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第一章 ここから私達の全てが始まったんですよね先輩!

諦めて下さい

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 みるりは恐怖で全身に冷汗をかきながら背後を振り向くと、麗紗は何か悲しそうな目でこちらを見ていた。

「あ、アンタどうしてここが……」
「すみません黒萌先輩。私琥珀先輩という運命で結ばれた恋人が居ますのであなたの気持ちには応えられないんです……ごめんなさい!」

「いやそうじゃなくて……!」

 みるりは麗紗の言葉の意味が理解出来なかった。
 だが、口封じに来ている事は確かだ。みるりは心の中でいつでも能力を使えるように身構えた。

「じゃあ何ですか? まさか私と先輩の愛の生活を壊そうとでも? そんな事出来ませんよ~いくらあなたが私の事を好きでも運命の恋人はどうしようも無いんです……うふふ」

「何なのアンタ……一体何がしたいのよ! 弥栄に何をしたわけ!?」
「だから今言ったじゃないですか。私と愛の生活をしているって」

「は……?」
「うふふっ、今嫉妬しました? しましたよね? でもごめんなさい、私と先輩は恋人同士なんです。深く愛し合っているんです。固く結ばれてるんです。この絶大な愛の前にはあなたの想いでは塵にも等しいんです。だから諦めて下さい」

「ちょっとさっきから違うって言ってんじゃ―――」
「いいから今すぐ諦めて下さい。大事な事なので何度でも言いますよ? 諦めて下さい諦めて下さい諦めて下さい諦めて下さい諦めて下さい諦めて下さい―――」

 何度も繰り返されるその言葉を聞きながら、みるりは麗紗の狂気を肌で感じていた。

 きっとコイツの心は“悟りのスピカ”でも理解不能。みるりはそう確信した。

 それと同時に琥珀がこれをより深く触れている事を考えるとみるりは自分のあまりの浅はかさにこの上ない罪悪感を感じた。

「う、うるさいわね! 言われなくてもアンタみたいなメンヘラ女はこっちからお願い下げよ! いい? 私はあんたの事なんか何とも思ってないわよ! 人の話を聞きなさい!」

「はあそうですか……まあ今は機嫌がいいので1分くらいなら付き合ってあげますよ。本当はコンマ一秒も惜しいんですけどね」

 勇気を振り絞ってそう言い返すみるりに麗紗はそれをひどく投げやりに返した。そんな麗紗に若干苛立ちを覚えつつもみるりは麗紗を問い詰める。

「あんた……弥栄をどうするつもり?」
「全身全霊を懸けて永遠に愛し合うつもりです」

「弥栄を何処にやったの?」
「私達の愛の巣です」

「だから何処なの?」
「私達の愛の巣です」

「……弥栄今行方不明になってるけど?」
「私の所にちゃんと居ますから安心して下さい」

「誘拐って知ってる?」
「食べ物の名前ですか?」

(駄目だこいつ……常識も話も通じない……)

 みるりは麗紗の返答に思わずため息をついた。
(コイツ本当に人間なの? 頭のネジ外れ過ぎてもう一個も無いんじゃない?)

 そしてこれでは説得もほぼ不可能だろうとみるりは考える。
 だが、それでも一縷の望みを懸けて言った。

「はあ……いい? 弥栄はあんたの事をどう思ってるのか知らないけど、あなたのやっている事は立派な犯罪よ。今すぐ弥栄を解放して」

「ん? 犯罪? あなたの言っている意味がよく分からないのですが? 一体先輩を何から解放するんですか?」

「…………あんたから解放するのよ! 死ね! “悟りのスピカ”! メンヘラ! 貧乳! キチガイ!」

 みるりはそう言い切り“悟りのスピカ”を発動させ、麗紗に指で目潰しを放った。

 “悟りのスピカ”は罵りさえすれば相手の様々な情報を入手可能だ。その情報の範囲にはもちろん相手が次にどんな攻撃をする気でいるのかも含まれている。

つまり、相手の行動を先読み出来るので“悟りのスピカ”は直接戦闘にも非常に有用である。

 また、みるり自身もレベル9特色者であるが故に身体能力も非常に高い。事実彼女は喧嘩で負けた事が特色者を含めても一度も無かった。

(私の鳩尾に向けて右ストレートね! こっちは分かってんのよ!)

 みるりは麗紗の次の攻撃を読みそれを躱そうとした。
 躱そうとした。しかし、それは未然に終わる。

「がはっ……」
「女の子ですからこの程度にしておいてあげましょう。嫉妬も程々にして下さいね」
「ふざけっ……ううっ……おぇっ……」

 みるりの内臓が麗紗の拳の形を記憶する。
 麗紗の突きは“悟りのスピカ”の予知でも避ける事が出来なかった。

 それはただただ麗紗の攻撃が回避不可能な程速かった事を示す。
 みるりは嗚咽を漏らしながら膝から崩れ落ちた。

(こんな……こんな化け物が居るなんて……! 弥栄……! お願いだから生きて戻ってきて……!)

 麗紗のあまりの強さにみるりはただそう祈る事しか出来なかった。

「それでは私は行きますね。結婚式には呼んであげますから安心して下さいね♪」

 そんなみるりに麗紗はそう言って部屋の窓を開けて何処かへと消えた。

 深い後悔と憤りに襲われてみるりは一人部屋ですすり泣き続けたのであった。

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