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cafeでteaをdrink
世間知らずの世間話
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休日の昼下がり。
香ばしいキャラメルの匂いが漂う人気のカフェ。
時刻は12時半を少し過ぎたところ。まだまだお昼時なので、そこまで混雑してはいない。
そんな店内で一組のカップルがお茶をしている…
と、思われているのだろうな。しかしなにせ僕たちは規格外。一人は女装趣味の三十路をとっくに過ぎた美形のおっさん。もう一人はよくいる若者に盗撮という要素を加えたアホなんだから。こんなに騙す必要のない人を一気に騙すことなんてめったに無いんじゃないだろうか。
「あ、あのぉ…」
フリーターが口を開く。
「俺はどういうスタンスで行けばいいのでしょうか?お姉さんって言った方がいいですか?」
「いや!僕はっ…」
思いの外大きい声が出て水戸は驚いたが、それ以上に驚いたのは店の客だった。ガガガーと椅子を遠ざける音が複数うまれた。
「あっ、そういうことか…」
小声でドン引く客に水戸はショックを覚えたが、そこは芸能人。他人からの批判には慣れっこなので開き直ることにしたようだ。
「ウホン、えー、僕は小さな頃に死んだねーさんの真似をしてるんだ。ずっとそうやって生きてきたんだ。だから残念なことにそういう趣味ではない。どちらかといえばお兄さんの方が嬉しいかな。」
にっこり微笑んで少し大きな声で言うと、周りは彼を哀れんで静かになって―元に戻った。
そこで初めて水戸は
「まぁ、ウソだけどな。」
と茶目っ気たっぷりで三田に囁いた。
「マジかー!嘘かよー!俺普通に信じちゃったわぁー!」
三田の大声が店内に響き渡る。
…これが三田がフリーターにならざるを得なかった理由である。ただの馬鹿ならまだしも、空気をまるで読む気がない。この先何が起こるのかというのを一切気にしないクチなのだ。
違う意味で店内が静まりかえり水戸は三田を睨み付ける。
「え?あ、ごめんなさい。なんか悪いこと言いました?」
「…まぁ、いいよ。もう。なんかでも、その。何を謝るべきか分かってないのに謝るのはやめた方がいい!僕の友達に昔そういうやつがいたけど、見てる方は本当にイライラするからな。」
しゅんとしていた三田は《イライラさせる友達》の出現を聞くやいなや突然目を輝かせた。
「どんな人っすか!?聞きてぇー!いや、俺そういうアホな人の話聞くの大好きなんすよ。うわぁ、聞きてぇなぁ!超聞きてぇ!」
アホはお前だ、と初対面の彼には言うに言えない常識的な水戸は今日だけの縁だからと話し始めた。
「僕の友だちはね、俗にいうナルシストに近いものがある。というのも、自信家すぎるんだ。自分は人から愛されている、評価されるべき、自分だけを見ていてほしい。そう信じて疑わないやつだ。」
「うわー、分かる!俺の友達にもいたわ!なんか『サッカーは1日にしてならず!』って叫びながら毎日筋トレしてた(笑)そいつなんか今プロになったけど。」
「いや、それはたぶん僕の言いたい人間じゃない。それはただ単にストイックというだけさ。」
顔に?と書いてある三田を少し面白がりながらそのまま水戸は続けた。
「僕がいう友達はもっとどうしようもないんだ。例えば悩みを相談するとしよう。彼を呼んで、『とっても重たい悩みなんだけど』って前置きをするんだ。そしたらどうなると思う?」
「え、そりゃあ…聞いてくれるんじゃないんすか?悩みを。」
「おぉ、君なかなか常識あるね。」
盗撮してましたけど…
「僕の友達は違うんだよ。まず、重たい悩みと聞けばまだ何も言ってないのに『あぁ分かる!』と大きな声で僕の話を打ち切って『あるよね!重たい悩みって。俺この前ね』といった具合にまず自分の話をし始めるんだよ。で、一通り話すんだよ。彼なりの《重たい悩み》をね。」
「うわぁうぜぇ。こっちが悩み相談したいっつってんのに。やばいっすね、そいつ。怒らないんすか?」
「うーん、なんていうか、怒れないんだよ。僕は。だからまぁ聞くんだよね。親身になって。」
「うっわぁ、お兄さん優しいー!!」
お兄さんと大声で叫ばれることにもう抵抗がなくなった水戸は、全身をつかって褒めてくれる三田にいい気になってテンポをあげて話続けた。
「でもまぁ、内心イライラはしてるわけだよ。僕だって普通の人間だから。それで相づちが雑になるんだ。するとどうだ、彼は面白くもないその悩みを声のボリュームだけでどうにかしようとし始めるんだ。『なのに、ガッシャーン!!!ってきて俺もオエェ!!ってなってさ』って感じに。」
「うわぁ、その音量はうるせえすわ!鼓膜をお大事にしてくださいね。」
「だろ?それで話が済んだら彼は僕の感想を待ってるんだ。それももちろん『くそつまらない。イラついた。』じゃなくて、『大変だったな。また話してくれ』って方の感想さ。それでいて『あ、そうだそうだ!水戸くんも悩みあったっけね。何の話?』って。話す気にもならないだろ。ここまできたら、イライラが勝ってね。そしたら『あーそっかぁ。なんかごめんね、俺の方が重たい悩み話しちゃって。 言いづらくなったよね』ってさ。」
「…え?いいやつじゃないっすか?その通りっすよね!ん?何が嫌なんですか?」
「…それだよ。自分を《いいやつ》で終わらせるんだよ彼は。こっちが、お前が悩みを話してどうするんだ!言いづらくなっただろうが!って言いたいのに、ド正論を謝ってくる。」
「…はい。」
「おかしくないか!?分かってるなら最初からやるなよ!ってか僕が悪いのか!?って。なるだろ?」
「…あぁ!」
「彼は謝るようなことをしてる自覚があるってことだよ。それでいて、謝りゃ済むと思ってる。でも、謝られたら僕のイライラはどこに向かえばいいんだ!」
「水戸さん…!!」
三田が水戸の手をとって、言わんとしたことを理解したとばかりにうなずく。
そのときにやっと、二人は周りの状況に気付いた。顔を真っ赤にした店長らしき方とばつの悪そうな顔をした若いウェイトレスがすぐそこに立っている。
「外でやれ!お代はいらねぇから二度と来るな!」
頭にガツンと響く店長の声に二人は顔を強ばらせてそそくさと出ていった。
香ばしいキャラメルの匂いが漂う人気のカフェ。
時刻は12時半を少し過ぎたところ。まだまだお昼時なので、そこまで混雑してはいない。
そんな店内で一組のカップルがお茶をしている…
と、思われているのだろうな。しかしなにせ僕たちは規格外。一人は女装趣味の三十路をとっくに過ぎた美形のおっさん。もう一人はよくいる若者に盗撮という要素を加えたアホなんだから。こんなに騙す必要のない人を一気に騙すことなんてめったに無いんじゃないだろうか。
「あ、あのぉ…」
フリーターが口を開く。
「俺はどういうスタンスで行けばいいのでしょうか?お姉さんって言った方がいいですか?」
「いや!僕はっ…」
思いの外大きい声が出て水戸は驚いたが、それ以上に驚いたのは店の客だった。ガガガーと椅子を遠ざける音が複数うまれた。
「あっ、そういうことか…」
小声でドン引く客に水戸はショックを覚えたが、そこは芸能人。他人からの批判には慣れっこなので開き直ることにしたようだ。
「ウホン、えー、僕は小さな頃に死んだねーさんの真似をしてるんだ。ずっとそうやって生きてきたんだ。だから残念なことにそういう趣味ではない。どちらかといえばお兄さんの方が嬉しいかな。」
にっこり微笑んで少し大きな声で言うと、周りは彼を哀れんで静かになって―元に戻った。
そこで初めて水戸は
「まぁ、ウソだけどな。」
と茶目っ気たっぷりで三田に囁いた。
「マジかー!嘘かよー!俺普通に信じちゃったわぁー!」
三田の大声が店内に響き渡る。
…これが三田がフリーターにならざるを得なかった理由である。ただの馬鹿ならまだしも、空気をまるで読む気がない。この先何が起こるのかというのを一切気にしないクチなのだ。
違う意味で店内が静まりかえり水戸は三田を睨み付ける。
「え?あ、ごめんなさい。なんか悪いこと言いました?」
「…まぁ、いいよ。もう。なんかでも、その。何を謝るべきか分かってないのに謝るのはやめた方がいい!僕の友達に昔そういうやつがいたけど、見てる方は本当にイライラするからな。」
しゅんとしていた三田は《イライラさせる友達》の出現を聞くやいなや突然目を輝かせた。
「どんな人っすか!?聞きてぇー!いや、俺そういうアホな人の話聞くの大好きなんすよ。うわぁ、聞きてぇなぁ!超聞きてぇ!」
アホはお前だ、と初対面の彼には言うに言えない常識的な水戸は今日だけの縁だからと話し始めた。
「僕の友だちはね、俗にいうナルシストに近いものがある。というのも、自信家すぎるんだ。自分は人から愛されている、評価されるべき、自分だけを見ていてほしい。そう信じて疑わないやつだ。」
「うわー、分かる!俺の友達にもいたわ!なんか『サッカーは1日にしてならず!』って叫びながら毎日筋トレしてた(笑)そいつなんか今プロになったけど。」
「いや、それはたぶん僕の言いたい人間じゃない。それはただ単にストイックというだけさ。」
顔に?と書いてある三田を少し面白がりながらそのまま水戸は続けた。
「僕がいう友達はもっとどうしようもないんだ。例えば悩みを相談するとしよう。彼を呼んで、『とっても重たい悩みなんだけど』って前置きをするんだ。そしたらどうなると思う?」
「え、そりゃあ…聞いてくれるんじゃないんすか?悩みを。」
「おぉ、君なかなか常識あるね。」
盗撮してましたけど…
「僕の友達は違うんだよ。まず、重たい悩みと聞けばまだ何も言ってないのに『あぁ分かる!』と大きな声で僕の話を打ち切って『あるよね!重たい悩みって。俺この前ね』といった具合にまず自分の話をし始めるんだよ。で、一通り話すんだよ。彼なりの《重たい悩み》をね。」
「うわぁうぜぇ。こっちが悩み相談したいっつってんのに。やばいっすね、そいつ。怒らないんすか?」
「うーん、なんていうか、怒れないんだよ。僕は。だからまぁ聞くんだよね。親身になって。」
「うっわぁ、お兄さん優しいー!!」
お兄さんと大声で叫ばれることにもう抵抗がなくなった水戸は、全身をつかって褒めてくれる三田にいい気になってテンポをあげて話続けた。
「でもまぁ、内心イライラはしてるわけだよ。僕だって普通の人間だから。それで相づちが雑になるんだ。するとどうだ、彼は面白くもないその悩みを声のボリュームだけでどうにかしようとし始めるんだ。『なのに、ガッシャーン!!!ってきて俺もオエェ!!ってなってさ』って感じに。」
「うわぁ、その音量はうるせえすわ!鼓膜をお大事にしてくださいね。」
「だろ?それで話が済んだら彼は僕の感想を待ってるんだ。それももちろん『くそつまらない。イラついた。』じゃなくて、『大変だったな。また話してくれ』って方の感想さ。それでいて『あ、そうだそうだ!水戸くんも悩みあったっけね。何の話?』って。話す気にもならないだろ。ここまできたら、イライラが勝ってね。そしたら『あーそっかぁ。なんかごめんね、俺の方が重たい悩み話しちゃって。 言いづらくなったよね』ってさ。」
「…え?いいやつじゃないっすか?その通りっすよね!ん?何が嫌なんですか?」
「…それだよ。自分を《いいやつ》で終わらせるんだよ彼は。こっちが、お前が悩みを話してどうするんだ!言いづらくなっただろうが!って言いたいのに、ド正論を謝ってくる。」
「…はい。」
「おかしくないか!?分かってるなら最初からやるなよ!ってか僕が悪いのか!?って。なるだろ?」
「…あぁ!」
「彼は謝るようなことをしてる自覚があるってことだよ。それでいて、謝りゃ済むと思ってる。でも、謝られたら僕のイライラはどこに向かえばいいんだ!」
「水戸さん…!!」
三田が水戸の手をとって、言わんとしたことを理解したとばかりにうなずく。
そのときにやっと、二人は周りの状況に気付いた。顔を真っ赤にした店長らしき方とばつの悪そうな顔をした若いウェイトレスがすぐそこに立っている。
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