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第一章 怪異の妖術譚
強すぎる妖力
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「働くって…」
いきなりの勧誘に頭がクラクラする。
バイトはしておらず、高校はバイトをしてもよい、という風潮なので、出来なくはないが…。妖怪相手に戦うなんて命知らずな仕事を、易々と引き受けられる程、俺は自分の命が惜しくない訳ではない。
「もちろん、最初から妖怪を退治しろなどと無理なことは言わん。其れが出来るのは己の妖力を自由自在に操れるようになってからじゃよ。」
眉をハの字にして、困った表情を見せた店長。はぁ…という溜息のオマケ付きで説明を頂いた。
「だからといって、童のように呼び込むを行うのもなぁ…傍から見たらただの変人じゃろうしな…」
「…やっぱり、座敷童子ちゃんは一般人には見えないんですね。」
あやかし屋を目指して歩いている時、すれ違った女性が白い目で俺の方を見ていた理由が分かった。そりゃあ、一人で歩いているのに誰かに引っ張られているようなポーズを取っていたら、変な目で見るだろう。
「こちらとしては優先的に戦力が欲しいんじゃ」
「戦力ですか…」
ではなおさら俺を雇う理由もないだろう。妖力の使い方も分からない、妖怪と戦うのがそもそも怖い。そんなヘタレ野郎を雇ってなんの利益があるのだろうか。
「特に男手が必要でのう。お主さえよければ…いや、もはや選択肢はなかろうて。」
「え、どうしてですか…?」
店主は少し寂しげに眼を伏せた。その仕草の真意は出会って数分の俺には分かりかねる。
「座敷童子を、人間を見る様に、はっきり目視出来るのは、正直特殊じゃ。妖力が強すぎる。妖力は火を起こしたり、残留思念を読みとれたりと便利なものじゃが、使い道を間違えれば人を殺すことだって出来るんじゃ。」
つまり今の俺は、刃物を持った幼児で間違いないだろう。使用方法が分からなければ大殺戮を行うことにもつながるのでは?そう考えると背筋が凍りつく。その悪寒はやがて腕にも伝わり、鳥肌としてその姿を現した。
「ここで働くことになれば、妖力の使い方、操り方。そして、妖術の編み出し方も教えることができる。どうじゃ?お主にとっては殺害を免れる、よい条件だと思うが。」
たしかに、自分自身の力を操る術を身につけることができれば、周りに害を与えることもなくなるし、店主が言うように便利な道具として使えるかもしれない。好条件だった。だが、易々と己の命を妖怪様に捧げてしまってもよいのだろうか。命の危険性だってあるはずだ。座敷童子のように善良な妖怪だらけではないだろうし…。
「儂は基本この店から出ることは無いが、お主に危険があれば駆けつけよう。新人ならば尚更だ。」
ふっと頼もしい笑みをその綺麗な顔に浮かべた店主は嘘をついているように見えなかった。
「それにしても…どうして店主は妖怪に詳しいのです?妖術の使い方も分かるみたいですし…」
「そりゃあお主、儂が妖怪だからに決まっておろう?」
さも当たり前かのようにさらっと述べた店主。
…いや、その姿は完全に人間そのものですけど!?え、こんなに妖怪らしくない妖怪いましたっけ!?
「ほっほっほ、困惑しているようじゃのう、人間よ。」
愉快愉快、と目尻に浮かべた涙を細く伸びた指で掬い取り、続けて店主は語る。
「まあこの姿では無理もない。人間に姿を変えているのだから当然じゃ。」
大笑いをしつつ、店主はすっと目を閉じる。何やら念じているようにも見える。
そして数秒たった後、白煙が俺の視界を覆った。すぅっと煙が晴れるには少しばかり時間を取ったが、その後の景色に俺は目を疑った。
「え、店主、頭に耳が…」
「むぅ、察しが悪いのう。儂は九尾の狐だぞい。」
「ええ!?き、狐…!!?」
一歩、二歩と驚きのあまり退いてしまう。店主の頭には、毛並みが整えられ、さわり心地が良さそうな金糸雀色の狐の耳が二つ。そして下半身には九尾らしく、こちらもまた毛並みが整えられた金糸雀色の尻尾が九つ生えていた。狐の妖怪ということで、先程まではなかった八重歯がちらりとこちらを覗いている。
顔自体に大きな変化は見られないが、目尻のあたりに赤色の化粧が施されている。よく妖怪図鑑で見る、九尾が変化した姿だ。
「今の儂は人間と狐の間ってところじゃな。元の姿は狐じゃ。」
「な、なんでまた九尾の狐が骨董屋なんかを…」
純粋な疑問だった。九尾の狐というのは強大な力を持っている、と聞いたことがある。骨董屋を営むよりも妖怪の総大将を務める方がよっぽど過ごしやすいのではと考えてしまう。
「昔っから儂は他の妖怪よりも妖力が強くてのう。周りの妖怪を傷つけることも少なくなかったんじゃ。ただ…儂はあまり争いごとを好まぬ性分らしくての。今では妖力の足りない妖怪に妖力を供給するため、ここの店を営んでいるんじゃよ。」
「この店を営むことで、どうして妖力の供給ができるんです?」
「報酬として、お客様から妖力を頂いているんじゃ。」
なるほど、そうしてここの商売は成り立っている訳か。人間相手なら妖力を取ったところで気が付かないだろうし、そもそも霊能力者や霊媒師でなければ必要のない力だ。しかも微弱。かなり効率的だと言える。
きっと妖怪からも依頼を受け、妖力を受け取っているのだろう。
「儂の姿を見て逃げる彼奴もいるが…お主は逃げぬようだな?どうした、ここで働きたくなったのかのう?」
別に働きたくない訳じゃない。命の危険さえなければの話だが。
だが、店主は妖力が強い九尾の狐ときた。共に行動をすれば、あまり危険はないのかもしれない。軽率な判断だと罵られそうだが、人を殺さない術を身につけることだってできるし、話を聞いた当初よりも拒絶感はなくなっていた。
「…いいですよ、働きます。男手として扱き使われてみます。その代わり、俺には妖力を操る方法を教えてください。」
かなり大胆不敵に物を言えるようになったな、と自分に驚いてしまった。
俺の答えに店主は満足したようで、うんうんとニ回首を縦に振った。
「そう答えてくれると信じていたぞい!こんなに上手くいったのは56年ぶりくらいかのう!」
「え、ええ…56年かあ…ちなみに店主は何年前から生きているんですか?」
「そうじゃのう…1000から数えるのを辞めたわい」
せ、千歳は確実に超えているのか…。ご長寿なことで、もしかしたら不老不死なのではと思ったが、よく考えたら人間の姿に変わる時は変化の術を使っていそうなので、若い年齢という訳ではないかもしれない。
俺たち人間には分かりかねる命だ。妖怪というものに干渉することがなかった人生なので、悠久とも思える時間を生きてきた店主の心が理解できない。
「さ、今日はもう遅いし帰宅してはどうじゃ?本格的な特訓は明日から、仕事内容は妖力の操り方を学ぶことじゃぞい。」
「は、はい、ありがとうございます」
アルバイトをするのは初めてなので、声が上ずってしまった。いや、もはやアルバイトと呼べるべきものなのかは不明だ。
「ここまでの道は複雑じゃろう?店の扉の外を、童と会った付近にしておいたから、そこからは間違えることなく家につくんじゃぞ。……そういえば、お主の名をまだ聞いていなかったな。」
店主は、俺の言葉を、その可愛らしい綺麗な顔を傾けながら待った。切れ長の瞳が色っぽく見える。
「小泉依月…です。小さい泉に、依存の依と月です。」
名前の音自体は難しくないが、漢字は珍しいので、人に名前を伝える時はこのようにしている。いつきだが、樹木の樹と間違えられたり、五月と勘違いされることもある。
月に依存する、という意味にも捉えられるが、親が言うには、「月のような淡い光で人を包み込めるように」という意味らしい。ポエム風だな、と感じた覚えがある。
「そうか。では、また明日だ、依月よ。」
「ちょ、ちょっと待って下さい!店主のお名前も知っておきたいんです」
店主は少しばかり悩んだ素振りを見せたが、笑顔に戻り、
「…儂の名前は紗世じゃ。」
と教えてくれた。
「じゃあ、明日もよろしくお願いしますね…紗世さん」
店の扉をくぐると、本当に座敷童子ちゃんと出会った道に出ていて、腰を抜かす程驚いた。
いきなりの勧誘に頭がクラクラする。
バイトはしておらず、高校はバイトをしてもよい、という風潮なので、出来なくはないが…。妖怪相手に戦うなんて命知らずな仕事を、易々と引き受けられる程、俺は自分の命が惜しくない訳ではない。
「もちろん、最初から妖怪を退治しろなどと無理なことは言わん。其れが出来るのは己の妖力を自由自在に操れるようになってからじゃよ。」
眉をハの字にして、困った表情を見せた店長。はぁ…という溜息のオマケ付きで説明を頂いた。
「だからといって、童のように呼び込むを行うのもなぁ…傍から見たらただの変人じゃろうしな…」
「…やっぱり、座敷童子ちゃんは一般人には見えないんですね。」
あやかし屋を目指して歩いている時、すれ違った女性が白い目で俺の方を見ていた理由が分かった。そりゃあ、一人で歩いているのに誰かに引っ張られているようなポーズを取っていたら、変な目で見るだろう。
「こちらとしては優先的に戦力が欲しいんじゃ」
「戦力ですか…」
ではなおさら俺を雇う理由もないだろう。妖力の使い方も分からない、妖怪と戦うのがそもそも怖い。そんなヘタレ野郎を雇ってなんの利益があるのだろうか。
「特に男手が必要でのう。お主さえよければ…いや、もはや選択肢はなかろうて。」
「え、どうしてですか…?」
店主は少し寂しげに眼を伏せた。その仕草の真意は出会って数分の俺には分かりかねる。
「座敷童子を、人間を見る様に、はっきり目視出来るのは、正直特殊じゃ。妖力が強すぎる。妖力は火を起こしたり、残留思念を読みとれたりと便利なものじゃが、使い道を間違えれば人を殺すことだって出来るんじゃ。」
つまり今の俺は、刃物を持った幼児で間違いないだろう。使用方法が分からなければ大殺戮を行うことにもつながるのでは?そう考えると背筋が凍りつく。その悪寒はやがて腕にも伝わり、鳥肌としてその姿を現した。
「ここで働くことになれば、妖力の使い方、操り方。そして、妖術の編み出し方も教えることができる。どうじゃ?お主にとっては殺害を免れる、よい条件だと思うが。」
たしかに、自分自身の力を操る術を身につけることができれば、周りに害を与えることもなくなるし、店主が言うように便利な道具として使えるかもしれない。好条件だった。だが、易々と己の命を妖怪様に捧げてしまってもよいのだろうか。命の危険性だってあるはずだ。座敷童子のように善良な妖怪だらけではないだろうし…。
「儂は基本この店から出ることは無いが、お主に危険があれば駆けつけよう。新人ならば尚更だ。」
ふっと頼もしい笑みをその綺麗な顔に浮かべた店主は嘘をついているように見えなかった。
「それにしても…どうして店主は妖怪に詳しいのです?妖術の使い方も分かるみたいですし…」
「そりゃあお主、儂が妖怪だからに決まっておろう?」
さも当たり前かのようにさらっと述べた店主。
…いや、その姿は完全に人間そのものですけど!?え、こんなに妖怪らしくない妖怪いましたっけ!?
「ほっほっほ、困惑しているようじゃのう、人間よ。」
愉快愉快、と目尻に浮かべた涙を細く伸びた指で掬い取り、続けて店主は語る。
「まあこの姿では無理もない。人間に姿を変えているのだから当然じゃ。」
大笑いをしつつ、店主はすっと目を閉じる。何やら念じているようにも見える。
そして数秒たった後、白煙が俺の視界を覆った。すぅっと煙が晴れるには少しばかり時間を取ったが、その後の景色に俺は目を疑った。
「え、店主、頭に耳が…」
「むぅ、察しが悪いのう。儂は九尾の狐だぞい。」
「ええ!?き、狐…!!?」
一歩、二歩と驚きのあまり退いてしまう。店主の頭には、毛並みが整えられ、さわり心地が良さそうな金糸雀色の狐の耳が二つ。そして下半身には九尾らしく、こちらもまた毛並みが整えられた金糸雀色の尻尾が九つ生えていた。狐の妖怪ということで、先程まではなかった八重歯がちらりとこちらを覗いている。
顔自体に大きな変化は見られないが、目尻のあたりに赤色の化粧が施されている。よく妖怪図鑑で見る、九尾が変化した姿だ。
「今の儂は人間と狐の間ってところじゃな。元の姿は狐じゃ。」
「な、なんでまた九尾の狐が骨董屋なんかを…」
純粋な疑問だった。九尾の狐というのは強大な力を持っている、と聞いたことがある。骨董屋を営むよりも妖怪の総大将を務める方がよっぽど過ごしやすいのではと考えてしまう。
「昔っから儂は他の妖怪よりも妖力が強くてのう。周りの妖怪を傷つけることも少なくなかったんじゃ。ただ…儂はあまり争いごとを好まぬ性分らしくての。今では妖力の足りない妖怪に妖力を供給するため、ここの店を営んでいるんじゃよ。」
「この店を営むことで、どうして妖力の供給ができるんです?」
「報酬として、お客様から妖力を頂いているんじゃ。」
なるほど、そうしてここの商売は成り立っている訳か。人間相手なら妖力を取ったところで気が付かないだろうし、そもそも霊能力者や霊媒師でなければ必要のない力だ。しかも微弱。かなり効率的だと言える。
きっと妖怪からも依頼を受け、妖力を受け取っているのだろう。
「儂の姿を見て逃げる彼奴もいるが…お主は逃げぬようだな?どうした、ここで働きたくなったのかのう?」
別に働きたくない訳じゃない。命の危険さえなければの話だが。
だが、店主は妖力が強い九尾の狐ときた。共に行動をすれば、あまり危険はないのかもしれない。軽率な判断だと罵られそうだが、人を殺さない術を身につけることだってできるし、話を聞いた当初よりも拒絶感はなくなっていた。
「…いいですよ、働きます。男手として扱き使われてみます。その代わり、俺には妖力を操る方法を教えてください。」
かなり大胆不敵に物を言えるようになったな、と自分に驚いてしまった。
俺の答えに店主は満足したようで、うんうんとニ回首を縦に振った。
「そう答えてくれると信じていたぞい!こんなに上手くいったのは56年ぶりくらいかのう!」
「え、ええ…56年かあ…ちなみに店主は何年前から生きているんですか?」
「そうじゃのう…1000から数えるのを辞めたわい」
せ、千歳は確実に超えているのか…。ご長寿なことで、もしかしたら不老不死なのではと思ったが、よく考えたら人間の姿に変わる時は変化の術を使っていそうなので、若い年齢という訳ではないかもしれない。
俺たち人間には分かりかねる命だ。妖怪というものに干渉することがなかった人生なので、悠久とも思える時間を生きてきた店主の心が理解できない。
「さ、今日はもう遅いし帰宅してはどうじゃ?本格的な特訓は明日から、仕事内容は妖力の操り方を学ぶことじゃぞい。」
「は、はい、ありがとうございます」
アルバイトをするのは初めてなので、声が上ずってしまった。いや、もはやアルバイトと呼べるべきものなのかは不明だ。
「ここまでの道は複雑じゃろう?店の扉の外を、童と会った付近にしておいたから、そこからは間違えることなく家につくんじゃぞ。……そういえば、お主の名をまだ聞いていなかったな。」
店主は、俺の言葉を、その可愛らしい綺麗な顔を傾けながら待った。切れ長の瞳が色っぽく見える。
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月に依存する、という意味にも捉えられるが、親が言うには、「月のような淡い光で人を包み込めるように」という意味らしい。ポエム風だな、と感じた覚えがある。
「そうか。では、また明日だ、依月よ。」
「ちょ、ちょっと待って下さい!店主のお名前も知っておきたいんです」
店主は少しばかり悩んだ素振りを見せたが、笑顔に戻り、
「…儂の名前は紗世じゃ。」
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