弟枠でも一番近くにいられるならまあいいか……なんて思っていた時期もありました

大森deばふ

文字の大きさ
65 / 178

65「この姿では初めましてだな」

しおりを挟む
「オルディウス、さん?」
 名前も聞き覚えがなくて、ユランは説明を求めるように相手を見た。
「オルディウス・リエルベルク。この姿では初めましてだな」
 オルディウスは名乗りを上げる。
「この姿では初めまして……?」
 ユランが混乱していると、イーレンが説明を加える。
「前にユランくんと会ったときは、オルディウスは姿変えの魔法を使っていましたから。名前も『エルディ』と」
「エルディさんだったんですか!? 本当に?」
 ユランはオルディウスを凝視する。そう言われてみれば、その瞳の色にだけ既視感がある。
「びっくりした、そんな顔してたんだ……思ってたより若いし」
 あの時は無害そうな三十歳前後の男に見えていたのに、今は少し艶めいた雰囲気の二十代半ばに見える。
「本当はいい男だって言っただろ?」
 オルディウスは、どうだというように顎を上げた。
「そうですね、喋ると台無しだけど」
 ユランは冷静に切り捨てた。残念美人という奴である。


「ユラン、その騎士と知り合いなのか?」
 ユランの近くにいた、同じ西区警備隊の同僚が、肩を寄せて耳打ちしてくる。
「知り合いというか、この間の……あ、すみません、これ言っちゃいけないやつ」
 あの事件のことは口止めされている。ユランが巻き込まれて攫われたというのは、警備隊内では周知の事実ではあるが。
「夜を共にしたとかベッドでどうとか言うのは」
「まあ、事実ですね」
 攫われて同じ部屋に閉じ込められたし、ベッドでオルディウスの血を使って魔法陣を描き込まれた。『ベッドで俺を刻み込んだ』という表現も間違いではない。
「お前、幼馴染みの先生に振られたからって、乗り換えるの早過ぎるだろ……」
 正しく曲解したらしい同僚は、苦言を呈する。
「乗り換えてませんよっ」
 今も昔もユランはエイダール一筋である。
「ユランくん、そっちの彼は警備隊の同僚かな?」
 こそこそ話しているとオルディウスに問われたので頷く。
「そうか、じゃああなたも俺の班に。三十二班だ。腕章を巻くから左腕を前に」
 オルディウスは、二人の左腕に、緑色の布を巻き付けた。オルディウス自身の左腕にも同じ色の布が巻かれている。
「あっちに輸送馬車が待機してるから、この色の布が結んであるのに乗って待っててくれ」
 オルディウスは騎士団本部の建物の方を示した。建物の陰になって馬車本体は見えないが、馬が見える。
「分かりました」
「俺はあと一人、中距離系か遠距離系を確保してくる」
 近接系はもうお腹いっぱいだと、オルディウスはきょろきょろと辺りを見回す。
「向こうに弓使いが一人いますよ」
 剣士三人の腕に赤い布を巻きながらそう言ったイーレンの視線の先に、背中側に弓を斜めにぶら下げて一人佇んでいる冒険者がいた。




「赤、橙、黄、あ、緑ありました」
 並んでいる輸送馬車を手前から見て行くと、四台目に緑色の布が結ばれていた。
「勝手に乗っていいのかなこれ」
「何班の方ですか?」
 中を覗き込んでいると、御者に問われる。 
「何班でしたっけ、三十ちょっと?」
「三十二班って言ってたぞ」
 ユランはうろ覚えだったが、同僚はちゃんと覚えていた。
「三十二班……中で座ってお待ちください」
 御者は腕の布の色も確認し、中へ入るように促した。






「よし、全員揃ったところで基本的な構成を決めるぞ」
 オルディウスが、弓使いを連れて馬車に乗り込んでくる。
「エルディさん……じゃない、オルディウスさん。あ、名前で読んだら失礼なのかな? リエルベルク卿が正解?」
 質問をしかけたユランは、どう呼ぶのがいいのかが分からなくなる。
「呼びやすいのでいいけど、イーレンさんのことは名前呼びしてるのに、俺をリエルベルク卿呼びは無いと思うな」
「イーレンさんは知り合いというか先生の友達だから」
 エイダールの友人を、ユランは基本的に名前にさん付けで呼んでいる。友人の名前を呼び捨てにするエイダールからの情報しかない場合、家名が曖昧だからである。
「俺は君の知り合いじゃないのか?」
 オルディウスは不満そうだが。
「知り合いの知り合いくらいですよね」
 ジペルス経由での知り合いである。
「同じベッドで熱い夜を過ごしたのに?」
「夜は過ごしたけど、全然熱くなかったですよね? 交代で仮眠を取っただけで、同じベッドで熱い夜を過ごしたことになるなら、僕は夜勤の度に熱い夜を過ごしてることになるんですが?」
 ユランの横で聞いていた同僚が、ぶっと吹いた。夜勤の際、班ごとに同じ仮眠室を使うので、その理論だとユランはヴェイセルとカイと三人で過ごしたことになる。
「そうか、夜勤ごとに三人で熱い夜をっ」
 同僚は、くっくっくと肩を揺らす。
「日常的に三人だなんて、まだ若いのに倒錯的だな。俺もあんまり経験ないぞ。熱いというか激しいというか、濃い夜なんだろうなあ」
 あんまりないがあるらしい。オルディウスの性生活は乱れている。


「あの訓練場に刺さってた氷槍って、もしかして先生のですか」
 呆れかえったユランは、唐突に話題を変えた。イーレンが保護者と言っていたこと、氷魔法であることから、推測がつく。
「ん? ああ、なんか騎士団長が出し渋ったら突き刺して帰って行ったらしいぞ。詳しいことは知らないが」
 オルディウスは、その時騎士団本部にいなかったので、後でイーレンの愚痴を聞いただけだ。『お願いに氷槍が加算されると恫喝になる方程式』と言っていたような気がする。
「先生に、騎士団に『変態がいた』って報告したらどうなるかな」
「…………命の危機を感じるので、そういうのはやめようか」
 ユランの、言いつけちゃうぞ攻撃に、オルディウスは青くなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

君に不幸あれ。

ぽぽ
BL
「全部、君のせいだから」 学校でも居場所がなく、家族に見捨てられた男子高校生の静。 生きる意味を失いかけた時に屋上で出会ったのは、太陽に眩しい青年、天輝玲だった。 静より一つ年上の玲の存在は、静の壊れかけていた心の唯一の救いだった。 静は玲のことを好きになり、静の告白をきっかけに二人は結ばれる。 しかしある日、玲の口から聞いた言葉が静の世界を一瞬で反転させる。 玲に対する感情は信頼から憎悪へと変わった。 それから十年。 かつて自分を救った玲に再会した静は玲に対して同じ苦しみを味合わせようとする。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

虐げられた令息の第二の人生はスローライフ

りまり
BL
 僕の生まれたこの世界は魔法があり魔物が出没する。  僕は由緒正しい公爵家に生まれながらも魔法の才能はなく剣術も全くダメで頭も下から数えたほうがいい方だと思う。  だから僕は家族にも公爵家の使用人にも馬鹿にされ食事もまともにもらえない。  救いだったのは僕を不憫に思った王妃様が僕を殿下の従者に指名してくれたことで、少しはまともな食事ができるようになった事だ。  お家に帰る事なくお城にいていいと言うので僕は頑張ってみたいです。        

僕の事を嫌いな騎士の一途すぎる最愛は…

BL
記憶喪失の中目覚めると、知らない騎士の家で寝ていた。だけど騎士は受けを酷く嫌っているらしい。 騎士×???

処理中です...