俺は貴女の不死の騎士〜【不死】の魔法を使う俺は騎士団に捨てられて(愛の重い)悪の女幹部に捕まったけど、溺愛されて楽しく暮らしてます〜

平田直人

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第一章

第4話 -2 理不尽な命令

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 背中越しに衣擦れの音が聞こえる。
 すぐ後ろで起きている光景を想像すると、それだけで自分が興奮していくのがわかる。

「せめて前は隠せよ?」

「ああ、わかってるよ」

 本当にわかってるんだろうか、心配になってくる。
 というか、タオル越しとは言え本当に俺の理性は持つのか……?
 とりあえず、このタオルを開発してくれた何代か前の王様に感謝しなければなるまい。
 
「おい、まだか」

 エレノアは準備が終わったのか、早くしろとせかしてくる。
 心の準備がまだ出来てないが、これ以上待たせると強引に連れ込まれそうなので急いで下着を脱ぐ。

「もういいよ」

 腰にタオルを巻き、準備が出来たことを伝える。

「お前、昔より筋肉がついてきたな」

 振り向いたエレノアが俺の体をじろじろと見ながら感心した様に頷く。
 
 俺もエレノアの姿をみる。
 エレノアの剣の腕は俺よりも強い。だが、タオル越しに見える体や細い腕からはそんな風にはとても思えないほどに、綺麗で美しかった。

「エレノアもやっぱり貴族様なんだな」

「お前だってすぐに貴族になるだろう? 私とお前、貴族と平民でも何も変わらない。同じ人間だよ」

 わが主様は流石、心まで綺麗なお人だ。
 強引で理不尽なところもあるが、少なくとも今こうして従者として仕えていられることはとても幸せな事だと、改めて思う。

 残念ながら、俺が騎士になる事は無いので貴族になることはないがな。

「そういう意味でいったんじゃないよ、綺麗だって意味だ」

「当然だ、鍛えているからな」

 布一枚しか遮る物が無い胸を誇らしげに張る。
 いくらあまり大きくないとはいえその行動は危険すぎる……!

「ほら、早く入るぞ」

 出来るだけエレノアの姿を見ないようにしながら浴槽へと向かう。
 
   *
 
 貴族の家には浴槽があることが多い。
 これも数代前の王が、国民は綺麗であることが望ましいということで王都の全国民に対し、二日に一度は風呂に入る事を義務付けたのが原因だ。 

 庶民たちと同じ浴槽に入る事を嫌がった貴族たちは、皆一斉に家に浴槽を作ったらしい。
 ちなみに庶民たちは王都にある銭湯を利用することが多い。

 確か、学校に通うことを推奨した王と同じだったか?
 そう考えると、ずいぶんと先進的な人物だなぁ。
 
「おい、なんで壁を見てる」

 現実逃避がばれてしまった。
 広々とした石造りの湯船の中に、俺とエレノアが二人きりで隣り合って座っている様は、俺の理性を常に刺激し続けていた。

 もう少し離れてほしい……。

「いや、別に……」

「こっちを見ろ、命令だ」

 どんだけ体見せたいんだよ、痴女かよ……。

「はいはい……」

 エレノアの方に体を向けると、湯船につかっているせいで顔しか見えない。
 ちょっとだけ残念なような気がしなくもないようでなくもない。
 いや、決して!決して!下心があるわけではないがな?

「なんだその顔」

「なんでもないよ」

 どうやら本音が顔に出ていたらしい。

「……まあいい。一緒に風呂に入るのも久しぶりだな」

「リカルダさんに止められてから入ってないもんな、あれっていつだ?」

「十二の頃だ」

 六年前、結構最近だな。
 え、俺たちそんな最近まで一緒に入ってたのか?
 ……子供って怖ぇ。

「よく覚えてるな」

「ああ、猛烈に抗議して一週間親と口を聞かなかったからな」

 エレノアの中で俺と風呂に入るのはそんなに重要なイベントなのか……?

「なんでそんなに俺と風呂に入りたがるんだよ」

「そんなの決まっているだろ」

「そうなのか?」

「ああ、お前が私のものだからだ」

 またそれだ。
 
 まあ確かに、従者だからそうなんだが……。
 俺は騎士にはなれないだろうからいずれは誰か騎士の従者になると思うんだがな、ドロシーとかは嫌だな、うん……。

「なあエレノア」

「なんだ」

「お前は、どうしてそんなに俺を信じられるんだ?」

 俺に騎士の才能が無いことくらい、エレノアにだってわかり切ってるだろうに。
 何故そこまで、俺よりも俺を信じられるのだろうか。

「少なくとも、お前が私の元からいなくなることはないだろう?」

「それは、まあ……。けど騎士になれなければ誰かの従者になる事だってあるかもしれない」

 これは寧ろ、限りなく現実に近い。
 来年の今頃には、俺はエレノアの従者ではなくなっているだろう。

「関係ない。お前が誰かの従者になろうと、お前は私の傍にいる」

「……どうして」

「何度も言わせるな。お前が、私のものだからだ」

 当然の事実だと、絶対に覆ることのない確定した未来なのだと信じているように、エレノアは言い切る。

 だから、どうしてそんなに……。
 俺には、エレノアの考えが全く理解できなかった。

「よし、体を洗うぞ」

 隣に座るエレノアが立ち上がる。
 
 俺は極力体が目に入らないように視線を扉の方へ向ける。

 扉の近くには小さな椅子があり、エレノアはそこへ腰かける。

「おい、背中を流してくれ」

 当然と言うべきか予想通りと言うべきか、それとも期待通りと言うべきか、エレノアがさも当たり前のことのようにとんでもないことを要求してくる。

 いやまあわかってはいた、わかってはいたが……。

「嫌だよ」

 無言で睨みつけられる。

 とりあえず猫に挑むネズミばりの無駄な抵抗をしてみたが、全く無駄だったようだ。
 どうせこのまま断り続けても命令されたら逆らえないのだ、機嫌が悪くなる前にとっとと終わらせてしまおう。

 俺は湯船から立ち上がり、素早く前を隠す。
 湯船に入る際はタオルをつけないのがマナーなので、腰から外してあったのだ。

「ふむ……」

「なんだよ」

「別に、ただ……」

「ただ?」

「ちゃんと成長しているんだなと、そう思っただけだ」

「どこを見ていった!?」

 エレノアが視線を外す。

「どこでもいいでしょ」

 こいつ、絶対腰のあたりを見ていっただろ……!
 どうやら隠しきれていなかったようだが、これ以上追求すれば完全にセクハラ行為なので追求できない。

「こういう時、男って損だよな」

「……なんだ、みたいのか?」

「みたくないよ!」

 さっきまでのどことなく暗い雰囲気が吹き飛んでいく。
 まあ、暫くの間はこれくらいの距離感がいいのだろう。

「ほら、さっさと来い」

「わかったよ……」

 エレノアの後ろに置いてある椅子へと座る。

「これを使え」

 石鹼を手渡してくる。
 ちなみにこの石鹼も数代前の王様製だ。万能すぎてびっくりする。

 俺はそれを手で泡立てると、エレノアの意外に小さくて白い背中に手を当てる。

「……ん!」

「おい、変な声出すな」

 こっちは我慢するのに必死なんだぞ……!

「すまん、急だったからな」

「ま、まあいい。つづけるぞ」

 出来るだけ優しく、傷なんて絶対につけないように丁寧に背中に触っていく。
 その度に少しだけ息を吐くエレノアがとても魅力的に見えて、自分の理性を抑えるのに必死になる。

「昔よりうまくなったな」

「昔がどんなだったかなんてもう覚えてないよ」

「そうか? かなり酷かったぞ」

 酷いってどういうことだ……?

「強くやりすぎて痛かったとか?」

「うーん、それもあるけど……」

 え、違うの?
 ほかに酷い理由なんて思いつかないんだが……。

「とにかく前を触りたがってたな」

 そういってはっはっはと笑う。

 六年前の俺、有罪。
 というか絶対それを見られてリカルダさんが止めたんだろ!
 何やってんだ俺!?
 というか、なんで覚えてないんだよ俺!

「それはその、すまん……」

「まあ昔の事だから許してやろう。……今日はいいのか?」

「いいよ……!」

 頼むから俺の理性を壊すような発言は控えてほしい。

「ま、そういう事はまだ駄目だ。背中で我慢しろ」

「へいへい……」

 今はって、後ならいいのか?
 いや、考えるのはよそう。
 今は無心で背中を洗い続けるしかない。

   *
 
 その後、必死に理性を抑えてなんとかエレノアとの風呂を乗り切った俺はすぐに自分の部屋のベッドで横になっていた。

 交代でエレノアが背中を洗ってきた時は本当に限界を超えそうになったが、ハインツの顔を思い出し続けることでなんとか乗り切った。

 その後、ややエレノアの様子がおかしかったのは気のせいだろう。そうだと思いたい。

 それにしても今日は何というか、落差の激しい一日だった……。

 ドロシーとの訓練は地獄のようにつらかったが、エレノアとの風呂は天国だったといってもいいだろう。
 惜しむらくは、据え膳を食うことができない事だが、まあそれは思い出の中にしまっていつか取り出すとしよう。

 ドロシーは騎士になれるだろうか……。

 今の東門騎士団は、不動の第一、第二席次がおり、ここは絶対に動かないだろう。

 第三席次はあまり目立ってはいないが、かといって失点も聞いていない。すぐにどうこうということはないだろう。
 
 第四席次のトラウゴッドさんが行方不明みたいだが、元々その席にはハインツが座る予定だったから関係菜だろう。

 こう考えると、当面の間はドロシーが騎士になって俺がその従者になるなんて言う最悪の展開は、どうやら来なさそうだ。

 とりあえず一安心、と言ったところだろうか。
 安心したらなんだか眠くなってきた、今日は寝るとしよう。
 俺の体力は限界を迎え、次に目を閉じたときにはもう眠りについていた。
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