麗紗ちゃんは最狂メンヘラ

吉野かぼす

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私、やっと分かったんだよ麗紗

最強の漢

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 漢野は巻き起こる絶望の悲鳴を耳にしながらかつて琥珀だったものの近くに駆け付ける。

「すげえ悲鳴だ……! 急がねえと……!」

 漢野は底知れない焦りを感じ足を速めた。

「この辺だ……ッ!」

 悲鳴が上がっていた所に辿り着く漢野。
 そこで彼が目にしたのは――。

「なっ――」

 胴体と首が切り離された人間の死体が浮かぶ血の海だった。
 生臭い香りが周囲に充満している。

 それがかつての交差点を赤に染め尽くしていた。

「遅すぎたか……」

 漢野は拳を血が滲む程強く握り締め。

「……俺がお前等の分も、強くなってやる」

 込み上げる感情を必死に抑えた。

「行くぜ……!」

 漢野は空中へ跳び上がり、人々を蹂躙するドス黒い人影を見つける。

「そこか……ッ!」

 漢野は空を蹴り、その衝撃で人影――かつて琥珀だったものの前に移動した。

 かつて琥珀だったものは、依然人々の首を刈り取り続けている。

「豊作! 豊作! 大豊作~! 今年の麗紗は豊作ですなぁ! たっくさん収穫出来てるよぉ! ふへへ……! これであの世で麗紗を思うさま堪能できる! 麗紗は量も質も最高だぁ! あはははは」

「よぉ琥珀……ちょっと見ないうちにずいぶんカッコが変わったじゃねえか……」

 漢野はそんなかつて琥珀だったものにそう声を掛ける。

「麗紗ぁ! み~つけたっ!」

 かつて琥珀だったものは愛情の籠った殺意を漢野の首に向ける。

「今日は、てめえにこの前のリベンジを果たしに来た……!」
「あ~いの超特急ぅ~!」

 振るわれた瘴気の剣を、漢野の両手が捕らえる。

 かつて琥珀だったものは瘴気の剣を動かそうとするが、剣が漢野の両手にしっかりと捕らえられている為動かせない。

「あれ~? この麗紗は力持ちだね~」

「いきなりとはヤル気マンマンみてえだな……だが残念だったな……今日の俺は最っ高のベストコンディションだ……!」

 漢野はそう言ってかつて琥珀だったものに横蹴りを放つ。

 かつて琥珀だったものは咄嗟に瘴気の剣から手を離して後退し、その蹴りを躱した。

「麗紗……? なんで今私を蹴ろうとしたの? なんで? 私何か悪い事した? 嫌な事があるなら言ってよ。私ぜったい直すから! ねえ……」

「麗紗ぁ? お前目腐ってんのか!? とんでもねえ人違いだぜ!」

 漢野は、かつて琥珀だったものに言い放つ。

「俺は――漢野力也だ……! ダチの力をめいっぱい背負った――最強の漢だ!!!」

 漢野の体を、赤い火花が駆け巡る。
 凄まじい激痛と共に。

「琥珀……! お前に見せてやるよ……! 最高のダチの力ってヤツを!!!」

 漢野は両腕をクロスさせて十字を切り。

「うおおおおおおおおおおおお!!! ド根性――皆力みなぢから!!!」

 魂から叫んだ。
 赤い火花が、稲妻のように光り輝く。

 それは何よりも眩しかった。

「麗……紗……じゃ……ない……?」
「やっと気付いたか……! さあ――始めようぜ!」

 漢野はかつて琥珀だったものにニヤリと笑った。

「麗紗以外の存在なんて見たくなぁい! 塵まで消えろ!」

 かつて琥珀だったものは頭を掻き毟りながら再び瘴気の剣を作り出し漢野に斬り掛かった。

 漢野は赤い閃光となって瘴気の剣の間合いから消え、かつて琥珀だったものの背中に回り込む。

「あはっ、あはははは! 消えた消えた消えた! この世に麗紗以外は存在しちゃいけないんだぁ! 世界はそう出来ている! 世界の真理なんだぁ!」

「消えてるぜ。てめえの節穴みたいな目からはな」

 漢野はかつて琥珀だったものの背中に拳を繰り出す。

 完全に死角から放たれたその拳を、かつて琥珀だったものはくるりと後ろを振り向いて瘴気に塗れた手で受け止める。

 まるで背中にもう一つ目が付いているかのように。

「つっかまえた~! もう逃げられないよ。私、麗紗のことなら何でもわかっちゃうから!」

「じゃあ俺の事は分からないってか?」

 漢野は拳を掴む瘴気塗れの手を引き剥がし、赤い稲妻と共に不可視のラッシュを叩き込む。

「あははは~! つかまえてごら~ん!」

 かつて琥珀だったものはそれを全て流れるような動きで躱していく。
 ほんの紙一重の、当たる寸前の距離で。

「こいつ……俺の攻撃を完全に読んでやがる!」
「言ったでしょ! 麗紗のことなら何でもわかるって!」

 漢野は全ての攻撃を躱され驚愕する。
 かつて琥珀だったものは照れたそぶりでそう言った。

 彼女は、“麗紗”の一挙手一投足全てを完璧に把握している。
 悍ましい程の愛の力で。

 それ故に“麗紗”が次に起こす行動も分かるのだ。

 攻撃を先読みする事など、今の彼女からすれば簡単な事だった。

「ま、読めたとしても当てるけどな!」

 もっとも、漢野はその程度で諦めるような漢ではない。
 それはもう既に彼がかつての戦いで証明していた。

「どんどん行くぜ! うおおおおおおおおおおお!!!」






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