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65「この姿では初めましてだな」
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「オルディウス、さん?」
名前も聞き覚えがなくて、ユランは説明を求めるように相手を見た。
「オルディウス・リエルベルク。この姿では初めましてだな」
オルディウスは名乗りを上げる。
「この姿では初めまして……?」
ユランが混乱していると、イーレンが説明を加える。
「前にユランくんと会ったときは、オルディウスは姿変えの魔法を使っていましたから。名前も『エルディ』と」
「エルディさんだったんですか!? 本当に?」
ユランはオルディウスを凝視する。そう言われてみれば、その瞳の色にだけ既視感がある。
「びっくりした、そんな顔してたんだ……思ってたより若いし」
あの時は無害そうな三十歳前後の男に見えていたのに、今は少し艶めいた雰囲気の二十代半ばに見える。
「本当はいい男だって言っただろ?」
オルディウスは、どうだというように顎を上げた。
「そうですね、喋ると台無しだけど」
ユランは冷静に切り捨てた。残念美人という奴である。
「ユラン、その騎士と知り合いなのか?」
ユランの近くにいた、同じ西区警備隊の同僚が、肩を寄せて耳打ちしてくる。
「知り合いというか、この間の……あ、すみません、これ言っちゃいけないやつ」
あの事件のことは口止めされている。ユランが巻き込まれて攫われたというのは、警備隊内では周知の事実ではあるが。
「夜を共にしたとかベッドでどうとか言うのは」
「まあ、事実ですね」
攫われて同じ部屋に閉じ込められたし、ベッドでオルディウスの血を使って魔法陣を描き込まれた。『ベッドで俺を刻み込んだ』という表現も間違いではない。
「お前、幼馴染みの先生に振られたからって、乗り換えるの早過ぎるだろ……」
正しく曲解したらしい同僚は、苦言を呈する。
「乗り換えてませんよっ」
今も昔もユランはエイダール一筋である。
「ユランくん、そっちの彼は警備隊の同僚かな?」
こそこそ話しているとオルディウスに問われたので頷く。
「そうか、じゃああなたも俺の班に。三十二班だ。腕章を巻くから左腕を前に」
オルディウスは、二人の左腕に、緑色の布を巻き付けた。オルディウス自身の左腕にも同じ色の布が巻かれている。
「あっちに輸送馬車が待機してるから、この色の布が結んであるのに乗って待っててくれ」
オルディウスは騎士団本部の建物の方を示した。建物の陰になって馬車本体は見えないが、馬が見える。
「分かりました」
「俺はあと一人、中距離系か遠距離系を確保してくる」
近接系はもうお腹いっぱいだと、オルディウスはきょろきょろと辺りを見回す。
「向こうに弓使いが一人いますよ」
剣士三人の腕に赤い布を巻きながらそう言ったイーレンの視線の先に、背中側に弓を斜めにぶら下げて一人佇んでいる冒険者がいた。
「赤、橙、黄、あ、緑ありました」
並んでいる輸送馬車を手前から見て行くと、四台目に緑色の布が結ばれていた。
「勝手に乗っていいのかなこれ」
「何班の方ですか?」
中を覗き込んでいると、御者に問われる。
「何班でしたっけ、三十ちょっと?」
「三十二班って言ってたぞ」
ユランはうろ覚えだったが、同僚はちゃんと覚えていた。
「三十二班……中で座ってお待ちください」
御者は腕の布の色も確認し、中へ入るように促した。
「よし、全員揃ったところで基本的な構成を決めるぞ」
オルディウスが、弓使いを連れて馬車に乗り込んでくる。
「エルディさん……じゃない、オルディウスさん。あ、名前で読んだら失礼なのかな? リエルベルク卿が正解?」
質問をしかけたユランは、どう呼ぶのがいいのかが分からなくなる。
「呼びやすいのでいいけど、イーレンさんのことは名前呼びしてるのに、俺をリエルベルク卿呼びは無いと思うな」
「イーレンさんは知り合いというか先生の友達だから」
エイダールの友人を、ユランは基本的に名前にさん付けで呼んでいる。友人の名前を呼び捨てにするエイダールからの情報しかない場合、家名が曖昧だからである。
「俺は君の知り合いじゃないのか?」
オルディウスは不満そうだが。
「知り合いの知り合いくらいですよね」
ジペルス経由での知り合いである。
「同じベッドで熱い夜を過ごしたのに?」
「夜は過ごしたけど、全然熱くなかったですよね? 交代で仮眠を取っただけで、同じベッドで熱い夜を過ごしたことになるなら、僕は夜勤の度に熱い夜を過ごしてることになるんですが?」
ユランの横で聞いていた同僚が、ぶっと吹いた。夜勤の際、班ごとに同じ仮眠室を使うので、その理論だとユランはヴェイセルとカイと三人で過ごしたことになる。
「そうか、夜勤ごとに三人で熱い夜をっ」
同僚は、くっくっくと肩を揺らす。
「日常的に三人だなんて、まだ若いのに倒錯的だな。俺もあんまり経験ないぞ。熱いというか激しいというか、濃い夜なんだろうなあ」
あんまりないがあるらしい。オルディウスの性生活は乱れている。
「あの訓練場に刺さってた氷槍って、もしかして先生のですか」
呆れかえったユランは、唐突に話題を変えた。イーレンが保護者と言っていたこと、氷魔法であることから、推測がつく。
「ん? ああ、なんか騎士団長が出し渋ったら突き刺して帰って行ったらしいぞ。詳しいことは知らないが」
オルディウスは、その時騎士団本部にいなかったので、後でイーレンの愚痴を聞いただけだ。『お願いに氷槍が加算されると恫喝になる方程式』と言っていたような気がする。
「先生に、騎士団に『変態がいた』って報告したらどうなるかな」
「…………命の危機を感じるので、そういうのはやめようか」
ユランの、言いつけちゃうぞ攻撃に、オルディウスは青くなった。
名前も聞き覚えがなくて、ユランは説明を求めるように相手を見た。
「オルディウス・リエルベルク。この姿では初めましてだな」
オルディウスは名乗りを上げる。
「この姿では初めまして……?」
ユランが混乱していると、イーレンが説明を加える。
「前にユランくんと会ったときは、オルディウスは姿変えの魔法を使っていましたから。名前も『エルディ』と」
「エルディさんだったんですか!? 本当に?」
ユランはオルディウスを凝視する。そう言われてみれば、その瞳の色にだけ既視感がある。
「びっくりした、そんな顔してたんだ……思ってたより若いし」
あの時は無害そうな三十歳前後の男に見えていたのに、今は少し艶めいた雰囲気の二十代半ばに見える。
「本当はいい男だって言っただろ?」
オルディウスは、どうだというように顎を上げた。
「そうですね、喋ると台無しだけど」
ユランは冷静に切り捨てた。残念美人という奴である。
「ユラン、その騎士と知り合いなのか?」
ユランの近くにいた、同じ西区警備隊の同僚が、肩を寄せて耳打ちしてくる。
「知り合いというか、この間の……あ、すみません、これ言っちゃいけないやつ」
あの事件のことは口止めされている。ユランが巻き込まれて攫われたというのは、警備隊内では周知の事実ではあるが。
「夜を共にしたとかベッドでどうとか言うのは」
「まあ、事実ですね」
攫われて同じ部屋に閉じ込められたし、ベッドでオルディウスの血を使って魔法陣を描き込まれた。『ベッドで俺を刻み込んだ』という表現も間違いではない。
「お前、幼馴染みの先生に振られたからって、乗り換えるの早過ぎるだろ……」
正しく曲解したらしい同僚は、苦言を呈する。
「乗り換えてませんよっ」
今も昔もユランはエイダール一筋である。
「ユランくん、そっちの彼は警備隊の同僚かな?」
こそこそ話しているとオルディウスに問われたので頷く。
「そうか、じゃああなたも俺の班に。三十二班だ。腕章を巻くから左腕を前に」
オルディウスは、二人の左腕に、緑色の布を巻き付けた。オルディウス自身の左腕にも同じ色の布が巻かれている。
「あっちに輸送馬車が待機してるから、この色の布が結んであるのに乗って待っててくれ」
オルディウスは騎士団本部の建物の方を示した。建物の陰になって馬車本体は見えないが、馬が見える。
「分かりました」
「俺はあと一人、中距離系か遠距離系を確保してくる」
近接系はもうお腹いっぱいだと、オルディウスはきょろきょろと辺りを見回す。
「向こうに弓使いが一人いますよ」
剣士三人の腕に赤い布を巻きながらそう言ったイーレンの視線の先に、背中側に弓を斜めにぶら下げて一人佇んでいる冒険者がいた。
「赤、橙、黄、あ、緑ありました」
並んでいる輸送馬車を手前から見て行くと、四台目に緑色の布が結ばれていた。
「勝手に乗っていいのかなこれ」
「何班の方ですか?」
中を覗き込んでいると、御者に問われる。
「何班でしたっけ、三十ちょっと?」
「三十二班って言ってたぞ」
ユランはうろ覚えだったが、同僚はちゃんと覚えていた。
「三十二班……中で座ってお待ちください」
御者は腕の布の色も確認し、中へ入るように促した。
「よし、全員揃ったところで基本的な構成を決めるぞ」
オルディウスが、弓使いを連れて馬車に乗り込んでくる。
「エルディさん……じゃない、オルディウスさん。あ、名前で読んだら失礼なのかな? リエルベルク卿が正解?」
質問をしかけたユランは、どう呼ぶのがいいのかが分からなくなる。
「呼びやすいのでいいけど、イーレンさんのことは名前呼びしてるのに、俺をリエルベルク卿呼びは無いと思うな」
「イーレンさんは知り合いというか先生の友達だから」
エイダールの友人を、ユランは基本的に名前にさん付けで呼んでいる。友人の名前を呼び捨てにするエイダールからの情報しかない場合、家名が曖昧だからである。
「俺は君の知り合いじゃないのか?」
オルディウスは不満そうだが。
「知り合いの知り合いくらいですよね」
ジペルス経由での知り合いである。
「同じベッドで熱い夜を過ごしたのに?」
「夜は過ごしたけど、全然熱くなかったですよね? 交代で仮眠を取っただけで、同じベッドで熱い夜を過ごしたことになるなら、僕は夜勤の度に熱い夜を過ごしてることになるんですが?」
ユランの横で聞いていた同僚が、ぶっと吹いた。夜勤の際、班ごとに同じ仮眠室を使うので、その理論だとユランはヴェイセルとカイと三人で過ごしたことになる。
「そうか、夜勤ごとに三人で熱い夜をっ」
同僚は、くっくっくと肩を揺らす。
「日常的に三人だなんて、まだ若いのに倒錯的だな。俺もあんまり経験ないぞ。熱いというか激しいというか、濃い夜なんだろうなあ」
あんまりないがあるらしい。オルディウスの性生活は乱れている。
「あの訓練場に刺さってた氷槍って、もしかして先生のですか」
呆れかえったユランは、唐突に話題を変えた。イーレンが保護者と言っていたこと、氷魔法であることから、推測がつく。
「ん? ああ、なんか騎士団長が出し渋ったら突き刺して帰って行ったらしいぞ。詳しいことは知らないが」
オルディウスは、その時騎士団本部にいなかったので、後でイーレンの愚痴を聞いただけだ。『お願いに氷槍が加算されると恫喝になる方程式』と言っていたような気がする。
「先生に、騎士団に『変態がいた』って報告したらどうなるかな」
「…………命の危機を感じるので、そういうのはやめようか」
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