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最終章 最狂の愛
おもいでぼろぼろ
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屋敷のリビングに、イタリアンなソースの香りが漂う。
ケチャップの風味がするその香りからして、おそらく厨房で作られているのはミートソースであることが推測される。
「いい匂い……お腹空いたわね……」
「ああ……腹が減っては喧嘩はできねえぜ……」
「くそっ……なんて腹が減る香りだ……! 立ち上がる気力もねえぜ……」
「師匠はいつもそうじゃねえかよ……」
「今はつっこむ気力もねえよ……くうっ……」
リビングのテーブルの上で、空腹を加速させる香りに悶絶する三人。
使用人達は今、昼休憩の時間だった。
漢野は使用人ではないが。
千歳の灰色の脳細胞も、漢野の自慢のド根性も、空腹の前には成すすべも無かった。
耕一郎だけは、平常運転と変わらないが。
そんな三人のもとに、救いの手が差し伸べられる。
「お待たせ致しました。ミートソースです」
「「「わーい!!!」」」
凍牙がミートソースを丁寧に三人の前に置く。
三人は初めて動物園に来た子供のように目を輝かせる。
「どうぞお召し上がりください」
「「「いただきまーす!!!」」」
三人は一斉にフォークでパスタを巻いて口に放り込んだ。
口の中に、トマトの自然な甘味とひき肉の旨味が広がる。
ほんのり香るバジルやチーズと共に。
麺はアルデンテな嚙み心地。
小麦のモチモチとした弾力が完全に引き出されていた。
「おいしい……凍牙はきっと将来いいお嫁さんになれるわ~」
「ありがとうございます……ってお嫁さんって何ですかお嫁さんって……」
「うめえ……うめえよ……!」
「……漢野さんって使用人でしたっけ……まあいいか……」
「お前ってほんと料理上手いよな。料理人になりゃいいのに」
「元から料理人ですよ僕は……いただきます」
三人の反応につっこみつつ凍牙も自分で作った料理の味を確かめる。
「よし……ちゃんと茹でられている……!」
「凍牙はすげーな……こんなうめえもん作れるなんてよ……」
「練習すれば誰でも作れますよ。漢野さんもね」
「ほえー……でも俺は皿割りそうでこえーな……そういや千歳は料理やらねえのか? 出来そうだけど」
漢野の何気ない質問に、耕一郎が矢継ぎ早に言う。
「こいつは駄目だ! こいつは料理で実験し始めるから料理がクソ不味くなるんだ! お前砂糖まみれのカレーとか激辛なショートケーキとか食いたいか!?」
「悪かったわねマッドサイエンティストで……!」
千歳は青筋を立てながらパスタを巻く。
「……なんか悪い」
「いいのよ漢野ちゃん。悪いのは耕一郎ちゃんだから」
「おおこわいこわい。俺は事実を言ったまでだろうがよ~」
「……榎葉ちゃんにフラれたのはそういう所よ」
「……あいつとの過去はもう捨てたんだよボケ」
睨み合う千歳と耕一郎。
「師匠……いったい何があったんだよ……あの榎葉って女にどんなフラれ方をしたんだよ……」
「うるせえよ! い、一応言っとくがフッたのは俺の方からだからな!」
「ふーん……どんな風に別れたの」
「そりゃ……あいつがなんか面倒になったとか言って……」
「やっぱり師匠がフラれてるじゃねえか」
「う、うるせえよ!」
耕一郎は湧いたヤカンのように怒り出した。
苦し紛れに付いた嘘は今の耕一郎の顔のように赤かった。
千歳が、呆れたようにテーブルに頬杖をついて言う。
「そこまであの子と付き合ってた過去を悪く言わなくてもいいじゃない。何か一個くらいいい思い出はあるはずよ」
「いい思い出ぇ? ねえよんなもん!」
「じゃあ何で付き合ったんですか……?」
「それは……」
耕一郎がまだ高校生の時。
彼は不良の番長として担ぎ上げられていた。
そしてそれは、別の高校の女番長である榎葉も同じだった。
二人は強すぎたが故に、どちらも番長にさせられていたのだ。
本人達はまったく喧嘩に興味はないのだが。
「それでメンツがどうとか言ってあいつの高校がうちに喧嘩し掛けてきて……俺はあいつに勝ったんだ。そしたら……」
当時の榎葉は考えた。
『こいつの下に付けばもう喧嘩しなくていいじゃん』と。
榎葉はすぐさま耕一郎に愛の告白をした。
棒読みだったが。
「すっげえ心が籠ってなかったなあ……あれは……」
「ひ、ひどい……」
そして断るのを面倒臭がった耕一郎は晴れて人生初の彼女が出来た。
「ロマンのかけらもないじゃない……! あんまりよぉ!」
「まあ大体そんなもんだろ。恋愛ってのはよ~」
千歳は想像以上のひどさに泣き出した。
レンタル彼女でもここまで乾いてはいないだろう。
悟ったような事を言う耕一郎だったが、これを恋愛経験に入れていいかどうかは微妙なところだった。
「んで段々お互い喧嘩を押し付け合うようになって……面倒になって別れたんだったな……あのクソ女ぁ……!」
「どっちもどっちじゃねえか」
「割れ鍋に綴じ蓋とはまさにこの事ですね……」
青筋を立てる耕一郎に、漢野と凍牙は呆れてそう言った。
ケチャップの風味がするその香りからして、おそらく厨房で作られているのはミートソースであることが推測される。
「いい匂い……お腹空いたわね……」
「ああ……腹が減っては喧嘩はできねえぜ……」
「くそっ……なんて腹が減る香りだ……! 立ち上がる気力もねえぜ……」
「師匠はいつもそうじゃねえかよ……」
「今はつっこむ気力もねえよ……くうっ……」
リビングのテーブルの上で、空腹を加速させる香りに悶絶する三人。
使用人達は今、昼休憩の時間だった。
漢野は使用人ではないが。
千歳の灰色の脳細胞も、漢野の自慢のド根性も、空腹の前には成すすべも無かった。
耕一郎だけは、平常運転と変わらないが。
そんな三人のもとに、救いの手が差し伸べられる。
「お待たせ致しました。ミートソースです」
「「「わーい!!!」」」
凍牙がミートソースを丁寧に三人の前に置く。
三人は初めて動物園に来た子供のように目を輝かせる。
「どうぞお召し上がりください」
「「「いただきまーす!!!」」」
三人は一斉にフォークでパスタを巻いて口に放り込んだ。
口の中に、トマトの自然な甘味とひき肉の旨味が広がる。
ほんのり香るバジルやチーズと共に。
麺はアルデンテな嚙み心地。
小麦のモチモチとした弾力が完全に引き出されていた。
「おいしい……凍牙はきっと将来いいお嫁さんになれるわ~」
「ありがとうございます……ってお嫁さんって何ですかお嫁さんって……」
「うめえ……うめえよ……!」
「……漢野さんって使用人でしたっけ……まあいいか……」
「お前ってほんと料理上手いよな。料理人になりゃいいのに」
「元から料理人ですよ僕は……いただきます」
三人の反応につっこみつつ凍牙も自分で作った料理の味を確かめる。
「よし……ちゃんと茹でられている……!」
「凍牙はすげーな……こんなうめえもん作れるなんてよ……」
「練習すれば誰でも作れますよ。漢野さんもね」
「ほえー……でも俺は皿割りそうでこえーな……そういや千歳は料理やらねえのか? 出来そうだけど」
漢野の何気ない質問に、耕一郎が矢継ぎ早に言う。
「こいつは駄目だ! こいつは料理で実験し始めるから料理がクソ不味くなるんだ! お前砂糖まみれのカレーとか激辛なショートケーキとか食いたいか!?」
「悪かったわねマッドサイエンティストで……!」
千歳は青筋を立てながらパスタを巻く。
「……なんか悪い」
「いいのよ漢野ちゃん。悪いのは耕一郎ちゃんだから」
「おおこわいこわい。俺は事実を言ったまでだろうがよ~」
「……榎葉ちゃんにフラれたのはそういう所よ」
「……あいつとの過去はもう捨てたんだよボケ」
睨み合う千歳と耕一郎。
「師匠……いったい何があったんだよ……あの榎葉って女にどんなフラれ方をしたんだよ……」
「うるせえよ! い、一応言っとくがフッたのは俺の方からだからな!」
「ふーん……どんな風に別れたの」
「そりゃ……あいつがなんか面倒になったとか言って……」
「やっぱり師匠がフラれてるじゃねえか」
「う、うるせえよ!」
耕一郎は湧いたヤカンのように怒り出した。
苦し紛れに付いた嘘は今の耕一郎の顔のように赤かった。
千歳が、呆れたようにテーブルに頬杖をついて言う。
「そこまであの子と付き合ってた過去を悪く言わなくてもいいじゃない。何か一個くらいいい思い出はあるはずよ」
「いい思い出ぇ? ねえよんなもん!」
「じゃあ何で付き合ったんですか……?」
「それは……」
耕一郎がまだ高校生の時。
彼は不良の番長として担ぎ上げられていた。
そしてそれは、別の高校の女番長である榎葉も同じだった。
二人は強すぎたが故に、どちらも番長にさせられていたのだ。
本人達はまったく喧嘩に興味はないのだが。
「それでメンツがどうとか言ってあいつの高校がうちに喧嘩し掛けてきて……俺はあいつに勝ったんだ。そしたら……」
当時の榎葉は考えた。
『こいつの下に付けばもう喧嘩しなくていいじゃん』と。
榎葉はすぐさま耕一郎に愛の告白をした。
棒読みだったが。
「すっげえ心が籠ってなかったなあ……あれは……」
「ひ、ひどい……」
そして断るのを面倒臭がった耕一郎は晴れて人生初の彼女が出来た。
「ロマンのかけらもないじゃない……! あんまりよぉ!」
「まあ大体そんなもんだろ。恋愛ってのはよ~」
千歳は想像以上のひどさに泣き出した。
レンタル彼女でもここまで乾いてはいないだろう。
悟ったような事を言う耕一郎だったが、これを恋愛経験に入れていいかどうかは微妙なところだった。
「んで段々お互い喧嘩を押し付け合うようになって……面倒になって別れたんだったな……あのクソ女ぁ……!」
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「割れ鍋に綴じ蓋とはまさにこの事ですね……」
青筋を立てる耕一郎に、漢野と凍牙は呆れてそう言った。
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