甲賀忍者、甲子園へ行く【地方予選編】

山城木緑

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強豪、滋賀学院 霧隠才雲、現る

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 白烏、霧隠ともに、マウンドと打席で対峙し合うと、相手の気迫を押し返すので精一杯だった。

 こいつは、ヤバい。

 こいつは、普通じゃない。

 お互いに、同じ大きさの尊敬と警戒を18.44mの間で確認した。

「鏡水、ここが踏ん張りどころだ。しっかり捕ってくれ」

 無言で白烏は滝音にメッセージを送る。

「力みすぎてフォアボールとかダサいのやめろよ?」

 滝音も無言でそうメッセージを送る。

 二人の間でサインは決まった。真っ向勝負!

 白烏の右腕が舞う。白球を纏った右腕は名の通り白い鳥のようだ。

 大気がうねる。

 砂埃が散る。

 浮力が生じたようなストレートが低い角度のまま滝音のミットに突き刺さる。勢いで滝音の身体が僅かに浮く。

 ぴくりと動いた霧隠のバットが止まる。真ん中低めに決まったストレートに主審は高く拳をかかげた。

 ストーライイイィィィィク!!!

「っし!」

 滝音からの返球を白烏は満足そうに受けた。この得体の知れぬ霧隠を抑えれば、流れを渡さずに済む。

「……なるほど」

 ぽつりと呟く霧隠を見上げて、滝音は次のサインを迷った。まずい、いつか打たれる。そう感じたからだ。

 霧隠は打席を外し、自陣のベンチを見つめていた。

 ネクストバッターズサークルには滋賀の安打製造機こと川野辺、ベンチ前には高校通算52本塁打を誇る西川が真剣な眼差しで戦況を見つめている。二人ともバットを握り締め、頼り甲斐のある表情をしている。ベンチの奥では川原がこちらに向けて大声を送ってくれている。

 霧隠は微笑した。

 そのまま軽くリズムを取るような構えでバットを揺らす。初球はゆったり構えていたが、打撃スタイルを変えてきた。

 何故、霧隠は微かに笑ったのか。

 霧隠は実は本塁打を狙っていた。満塁のピンチを脱してすぐの同点本塁打。勢いをつけるには、それが最高の形だ。だが、白烏のボールを一球見ると、とても本塁打できるボールではないと気付いた。相手は本物中の本物だ。

 どうする?

 そこで霧隠はふと、自軍のベンチを見た。そこには目に力が宿る川野辺と西川がいた。俺が本塁打を打たなくとも、きっとこの二人なら俺を本塁に返してくれる。故に、霧隠は笑ったのだった。この白烏というピッチャーから点を取るには、俺一人でなくても良いのだ。

 仲間がいる。

 俺は滋賀学院野球部に誘ってもらって、初めて仲間という大切なものを知ったんだ。
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