みとれるミタとみとれられるミト

すぷふら

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cafeでteaをdrink

レアチーズケーキと苦いお話

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「俺ここの常連なんで顔覚えられてるんすよ」
と得意げな三田は、バイトの学生らしき女性の店員さんから《普通の》接客を受けていた。
 店内は比較的空いていて、案内された席は窓際の程よく陽が射し込む二人掛けのもの。
大して客もいないのにせっせと働くバイトの学生は、はっと気付いたように「こちらお冷やです」と二人分の水をテーブルに置き、またカウンターへ行って戻ってきて「こちらメニューでございます」とメニューを置きに来た。

優柔不断ではあるがこだわりのない水戸はブラジル産の珈琲で無難にいこうとしたが、三田に遮られた。
「みとりん、コーヒーだけなんすか?えー、ここのいいところはスイーツが美味しいとこなのに!レアチーズケーキ食べましょうよ?ね?いいでしょ?」
子犬のようにねだる三田に押されておすすめのレアチーズケーキも頼むことにした。
注文を済ませて商品を待つ間、いろいろと自己紹介が行われた。


「水戸さんお仕事は何されてるんすか?」
「…芸能関係かな。そんなに目立つようなアレではないけど。」
仕事の話になると三田の食い付きが変わった。
「え!?芸能ってあの芸能人とかの時に使う芸能で合ってますよね?マジかぁ。すげぇなぁ。芸能ねぇ。」
唸り続ける三田に三戸は興味本意で聞いてみた。
「芸能人の印象ってどう?」
「あー、楽しそうだなとは思いますけど、自分はなりたくないっすね。リスクが大きそうなんで。」
「おー、三田くんは意外と現実主義なんだね。」
「いやぁ、友だちが昔目指してたんすよ。いわゆる俳優みたいなものをね。そいつは俺が言うのもなんですけど、芸能界を甘く見てて苦労してたんです。顔は悪くなくてモテる方だったんですけどね。」
「苦労というと?」
「彼は昔からモテたので元カノがわんさかいたんです。それで、まぁ、そういう世界じゃなければ普通だと思うんですけど、告られたら断れないタイプでいつも付き合ってからちょっとしてフッてたんですよ。そしたら最初から断ってくれればって、彼女たちの恨みを買っちゃって出るもの全部酷評受けてました。」
「うわぁ、嫌だね。ありがちだけど、傷つくよね。ってかそんなに元カノ多いの?」
「いや、なんか本気で付き合った人は4人くらいらしいですけど、断れなかった人も含めると20人近いらしくて。それで売れてない俳優のSNSとかコメント欄って最初の5つくらいで決まるんですって。だから、元カノたちが10人悪いコメント書けばあとの1万も2万も悪いコメントになるっていう流れですよ。」
「あぁ、それは確かにね。僕も昔は…あ、いや、僕の友だちも売れる前は固定ファンがいち早く良いコメントを残してくれて嬉しいって言ってたけどそういう意味もあったのか。ありがたいもんだね。」
「あぁ、そうやればよかったのかなぁ。」

珍しく寂しそうに外を眺める三田に三戸は不思議そうに目をやった。
「その友だちって…」
「誹謗中傷が酷くなって心を病んで俳優には挫折しました。自殺を考えたとも言ってました。けど、それから結婚して子供が生まれて、耳が少し不自由な娘のために手話を始めたって言ってて。楽しそうに話すんですよ、手話の事と娘の話。」
「へぇ、結婚して子供も!よかったなぁ。なんか僕も安心だ。」
そこで、柔らかく苦笑いをした三田は「うーん」と、少し間を置いてからぽつりと付け足した。
「でも目が変わっちゃったんすよね。俳優なんていう皆がどこか憧れていて、でも自分にはなれないと諦めているような職業を本気で目指した訳じゃないすか。実力もそれなりだったし。彼の目はキラキラしてたんです、今よりもっと。少年漫画の主人公みたいなあの目が、脇役みたいなタレ目になっているのを見ると…俺なんか悔しくて…。あ、それでっすね。なんか芸能界嫌なのは。」
 

思いの外いろいろに思案を巡らせていた三田に驚いていると例のレアチーズケーキと珈琲がテーブルに乗せられた。レモンの酸味ですっきりとした甘さのケーキは、普段甘いものを控えていてスイーツにある種のブランクがある水戸のフォークさえも止まらないほどの逸品だった。
爽やかなレアチーズケーキと何重にも豆が香る程よく苦い珈琲に苦すぎるほど苦いお話で、三戸は正体を明かすのは止めておこうと心に決めたようだった。
 売れないカフェの自慢のケーキは、皿に残った食べカスでさえ綺麗に見えた。
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