弟枠でも一番近くにいられるならまあいいか……なんて思っていた時期もありました

大森deばふ

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73「本人の意向も一応聞いてやれよ」

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「こちらとしては、もう少し居ていただきたいのですが、お願いできませんか?」
 エイダールがそろそろ帰りたい、という希望を伝えたところ、枢機卿は申し訳なさそうな顔をしながらも、引き留めた。
「おや、漸く神殿の子になってくれるのかと思っていたのに、帰るんですか」
 教皇は、エイダールを取り込む気満々である。
「俺はあくまで一時的な手伝いだっつってんだろ」
「神殿に入ってくれるなら、我が家で養子縁組しますよ」
 教皇が気軽に誘ってくる。神官は貴族でなければなれないので、平民が神殿に入るには養子縁組などで貴族籍に入る必要がある。
「人を勝手に養子にしようとすんな」
 エイダールは魔力量の多さが判明してから、そんな誘いは山ほど受けている。成人するまでは養子縁組の話が多く、成人してからは婚姻の打診が多い。
「そうですよ、先生の魔力だけが目当てな人には渡せませんっ」
 エイダールの背後に立っていたユランが、誰にも取られまいと抱き寄せる。


「……この大きな番犬みたいな子は何なのかね?」
 教皇は尋ねた。微笑ましいが、視覚的にかなり邪魔な大きさである。
「ああ、こいつは弟みたいな? 同郷の幼馴染みなんだけど、暫く抱きついてないとだめらしい」
 綺麗にしてきたんだから抱きついていい筈だという主張のもと、離れないユランである。剥がしても剥がしてもくっついてくるので、気が済むまで好きにさせておこうと放置しているところだ。
「だめ、とは?」
 例えばここが西区の警備隊であれば、『そうかユランだからな』で納得されることも、神殿ではそうはいかない。フリッツが、困惑したような顔になっている。
「だめったらだめなんですよ」
 ユランの説明は説明になっていない。強いて言えば、考えるな感じるんだ、という領域である。
「まあ、そのうち剥がれるから気にすんな」
「はい……」
 くっつかれている本人がいいならいいか、とフリッツは考えるのをやめた。


「神殿入りはともかく、結界石への魔力の充填の完了までは契約内でしょう」
 そこまでは責任を持ってほしい枢機卿である。
「そうだな、あと二日で行けると思う。それを区切りにする」
 居たら居たで働かされるしな、とエイダールは期限を切った。
「ああそうだ、回復術師のフォルセもそこまでだな。俺が経過観察と責任を持つってことで、療養中なのを借りてきてる形だから」
「そんな……あの人にはお世話になっているのに」
 フリッツは、回復術師がいなくなると聞いて口を押さえ、枢機卿も残念そうな顔をする。
「あいつ、もう療養の必要なさそうだけどな。魔力の生成量は下がってないけど、体のほうが多いのに慣れて制御出来るようになってるし」
 念の為に魔力硬化症の薬は携帯しておいたほうがいいが、退院して問題ないのではないかと思う。
「治療院で働いている、と聞きましたが、それなら神殿の管轄内ですよね。異動してきていただきましょうか」
 治療院は別組織といえば別組織なのだが、運営母体は神殿である。
「任命書を用意してきます!」
 フリッツが書類を取りに走っていく。
「本人の意向も一応聞いてやれよ……」
 エイダールは呆れるが。
「こういう時のための特別任命権ですよ」
 枢機卿は悪びれない。本来の特別任命権は、緊急時の手続きを簡略化するものなので、気に入った人材を引き抜くために使うものではない。




「えっ、僕はここまでなんですか?」
 深層部に下りるエイダールに当然のようについて行こうとしたユランは、階段の上でやんわりと引き剥がされた。
「ここからは部外者立ち入り禁止だからな。というか、もう気が済んだだろう、俺は大体地下に籠りっぱなしになるから、お前は帰れよ」
 研究所のスウェンに書類を届ける仕事もある。
「えー、来たばっかりなのに」
 ユランが来てからもう二時間くらい経っている訳だが、ユランの体感では来たばかりのようだ。
「では、彼らが地下にいる間、この年寄りの付き添いを頼めないかね?」
 教皇が、にこにことユランの手を取った。
「王城に呼ばれているのだけどね、あそこは階段が多くてね」
 ユランを杖代わりにしたいらしい。
「昼食時には戻れるだろうから」
 昼食時にはエイダールも地下から上がってくるので、一緒に食事をしてから帰ればいいと提案する。
「えっと」
 ユランは自分では判断がつかず、エイダールを見た。
「今すぐ帰らないなら付き合ってやるといい」
 教皇の側仕えの使えなさに比べれば、杖代わりを果たすだけでも十分だろう。
「分かりました」
「そうかそうか、助かるよ、付き合ってくれてありがとう、国王と会うのに」
 王城からの呼び出し=国王との謁見だったらしい。
「え……それ、僕がついてっていいやつ?」
 ユランからすると、国王は雲の上の人である。
「陛下との謁見に連れて行く気かよ。大丈夫だユラン、猊下の付き添いってことなら問題ない」
 陛下とか猊下とか、馴染みのない敬称に、ユランの脳は一瞬理解を拒否した。
「よくわかんないけど、はい」
「国王と言っても、人間だからね。取って食われたりはしないよ。それに神殿は独立機関だからね、手出しをされることはないから緊張しなくていいよ。そうだ、それっぽい服に着替えようか」
 悪戯っ子のような瞳でユランを見ていた教皇は、着替えの用意を命じた。
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