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前世、俺を庇った彼とまた恋に落ちる。

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 今年で大学生になった俺、立花たちばな 千尋ちひろには前世の記憶というものがある。


 前世の俺の名前は、エルリーク・インビリスティン。日本では、考えられない名前だ。
 前世の記憶と言っても、鮮明に覚えているのは、貴族だったこと、自分の名前、恋人のことだけだった。
 恋人…。同姓婚が認められていて、俺の恋人は男だった。名前は、エドワルド・インビリスティン。男なのに筋力がつきにくく、ひょろひょろで身長が低めだった俺とは正反対で、彼は高身長のがっしりとした体格だった。
 優しくて、人の世話をするのが好きだったな~。夜も…含めて、ね。

 でも、きっと彼は俺のことを恨んでいると思うから。

 時々、夢に出てくる。
 辺りを囲む、赤い炎。国民たちの怒号の叫び。悲鳴。泣き声。助けを求める声。まさしく、阿鼻叫喚だった。
 そして…、俺を庇ったせいで血だらけになった彼を抱き抱えながら、死なないでと泣き叫ぶ自分の姿が…。

 これが、前世の最後の記憶だ。




「…ろ……ひろっ。千尋!」

「え、はい!」

 突然、名前を呼ばれて驚きのあまり考えていたことが全て吹っ飛んだ。

「どうした? なんか考え事か?」

「はい。
 …今日の夕飯は、コロッケとメンチカツのどっちがいいか悩んでました!」

「ぶはっ。そんなことかよ!」

 そんなことじゃありませんよ!と反論しながら、上手く誤魔化せたことに内心ホッとした。前世で鍛えたポーカーフェイスのおかげだ。
 なんでホッとしたかって? それは彼が前世の恋人の生まれ変わりだからだよ。
 彼の今生の名前は、たちばな 裕樹ゆうき。一つ年上の先輩だ。
 確か、前世も一歳差だったな。偶然なのか、必然なのか…。

 でも、彼は…。

ピロン♪
 ポケットから着信音の鳴ったスマホを取り出すと、いじり始めた。
「お、そろそろ帰んねぇと! じゃあな!」

 前世のことを覚えてないように思える。

 今の俺、立花千尋は、前世とは全く違うのにも関わらず、彼…橘祐樹に惚れている。
 また、彼のことを苦しめてしまうかも知れないと分かっているのに、彼の傍から離れられない。

 ああ。
「苦しい…苦しいよぉ…」

 何かに締め付けられているのか錯覚するほど、痛む胸をぎゅっと握り締めた。



 前世、俺が死ぬきっかけとなった争いは国民たちの不安が爆発した結果だった。
 その時の国王は一部の人に、愚王ぐおうや、傀儡王かいらいのおうと呼ばれており、周りの言いなりとなる、お飾りの王・・・・・だった。

 それぞれの首都から離れるほど、土地は荒れ、最悪なところでは廃都になったところもあった。
 そして、年々溜まっていった不安や不満が爆発した。

 各地で反乱が巻き起こり、俺達がいた王都では貴族街が炎に包まれた。
 それだけでなく、矢や瓦礫などが至るところから投げつけられた。

 そして、俺のことを庇って――


 スッと目を閉じて、思い出すのをやめた。
 濡れた頬には気付かない。





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