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犯人は高祖母
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「祝福ですか? 猫になる呪いではなく、猫になる祝福だとでも?」
父さまが怪訝な顔でジスカール卿に質問している。私もそこのところを詳しく知りたい。
「正確には、『可愛いものをより可愛くする祝福』だね」
待ってジスカール卿、何が言いたいの!?
「そんな祝福、聞いたことがありませんが……」
父さまも困惑している。祝福と言えば幸運を祈ったり授けたりだよね? 猫になることとは繋がらないと思うんだけど。
「前に本を預かっただろう? デイジー嬢が触れて猫になったという」
「はい」
父さまが頷く。あの本、ジスカール卿のところに行ってたんだ。
「調べたところ、あの本には祝福が封じてあったのだと思う。ただ、年数経過で封印が弱くなっているところに、運悪くデイジー嬢が触れたことで解いてしまった訳だ」
運が悪いで済まさないでほしいんですけど。
「あれはいわゆる『ワークスの遺産』だった」
「ワークス?」
聞き慣れない言葉を鸚鵡返しにした私が首を傾げると、御子息が説明してくれた。
「家門の名前だよ。昔、優秀な魔術師を数多く輩出していたワークスという家門があったんだ。今はないんだけど」
今はなき名門ということかな。
「優秀だが変わり者も多くてね」
ジスカール卿が続けて教えてくれる。名門という訳ではないようだ。
「そのワークス家の者が作った、奇妙な魔法や魔道具が幾つか遺されているんだが、それを総じて『ワークスの遺産』と呼んでいる」
なるほど。
「そのワークスの遺産を研究して書かれた本があるんだが、その後書きに、こんな記述があった」
ジスカール卿は、懐から手帳を取り出し、中ほどの頁を開いて父さまに渡した。その後書きを書き写してきてくれたらしい。
「拝見します」
受け取った父さまが、隣にいた母さまとともに手帳に目を落とした。私も母さまの膝によじ登って覗き込む。
ワークスの遺産を調べる中で、出会った女性の話を書き留めておきたい。
ワークス家出身のその女性魔術師は、膝の上に乗せた仔猫を撫でながら、
『この猫は私の娘なの』と言った。
『可愛いものをより可愛くする祝福を与えた』のだと。
絆深き者からのキスで元に戻るのだという。
事実かそうでないかは不明だが、
さすがワークス家の末裔だと思った出来事だった。
「デイジー嬢の状況と、合致していると思うのだが」
確かに似ている。でも、これ、どう考えても呪い!
「そうですね……そういえば昔、祖母から『私、小さい頃猫だったのよ』という話を聞いた記憶があります。てっきり作り話だと思っていたのですが」
父さまが、そんな思い出を語り出す。
「ハルシャ、君も聞いたことがあるだろう?」
「ええ」
母さまは頷いた。父さまと母さまは従兄妹同士なので、祖父母は同じだ。
「お祖母さまのお母さまは猫好きで、可愛い娘と可愛い猫を一緒にしたらより可愛いと仰っていたとか何とか」
完全一致である。
「預かった本の著者は、ベリル・アスター。古い貴族年鑑で確認したが、旧姓ベリル・ワークス、ワークス家の令嬢だ。当時は女性が職を持つということは殆どなかったから、魔術師と書かれているということは相当な実力があったということだろう」
以上、証明終わり、みたいな口調で、ジスカール卿が締め括る。
「つまり、私が猫になっちゃうのは、父さまと母さまのお祖母さまのお母さまの、ええと」
「デイジー嬢から言うと、高祖母にあたる方かな」
系譜を辿ろうとして訳が分からなくなった私に、御子息が答えをくれた。
「はい」
ああもう、高祖母さまったら余計なものを残して!!
「ということで、祝福だということは分かってもらえたかな?」
「高祖母さまがイカれた魔術師だったというのは分かりました」
ぷん、と口を尖らせると、ジスカール卿がぷっと吹き出した。
父さまが怪訝な顔でジスカール卿に質問している。私もそこのところを詳しく知りたい。
「正確には、『可愛いものをより可愛くする祝福』だね」
待ってジスカール卿、何が言いたいの!?
「そんな祝福、聞いたことがありませんが……」
父さまも困惑している。祝福と言えば幸運を祈ったり授けたりだよね? 猫になることとは繋がらないと思うんだけど。
「前に本を預かっただろう? デイジー嬢が触れて猫になったという」
「はい」
父さまが頷く。あの本、ジスカール卿のところに行ってたんだ。
「調べたところ、あの本には祝福が封じてあったのだと思う。ただ、年数経過で封印が弱くなっているところに、運悪くデイジー嬢が触れたことで解いてしまった訳だ」
運が悪いで済まさないでほしいんですけど。
「あれはいわゆる『ワークスの遺産』だった」
「ワークス?」
聞き慣れない言葉を鸚鵡返しにした私が首を傾げると、御子息が説明してくれた。
「家門の名前だよ。昔、優秀な魔術師を数多く輩出していたワークスという家門があったんだ。今はないんだけど」
今はなき名門ということかな。
「優秀だが変わり者も多くてね」
ジスカール卿が続けて教えてくれる。名門という訳ではないようだ。
「そのワークス家の者が作った、奇妙な魔法や魔道具が幾つか遺されているんだが、それを総じて『ワークスの遺産』と呼んでいる」
なるほど。
「そのワークスの遺産を研究して書かれた本があるんだが、その後書きに、こんな記述があった」
ジスカール卿は、懐から手帳を取り出し、中ほどの頁を開いて父さまに渡した。その後書きを書き写してきてくれたらしい。
「拝見します」
受け取った父さまが、隣にいた母さまとともに手帳に目を落とした。私も母さまの膝によじ登って覗き込む。
ワークスの遺産を調べる中で、出会った女性の話を書き留めておきたい。
ワークス家出身のその女性魔術師は、膝の上に乗せた仔猫を撫でながら、
『この猫は私の娘なの』と言った。
『可愛いものをより可愛くする祝福を与えた』のだと。
絆深き者からのキスで元に戻るのだという。
事実かそうでないかは不明だが、
さすがワークス家の末裔だと思った出来事だった。
「デイジー嬢の状況と、合致していると思うのだが」
確かに似ている。でも、これ、どう考えても呪い!
「そうですね……そういえば昔、祖母から『私、小さい頃猫だったのよ』という話を聞いた記憶があります。てっきり作り話だと思っていたのですが」
父さまが、そんな思い出を語り出す。
「ハルシャ、君も聞いたことがあるだろう?」
「ええ」
母さまは頷いた。父さまと母さまは従兄妹同士なので、祖父母は同じだ。
「お祖母さまのお母さまは猫好きで、可愛い娘と可愛い猫を一緒にしたらより可愛いと仰っていたとか何とか」
完全一致である。
「預かった本の著者は、ベリル・アスター。古い貴族年鑑で確認したが、旧姓ベリル・ワークス、ワークス家の令嬢だ。当時は女性が職を持つということは殆どなかったから、魔術師と書かれているということは相当な実力があったということだろう」
以上、証明終わり、みたいな口調で、ジスカール卿が締め括る。
「つまり、私が猫になっちゃうのは、父さまと母さまのお祖母さまのお母さまの、ええと」
「デイジー嬢から言うと、高祖母にあたる方かな」
系譜を辿ろうとして訳が分からなくなった私に、御子息が答えをくれた。
「はい」
ああもう、高祖母さまったら余計なものを残して!!
「ということで、祝福だということは分かってもらえたかな?」
「高祖母さまがイカれた魔術師だったというのは分かりました」
ぷん、と口を尖らせると、ジスカール卿がぷっと吹き出した。
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