魔女の子、異端審問官になる。

ハニィビィ=さくらんぼ

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第1章:魔女の王と娘

5:魔女の王

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 マリアの名を聞いたジャンヌは、意外だなと言いたげに目を細めた。

「誰かと思えば、異端審問官の七大名家に数えられるガブリエル家の血族か。」

「ほう存じておったか。名家といっても、もう当主であるワシしか残っとらん没落貴族だがな。に覚えられたと知れば、未来を案じて逝った先祖も少しばかしは喜びおうて。」

「まっ、魔女の王・・・?」

 ここで初めて声を出したリリーをガブリエルは見た。

「その娘っ子は?」

「リリー。私の子だ。」

「なんと!お前の子とな!?てっきり何ぞの実験の贄に攫ったものだと・・・。」

「にっ、贄!?生贄ってこと!?ボクはちゃんとしたママの娘だよッッッ!!!」

「すまんすまん。年寄りのお門違いを許してくれっ。」

 マリアは片手だけで拝むポーズを取って、リリーに謝った。

「しかしだ。実子ならば知っておるだろう?母が何者で、どのような大罪を犯したのか。」

「大罪?ママなんかやったんですか?魔法で。」

 訝しむリリーに、マリアは若干目を見開いた。

「知らんのか?」

「だってママ一回もこの森から出てませんよ?魔法は使えますよ?だけど木に水やったり、畑作ったり、料理するくらいでしか使いませんよ?」

 本当に知らなそうなリリーに、マリアは深い鼻息を出した。

「そうか・・・。ジャンヌ、この子には話しなんだな。昔のことを・・・。」

「話したところで何になる。その結果起こることについて、私は全く興味がない。」

「そんな奴だったなお前は。」

 話を勝手に進める二人に、リリーは苛立ちと不安を同時に覚える。

「ママが何したっていうんですか!?何なんですか魔女の王って・・・!!」

 ・・・・・・・。

 ・・・・・・・。

「話してよいな?」

「好きにしろ。」

 コクッと頷き、マリアは語り出した。

「リリーといったか?お前さん、についてはどう聞いておる?」

「え?そりゃ~・・・魔法で料理したり、洗濯したり、動物のお世話したり、野菜育てたり・・・とにかく使って思ってます。」

「残念じゃが、それは間違いじゃ。大いに間違っておる。」

「間違ってる?」

「魔女というのはだな・・・悪魔と契約を結ぶか、悪魔と人間の間に生まれることで魔法が使え、人に仇なす悍ましい女の化生を指すのじゃぞ。」

「人に、仇なす・・・?」

「奴等は魔法・・・悪魔がこの世界に残した外法の異能を使い天候を乱したり、金銭を奪ったり、病を広めたり、心の弱い者を誑かしたり・・・快楽や食糧にするために人を殺したりする。」

 マリアの言うことに、リリーは愕然とした。

 自分が聞き、実際に見てきた魔女の所業とは天地、天国と地獄ほどかけ離れていたからだ。

 固まるリリーに構わず、マリアはジャンヌを指差した。

「そこのお前の母はな・・・400年前に現れこの世を滅ぼす厄災を繰り返してきた、魔女の王なのじゃ。」

「魔女の、王・・・?400年・・・?」

「そうだ。この者にはどうやら、寿命という物が存在せんらしい。おまけに殺すこともできん。焼こうが斬ろうが粉々にしようが、すぐ復活する。そのおかげで、こ奴を打ち倒そうとした異端審問官が何百何千と殺された。ジャンヌはな、我ら異端審問官の不倶戴天の仇たる最凶の魔女なのじゃ。」

「最凶の・・・魔女・・・。」

 一通り語り終えたマリアは、改めジャンヌの方を見た。

「しかし、お前がこんな辺境の森に隠れ住んでおるとは露ほども思ってなかったぞ。あれは確か・・・120年ほど前だったか?南の果ての氷の大地に潜んでおったお前を討伐するために送り込まれた大部隊を、周辺都市もろとも焼き尽くしたな?おかげで氷は溶け、かわいた焼け野原が今も残っておる。それから一切、動向が掴めなんだが、ようやく尻尾を掴んだぞ。」

 辛抱堪らなくなったリリーは、自分を抱えるジャンヌを見た。

「まっ、ママ!!あの人、ママを誰かと勘違いしてるんだよね?だってぬぼ~ってしたママが、そんな怖いことするワケないもん~!!」

 上ずった声で聞くが、ジャンヌは答えようとせず、ただマリアを見ている。

「ねぇなんか言って!?絶対なんかの間違いだって!!ママ優しいじゃん!!ボクをぶったことなんか一回もないじゃん!!そんな・・・そんな化け物みたいなことするわけないじゃんッッッ!!!」

 半泣きになりながら声を荒げて、ジャンヌの身体を強く揺するリリー。

 ❝どうか間違いであって。❞

 リリーの頭の中は、その願い一辺倒だった。

「ふぅ・・・なるほど。」

「え・・・?」

「これが腹を痛めて産んだ娘に己の過去を知られるという感情か・・・。嘘偽りではない、ただ事実を述べられるだけ。あまり堪えんな。」

「ま、ま・・・?」

 怒りも恐怖も微塵も感じられない無機質な言葉。

 リリーの願いは虚しく砕かれ、今まで感じたことがない恐怖を、母に向けた。
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