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誰にも邪魔はさせないから
縁絶
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一等地に建てられた、とある豪邸にて。
「という訳で藍羅ぁ……私は娘を歓迎してやろうと思うんだぁ……」
「そう……」
誠司の言葉に、彼の妻である桜月藍羅はか細く抑揚のない返事をした。
「ずいぶん無反応だね……私達の愛する娘が帰ってくるのだよ? 喜んでくれないのかい? 私は今とっても嬉しいよ」
「無駄口を叩くなら帰るわよ。私はあなたと同じ空間に居ると虫唾が走るの。今にも吐きそうだわ」
「相変わらず冷たいねえ。まあ、そっちの方が都合がいいがね」
冷え切った藍羅の反応に、誠司は苦笑する。
もっとも、誠司はそれだけの態度を藍羅に取らせる程の事を仕出かしてしまったのだから救いようがないが。
「君には、麗紗の相手をしてもらおうと思っているよ。君の能力なら麗紗は存分に楽しんでくれるだろうからね。たまには娘と遊んでやりなさい」
「分かったわ」
藍羅はまた抑揚のない返事をして、部屋を出て行った。
「せいぜい娘と仲良くしてくれよ、藍羅。さて……」
誠司は藍羅を見送ってから、その部屋から姿を消し。
「麗紗の歓迎パーティーのスタッフに、よ~く言っておかなければな! 麗紗が全力で楽しめるようにね……」
本社の広間に姿を現した。
そこには、かつて琥珀だったものに首を斬られ、一度は命を落とした特色者ではない者達が集められていた。
誠司は年齢も職業もバラバラなその人々の前に悠然と出る。
そして、小型マイクの電源を付け言い放つ。
「皆様」
人々の視線が、誠司に集中する。
「私は非常に心苦しい。皆様の命が、一度は奪われてしまった事が! 悪魔の如き天災に、蹂躙されてしまった事が!」
誠司は、悔恨に満ちた顔を浮かべ、叫んだ。
はっと息を呑む音が、聴衆の中から響く。
「……幸いなことに、わが社の医療技術と肉体保存技術により、皆様方の命を蘇えらせる事が出来ました……がしかし!」
ダァンッ! と壁を殴りつける誠司。
強化コンクリート製の壁が、クレーターのように凹む。
「その天災を未然に防ぐ事はまるで出来なかった! 私達の力がまるで及ばなかったのです!」
誠司は顔を伏せ、拳をぐっと血が滲む程握り締める。
そしてゆっくりと顔を上げ、演説を続けた。
「皆様は今、疑問に思っている事でしょう。その天災とは一体何なのか……その天災がどれほど危険なものであるのか……その疑問に今、お答えしましょう」
部下に背後のモニターを操作させ、とある映像を流させる。
それは……幼少期の麗紗が、辺り一帯を更地にする映像だった。
特色者の領域を遥かに凌駕したその力が、猛威を振るう。
「ひっ……」
「何だよあれ……」
場面がぱっと切り替わり、今度は麗紗が怯えている人間……天衣を蹂躙している映像が流れた。
血塗れの人の歯の山が、麗紗の糸によって積み上げられていく。
「おえっ……」
「あ、あんなの人間じゃない……!」
「お分かりいただけましたか……これが皆様の命を奪った天災……! いや、悪魔と化した特色者なのです!!!」
誠司は、モニターの中の麗紗にばっと指差した。
恐怖と憤怒が、聴衆の心の中に芽生える。
「奴はもはや人間ではありません……奴は殺戮を愉しみ……皆様を始めとする罪の無い人々を数多くその手に掛けたのです! 私達は……私達は……! 奴の存在を絶対に許してはならない! 人類存続の未来の為に、私達は奴を倒さなければならない!」
誠司は両手を広げ、さらに声を上げる。
軍隊を鼓舞する指揮官のように。
「そこで私達は……皆様に奴に対抗する為の道具を開発致しました……その名も……染色解放銃!!!」
ディスプレイに、ポップで派手な色合いの拳銃の画像が表示される。
「この銃を皆様の身体に撃てば、皆様は特色者になる事が出来るのです! それも、絶大な力を持った特色者へと! この銃を手にする事は、皆様が奴を倒す力を得る事と同義なのです!」
誠司はさらに先ほど傷つけた壁を指して言う。
「私のこの力も、染色解放銃によって手に入れたものでございます……能力レベルは10……国内最高水準です!」
声高々に言い放たれたそれは、真っ赤な嘘だった。
誠司の能力は染色解放銃によるものではなく生来のものである。
唯一本当なのは能力レベルが10である事のみ。
だが、この場でその真実を暴ける者は居なかった。
「私達では、力が及びませんでした……ですが、皆様がこの染色解放銃を手にし、私達と共に闘って下さるのであれば奴を倒す事が可能となるのです! 虫の良い話とお思いになるかもしれませんが……これは世界平和の為なのです!」
誠司はそう熱弁して、聴衆達に頭を下げる。
「どうか……どうかお願い致します……! 世界を守る為にも、染色解放銃を使い、私達と共に闘って下さい! 今の世界には、皆様のお力が必要なのです!」
ぶわっと、風が吹いたように誠司の声が聴衆に響く。
「戦います!」
「お、俺も戦わせて下さい!」
「染色解放銃を下さい!」
「あの悪魔を殺してみせます!」
聴衆達は、力を得る事を選択した。
怒りと憎しみのままに。
それがどういう事を意味するのかも知らずに。
「皆様、ありがとうございます! 私は皆様と共に闘える事をとても光栄に思います!」
誠司は、聴衆達に満面の笑みを浮かべる。
そして、部下に染色解放銃を持ってこさせてからこう言い放った。
「この染色解放銃を皆様に差し上げましょう! この銃で、奴に思い知らせてやりましょう……人類の力を!」
「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」」」
誠司が拳を高く突き上げると、聴衆も共に拳を突き上げた。
(計画通り……完璧だ……寸分の狂いもなぁい……!)
誠司は心の中で、卑しく笑った。
「という訳で藍羅ぁ……私は娘を歓迎してやろうと思うんだぁ……」
「そう……」
誠司の言葉に、彼の妻である桜月藍羅はか細く抑揚のない返事をした。
「ずいぶん無反応だね……私達の愛する娘が帰ってくるのだよ? 喜んでくれないのかい? 私は今とっても嬉しいよ」
「無駄口を叩くなら帰るわよ。私はあなたと同じ空間に居ると虫唾が走るの。今にも吐きそうだわ」
「相変わらず冷たいねえ。まあ、そっちの方が都合がいいがね」
冷え切った藍羅の反応に、誠司は苦笑する。
もっとも、誠司はそれだけの態度を藍羅に取らせる程の事を仕出かしてしまったのだから救いようがないが。
「君には、麗紗の相手をしてもらおうと思っているよ。君の能力なら麗紗は存分に楽しんでくれるだろうからね。たまには娘と遊んでやりなさい」
「分かったわ」
藍羅はまた抑揚のない返事をして、部屋を出て行った。
「せいぜい娘と仲良くしてくれよ、藍羅。さて……」
誠司は藍羅を見送ってから、その部屋から姿を消し。
「麗紗の歓迎パーティーのスタッフに、よ~く言っておかなければな! 麗紗が全力で楽しめるようにね……」
本社の広間に姿を現した。
そこには、かつて琥珀だったものに首を斬られ、一度は命を落とした特色者ではない者達が集められていた。
誠司は年齢も職業もバラバラなその人々の前に悠然と出る。
そして、小型マイクの電源を付け言い放つ。
「皆様」
人々の視線が、誠司に集中する。
「私は非常に心苦しい。皆様の命が、一度は奪われてしまった事が! 悪魔の如き天災に、蹂躙されてしまった事が!」
誠司は、悔恨に満ちた顔を浮かべ、叫んだ。
はっと息を呑む音が、聴衆の中から響く。
「……幸いなことに、わが社の医療技術と肉体保存技術により、皆様方の命を蘇えらせる事が出来ました……がしかし!」
ダァンッ! と壁を殴りつける誠司。
強化コンクリート製の壁が、クレーターのように凹む。
「その天災を未然に防ぐ事はまるで出来なかった! 私達の力がまるで及ばなかったのです!」
誠司は顔を伏せ、拳をぐっと血が滲む程握り締める。
そしてゆっくりと顔を上げ、演説を続けた。
「皆様は今、疑問に思っている事でしょう。その天災とは一体何なのか……その天災がどれほど危険なものであるのか……その疑問に今、お答えしましょう」
部下に背後のモニターを操作させ、とある映像を流させる。
それは……幼少期の麗紗が、辺り一帯を更地にする映像だった。
特色者の領域を遥かに凌駕したその力が、猛威を振るう。
「ひっ……」
「何だよあれ……」
場面がぱっと切り替わり、今度は麗紗が怯えている人間……天衣を蹂躙している映像が流れた。
血塗れの人の歯の山が、麗紗の糸によって積み上げられていく。
「おえっ……」
「あ、あんなの人間じゃない……!」
「お分かりいただけましたか……これが皆様の命を奪った天災……! いや、悪魔と化した特色者なのです!!!」
誠司は、モニターの中の麗紗にばっと指差した。
恐怖と憤怒が、聴衆の心の中に芽生える。
「奴はもはや人間ではありません……奴は殺戮を愉しみ……皆様を始めとする罪の無い人々を数多くその手に掛けたのです! 私達は……私達は……! 奴の存在を絶対に許してはならない! 人類存続の未来の為に、私達は奴を倒さなければならない!」
誠司は両手を広げ、さらに声を上げる。
軍隊を鼓舞する指揮官のように。
「そこで私達は……皆様に奴に対抗する為の道具を開発致しました……その名も……染色解放銃!!!」
ディスプレイに、ポップで派手な色合いの拳銃の画像が表示される。
「この銃を皆様の身体に撃てば、皆様は特色者になる事が出来るのです! それも、絶大な力を持った特色者へと! この銃を手にする事は、皆様が奴を倒す力を得る事と同義なのです!」
誠司はさらに先ほど傷つけた壁を指して言う。
「私のこの力も、染色解放銃によって手に入れたものでございます……能力レベルは10……国内最高水準です!」
声高々に言い放たれたそれは、真っ赤な嘘だった。
誠司の能力は染色解放銃によるものではなく生来のものである。
唯一本当なのは能力レベルが10である事のみ。
だが、この場でその真実を暴ける者は居なかった。
「私達では、力が及びませんでした……ですが、皆様がこの染色解放銃を手にし、私達と共に闘って下さるのであれば奴を倒す事が可能となるのです! 虫の良い話とお思いになるかもしれませんが……これは世界平和の為なのです!」
誠司はそう熱弁して、聴衆達に頭を下げる。
「どうか……どうかお願い致します……! 世界を守る為にも、染色解放銃を使い、私達と共に闘って下さい! 今の世界には、皆様のお力が必要なのです!」
ぶわっと、風が吹いたように誠司の声が聴衆に響く。
「戦います!」
「お、俺も戦わせて下さい!」
「染色解放銃を下さい!」
「あの悪魔を殺してみせます!」
聴衆達は、力を得る事を選択した。
怒りと憎しみのままに。
それがどういう事を意味するのかも知らずに。
「皆様、ありがとうございます! 私は皆様と共に闘える事をとても光栄に思います!」
誠司は、聴衆達に満面の笑みを浮かべる。
そして、部下に染色解放銃を持ってこさせてからこう言い放った。
「この染色解放銃を皆様に差し上げましょう! この銃で、奴に思い知らせてやりましょう……人類の力を!」
「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」」」
誠司が拳を高く突き上げると、聴衆も共に拳を突き上げた。
(計画通り……完璧だ……寸分の狂いもなぁい……!)
誠司は心の中で、卑しく笑った。
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