俺は貴女の不死の騎士〜【不死】の魔法を使う俺は騎士団に捨てられて(愛の重い)悪の女幹部に捕まったけど、溺愛されて楽しく暮らしてます〜

平田直人

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第一章

第5話 始まりを告げる戦い

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 深夜未明、俺は今東門騎士団の総本部へと来ている。
 
 エレノアとの入浴が終わって気持ちよく寝ていた俺だったが、三時間もしないうちにたたき起こされて訳が分からないままにここまでやってきていた。

 本部に着いた俺とエレノアはすぐに会議室へと通される。
 会議室の中には大きく細長いテーブルに向かい合わせになりながら座る騎士や従者たちがおり、そして一番奥の上座に騎士たちを見渡すように現領主、フレデリック様が座っている。
 ラーレちゃんやハインツ、それにベンノさんにドロシーまでいる。第一席次のカンナ様はいないが、これは相当深刻な状況なのかもしれない……。

「みな、集まったようだな」

 俺たちが席に着いたのを見計らって、フリデリック様が口を開く。

「こんな深夜にわざわざ申し訳ないが、今回はかなりの緊急事態だ。【漆黒の悪魔】はみなも知っているだろう?」

 もちろん知っている。ここにいるメンバーで【漆黒の悪魔】を知らない人は誰もいないだろう。
 自由同盟の大幹部にして、何人もの騎士を打ち滅ぼしている危険人物だ。

「その【漆黒の悪魔】の拠点が見つかった」

「……!」
 
 隣にいるエレノアが息を吞むのが聞こえる。

「ラーレがトラウゴッドを捜索中にそれらしきものを見つけてな、すぐに招集をかけたというわけだ。ありがとう、ラーレ」

 フリデリック様がラーレを労う。

「と、とんでもございません!」

「謙遜はしなくていい。それよりも、具体的な情報を説明してあげてくれ」

「わ、わかりました……!」

 ラーレちゃんが緊張した面持ちでフリデリック様の隣に立つ。
 ふとハインツを見ると、あいつも緊張した様子である。

「えと、それでは説明させていただきます。東門領域市街地の外れに古びた広い屋敷があるのですが、そこにナギサ=ヴィドールと思しき人物が頻繫に出入りしているのを発見しました」

 ナギサと言えば、【漆黒の悪魔】の部下として相当有名な奴だったはずだ。
 そのナギサが出入りしているとなれば、本当に【漆黒の悪魔】の拠点なのかもしれない。

「ナギサ以外にも複数の人が入っているのを確認している事から、少なくとも現在も稼働中の拠点である可能性が高いです。ただし、既に私の監視魔法が見つかっているため、急がないと撤退している可能性もあります」

「それで今から強襲するというわけか。メンバーは?」

 エレノアが質問する。
 次期領主が内定しているだけあって会議でも自由に発言できるようだ。ちなみに俺は会議に出席するのはこれが初めてなので一切喋る気はない。下っ端だし。

「君とハインツ、それにルイスの三人だ」

 え、俺?

「ルイスもですか?」

「ああ、私の魔法を使って彼と君たちを繋げれば、取り合えず死ぬことはないだろう」

 ああ、そういう事ね。
 たまにある“肉の盾”としての仕事というわけか。

 フリデリック様の魔法は契約した物同士で傷や痛みを分け合うことが出来るという、ある意味大変便利な魔法だ。
 俺とエレノアやハインツを繋げれば、俺が傷を肩代わりして【不死の魔法】で回復すれば俺の魔力が尽きるまで二人が死ぬことはない。

 実に合理的で、俺みたいな雑魚でも戦力になる素晴らしい作戦だ。
 俺が死ぬほど痛くて苦しいってことを除けば……。

「それではルイスの負担が大き過ぎます、それにこの三人では流石に戦力が足りないのではないでしょうか?」

 エレノアが作戦に異を唱える。
 確かに、【漆黒の悪魔】を相手にするには流石に戦力が足りていないように思えるが……。

「問題ない。カンナが後ほど合流する予定だ。君たちは威力偵察をしつつ足止めをしてくれればそれでいい」

 それは心強いな。
第一席次にして王国最強の騎士が来るなら【漆黒の悪魔】もどうにかなるかもしれない。

俺の魔法があれば二人が死ぬことはほぼないし、かなりいい作戦だと思える。

「しかし……!」

 だがエレノアが食い下がる。いったい何が気に食わないのだろう?

「くどい、事態は一刻を争う緊急事態だ。言い争っている時間はない」

「……わかりました」

   *

 エレノアが納得したことで早速出発する事に俺たちは、フリデリック様に魔法をかけてもらいすぐに会議室を出た。
 出発直前にドロシーから、「おにいさんも役にたてるんですねー」と、大変ありがたいお褒めの言葉をいただいた。

ムカつくので頭にげんこつを食らわせると、抗議の目線を送ってきたが無視することで事なきを得た。

「お前、あのドロシーって子と知り合いだったのか?」

 道すがら、ハインツが俺に問いかける。

「ん? ああ、ちょっと訓練に付き合っただけだよ」

「ふーん……」

 興味なさげだ。
 じゃあなんで聞いたんだよ、と思わないでもないがこいつは割と自分勝手で独善的な奴なので慣れている。

「随分と失礼な奴だったな、私が領主になったら絶対に騎士にはしないな」

 エレノアが怒りの声を上げる。

「けど、あいつの魔法はかなり強かったぞ」

「どんな魔法だ?」

 魔法の話になると途端にハインツが食いつく。
 騎士候補のライバルとして気になるのだろうか。

「相手の声を奪う、だったかな?」

「それはまた随分と凶悪な魔法だな。俺には全く意味がいないが」

 ハインツが胸を張る。
 実際こいつの【炎の魔法】は魔術のように詠唱を必要とするわけではないのでドロシーとの相性は抜群にいいだろう。
 逆に、エレノアは相当相性が悪そうだ。

「どちらにしても、礼儀がなってないやつを私は好かん」
 
 頑固おやじみたいだな。こんなに厳しかったか?

「ま、我らが主がお怒りなら俺も従うまでだよ」

 こいつ、あんな年下の子供に何をするつもりだ……?
 実際エレノアのためなら人殺しも厭わないだろうハインツが言うとちょっと怖いものがあるな。

「大丈夫、俺はそんなに怒ってないから」

 俺がドロシーをかばうと、二人は目を丸くする。

「生意気言われた本人のお前が庇うなんて、やっぱり何かあるのか?」

 ハインツが俺を問いただす。

「いやいや、何もねーよ」

「わかった! お前あの子の事ちょっと好みなんだろ」

 恐ろしい事を言い出すな……。
 俺はロリコンではないので、あんな成熟していない子にはなんの興味も湧かない。

「……」

 エレノアが無言で俺を見つめてくる。

「いや、そんなわけないから」

「……まあいい」

 どうにか主のお許しをいただけた。
 原因を作った隣の大男がけたけたと笑っている。

「あんまり変なこと言うなよ!」

「悪かった悪かった。けどほら、かわいらしいのは事実だろう?」

 まあ、見た目は確かに愛らしかったが中身が相当ひどいのを俺は知っている。

「俺はあんな子供に性欲は湧かないんだよ」

「へー、じゃあお前はどんな女が好きなんだ?」

 どんな女……。
 どうだろう、あまり考えたことなかったな。

「決まってる、私のような女だ。そうだろう?」

 何故エレノアが答える……。

「いや、どうだろう……?」

 なんとなく気恥ずかしさもあったので誤魔化すと、「は?」というドスの聞いた低い声と氷のような目線が俺に突き刺さる。

 いや怖すぎるわ……!

「なんでもないです……」

「うんうん、それでいいんだ」

 エレノアが満足そうに頷く。
 自己評価が高くて羨ましい。
普通嫌われそうなものだが、実際その評価に見合った能力をしているんだから誰も逆らえないのだ。

「はあ……」

 ハインツがため息をつく。
どうやらハインツも呆れているようだ。

   *

それから少し歩くと、ラーレちゃんの言っていた古い石造りの屋敷が見えてきた。

空いたままの門から玄関まで伸びた石畳が持ち主の経済的な豊かさを感じさせ、正面玄関近くの庭に赤い花が咲き芝が整備されている様子は、人がまだ住んでいることを声高に主張する。

『目標地点に到着した。これからすぐに威力偵察を行う』

 エレノアがメッセージの魔術で連絡すると、すぐに了解した旨の返事が来たので俺たちは早速屋敷の敷地内へと入る。

 石畳を少し進み、改めて屋敷を見る。
 部屋の明かりが灯されている様子はなく、中に人の気配もない。

「もう、撤退した後なのか?」

「どうだろう……とにかく、中に入ってみましょう。ハインツ、扉を壊して」

 エレノアが強硬手段を口にする。

「それは困りますね」

 上から女の声が聞こえる。急いで上を見上げると、玄関の上に女が二人座っている。
 一人は黒いローブを羽織、足には黒い靴とタイツを履いた黒髪ロングの黒づくめの美女。
 もう一人は赤いパーティドレスに身を包み茶色い髪を片側に縛った小さな女だ。
 
恐らく、声の主は赤いパーティドレスの方だろう。

「悪いけど、ここは私の家なの。早急にお引き取り願えるかしら?」

 黒づくめの女がそう警告してくる。
 この女、全身に黒い装飾を身にまとった【漆黒】とも思えるこの女は……。

「漆黒の悪魔……!」

 エレノアが驚きと恐怖を併せたような声を上げる。

「そう呼ばれるのは本意じゃないのだけれど」

 腰まで伸びた黒い髪をかき上げながら、事もなげにそう答える。
 否定しないか……。ということは、間違いないな。
 彼女こそ【漆黒の悪魔】その人なのであろう。噂の凶悪な犯罪者がこんなに美人だったなんて驚きだ。

「ここはお前たちの拠点なのか?」

 俺は勇気を出して問いかける。漆黒の悪魔と目が合った。

「ええ、そうね。だから悪いけど帰ってもらえるかしら?」

「そういう訳にはいかないな」

 ハインツが鞘に手をかけながら声を上げる。

「ナギサ、悪いけどよろしく。私は面倒だからここで見ているわ」

「えー! 私引越しの手伝いもしてくたくたですよ! 人使い荒いです!」

 ナギサと呼ばれた女が抗議する。
 想像よりも軽い様子に驚くが、緊張を絶やすことはできない。

「ダメよ、やりなさい。実戦テストも兼ねてあれも貸してあげるから」

「……はーい、わかりましたよ。はあ……。と、いうわけで侵入者のみなさん!」

 ナギサが明るい声でこちらに話しかけてくる。
 俺たちはみな一様に鞘に手をかけ最大限の警戒をする。

「申し訳ないですが立ち去ってもらいますね。と言っても私一人では少々大変なので……」

 ナギサが両手を叩く。
 すると、屋敷から大きな物音が聞こえ石畳が揺れる。

「な、なんだ!?」

 俺たちが驚きうろたえていると、玄関の扉がぶち破られて中から巨大な男が出てくる。

 その男に見覚えがあった。そしてそれは、二人も同じだったのだろう。目を丸くして目の前の男を見る。

「トラウゴッドさん……?」

 ハインツが絞り出すように声を出す。
 ここ数日二人がずっと探していた騎士が、目の前で正気を失ったように立っている。

「助っ人を呼んじゃいました! これでも二対三で少々不利ですけど……」

 助っ人って、どういうことだ?

「みなさん、ぼへーっとしてるけどわかってます? もう戦いは始まってるんですよ……!」

 呆けている俺たち目掛けてナギサが槍らしきものを構えて飛んでくる。そして目の前からはトラウゴッドさんが突っ込んでくる。

 どうやら、俺たちに心の準備をする暇はないらしい。
 状況を整理する間もなく、戦いの幕が上がったのだった。

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