、アタシも気になって様子を見に行ったんだけどあの子の泣き声が聞こえるもんだから驚いたよ。アタシに自分のことを話してくれた時も悲しそうにしてるだけで涙はひとっつも流さなかったからね」

「そうですか……」

 やはりリーナ嬢は人に頼り慣れていないのだろう。
 マチルダ殿や私のことは信頼してくれているようだが、心から頼るということを知らないように思える。
 ……あの家族を考えればそうなってしまっても無理もないか、、
 人の温もりを初めて知ったのもマチルダ殿でだろう。
 

「リーナは自分の心の声に疎いところがあるよう思えるので、注意する必要がありそうですね」

「そうだね。……あの子が本当に自分の心を見せられるようになるといいんだがねぇ」

「少し時間は掛るでしょうね」

「それと、アンタから見たあの子の家族はどんな感じなんだい?」

「そうですね……。簡単に言ってしまえば、母親は狭量、妹は幼稚、 父親は愚鈍ですかね?」

「そうなのかい……。本当にリーナの味方はアンタだけだったのかい?」

「えぇ、婚約者の男もリーナを放って妹に構っていたみたいですから」

 婚約者だったリック・レクトとは数える程にしか会ったことがないが、煽てに弱く、目先のことに捕らわれやすい性質のように感じた。

「こ、婚約者ぁ?」

「はい、ここから南方にあるレクト公爵家の次男だったと」

「いや、あの子は婚約者がいたのかい!?」

 私の言葉にマチルダ殿が驚いたような声を上げるが、、

「あぁ、貴族は幼い頃に婚約者を決めますし、そこに本人の意志は関係ありません。リーナは公爵家の長女だったので、、この歳で婚約者がいなかった私の方が異質でしたよ」

「そうだったね、貴族様は政略結婚が多いんだったっけかね」

「そうですね」

 私たち王公貴族は国・家のために婚姻を結ぶ。そこには近隣諸国との関係を強固にするためだったり、貴族家同士の結びつきや協力関係を作るためだったりと多くの思惑ワケが絡んでくる。そして、そのほとんどは国や各領を支える民達の生活を考えてのものであるはずだ。
 私はその責任を放棄してしまったが………。

 リーナ嬢とリック殿と婚約は、剣術に優れているものの次男であるため家の継承が出来ないリック殿を成人後も貴族としておくと共に、レクト公爵領が産出する塩の取引を活性化するためであったはずだ。

 このアスラート帝国は南方が海に面し、北方に高原を持つ大陸一の大国だ。レクト公爵領は南方に位置していて他大陸との貿易の中心であり、塩・海産物の生産によっても帝国を支えている。
 一方のカトル公爵領は国の内陸東部にあり、隣国と接している。また、カトル公爵領内にある森林で産出される木材は高品質で帝国全土で様々なことに用いられている。

 そんな二公爵家を結ぶ二人の婚約は帝国全体にも影響するため、皇子であった私も口を挟めなかった。
 ………家のためならばリーナ嬢の妹でも良いと思うだろうが、この帝国の貴族家は長子が家を相続するため、剣術の才能だけはあるリック殿を貴族として引き留め、騎士団でリック殿貴族を高位に据えるにはリーナ嬢と婚姻を結び、婿入りさせる必要があった。つまりリック殿の役割はいずれ公爵となるリーナ嬢を支え、カトル公爵家の血筋を残すことと、軍事力のためだった。

 リーナ嬢がカトル公爵家と縁を切ったことで、リーナ嬢の妹がリック殿と婚約していると思う。

「本当に、リーナの家族は何を考えてるんだかね」

「私にも分かりかねますが、今後も注意した方がいいでしょうね」

 あの家族のことだ。
 これで終わりとはならないだろう。

「そうだねぇ、、さて、まだ聞きたいことは色々あるが明日も朝から仕込みだ。アタシらも寝るとしようかね。あぁ、その前におめでとさん。立ち聞きなんてして悪かったね」

「いえ、ありがとうございます。……マチルダ殿、これからもリーナを支えてあげてください」

「言われるまでもないよ!でもあの子の一番の支えはアンタだよ。それと、マチルダでいいって言っているだろう?」

「ハハ、もちろん普段はそのようにお呼びしますが、私にとって貴女は敬意を払うべき人ですから」

「ハッハッ、そりゃあ光栄だね」


 さぁ、明日からもこの平和な日々を守れるようにしようじゃないか。





~~~~~~~~~~


 読んでくださりありがとうございます
("⌒∇⌒")
次はカトル公爵家サイドのお話になります!





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