弟枠でも一番近くにいられるならまあいいか……なんて思っていた時期もありました

大森deばふ

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38「こりゃまた随分と手癖の悪い」

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「騎士様方? もしかして迷われましたか? ここは私たち神官の居住区で、部外者の方は立ち入り禁止となっておりますので……」
 廊下で、エイダールたちを迷子だと思ったらしい若い神官に声を掛けられた。
「迷子ではありませんのでお気になさらず。友人が神殿で無くしたものを、こちらで預かっていただいているようなので取りに来ただけです」
 イーレンが、立ち入り禁止区域に入った後ろめたさなど何一つないような顔でにこやかに相手をする。やわらかい物腰と丁寧な言葉遣いをするだけで、不審者感は激減する。
「え? 落とし物や忘れ物でしたら神殿入口の受付でお預かりしている筈ですが……あ、まさか」
 若い神官は、物凄く申し訳なさそうな顔をした。
「まさか、何でしょうか?」
「いえ、あの……もしかして、預かっているという人から、返還する代わりに金品を要求されたりしてませんよね?」
 恐る恐るという感じで、若い神官は尋ねてくる。
「特にそういったことはありませんが」
 まだ話してもいないので、要求も何もないと思うイーレンの言葉に被せるように。
「そういうことをしそうな奴がいるんだな?」
 エイダールが割り込んだ。
「はい、お恥ずかしい話ですが」
 消え入りそうな声で、若い神官は肯定した。
「そいつは、評判は悪いのに、何故か上級神官の一人に気に入られていたり?」
「何故それを御存じなんですか!?」
 鎌をかけると、若い神官は綺麗に引っ掛かった。
「その男の部屋に、案内してもらおうか」
 エイダールは、いい案内係を手に入れたと、若い神官の肩を掴んだ。




「この部屋です」
 案内された部屋から、確かに守護石の気配がする。
「案内をありがとうございます、ここまででいいですよ」
 イーレンは若い神官を帰そうとしたが。
「いいえ、彼が預かったものをお返しするところまで見届けさせていただきます」
 問題の部屋の主はどれほど信用がないのかという勢いで宣言される。
「そうか、じゃあ好きにしろ……おい、入るぞ!」
 どんどんと扉を叩いたエイダールは、返事を待たずに踏み込んだ。
「何ですか突然! 誰ですか、あなた方は」
 机に向かって書き物をしていた部屋の主は、ぎょっとしたように立ち上がった。
「青い石、持ってるだろ?」
「何の話ですか」
「昨夜連れ込んだ若い男から奪った青い石だよ」
「だ、だから何の話かと……!」
 言いながら、一瞬机の引き出しに視線を泳がせ、その前に立つ。
「そうか、ここか」
 エイダールは部屋の主を押しのけると、引き出しに手を掛ける。
「勝手に触るな!」
 エイダールを止めようとする部屋の主を、護衛役の騎士が取り押さえた。


「……こりゃまた随分と手癖の悪い」
 エイダールが、引き出しに入っていた箱を取り出して蓋を取ると、色鮮やかな宝飾品が目に飛び込んでくる。かなりの数だ。
「失礼なことを言うな、それは私の物で」
「その緑の腕輪、見覚えがあるのですが」
 案内してきた若い神官が、宝飾品の一つを目にして、青褪めている。
「今、行方不明になっている、枢機卿の側仕えをしていた方の物ですよね……どういうことなんですか」
「拉致したときに盗んだんだろ。俺の探し物もあったぞ」
 エイダールはユランに持たせていた青い守護石を手に取る。
「拉致って……」
 若い神官は、あなたが誘拐犯? という顔で部屋の主を見つめる。
「ち、違うんだ、その石は落ちていたのを拾って預かっていただけで……ひっ」
 エイダールに顎を持ち上げられ、小さく悲鳴を上げる。
「俺は急いでいる。今すぐ本当のことを洗いざらい吐け。吐かないなら、神罰が下るかもしれないぞ? ……『審判ジャッジメント』」
 瞬間空が明るくなり、雷が神殿の中庭に落ちる。東屋にでも当たったのか、何かが崩れる音も聞こえてくる。
「な、なななななっ」
 歯の根が合わない男を見て、ヴェイセルがイーレンに小声で尋ねる。
「いいんですか、こんな脅しをかけるみたいなことして」
「え、何もしていないでしょう? エイダールは神罰が下るかもしれないと言っただけですよ?」
 イーレンは、何もしていないのだから当然脅してもいないという姿勢を貫くつもりらしい。
「だって、あの雷って……」
 落雷を呼ぶ呪文が、先程エイダールの口から聞こえたような気がしたのだが。
「雷は自然現象です。ちょうど神罰なんて話をしている時に落ちるなんて、偶然て怖いですね」
「あ、はい」
 ヴェイセルは、直接的に暴力に訴えた訳でもないのだからと納得することにした。


「こんな近くに突然雷が落ちるなんてびっくりしたな」
 エイダールは、男の頬を撫でながらそう話し掛ける。
「また、たまたま偶然雷が落ちたらどうなるだろうな? 次はもっと近くかもしれないし、もっと数が多いかもしれないな?」
 手つきは優しいのに、恐怖しか感じられない。
「少なくともさっきよりは近くに落ちる気がするな。俺の予感はよく当たるんだが、どうすれば回避できると思う?」
 近くに落とすとも、数を増やすとも言っていない。ただ、そんな気がするだけだ。
「は、話す! 何でも、何でも話すから!! 命だけは!!!」
 命をどうこうするなどという話は一切していないのだが、男はがたがたと震えながら声を絞り出した。
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