亡国の王子の復讐

朝日

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試される絆 Ⅲ

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一方で、この夜半に音もなく動く影があった。

女性用の宿舎に躊躇いもなく忍び込む男は、手慣れたように一人用の部屋のドアノブを握る。もちろん鍵はかかっていたが、代わりは用意してあるため、それを鍵穴へ差し込む。

簡単に開いたドアからするりと猫のように潜り込めば、小さな灯りのなかで机に向かうアルトリアの後ろ姿が見えた。彼女は集中しているようで、男には気づいていない。


息を殺して近づいていく。そのまま、医学の書物に目を運んでいたアルトリアの首に絡みつこうと腕を伸ばそうとした――が。


「また貴方なの?今度来たらブチのめすって言ったわよね?」

その時、アルトリアは護身用に持っていた剣を突きつける。

わあ怖いと白旗を上げるように降参の意志を示すのは、自他共に認める女たらしのルークだった。


「そんな怖いもの持ってるんですね。さっすがエドームの名医~隙がないな」

「夜這いかけようたって受け入れるつもりないわよ。貴方に抱かれるなら喜んで身を差し出す子はたくさんいるかもしれないけれど、私は違う。残念ね、他を当たりなさい」

足を組んで半身を向けるアルトリアは、普段高い位置で束ねている髪を今は下ろしていた。

ルークは反省する様子もなく、ふっと柔らかく笑いかけるが、アルトリアは面倒臭そうに手であしらう。


「……ひどい人だな。もうずっと前から俺の心を鷲掴みにして離さないくせに、興味も示せず何も応えてくれない。毎晩夢の中だけでは逢えるのに、現実の貴方はいつだって冷たい」

傷ついた表情をつくり、ルークは下に視線を向ける。演技なのか本気なのか判断が難しいほど、ルークは儚い顔をしていた。


「その甘ったるい台詞やめてくれるかしら。聞いているだけでも悪寒が走るわ」

しかしぶるっと肩を震わせて怪訝な顔をするアルトリアは、わなわなと口を動かす。


「俺の気持ちは分かっているんでしょう?ライアン様の配下になった時から、貴方しか見て来なかった。他の女の子に手を出すことでしか、心を落ち着かせられなかった。ひどい時では貴方を思いながら自分で慰めることもありました」

「あら、健康的でいいじゃない。どうせ次の日には新しい子で満たされたはずよ。あ、そういえばもうこんな時間なのね。悪いけど、眠いから帰ってくれない?明日朝早くから忙しいのよ」

「……ガン無視ですか」

ルークは寂しそうに呟き、めげずにアルトリアに一歩迫った。熱っぽい瞳は色っぽく細められ、誘い込むような唇は緩く半円を描く。

アルトリアはだるそうに短剣を差し向けるが、ルークはその腕を手慣れたように掴み、主導権を奪った。癒しの技術を秘めた細い手を愛おしげに見つめ、絞り出すように口を開く。



「そんなにライアン様がいいですか?俺じゃ、ダメですか……?」

「ダメね」

「即答ですか」

甘い雰囲気を一瞬でかき消すアルトリアの返事に、ルークは困ったように微笑んだ。


「健気なほど一途な貴方も、愛おしく感じます。でも見ていてつらい……俺に、全てを預けて楽になってほしい。何もかもさらけ出して、俺だけに染めたい……一夜だけでも、」

「はいはい。分かったからこの手を離してちょうだい」

「本当に分かっていますか?俺が、どれだけ貴方に夢中なのか。何をしていても頭から消えないのに…!」


ルークは性急な動作でアルトリアをベットに押し倒した。持っていた短剣が床に落ち、カランッと大きな音を立てる。白のシーツはいくつも皺が寄り、二人分の体重が乗るとギシッとベットが揺れた。

ルークはアルトリアの上に覆いかぶさり身動きが取れないように押さえ付けると、強引に唇を奪う。すぐに舌を流し込み、唾液を薄く絡ませた。そしてお互いが触れるか触れないかの微妙な角度を駆使し、ルークは湿っぽい息遣いを堪能する。

じれったさと優しさが覗くかと思えば、突然激しくなったりする。さすがに上手いと認めざるを得なかった。アルトリアは嫌そうな顔をして突き放そうとしたが上手くいかない。


しばらくしてアルトリアの目がトロンとしてくると、ルークは短い距離を取って様子を窺った。ふうっと悩ましげな吐息を漏らすアルトリアは気になっていた事を聞く。


「……貴方、かすかだけれど血の香りがするわね。戦って来た後?」

「おかしいな、血は流してきたはずなのに。分かりますか?」

「私を誰だと思っているの。そうね…思い当たるとすれば、イリス様の刺客の退治にでも駆り出されたとか…?」

「ご名答です。イリス様はご存じないかもしれませんが、トルシア国に入る前から狙われていましたよ。おかげで寝不足です」


アルトリアの目が、不安げに揺れた。



「そう……ゼクス様の家臣の誰かがイリス様の命を狙っているのね。それを危惧してイリス様は公表しないでいたんだけれど」
 
「いつかはバレますよ。完全なものなんて存在しないんですから……イリス様が、心配ですか?」
 
心の内を覗き見るかのような仕草で、ルークは質問する。
 
 
「心配よ。あの方こそ、ライアン様の幸せだから。簡単に失くさせたりしないわ」
 
「妬けるな。貴方はライアン様にしか傾かない。ずっとそうでしたね。惑わされることもなく、想いを押し殺してただ一人を愛し抜く……それがどれだけつらいか」
 
貴方に分かるの?と、アルトリアは目でたずねた。ルークは白い頬に手を添え、優しく親指で輪郭をなぞる。
 
 
「分かりますよ。俺は、貴方と同じ状況ですから。どれだけ求めても叶うことがないのに、期待をしてしまう。無駄だと諦めても、どうしても欲しいと願う。この思いが狂気に変われば、ライアン様さえ手に掛けてしまいそうだ」
 
ルークの想いに、偽りは込められていないようにアルトリアは感じた。
 
ここまで内に滾らせた恋慕を抑え付けることも苦しさが付き纏う。永遠に分かり合うことがないと知っていても、願わずにいられない。その葛藤は、アルトリア自身何度も経験してきたものだった。
 
 
「そんなことをしたら、私が黙っちゃいないわよ」
 
「でしょうね。ライアン様も全てを分かっていて、貴方を傍に置いている。残酷な人だ」
 
そうして再び、口付けを落とす。啄ばむように交われば、アルトリアは否定を示さず、どちらかと言えば受身で、されるがままになった。
 
ルークは自由を奪っていた手をゆっくりと離す。全力で嫌がるなら叩いてまで抵抗を見せればいいものを、アルトリアは何も言わず試すようにルークを見つめる。


「そんな貴方も、狡い人ですね。俺の気持ちを分かっていながら、こうやって流されている。同情ですか?憐れみですか?自分と同じ境遇にある俺を、完全には拒否しないですね」
 
「あら、そう見えるかしら。これでも冷たく当たっているつもりだけれど」
 
「別にこのまま抱かれてもいい、なんて思っていますね」
 
「……似た者同士、慰め合うことも悪くはないかもしれないわね。後から振り返ればつらくなるのは目に見えているのに、今はどうでもよく感じるわ」
 
呟くアルトリアの言葉に、ルークは綻ぶように笑んだ。
 
 
「それでもいい。今だけは、貴方を俺のものにできる」
 
それを合図に、ルークの手がアルトリアの衣服に伸びていく。柔い感覚が全身を貫き、愛しいと囁くような指が何度も往復する。
 
アルトリアは、今自分を触れている相手がライアンだったら良いと、甘く沈むような意識の中で思った。
 
 
ルークは、『貴方』と言って、決して名を口にしなかった。心で幾度も唱えた愛しい人を呼べば、更に自分を追いつめると分かっていたからだろうか。
 
今こうやって交わっていることで、少しでも現実から逃避していたいと望んでいる。利用しているのは、ルークも一緒だった。報われない恋情を掬い取るかのように、激しさを加速させ、昂った気持ちをぶつけてくる。
 
残酷ね、とアルトリアは自嘲気味になる。お互いが結ばれるはずがないと理解したうえで性交をしている。延長線上で見えてくるものなど何もない。そう、ただ溺れていくだけで、慰めも感じない。
 
 
ふと快楽に包まれながら、イリスを思い返し、彼女もこんな思いを抱いているのかと考えた。
 
心優しいあの人なら苦悶に喘ぎながらも、必死で自分を貫こうとするだろう。ライアンとは違う、ただひとりの想い人を、求め続けるのだろう。
 
未来がどうなるか、その先は誰にも想像がつかない。少しずつ形を変え、湾曲し、それでも進んでいく時間の中で、重なり合った感情はどう傾いていくのだろう。
 
 
アルトリアは、彼女には、幸せになってほしいと願った。真っ直ぐに立ち向かっていくイリスを、心のどこかで好きになっていた。
 
嫉妬したこともあった。なぜ私じゃないのと憎く思ったこともあった。それでも、接していくうちに、ライアンが惹かれるのも仕方のないことのように思えた。
 
 
イリスに、心からの笑顔が、花咲く日が来てほしい。なぜかそう強く祈ってしまう。どうしたって手に入れたい人が望んでいるただ一人の存在を、こんな風に思う日が来るとは意外だった。
 
しかし次第に、他の事を考える余裕さえ与えられないほどの巨大な白い波が襲い掛かり、アルトリアは熱量の含んだルークに全てを飲みこまれていく。見える世界は呆気なく崩れ去ってしまった。奥に潜んでいた性が五感を覆い尽くして止まらなくなる。
 
そして、思い知る。自分も、ただ一人の女にすぎないのだと。

 
 
――ポタリ…とアルトリアの瞳から零れ落ちるその涙はすぐに消えていき、薄暗い明りの中で頼りなく、揺れていた。
 



朝が明け、最終日がやってくる。

イリスは体調が良くないと判断され、決勝である最後の試合を見ることは叶わなかった。午前中はロズが付き添い、横になるイリスの傍にいた。


「……ごめんなさい。昨日、勝手にいなくなって」

「いいえ」

「何も、聞かないの?」

「イリス様が言いたいと思う日まで、私は待ちますよ。無理強いは致しません。ですが、どうか一人で抱え込まないでくださいね」

ロズの言葉が身に染みていき、イリスはこくりと小さく頷く。窓から差し込む温かい光を受けて、イリスは膨らみかけた腹部に手を添えた。そして気付いた事を口にする。


「私の命を、誰かが狙っているようね」

「っイリス様、それは…!」

「ルドから真新しい血の痕が見えたわ。それに、トルシア国に入る前からずっと誰かに見られている気配がした。ルドがいつにも増して眠そうにしていたのだって、ずっと見張りを続けてくれていたからでしょう?」

イリスは半身を起こそうとすれば、ロズが立ち上がり支えてくれた。ありがとうと言って楽な体勢になると、不安そうな顔で口を引き結ぶ。


「私の我が儘で、皆を危険に晒した…これからは、外出も控えるわ。必ず、この子を産んでみせる…何があっても」

強い決意をもらし、イリスはぐっと拳を握る。ロズも想いを汲み取るかのように背中に手をあて、イリスと視線を合わせた。


「……カモーアの王子には?」

「妊娠したことは知っているわ。でも…ディルには迷惑を掛けたくないから、何も言わずにここを去るつもり……会えて、本当に嬉しかった。もう高望みはしないわ」

イリスは感謝を込めて笑顔を向けると、ロズはつらそうに首を振った。もっと甘えて下さいと静かな声で語りかける。


「イリス様の幸せが、私の幸せです。そんなに強くあろうとしないでください。ありのままの貴方でいてほしいのですから」

「……ロズ」

イリスは胸が詰まり、せめて笑おうと頬を強張らせた。ロズは応えるように優しく頷き返し、イリスの手を包み込む。

温かい気持ちになると、イリスは突如吐き気を催し、口を押さえて息をとめた。ロズは、慌てて背中を擦ってくれる。


「少し横になってお休みください」

その言葉に従い、イリスはゆっくりと上体を倒した。やがて睡魔に誘われ、目を閉じる。最近はすぐに寝付くようになり、これも妊娠による症状なのかとおぼろげに感じた。










「――…気を付けてね、イリス」

フローラは悲しそうに呟く。

別れの時間だった。次の日、帰還の準備を整えたエドームの一行はゆっくりする暇もなく、サイへ戻ることを決めた。

ライアンは刺客の正体を断定し、人が賑わう競技大会でイリスの命を狙おうとしたことを本人に包み隠さず告げる。悟っていたイリスは応じるように頷き、早めの帰還を承諾した。


「ええ、お姉さま。短い間でしたが、とても楽しかったです」

「国賓の挨拶だったり、忙しくてなかなか時間を作れなかったのは残念ね。でも、またイリスに会えたことが嬉しかった」

ぎゅっと抱きしめられ、イリスも微笑みながらフローラの背に手を添えた。


「ウィールとサミルのこと、頼んだわ。あの子たちは、貴方がそばにいるのが一番だと思う。押し付けてばかりいるけれど、イリスに託すわね」

「はい」

「……妊娠していること、最後の最後まで黙っていたわね。気付いていたのよ。イリスが何も言わなかったから、私も触れなかったけれど」

えっと思い、イリスは驚いた表情を見せる。フローラは呆れたように息をつき怒ろうとしたが、ふっと破顔してイリスを離した。


「内部事情に手を出すと、私に被害が及ぶと思ったのね。そんな優しい所も変わっていなくて安心したわ。でもね、少しは頼ってほしかった」

「ごめんなさい…」

いいのよ、とフローラは首を振った。そして名残惜しげにイリスを見つめる。


「ここからずっと、イリスの事を思っているわ…何も出来ないけれど、無事生まれることを祈ってる。いつかまた、赤子を抱いたイリスを見れる日を、待ち望んでいるから」

にこやかに笑いかけ、けして奥には踏み込んで来ないフローラに、イリスは締め付けられるような思いを感じた。

それを望んでいないと知っているから、深くまで聞こうとはしない。本心では気になって仕方がないはずなのに、自分の思いを尊重してくれているのだと分かる。

自分の子が左右する、カモーアやエドームの問題にフローラを巻き込みたくはなかった。だからこそ、黙っていた。フローラもそのことは理解してくれていた。


血の通った姉妹に感じるのは、いつだって安心と居場所だった。孤独を払拭させる、温かい心がここにはあった。イリスは心強く思い、最高の笑顔で別れを告げた。


「はい。必ず、また会いに来ます」


――必ず、また。

イリスは再度呟き、もう一度だけ抱擁を交わすと、ライアンの元へ去っていった。

そんな後ろ姿を目に焼きつけながら、フローラは寂しそうに目を細める。そして小さな声で「どうか、幸せになって……」と見送り続けた。




『ゼクスの家臣が次期後継者争いを恐れて、お前の命を狙っている』

帰還の道中、ライアンにそう言われ、イリスは一人で出歩くのを避けるようになった。

なぜ、ゼクスがトルシア国へやってきたのか。それは、サイとカモーアの戦いの真相を告げる他にも目的があったらしい。


『わざわざここまで、知らせに来た。俺の家臣がイリスの命を狙っている。殺させたくなければ、イリスの周りの警備を強化しろ、と』

その真実を、イリスは意外そうに聞いていた。まさか忠告しに来たのかと疑問に感じ、真意を図りかねた。ゼクスの行動を読み取ることは難しいとイリスは頭を悩ませて息をついた。



やがて五日間の旅を終え、無事サイに辿り着いてから、身の回りの世話も全てロズに任せるようになる。


これまで若い侍女も出入りできた室内を制限し、城内を歩く時もルドを供につかせ、常に警戒を怠らなかった。

そんなに気を張り詰めなくても敵が現れたら俺が叩きのめしてやるよと安心させるようにルドから肩を叩かれ、イリスは苦笑しながら礼を言った。


その頃からライアンも食事から入浴まで厳しい目で見ることが増えた。

食事に関しても毒見役を通してから食べるのが原則で、入浴時にもそばには誰かがひかえるという徹底ぶりだった。ライアンは時間が空いた時には顔を出して様子を窺いに来る。

そして夜になれば、必ず二人で眠った。ライアンはイリスが寝息を立てるまで、ずっと隣で起きていた。


そんな窮屈な生活が続き、イリスの行動はだいぶ狭まった。しかしこれも全て自分のことを考えてくれているのだと分かっていたイリスは嫌がることなく受け入れ、素直に指示に従う。


妊娠が発覚してから半年を迎えると、イリスは外出を控え、部屋に籠ることが多くなった。

元々公務に追われる日々を送っていたため大差はないように思うが、やることがないとこんなにも時間を持て余すのかとイリスは暮れていく太陽の動きを感じながら感傷に浸った。

読書をしたり、花を活けたり、時々ウィールやサミルと過ごしたり、そんな穏やかな毎日を繰り返していたが、イリスはディルが頭から離れることはなかった。
 

今、何をしているのだろうか。無意識でもそんなことを考えてしまう。ロズから順調に復興は果たしていると聞くとほっと胸を撫で下ろす。そして僅かに苦しさを覚えた。


結局、競技大会で会った日を最後に、ディルと言葉を交わすことはなかった。

もしあのまま再び会ってしまっていたのなら、耐えきれずに飛び出していたかもしれない。歯止めが引かないまま、衝動に従うまま、もう離れたくないと縋っていたかもしれない。
 
目を閉じて、思う。

『何があっても、俺の心は変わらない』
『いつだってイリスを思ってる――…俺を、信じろ』

強く心に響いたディルの声は、今でも鮮明に在り続ける。自分の道を真っ直ぐに照らしてくれている。と同時に、ライアンの優しさがずっしりと重く圧し掛かるのだった。


不安定なイリスの体調を気遣いながら、ライアンは産まれてくる子の将来を語ることもあった。

いつも男は産むなと口にして笑う。女ならイリスに似て利発な子になるだろうと待ち遠しそうに目を細めた。それを見て、イリスは幾度も罪悪感に縛られた。


この人に応えたいと思う自分も否定はできない気がした。

ここまで愛情を示してくれるライアンに、あの狂うような憎しみはもう感じない。人柄に触れ、人情に触れ、心が揺れ動かないわけではなかった。

しかしライアンの温度が、真の境界線を越えることはない。いつだって心の中心に熱を帯びるのは、ディルと交わしたあの約束だった。


胸が苦しくて仕方がなかった。ライアンが笑みを向けるたび、尖った刃で裂かれるような痛みを感じる。

心までは譲らなくていいと優しい逃げ道をくれたライアンに、いったい自分は何を返せるのだろう。イリスは何度も自問し答えを求めたが、一向に辿り着くことはなかった。



――そして間もなくイリスは無事臨月を迎えた。お腹はぽっこりと膨らみ、胎児の動きもよく分かるようになる。当初つわりもひどかったが、出産間近になるとだいぶ楽になった。


「そろそろ、ね……」

なぜ自分で分かったか不思議だった。とうとう引き締められるような強い張りに襲われ、イリスは激痛に喘ぐ。そばにいたロズが異変に気付き、慌てて医者を呼びに行った。


ついに、対面できる。イリスは一人陣痛に耐えながら、まだ見ぬ我が子を思った。


ディルの子でも、ライアンの子でも、愛おしいのに変わりはない。自分を選んで宿ってくれたかけがえのない命を、早くこの手で抱きしめたかった。

この子がもたらす波紋がどう広がっていこうと、必ず守ってみせる。イリスはぐっと手を丸め、長い出産を開始した。



気が遠くなるような時間を行き来する。


後ろでロズが支えてくれるのが分かる。アルトリアが懸命に何かを言っているのも聞こえたが、一枚壁を隔てた先にあるように言葉の意味が掴めなかった。

苦しい。命が産まれるとは、こんなにも痛みを伴うものなのか。母もきっと、こんな気が狂いそうな中で私を産んだのだろうとイリスは歯を食い縛りながら必死に耐えた。


激しい息が切れ、額には珠のような汗が浮かび、気力さえ蝕まれていく。

裂ける、と何度思ったか数えることも忘れた。何時間経過したか感覚さえないに等しく、ただただ、目の前の現実にすがりつく。


どうしてなのか、こんな時でさえ銀色の面影が瞼の裏に刻み付いている。

おぼろげな意識に浮かぶ愛しい存在が、声もなく助けてくれているような気がした。早くこの子の顔が見たいと思う気持ちだけでイリスは自分を奮い立たせた。


やっと、誰なのかも認識できない声が、いきんでくださいっと大きく叫び、イリスは腹部に精一杯力を込める。ぐうっと締め付けられるような刺激が走り、数秒後、ハッと息をのむ音がした。


「もうすこしです、がんばってください!」

事前に言われた呼吸法を守り、イリスは限界まですり減った力を絞り出していきんだ。


狭い道を通って、新たな命が顔を出す。イリスが脱力した次の瞬間、空気を切り裂くような産声が木霊した。



「――姫様です!」

ひめ、さま。女の子。


イリスはぐちゃぐちゃな涙が零れ、薄っすらと笑んだ。ありがとう、と掠れた声で囁く。

ぐったり弛緩した体は痛みの余韻に震え、それさえ吹き飛ぶほどの嬉しさがイリスの心に染みわたっていく。


「……可愛らしい女の子ですよ」

ロズが大事そうに抱えている、産着に包まれた生まれてから間もない赤子を見て、イリスは押し潰れそうなほどの感動を覚えた。

生きていて良かったと心から思える。羊水と薄い血が混じった小さな体に、これ以上ないほどの愛おしさがこみ上げた。


そして、まばらに散らばる金の髪に触れる。血色のいい白い肌に、生きている呼吸を感じて、イリスの心臓は大きく跳ねた。


「私の、子……」

この世で巡り逢えた、たったひとつの宝。無限大の喜びに呼応するかのように、小さな指が絡まった。イリスは胸が熱くなり、ポロポロと温かい粒を落としていく。


すると、待ち切れないとばかりに、バンッとドアを突き破りそうな音が響いた。何事かとその方へ視線を向ければ、目を大きく開けたライアンにぶつかった。


「……イリス」

戸惑うように、一歩、また一歩とライアンは近づいてくる。イリスは優しい微笑みで浮かべて、優しく頷いた。
















「――ライアン様の、御子です」






イリス出産の一報は、遠く離れたカモーアの地にも届けられた。


「――そうか」

ディッシュから報告を受けたディルは、小さな声で相槌を打ち、さっと踵を返した。

その表情は心の底から安堵しているようにも見えたが、一方で暗く曇っているようにも感じられた。銀に揺らめく瞳は、数え切れないほどの葛藤で埋め尽くされている。


ディッシュはつらそうに顔を歪め、ディル、と主の名を呼んだ。


「今日は、一人にしてくれ」

ディルは後ろを向いたまま、それだけ言うと自室へ歩き出していく。そんな姿を目で追いながら、ディッシュは去りゆく背中に何も言えなかった。

ディルは薄闇に紛れるかのように回廊を歩く。目的地に辿り着くとドアを開け、自室へと入っていった。毎日忙しなく動き回り、疲れ切っている体など気にもせず、乱暴に前髪を掻きあげ、ぐっと握りつぶした。


「イリス……!」

こみ上げる思いを吐き出すかのように、胸を満たす愛しい存在を口に出した。そのままドアに身を預け、堪えるように歯を食い縛る。


普段感情を表に出すことが少ないディルの密やかな咆哮を、切なげに見つめる影があった。

今にもかき消えそうな繊細さを溢れ出させ、静かに傍に寄ると長い銀色の髪が微風に舞う。ミレイアは、痛みに寄り添うかのようにディルの肩にそっと手を置いた。


「お兄様……」

ミレイアの声に、ディルが顔を上げた。


「ミレイア」

「ごめんなさい。こんな夜更けに……お兄様のことを思ったら、居ても立ってもいられなくて。イリス様の御子、無事お生まれになったのですね」

複雑そうな顔で、ミレイアは続ける。


「ライアン様の、御子だとか。姫君だとお聞きしました」

ディルが、音もなく視線を逸らした。ミレイアは唇を結び、目を閉じて呟く。


「……これでもう、イリス様は完全にライアン様を断ち切れなくなった。子どもという強い結び付きができたお二人は、これから真っ直ぐ確立された道を歩いて行くでしょう。お兄様…残酷ですが、イリス様との未来は叶う事がありません。どれだけお兄様の思いが強くなったとしても、運命が交わることはありません」

ミレイアは、嬉々として語っているわけではなかった。誰よりも近くに在りたいと望むディルが、苦しそうにしているのを見るだけで心が乱れる。

しかし、その原因がイリスであると分かっているからこそ、黒々とした塊が繁殖していく。この思いを言葉にしようとも適切な表現が見当たらない。それほどに混迷し、屈折し、拮抗し、延々と続く永い路はいつになっても救いが射さなかった。

「抱いてください」

ミレイアは、噛みしめるように口にした。指に赤が走るほど、ぐっとディルの服を掴む。


「お兄様の心には、いつだってイリス様がいる。私が割り込むことなんて、出来ない…痛いほど、分かっています。それでもいい。いいのです。だから、どうか…私を、女にしてください」


そして足先を上げ、ミレイアはキスを強請った。絶対に放さないと、力を強めてディルに迫る。しかし降り下りてくるのは、拒否を示すディルの眼差しだった。


「抱けない。ミレイア、俺は」

「言わなくていい!何も、言わないで……お兄様。私の子を、皆が望んでいます。カモーアの王として、国を背負う者として、私を抱いてください。そこに愛はなくても、私は構わない…どんな形でもいいから、お兄様とのつながりが欲しいだけなんです…」


何度も、何度も言った言葉。

これが初めてではなかった。ひどいときには性感を高める香を焚いて惑わした時もあった。全身の肌を露出させ、強引に押し倒した時もあった。

それでも、ディルは頑なに受け入れず、やんわりと首を振る。やめろと、どこかつらそうに顔を歪めて突き放す。そのたびに、ミレイアの心に冷たいとげが刺さった。


「こんな妹は、浅ましいですか…?抱きたくなど、ないですか…?」

「違う。ミレイアは、何も悪くない。つらい思いをさせているのは俺だ」

「気遣いなど無用です。ただ抱いてくれたらそれでいいのに…!お兄様を、義務として縛りたくはありません。傷つけたくもありません。でも、でも……これしか、お兄様を繋ぎ止めておけないの…」

ミレイアが泣いて縋りついても、ディルが抱き締め返してくれることはなかった。

イリスへの思いを貫き通す強さを壊したいのに、まるで届かない。共に同じ時間を歩んでいるのに、その居場所を奪い去ることさえ出来ない。


ミレイアは嫉妬でどうにかなりそうだった。ディルに拒絶されると、ひどく惨めな気持ちになり、声をあげて泣き叫びたい衝動に駆られる。


そのまま部屋から出されると、ミレイアは下を向いて肩を震わせた。いつもこうして空しさを思い知る。孤独だけが広がっていく。

夜の冷気に包まれる中、誰も温めてくれはしない。耐え忍ぶように嗚咽を零し、ミレイアは一人部屋の前に立ち続けた。



「……ミレイア様、お体が冷えます。戻りましょう」

冷え切った肩に、そっと上着をかけてくれる人がいた。それは、ディッシュだった。

ミレイアは感情が麻痺した目でゆっくりと視線を合わせるが、再度また頭を下げ、フルフルと首を横に振る。


「放っておいて」

「放っておけません。このままでは、お風邪を召されます」

「もう、構わないで…!どうせ、ディッシュもイリス様の味方なんでしょう。私よりもあの人がいいんでしょう。こんな時だけ優しくされても、嬉しくなんてないわ!」

ミレイアはバサッと上着を払い落し、涙目でディッシュを睨みつける。

八つ当たりだと分かっていても、こみ上げる怒りをぶつけないと頭が破裂しそうだった。そうして、溢れ出した水のように、心を決壊させていった。


「――…誰も、愛してくれない。大切だった人は皆、私の目の前でいなくなった。お兄様だけが生きていくすべてだったのに、私とは違う人を思っている。なんて、無様なの……?」


泣き腫らしたミレイアの姿を見て、ディッシュは胸が抉られるような心地がした。


苦労して掴んだ最愛の人は、既に想い人がいた。時間が裂いた別離で、共に生きていくはずの未来を失った。何も起こらなければ、きっと今頃幸せに笑っていたはずなのに。

そんなミレイアの境遇が哀れに思えて仕方なかった。しかしディルが積み重ねてきた日々を振り返れば、イリスと結ばれる事を望んでしまう。誰ひとりとして傷つかない方法など存在しない。ディッシュは当事者にしか分かり合えない痛みを思って、重い鉛が圧し掛かるように悲しくなった。


「何のために、生まれてきたの……」

ミレイアの瞳の光が、暗く翳る。自己嫌悪に浸り、穢れた過去を思い出すと、表情を曇らせる。何とか立っているものの、今のミレイアに自分を支える力など湧いてこなかった。


「ディッシュ」

この身を刺すような苦しさから逃れたくて、ミレイアは縋りつくように抱きついた。

「もう、なんでもいい。私を、抱いて……抱きなさい」

傲慢な口振りで、命令する。しかしその声は、精一杯の助けを求めていた。


「っ、ミレイア様…!」

ディッシュは驚いたように足を引いた。それでも、ミレイアは離さなかった。   


「お願い、抱いて。誰かにしがみ付いていないと、狂いそうなの。おかしくなりそうなの。ディッシュまで、私を遠ざけるの?私を、苦しめるの……?」

かすれた声で訴えかけるミレイアは、精神的にもボロボロだった。

薄皮一枚で保った心など、ただ擦り減っていくだけで、脆い形さえ崩れかけている。何かに頼っていないと、音を立てて壊れていきそうだった。


ひっ…と泣きじゃくる小さな背中を、ディッシュは戸惑うように引き寄せる。


どうにかしてやりたいと思う自分がいるのも事実だった。痛みが緩和させられるのなら、少しでもいい、不安定に揺れるミレイアの拠り所になりたいと思う。

例えそれが、一瞬の時であったとしても、構わなかった。


「……抱いて」

理性さえ焦げるように溶かす、甘く響くその音に、ディッシュはついに折れた。軽々とミレイアを抱き上げると、そのまま自分の部屋へ連れ込んでいく。


「痛みは、感じさせませんから……身を任せてください」

シングルベットに下ろした途端、緊張して体を固くするミレイアを安心させるかのように、ディッシュは耳元で囁いた。その優しげな声音に、こくんと頷いてミレイアは力を抜く。


やがて、快感に悶える、ミレイアの嬌声が漏れるようになった。

ディッシュは大切なものに触れるかのように、ひとつずつ丁寧に愛撫していく。労わることを忘れず、温かさを分け与えることを忘れず、最大限の配慮をしてミレイアを抱いた。


そんな背徳におぼれるようにして、二人は交わった。

どこまでも深く堕ちていくと知りながら、噛みしめるように絶頂を味わう。



ミレイアの全身に満ちていくのは、罪悪に染まるさざ波の残響だけだった。



出産を終えてからしばらく、イリスは経過を見ながら療養していた。

腕の中には、すやすやと眠っている小さな赤子がいる。ふっくらした桃色の頬に顔をすり寄せると、もぞもぞと動き出すのが愛らしかった。


その穏やかな寝顔を見て、イリスは無事産めたことに心から安堵する。

これまでの期間、エドームの第一王子派の魔の手を懸念していたが、ライアンの徹底した守備により、大事に至らずに済んだ。

ライアンのおかげで、サイ内部から狙われることもなく、危ない目に合う事もなく、今日この日を迎えることが出来た。本当に、感謝しか浮かばなかった。


隣で幸せそうに笑んでいるライアンに、イリスは静かに声をかける。


「……この子は、私にそっくりですね」

「馬鹿を言うな。目元は俺と同じだ。まあ、寝顔はイリスに似ていないこともない」

「そうですか?鼻の形は私と瓜二つだと思いますが」

「いや、そんなことはない。将来は絶対俺の方に似るだろう」

やり取りを繰り返すうちに、イリスはライアンの目が僅かに緩んでいくのを見た。

今度は俺が抱くと言い、イリスから赤子を引きよせ、ゆっくりと顔を近づける。その仕草は父親そのもので、眠りながらもぐもぐと口を動かす小さな存在が、ライアンには可愛くて仕方がないようだった。

イリスは微笑みながら、その様子をすぐ近くで観察する。


「名を、決めた」

あやしていたライアンは短く言うと、真面目な顔つきでイリスの方へ視線を変えた。


「リース、にしようと思う」

「リース……」

意味を悟ったイリスは、いい名前ですねと小さく頷く。


「リースで、構わないな?」

「はい。とても、綺麗な名前です……このまま何事もなく、健やかに育っていってほしい」

イリスは首を傾けながら、リースの金髪を優しくなぞった。

ライアンは片手でリースを抱え、髪に触れていたイリスの手を掴む。そのまま自分の口元まで動かし、慈しむように目を閉じた。
 

「ライアン様?」

イリスは不思議そうにして、ライアンの吐息を感じ取った。

「――…子がいるだけで、こんなにも心が安らぐとはな。俺は、かけがえのないものを、手にしている」

その言葉を聞いて、イリスは胸が締め付けられた。

少しでもライアンが幸福を感じてくれているのなら、嬉しいと思う。同じような愛情を返せたわけではない。それでも、どこか救われた気持ちになった。

満たされるような温かい空気に浸っていると、コンコンッと控えめにドアを叩く音がする。眉をしかめたライアンは入れと低い声で返事を送る。


「ライアン様!今日もご指導おねが……ごめんなさい。お邪魔でしたか?」

元気よく入ってきたのは、前よりもぐっと背が伸びたウィールだった。腰には身丈にあった木刀を携えている。

寄り添う二人を見るなり、申し訳なさそうに一歩下がって、また出直しますと遠慮がちに視線を外した。それを見て、イリスは首を振って笑いかける。


「毎日、熱心ね。今日も稽古につけてもらうの?」

「その予定でしたが。お二人の時間を割いてまで、とはいきません。また明日にでも……」

「別にいい。時間はいつでも取れる」

リースをイリスに預け、行くぞとライアンが手で合図すると、ウィールは目を輝かせて後をついていく。

身長差のある二人の背中を見送りながら、イリスは過去に思いを馳せる。


意外なことに、ウィールはライアンを慕うようになった。

いつの頃だったか、記憶があまりない。ある日突然、ライアンを見る姿勢が変わった。

憎んでばかりいたと思っていたウィールはコロッと態度を一転し、ライアンに武術の教えを乞うようになる。

基礎体力を磨き、まだ幼いながらも武芸への才能を芽吹かせ、最近では弓を鍛えていると聞く。目がいいウィールは狩りにも興味を示し、よく森にも出かけていた。


一切の甘えを許さないライアンの厳しい鍛練を耐え抜き、必死で喰らい付く。もちろん体には見えない傷も出来ていた。しかし、王子としての自尊心さえ捨て、日々努力を惜しまない。

その必死さはまるで、何かを必死に追い求めているようだった。



『皆を守れるだけの力が欲しい』

膨らんだお腹を見て、ウィールが強い目でそう語ったのを、今でもよく覚えている。

サイの王都制圧ですり付けられた思いは、ウィールのあどけなさを奪ってしまったのだとイリスは悲しくなった。



それからさらに、二月が巡った。

時間は足早に真横を通り過ぎていき、イリスは移り変わりゆく景色を切なそうに見つめる。

ディルとあの約束を交わしてから、一年と半年が経つ。残りはあと半分、と思ってしまうことに嫌気がさす。ライアンに支えられてこその今があるのに、本当は裏切ってしまっているのだと苦しくなった。


――それでも、捨て切れない願いが、ある。


リースを胸に抱きながら、イリスは睫毛を下げた。

ライアンの子だと象徴する青い瞳が、宝石を詰め込んだようにキラキラと光る。イリスの長い髪を引っ張りながら、うーと呟き、首を傾げている。


そんな無邪気な愛らしさにふふ、と笑みを落とす。同じ表情のままで、イリスは思考の海に潜り込んだ。

日々、惜しみない愛情を注ぎこんでくれているライアンに、一体自分は何を差し出せるのだろう。何百回と繰り返してきた問いに、静かに息をついた。


「イリス」

ハッとなって顔を上げれば、髪を解いたライアンが部屋に入ってきた。ずいぶん深く考え込んでいたのか、まったく気付かなかった。慌てておかえりなさいと言葉を添える。


「今日も、ウィールの付き添いですか?」

「ああ。あの歳で、的の中心を射止めた。ウィールはまだまだ伸びる可能性がある」

ライアンは流れるような動作で、長い髪を払う。そうしてイリスと向かい合った。


「報告がある」

改まって、何だというのだろう。イリスは、はい…と戸惑いながら続きを待った。


「ミレイアが、身籠った」

その知らせに、時間が止まったような錯覚がした。


ミレイアが。誰の子、を?

イリスは喉まで出掛かった言葉を強引に押しこむ。取り乱したわけではなかった。ただ、気持ちが追いついていかなかった。最後に見た、憎悪に満ち溢れた瞳を思い出し、胸が痛くなる。


「正式な発表はしていないが、確実な情報だ。誰の子かは分からない」

「それは、おめでたいですね…」

イリスは口に出して、ようやく現実が掴めた。そして思ったより動揺が少ないことを知る。


ミレイアに宿った命が誰の子であろうと、ディルへの心は変わらない。

もし、周りの期待を一身に受けてディルが体を許してしまっても、それは仕方がないことだと思った。


古くから受け継がれてきた近親婚。

たとえ一度カモーアは滅んだとしても、王族のしきたりは簡単に破られるものではないのかもしれない。積み重ねてきた歴史に勝るものはないのかもしれない。

復興の足掛かりになればと、ディルは思い悩んだ末に決断をしたのかもしれない……考えれば考えるほど、終わりは見えてこなかった。


ただ、一つだけ。ミレイアの体にディルの手が触れたかと思うと、内心穏やかではないのは事実だった。


「揺らがないのか」

「……貴方の前で、私が揺らぐことができますか?」

逆にイリスは質問を投げかける。その返しに、ライアンはフッと笑みを浮かべた。


「俺が、許さない」

ライアンはイリスを引っ張ると、不敵な顔をしながら、淡い口付けを落とした。


「なんで、そんなに落ち着いていられるんだよ」

ルドの、突き刺すような鋭い声がする。


「何の、話?」

「とぼけんなよ。カモーアの王女が身籠ったらしいじゃねぇか!なのに姫様は気にした様子もねぇ。ただ強がってんのか?どうせまた一人で抱え込もうとしてるんだろ」

「それは…」

「本当は、不安で堪らないんだろ。顔には出さなくても、自分への気持ちが薄れたんじゃないかって怖いはずだ。もしもあの王子が周りの重圧に耐えかねて、妹と一線を越えたんなら、それだけでも立派な裏切り行為だろ!そんな流されるだけの薄情な奴に、姫様の人生を費やす価値なんかねぇぞ」

思わず熱くなったルドが、イリスの真意を読み取ろうと瞳を覗き込む。しかしイリスが浮かべたのは、何もかも溶かすような微笑だった。


「ありがとう、心配してくれて……でも、大丈夫。たとえミレイア様の御子がディルであったとしても、私の心は一つだけだから。何が起こったとしても、惑わないわ」

「っ、現実を見ろよ!子ができたら、一生自由を縛られるんだぞ。今の姫様みたいに!」

「ルド、いいの。私は、私の想いを貫くだけ。ディルを疑ったりなんてしない。信じることが、私の道になるから。迷う事はしないの」

ごめんね、とルドの頭を撫でて、イリスは眉を下げる。

清廉とした、どこまでも真っ直ぐな心に、ルドはぐっと口を噤む。でもと言葉を吐き出すが、イリスには届かないことを知り、苦虫を噛み潰したように渋い顔をした。



「それよりも、よ」

イリスが暗い表情で、最近の悩みを吐露する。


「エドームで、飢餓が深刻化しているって。今年の不作が原因で、貧困の格差がますます広がって、疫病まで流行ってきている…このまま放置していれば、大変なことになるわ」

「まあ……病人がサイにまで流れてきたら、やばいだろうな」

ルドが、僅かに視線を逸らしながら呟いた。


「確かにそれも不安だけれど。それよりも今は、既に被害が出ているエドームに一刻も早く対策を講じないと……だけれど、ライアン様は大丈夫だの一点張り。何もしなければ、民衆の不満は増すだけなのに。今は大丈夫でも、積もり積もればいずれ収拾がつかなくなるわ…そう遠くない未来、国をも揺らがす大規模な紛争につながるんじゃないかって、恐ろしいの」

イリスは腕を抱きながら、ロズから聞いたエドームの現状を思い返す。


身分格差が激しいエドームで疫病が蔓延すれば、真っ先に苦しむのは下部に属する人間だった。

生活水準が天と地ほどの差がある富裕層と貧困層。中間に在る者でさえ、十分な治療を受けられずに、そのまま病に倒れる者も多いと聞く。特に奴隷の犠牲者は止まることを知らない。

イリスは、ただ指をくわえて見ているだけの自分が悔しかった。ライアンに迫っても、お前が心配することじゃないとあしらわれるだけで、何の効果も得られなかった。


影で賄賂が横行し、人を陥れるための陰謀が飛び交うエドームの内部。そんな世界から完全に分断されているのは、ライアンの手の内にあるからだと分かっていた。

危険な目に合わせないように、最大限の配慮で守ってくれている。だからこそ、平和に過ごしていられるのだった。



――湧き上がるイリスの不安は、悪い方向で的中することになった。

ライアンが珍しく蒼い顔をして帰ってきたと思えば、父上が病に伏せたと一言もらす。イリスは絶句してから数秒後、病状は?と聞くと、長くはないとだけ返答がきた。


やがてその事態は、大きくイリスを巻き込んでいくことになった。



まるで、抗えない大きな波に、飲み込まれていくようだった。


ついにはひとつの貴族の館が占拠されるまでになり、解放軍の存在は広く知れ渡るようになる。さすがにこれには困ったエドームも、人をかき集めただけの討伐軍を組織して、ようやく重い腰を上げた。


直に治まると誰もが思っていた。しかし、膨れ上がった解放軍は、あの手この手で対抗し、強く反発してみせる。

流れは、解放軍にあった。主張を変えず、信念を持って戦う姿勢が国民の胸を打ったのか、影で協力する者も増えていく。


内部の連携が取れずに敗走が増え、お手上げ状態に陥った討伐軍は、サイにいるライアンに縋った。

助けてくれと書状を寄こし、救いを求める。しかしライアンはすぐに動こうとせず、援軍を見送っていた。

それを見たイリスは鎮圧をと強く訴えたが、ライアンは首を縦に振らず、普段と変わりなく毎日を過ごす。日に日に成長していくリースを可愛がり、趣味に生き、自由気ままな生活を続けた。


イリスはひどく困惑し、ライアンがしないのならサイから援軍を出すと言えば、ようやくその気になったのか、ライアンは面倒くさそうに準備を始めた。

待ち望んだ行動にイリスはホッと胸を撫で下ろしたが、最近のライアンに違和感を抱いていた。


どこか、おかしいと。

以前なら自分で道を切り開いていくだけの力を持っていたのに、今はその強さを押し隠し、ただじっと、何かを狙っているような……イリスは考え過ぎかと頭を振って疑問をかき消した。




エドームに出立する日、イリスはライアンと向き直った。


「お気をつけて……」

「ハッ、すぐにでも帰ってくる。無駄なことを費やす時間などないからな」

「警戒を怠らないでください。いつ何があっても、おかしくありません。リースと帰りを待っています。どうか、ご無事で」

「ああ」

そのとき、ライアンがイリスを引き寄せた。広い胸におさまるイリスは、目線を上げてライアンを見ると、目を見張らせた。

儚く消えそうな笑みを浮かべ、今生の別れだと噛みしめるようなライアンの表情に、言いようのない不安が襲いかかり、思わず服を握りしめる。


「ま、待って。ライアン様、どうして、そんな顔をするの……」

「いや」

短く言うと、ライアンはイリスを離す。最後、名残惜しそうに一瞬だけイリスの髪に触れたが、その手は宙を泳いでいく。

イリスは冷たい血が全身に流れ、なぜかどうしようもない不安に駆られ、行かないでと呟きそうになった。


ライアンはじゃあなと簡単な別れを告げ、馬の腹を蹴って、先頭を走って行く。遠ざかっていくその姿が見えなくなるまで、イリスは動けずにいた。


拭いようもない、大きな胸騒ぎを感じ、震えが止まらない。

何かが、起こる。自分さえ揺るがすような、強い波風が、立つ。確信に似た思いに、恐怖が纏わりついた。運命とも呼ぶべき『その時』が訪れるのは、避けられない気がした。




――そして、全てが失速していくように、この物語の答えが、近づいていた。




軍を率いたライアンが出発して、各地の衝突は激しさを増す。

ライアンが動いたことによって士気を高めた軍だったが、解放軍の主力を叩くにはまだ力が伸びなかった。

イリスは祈るような気持ちでライアンの帰りを待っていたが、一向にその気配を見せないことに焦りを感じる。


数日前の書簡には『心配するな。援軍は必要ない』とだけ送られ、一番知りたい戦況は何も書かれていなかった。

あのライアンが易々とやられることはないと分かってはいたが、一進一退を繰り返す状況を聞いて、イリスは不安や悩みが尽きない。ロズはそんなイリスを必死に宥めていたが、本人もおかしいと違和感を感じていた。


あどけない表情を浮かべるリースを育てながら、イリスは良い知らせを待ち続けた。しかし、いつになってもライアンが帰ってくることはなかった。

やがてイリスの近辺に、黒い危険が迫る。第一王子派がイリスとリースの命を密かに狙っていたのだった。





夜が闇を広げる時間帯に、イリスは疲れた体を引きずるようにして、寝室に入った。

二人分のベットに窓の格子の月影が伸びる。妊娠のつわりで苦しんでいた頃、背中を擦ってくれたライアンはもちろんいない。

寂しさが肌を突き刺すような冷気を受けて、イリスはベットに体を休めようと足を踏み出した。しかし、何かの存在を感じ、異変を悟る。微かにガサガサと蠢く音がして、そこに全神経を集中させた。


護身用の剣を持ってくると、おそるおそる室内を見渡す。誰かを呼ぼうとしたが、相手を刺激したくない。

自分には幼い頃から励んできた剣技がある。もし敵がいても、一人でも対処できるとイリスは強気に剣を構え、ゆっくりとベットに近寄った。


「――…っ!」


枕を取っ払い、音がする方向へ躊躇いなく数度剣を突き刺す。イリスは驚愕した。そこにいたのは、不気味な動きでうねうねと体を巻く毒蛇だった。

込み上げる恐怖に、情けなくもきゃあと小さな悲鳴が漏れる。鋭利な刃物が喰い込み、痛みにもがく毒蛇はシャーとイリスを威嚇し、弓なりに暴れ、そのまま襲いかかろうとした。

イリスは危険を感じるや否やすぐに距離を取り、反射的に近くものを投げつける。

その時、どうした!と叫ぶルドが槍を手に、部屋に飛び込んできた。


「ちょっと貸して!」

余裕などないイリスは、後退したドアの前で、ルドが持っていた槍を強引に奪い取る。数秒の間に狙いを定めて、ベットにいる毒蛇に一発ぶち込んだ。それが命中したのか致命傷となり、毒蛇は瀕死にまで追い込まれる。


「お、おい。何やってんだよ……」

俺の槍…と悲しそうに呟いて、イリスにたずねる。


「毒蛇よ!私を殺すために、誰かが仕込んでいったんだわ。本当に、危なかった……」

普通の姫なら泣き叫ぶものの、イリスはそんな柔ではなかったのか、平然としながら死に絶えた毒蛇を睨みつける。

大した根性だとルドは呆れながら、毒蛇の体液がついた自分の槍を切なそうに見つめる。くっせぇと鼻に手を寄せるとパタパタと扇ぎ、イリスに怪我はないかを聞いた。


「大丈夫。何もないわ」

「ならよかった。しっかし、誰がこんな手の込んだことを。ライアン様がいない隙を狙っての犯行かよ」

「そうね。いずれにせよ、私は誰かにとって厄介な存在ということ」


イリスはリースを無事を確認して安心すると、毒蛇とベットの後始末のため、他の者を呼び寄せた。



イリスが身辺の守りを強化していたときだった。飛び込んできた知らせに、イリスは言葉を失った。


「ライアン様が、カモーアに援軍を求めた……?」

イリスは、信じられない思いで聞き返す。

頷いたグータンも蒼い顔をしていた。余程の事がない限り、こんなことは起こらないと言いたげに。イリスは嘘…とだけ声を出す。


「すでにカモーアでは軍が組織され、エドームに向かっているとのこと。ライアン様は、サイには極秘で動いていたようです」

「そん、な。どうして……」

早い。早すぎる。そんなことが行われていたなら、気づくはずなのに。ライアンは一体、何をしようとしているのか。イリスは不安で仕方なかった。


「分かりません。属国のサイを頼ろうとしたくはなかったのか、何か別の訳で、カモーアの力を必要としたのか。ただ、言い切れるのは、これほど長期間に渡ってライアン様がお戻りにならないのは、かつてないほど深刻な状況に陥っているからだと思います」

イリスは、目の前がぐらりと揺れそうになる。しかし、何とか踏みとどまった。

カモーアということは、ディルが、向かっている。驚異的な早さで復興を進めていたカモーアだったが、内乱で戦っているライアンの求めに応じたらしい。

イリスは怖かった。何かが、一つに集束されていくようで。そう、ディルと約束を交わしてからあと少しで三年になろうとしていたのもある。今回の事が、ただの偶然だとは思えなかった。


「我々も、一刻も早くエドームに」

「待って、グータン!ライアン様の指示があるまで、何もしないで。無闇に動けば、きっと混乱するわ。今は時機を見ましょう」

イリスはそう言って、グータンをたしなめる。逸る気持ちを抑え、はいとだけ返事をする彼を見て、イリスは険しい顔をした。

下手に行動を起こせば、深い谷底へ落下していくかのように、すべてが崩れていく。今は、何としてでもリースを守り抜かなければいけない。一大事ともなれば、ライアンに合わせる顔がなくなる。


しかし、運命は、残酷だった。逃れる術さえ与えず、確実に、その時を用意させていた。


――やがて、すべてを巻き込んだ事件が、イリスに襲い掛かる。

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