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第二章 誤解、とやらをされたらしくて

解けた誤解(1/2)

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 ミラは俺を振り向かせようと一途に頑張る乙女系男子、俺はそんなミラの気持ちを踏みにじる非道な男。

そんな誤解が生まれてから二週間。

その誤解が消える気配は未だにない。

理由は一つ。

ミラが一切の訂正をしないからだ。

この一件で告白される回数が激減したらしい。

それがミラにはとても有難いことだったらしく相手は俺だしまぁいいか状態なのである。

ミラにとってはそれでいいかも知れないが俺にとっては非常に困る!

そして毎度お馴染みの放課後、ついにミラに抗議する。


「なぁ、ミラ。本当にそろそろ誤解解かねぇ?」


「えー?告白されなくて楽なのに。最近は応援されるのがウザいけど」


「お前はいいよ!悪口言われねぇし何もされないから!俺は日に日に心のダメージ蓄積中なんだよ!魔法の授業ではタライやらバケツやらが毎回どっからともなく飛んでくるんだぞ!?水入りだったり!かまいたち食らったり!お陰で魔法力より回避能力が上がったわ!!」


「……喜ばしいことじゃない?」


「そうだな!実戦向きだよ!接近戦のな!魔法は中距離、遠距離だろうが!」


「あぁ、もう分かったよ。ミレイの誤解を解けば問題ないでしょ」


「ミレイだけじゃなくて!全員!」


「えー……面倒臭い……」


「お前が最初から訂正しとけばこんなことになってねぇよ!!」


「だから、その件については何回も謝ってるじゃん。シンヤはくどいよ」


その言葉に少し苛立ちながらも何かの気配を感じて話題を変えた。


「……なぁ、ミラ。透明になれる魔法とかあるのか?」


「え?あぁ、あるよ。透明って言うか幻惑属性魔法で見えないようにしてるだけなんだけどね。でも、何でいきなりそんなこと聞いてきたの?」


「……最近、つけられてる気がして」


「シンヤが?まさかぁ!」


「……今もなんか後ろに誰かいる気がするし……どうやったら解けるんだよ?」


「え?簡単だよ。魔法を無力化すればいいんだ。例えば……」


ミラはニコッと笑うと俺の目の前に手をかざして口を開く。


「エクス・プローション」


そう唱えた瞬間、俺の後ろから鈍い音がして俺は慌てて後ろを振り向いた。


「何かがいると思った方向に向かって呪文を唱えればいいだけ。それにしても驚いたな……本当にいたんだね?」


「い、いやいやいや!!今それどころじゃねぇから!!女子生徒だし気絶してるけど!?」


「気絶しても人間ヒューマン型のままってことは本当に人間ヒューマン型みたいだね。大丈夫。威力は最小限にしといたから」


「え?今ので最小限なのか?って言うか、どっかで見たことあるんだけど……」


首を傾げながら気絶して倒れてる三つ編みおさげ眼鏡のザ!文学少女を見つめる。


「そりゃあ、写真撮った張本人だからじゃない?」


「え?だって、あのとき、獣人ビースト型に……」


「幻惑属性魔法でそう見せられてただけじゃない?」


「……一つだけ確認していいか?」


「うん?何?」


「ミラ、見えてたなんてことはないよな……?」


「え?見えてなければあんなに吹っ飛ばせないよ?」


それを聞いた俺は絶句。


「お、おまっ!女って分かってて唱えたのかよ!?」


「まぁ、そう言うことになるけど……僕も最初から見えてた訳じゃないよ?シンヤが今も後ろにいる気がするって言ったときに気付いただけ。動揺したんだね。まぁ、自業自得じゃない?人のこと尾行してる方が悪いと思うけど」


「そうだけど!!あ!だから、さっき笑ったのか!?」


「え?あ。うん。逃げられると面倒だし。笑顔一つで動きとめてくれるならお安い御用って言うか」



なんで手をかざす前に笑ったんだろうと思ったら……そう言うことか!



俺は相変わらず気絶してる文学少女を抱き起して体を揺する。


「おい!起きろ!大丈夫か!?」


文学少女はうっすらと目を開けると慌てて俺から離れて持っていたカメラを確認する。

壊れてないことが分かったのか文学少女が口を開いた。


「あっ……す、すみませんっ!わ、わた、わたしっ!」


「と、とりあえず、落ち着け?ちゃんと話聞くから」


文学少女はコクコク頷くと深呼吸をして俺とミラを交互に見る。

そして、俺の方を向くと口を開いた。


「あ、あのっ!どっちがどっちですか!!」


「「は?」」


ミラも俺も質問の意図が分からなくて思わず首を傾げる。


「だ、だから、どっちが受けなのかと……わ、わたし的には、フォレストールさんの前ではツンツンしてるミライヤさんが受けでヘタレなフォレストールさんが攻めだと萌えますっ」


質問の意図を理解してしまった俺たちは呆れてミラが口を開く。


「……シンヤ。やっぱり、もう一発入れない?」


「……気持ちは分かるけど止めろ。後が面倒だ。で、えっと……アンタ、名前は?」


「あ!申し遅れました!わたしっ!フーガ・ルノルガーフです!種族は人間ヒューマン型です!新聞部に所属してる一年でみなさんにはルノと呼ばれています!」


「えっと、じゃあ、ルノ。俺たちはただ仲の良い友達で付き合ってないから。受けとか攻めとかない」


「そ、そうなんですか!?で、でも、あのとき、き、キスしようとしてましたよね!?」


文学少女改めルノは嘘だ!と言わんばかりに聞いてくる。


「……いや、俺が足滑らせて頭ぶつけてミラの方が赤く腫れたから氷当てようとしただけなんだけど……画像編集してたよな?俺、手にハンカチ持ってたぞ?」


「あ、あの写真は先輩に渡したんです!なので、私、元画像は見てなくて……」


それを聞いたミラが我慢出来なかったのか口を挟んだ。


「元画像は見てなくてもその場にいたんだから分かるんじゃないの?話も聞いてたはずだし見てたでしょ?」


するとルノからは驚きの返答が返ってきた。


「わ、わたし、あのとき、自分の世界に入ってまして……周りの音、何も聞こえなくて……眼鏡も興奮してたためか曇ってしまってシルエットとしてしか見えてなかったので……」


それを聞いた俺たちは絶句。

何となく



コイツ、やばい。色んな意味で。



と直感する。
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