弟枠でも一番近くにいられるならまあいいか……なんて思っていた時期もありました

大森deばふ

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66「ぜ、絶対、失敗します」

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「話を戻しますが、一班六人て言ってませんでした?」
 オルディウス、ユランと同僚、弓使いの四人しかいないのに、全員揃ったところと言われたので、不思議に思ったのだ。
「うん、六人で合ってるよ。残りの二人は馬で移動」
 馬車に乗る全員が揃った、ということである。
「一人は盾持ち、一人は槍使いだ。野営地に着いたら紹介する」
「はい」
 残り二人の謎が解けたユランは頷く。
「東の街道沿いの魔獣を狩るってことだったが、直接移動か?」
 弓使いが会話に加わった。
「俺たちの部隊は転移ゲートを使って、辺境側から魔獣討伐を行う。ここからそのまま東の街道へ向かう部隊もある」
 挟み撃ちである。
「魔獣討伐自体は、八つの班が合同で行う。俺たちは第四部隊、班でいうと二十五班から三十二班になる」
「だったら、この班分けはなんなんだ」
「生活班的な? 所属がばらばらだからな、小さい単位にして洩れのないように」
 弓使いの疑問に、オルディウスはそう答える。騎士団、警備隊、冒険者の寄せ集めになるので、大きい単位にするといろいろ行き届かない。
「班長は俺なんで、何かあったら相談してくれ」
 食料や寝具の配布と言ったことから、うっかりはぐれた時の迷子探しなどが班長の仕事である。


「まあ、でかい魔獣がいないってことになったら、班単位で動く可能性もあるから、基本的な役割分担を話し合っておきたいな、と。武器の確認もしたい」
 誰が前衛で誰が後衛かくらいは決めておきたい。
「班に一人は魔術師が入るって言ってたが、外の二人は盾持ちと槍使いなんだよな? あんたたちは全員剣士だろう? どういうことだ」
「ああ、その魔術師枠に入るのは俺だよ。正確には魔導騎士だけど。火属性の攻撃特化型だから回復とか出来ないけどな!」
 あっはっは、とオルディウスは笑うが。
「………………何だろう、この騙された感」
 弓使いが溜息をつく。
「部隊ごとに最低二人、回復系の魔術師もいるから、はぐれなければなんとかなる。あと、攻撃は最大の防御だろ? 俺、今回は思いっきり燃やしていいって言われてて、楽しみでさ」
 王都で思うままに火の魔法を使うと、燃えてはいけないものまで灰になってしまう。魔獣討伐はその鬱憤を晴らすいい機会である。


「結界が弱まって魔獣があふれ出して手が足りないから、冒険者ギルドに協力要請が来たって聞いてるんだが、騎士がこんなに能天気だとは」
 弓使いが遠い目になる。
「同じ働くなら楽しい方がいいだろう。三日後には結界も張り直されるから、そこからはただの殲滅戦だ」
「分かった。俺はあんたが楽しく燃やすのを後ろで見ていることにする。首級で報奨は変わらないって話だったしな」
 弓使いは何かを諦めたらしい。
「そっか、結界張りの準備が遅れてて大変だっていうから、ちゃんと準備できるまで遅らせればいいんじゃないかなって思ってたけど、予定通りにしないとずっと魔獣が増え続けるんですね」
 ユランは、この状況で、そんな悠長なことを言っていられないのだと理解した。
「ユランくん、それ部外秘」
 オルディウスに手で口を塞がれる。
「ずびばぜん」
 ユランはもごもごと謝る。
「おい、そういや枢機卿がどうとかって不穏な噂が出てたが、結界は予定通り張られるんだろうな?」
 弓使いが少し声を落とした。結界が予定通りに張られなければ、消耗戦になる。冒険者の間では、枢機卿の姿が見えないのは禊の為ではなく、どこぞの令嬢と駆け落ちした、というような噂が流れていた。
「大丈夫大丈夫。枢機卿は結界張りの準備に入ってるって聞いてる」
 心配いらない、とオルディウスが噂を否定する。
「そうですよ、部外者の先生まで二週間も拉致監禁して準備してるんですよ」
 その所為で家に帰ってもエイダールのいない暮らしを強いられ、不満が溜まっているユランである。
「いや、何を人聞きが悪いこと言ってんだ、拉致でも監禁でもないだろ、神殿関係者に聞かれたら怒られるぞ」
 本人合意の上で神殿に留まっているし、出歩いてもいる。
「二日前には騎士団本部にも来てるんだよ、証拠が訓練場に埋まってただろ」
 二日経っても溶けることのない氷槍という物証が。
「……お、出発するみたいだな。転移が苦手な奴は目と耳を塞いどけよ」
 輸送馬車がゆっくりと動き出す。人によっては転移ゲートを使うと乗り物酔いのような状態になることがある。どういう理屈か分からないが、目と耳をしっかりと塞いでおくと症状が軽減されるのだった。






「何かあったんですか」
 神殿の一室で、地道に魔力石の充填をしていた回復術師のフォルセは、外から聞こえてくるざわめきに耳を澄ます。枢機卿とエイダールはいつも通り深層部に下りているが、側仕えの神官が、昼過ぎからばたばたとしていた。
「教皇猊下が保養地から神殿に向かわれていて、間もなくお着きになります」
「えっ」
 教皇は高齢の為、実務はほとんど行っていないが、神殿の最高権力者である。普段は枢機卿に丸投げだが、重要な神事である結界張りには立ち会う。
「教皇猊下はお優しい方ですが、御不興を買わぬよう、言動には注意してください」
「いやいや、単なる手伝いの私と猊下が遭遇する予定なんてないですよね? この部屋から出ないようにします」
 枢機卿と話すのでもいまだに緊張するのに、教皇とかとんでもない話である。部屋に籠っていれば不敬を働くこともないだろうと、フォルセは固く決意する。
「籠っていられるといいですね……」
 側仕えの神官は、意味深な言葉を残して部屋を出た。




「いやだからさ、猊下が例の温泉ぽかぽかを体験したいって言ってて」
 深層部で教皇と会ったらしいエイダールが上がってきて、フォルセに教皇の要望を伝える。
「あなたが魔法を使えばいいでしょう? 何で私に振るんですか」
 話を聞いただけで心臓がばくばくと波打ち、無理だと拒否している。
「もうほぼ毎回成功してるし、そういう緊張感の中での成功体験も大事だろ」
 君の経験値を上げるために涙を飲んで栄誉な役目を譲るんだ、と続けたエイダールだが、実質は面倒なだけである。
「ぜ、絶対、失敗します」
 緊張し過ぎている今の状態で、まともに呪文が唱えられる訳がない。
「そろそろ呪文なしでも行けるだろ」
 エイダールは難易度を上げた。
「大丈夫、失敗してもちょっと猊下の機嫌が悪くなるだけだし」
「ちょっとでも不興なんて買いたくないんですが!?」
 神殿の最高権力者、国王と同じ位に立つ相手の不興など、絶対買いたくない。
「俺、今から南砦に飛ばないとならないんだよ、健闘を祈る」
 主要な施設には、より多く結界の恩恵を受けられるように要石が置かれているのだが、南砦に設置してあるそれが砕けたらしい。新しい石を持って行って、調整しなければならない。
「え、待って」
 さっと踵を返したエイダールの背中に手を伸ばすが、扉の向こうに消えてしまう。
「では、猊下の私室に御案内します」
 側仕えの神官が、フォルセに恭しく手を差し出した。
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