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もふもふっもふもふっ

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「私も撫でさせてもらえるかしら」
 しゃがみ込んだトリウさまに撫でられていたら、お友達が羨ましそうに見てくる。
「ミャミャ(撫でていいよ)」
 可愛い女子にモフられるなら大歓迎である。しっぽをパタパタしてみせる。
 そうそう、この二年で、しっぽもある程度は自由に動かせるようになった。驚いた時なんかの咄嗟の感情に反応するときは勝手に動いちゃうし、思った角度に曲げられる訳でもないんだけど、パタパタさせるくらいなら余裕である。
「大丈夫だと思うわ、人懐っこい子だから」
 人懐っこいっていうか、人なんですよトリウさま。見た目猫だけど。
「ミャァウゥ(ほらほら撫でて)」
 お友達の足に頬をすりすりし、しっぽを絡ませる。
「やあんもう可愛いっ」
 もふもふっもふもふっ、もふもふっもふもふっ。
 あ、待って、ちょっと、激し……っ。はふん。




「そうそう、それでね、次の公開訓練日にこっそり顔を見に行きたいのだけれど」
 トリウさまのお友達は猫好きだったようで、お喋りも私を膝に載せて撫でながらとなる。もみくちゃにされる激しい責めが終わって、一安心である。
 お喋りの内容は、婚約話が持ち上がって相手が騎士団にいるのだけれど、顔も知らないので見に行きたいということのようだ。騎士団は月に一度くらいのペースで部外者も訓練を見学できる日があるらしい。
「家には内緒で行きたいのよ。縁談に前向きだと思われたくなくて。でも一人じゃ不安で……トリウさまも一緒に行って下さらないかしら」
「ええ、そういうことなら御一緒するわ。お兄さまにもたまには差し入れでも持って見学に来いって言われてるし」
 トリウさまのお兄さまは騎士団員で……というかお父さまも騎士団に所属している。いわゆる騎士家系である。
「でも結婚するなら騎士さまって言ってたのに前向きじゃないの?」
「騎士さまなら誰でもいい訳じゃないもの。クマだったらどうするの」
 騎士は好きだが、体が大き過ぎたり筋肉もりもりの人はだめということだろうか。トリウさまのお友達は細身の人が好きなのかもしれない。若い御令嬢はだいたいそうだしね。私は体格の許容範囲は広いけど、脳みそまで筋肉なタイプは遠慮したい。
「騎士団にクマはいないわよ」
 トリウさまが、至極真っ当なことを言った。
「やだ、トリウさまったら、もののたとえよ!?」
「わかってるわ」
 キャッキャウフフなガールズトークは続く。
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