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72「体洗って出直して来いって言われて」
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「お、ユランじゃないか」
家に帰るついでに警備隊の詰所を覗いたら、ちょうどヴェイセルがいた。
「さっき、魔獣討伐に行ってた何人かが馬車に送られて帰って来たけど、ユランは先生に会いにすっ飛んでいったって聞いたのに」
ユランらしいなと思って話を聞いたヴェイセルである。
「会ってきたんですけど、汚いから体洗って出直して来いって言われて」
その場でくるりと回ってみせる。マントがふわりとめくれあがって、中の服が見えるが、かなり酷い有り様だ。
「うっわ、返り血でべったべたじゃねえか。早く家に帰れよ……ああそうだ、討伐参加者は明日明後日は休みだってさ、ゆっくり休めよ」
「二日も休んでいいんですか」
「こっちは問題ないな、新人も入ったし」
予定よりも早い帰還だったので、いない前提で仕事も割り振られている。
「新人? 僕たちの班に? え、僕の居場所大丈夫ですか」
一週間留守にしたら職場での居場所がない、ということなのだろうか。
「一時的に一人預かってるだけだ。ざっくりと仕事の流れの見学だな。カイが先輩風を吹かしてて面白いぞ」
カイにとっては初めての年下の班員ということで、とても張り切っている。今も施設案内を買って出て持ち場を離れている状態である。
「慣れてきたら改めて班分けになるだろうけど、俺たちの班は変更ないと思うぞ」
班員に異動のあった班への補充が第一である。
「まずは、お湯をためてっと」
家に辿り着いたユランは、まず風呂場へと向かった。エイダールの家の場合、湯を沸かすのではなく適温の湯を魔道具から出して湯槽にためる形である。
「洗濯物結構あるなぁ」
たまるのを待ちながら荷物を整理し、洗濯物を積み上げ、お湯がたまったところで着ていたものも脱いでさらに積み上げる。
「普通の洗濯じゃ落ちそうにないからあとで踏もう……」
一度お湯で下洗いしないとどうにもならなそうな汚れが大半である。
「うわぁ、服だけじゃなくて僕が汚い……」
髪は一度目ではまったく泡立たなかった。体はざっくり洗ってから湯槽に浸かったのに、お湯の表面に何かいろいろ浮いてきた。全身念入りに二度洗いして、湯も入れ替え、ユランは漸く落ち着いて湯槽に沈み込む。
「一週間ぶりだもんなあ、お風呂」
討伐の間、川の近くでは水を浴びたりもしたが、基本は桶一杯程度のお湯を貰い、それに浸した布を固く絞って体を拭くだけである。
「あ、紙鳥だ」
顔も半分浸かるくらいどっぷりと沈み込んでぶくぶくしていると、白い小鳥のような光が舞い降りる。
「『今日はもう来るな。ゆっくり休め』って……えええー」
もう夕方ではあるが、今から出れば神殿の門が閉まる前に充分再訪できるのに。エイダールからの紙鳥を握り締めて、ユランは不満を洩らす。
「何故分けて送るんですか?」
後から伝えたい内容が増えた、というのなら分かるが、先に三通の伝送紙を書き上げてから一通目を送ったエイダールに、フリッツが首を傾げる。
「こうしないとユランの場合、だめって言われたけど来ちゃった、とか言いだすからな」
確実に止めたい場合は二度言う必要があると、二通目を送り、三通目も送る。
「確かに猪突猛進な感じではありましたが……」
紙鳥を三度使うのは贅沢な話である。
「え、今度は何」
ユランの頭上に、またぽわんと白い光が現れ、その紙鳥には『いいか、絶対に来るなよ』と書かれていた。思わず伝送紙を握り潰したユランが自分の信用の無さについて考えかけたところに三通目だ。
「『明日来るなら研究室に寄ってスウェンから書類を預かってきてくれ』か。はいはい分かりましたよ言う通りにしますよっ」
二通目が握り潰されることまで予想して、三通目にお使いを記したエイダールの読み勝ちである。
「先生! おはようございます! 書類を預かってきました!」
翌朝、ユランはスウェンの出勤を待ち構えて書類を受け取り、神殿行きの乗合馬車に乗った。
「早いな。熱心な信者しか来ないぞこんな時間」
丸一日祈りを捧げようと意気込む層と同じ時間である。エイダールは朝食を済ませたばかりだ。
「本当は昨日来たかったのに、先生が絶対来るなとか言うから我慢したんじゃないですか」
ユランはぷっと頬をふくらませる。
「魔獣討伐帰りにそんなにうろうろするもんじゃないだろ」
休ませたかったのである。
「分かってますけど……スウェンさんが、そろそろ先生に戻ってもらわないと困るって言ってましたよ。いつ頃戻れるんですか? 最初二週間くらいって言ってましたけど、もう過ぎてますよね」
エイダール不在の中での新学期準備には限界があり、スウェンは一刻も早く戻って欲しそうだった。
「うーん、あと二日くらいで片付けようと思ってるが」
結界の機能確認と微調整が済めば、あとは枢機卿に任せて帰るつもりだったのだが、その枢機卿の体調が優れない。結界張りで無理をした上に、例の事件の責任の所在について国との折衝もあり、ちょっと放っておけない状況だった。
家に帰るついでに警備隊の詰所を覗いたら、ちょうどヴェイセルがいた。
「さっき、魔獣討伐に行ってた何人かが馬車に送られて帰って来たけど、ユランは先生に会いにすっ飛んでいったって聞いたのに」
ユランらしいなと思って話を聞いたヴェイセルである。
「会ってきたんですけど、汚いから体洗って出直して来いって言われて」
その場でくるりと回ってみせる。マントがふわりとめくれあがって、中の服が見えるが、かなり酷い有り様だ。
「うっわ、返り血でべったべたじゃねえか。早く家に帰れよ……ああそうだ、討伐参加者は明日明後日は休みだってさ、ゆっくり休めよ」
「二日も休んでいいんですか」
「こっちは問題ないな、新人も入ったし」
予定よりも早い帰還だったので、いない前提で仕事も割り振られている。
「新人? 僕たちの班に? え、僕の居場所大丈夫ですか」
一週間留守にしたら職場での居場所がない、ということなのだろうか。
「一時的に一人預かってるだけだ。ざっくりと仕事の流れの見学だな。カイが先輩風を吹かしてて面白いぞ」
カイにとっては初めての年下の班員ということで、とても張り切っている。今も施設案内を買って出て持ち場を離れている状態である。
「慣れてきたら改めて班分けになるだろうけど、俺たちの班は変更ないと思うぞ」
班員に異動のあった班への補充が第一である。
「まずは、お湯をためてっと」
家に辿り着いたユランは、まず風呂場へと向かった。エイダールの家の場合、湯を沸かすのではなく適温の湯を魔道具から出して湯槽にためる形である。
「洗濯物結構あるなぁ」
たまるのを待ちながら荷物を整理し、洗濯物を積み上げ、お湯がたまったところで着ていたものも脱いでさらに積み上げる。
「普通の洗濯じゃ落ちそうにないからあとで踏もう……」
一度お湯で下洗いしないとどうにもならなそうな汚れが大半である。
「うわぁ、服だけじゃなくて僕が汚い……」
髪は一度目ではまったく泡立たなかった。体はざっくり洗ってから湯槽に浸かったのに、お湯の表面に何かいろいろ浮いてきた。全身念入りに二度洗いして、湯も入れ替え、ユランは漸く落ち着いて湯槽に沈み込む。
「一週間ぶりだもんなあ、お風呂」
討伐の間、川の近くでは水を浴びたりもしたが、基本は桶一杯程度のお湯を貰い、それに浸した布を固く絞って体を拭くだけである。
「あ、紙鳥だ」
顔も半分浸かるくらいどっぷりと沈み込んでぶくぶくしていると、白い小鳥のような光が舞い降りる。
「『今日はもう来るな。ゆっくり休め』って……えええー」
もう夕方ではあるが、今から出れば神殿の門が閉まる前に充分再訪できるのに。エイダールからの紙鳥を握り締めて、ユランは不満を洩らす。
「何故分けて送るんですか?」
後から伝えたい内容が増えた、というのなら分かるが、先に三通の伝送紙を書き上げてから一通目を送ったエイダールに、フリッツが首を傾げる。
「こうしないとユランの場合、だめって言われたけど来ちゃった、とか言いだすからな」
確実に止めたい場合は二度言う必要があると、二通目を送り、三通目も送る。
「確かに猪突猛進な感じではありましたが……」
紙鳥を三度使うのは贅沢な話である。
「え、今度は何」
ユランの頭上に、またぽわんと白い光が現れ、その紙鳥には『いいか、絶対に来るなよ』と書かれていた。思わず伝送紙を握り潰したユランが自分の信用の無さについて考えかけたところに三通目だ。
「『明日来るなら研究室に寄ってスウェンから書類を預かってきてくれ』か。はいはい分かりましたよ言う通りにしますよっ」
二通目が握り潰されることまで予想して、三通目にお使いを記したエイダールの読み勝ちである。
「先生! おはようございます! 書類を預かってきました!」
翌朝、ユランはスウェンの出勤を待ち構えて書類を受け取り、神殿行きの乗合馬車に乗った。
「早いな。熱心な信者しか来ないぞこんな時間」
丸一日祈りを捧げようと意気込む層と同じ時間である。エイダールは朝食を済ませたばかりだ。
「本当は昨日来たかったのに、先生が絶対来るなとか言うから我慢したんじゃないですか」
ユランはぷっと頬をふくらませる。
「魔獣討伐帰りにそんなにうろうろするもんじゃないだろ」
休ませたかったのである。
「分かってますけど……スウェンさんが、そろそろ先生に戻ってもらわないと困るって言ってましたよ。いつ頃戻れるんですか? 最初二週間くらいって言ってましたけど、もう過ぎてますよね」
エイダール不在の中での新学期準備には限界があり、スウェンは一刻も早く戻って欲しそうだった。
「うーん、あと二日くらいで片付けようと思ってるが」
結界の機能確認と微調整が済めば、あとは枢機卿に任せて帰るつもりだったのだが、その枢機卿の体調が優れない。結界張りで無理をした上に、例の事件の責任の所在について国との折衝もあり、ちょっと放っておけない状況だった。
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