俺は貴女の不死の騎士〜【不死】の魔法を使う俺は騎士団に捨てられて(愛の重い)悪の女幹部に捕まったけど、溺愛されて楽しく暮らしてます〜

平田直人

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第二章

第2話 思い

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「ところで、俺は騎士団に帰れるのか?」

 ずっと気になっていたことを聞いてみる。

「それだけはダメ。あなたは私と一緒にここで暮らすの」

 きっぱりと断られる。予想通りの答えだった。

「……いや?」

 不安そうな顔で聞いてくる。
 嫌かどうか尋ねられれば、実はそんなに嫌悪感があるわけではない。
 こんなに綺麗な女性に言い寄られれば男なら嫌な気はしないだろう。

 だが俺は、エレノアを守る使命がある。……今は契約上どうなってるのかわからないが、騎士団に戻ればすぐに又元の役割に戻れるはずだ。

 だから俺は、エレノアの待つ家に帰らなければいけない。
 今も彼女は家で泣いているかもしれないのだ。

 だが、少なくとも今は逆らうべきじゃないだろう。
 いずれ機会を見計らって、必ず帰る。そのためにもまずはここでの生活に慣れることから始めるべきだろう。

「わかった、取り敢えずしばらくは一緒に住んでみよう」

 俺がそう返事をすると、みるみるうちにクオンの顔が喜びに満ちていく。

「そうね、そうよね! よかったわ、うん」

 興奮気味に頷いている。
 そんなに喜ばれると、なんだか罪悪感が湧いてくる……。

「いつか帰るつもりなのは変わらない。それまでの間だけだ」

 気持ちを黙ったままでいるのは俺の良心がもたず、本音を口にしてしまう。
「いいえ、あなたはずっとここにいるわ。あなたの方からずっと居たいって言わせて見せる」

 クオンが俺に向かって宣言する。

「そんな事にはならないよ」

 俺の忠誠は本物……のはずだ。
 例え騎士団に捨てられても、俺はきっとエレノアを思い続けられるはずだと自分を信じている。

「ところで、お腹は空いてない?」

 色々と急展開すぎて考えが及ばなかったが、意識すると急に空腹感が襲ってくる。

「まあ、空いてるな」

「そ、そう?……まあそうよね、三日間も寝てたわけだし」

 え、俺そんなに寝てたのか……。
 通りでお腹が空くわけだ。

「じゃ、じゃあ、えっと……ちょっと待ってなさい」

 そう言って、一瞬で目の前から姿を消す。
 そして次の瞬間には、もう既に小さな食卓テーブルの前の椅子に座らされていた。

 先ほどまでいたベッドルームと違い、割と普通の部屋だった。
 テーブルの近くには暖炉があり、その上の壁には絵画が飾られている。

 食卓からやや離れたスペースには二つのソファが向かい合わせに置かれている。

 悪の組織を代表する女幹部の部屋というよりは、普通のちょっと裕福な貴族の部屋といった感じで少しだけ拍子抜けしてしまう。

 騎士団にいたころのイメージだとしゃれこうべとか飾ってそうなイメージだったし……。
 食卓を見ると鳥肉のソテーにハム、白パンに赤ワインまで置いてある。
 随分と豪勢な料理だ……。

「これ、クオンが作ったのか?」

「そうよ。料理は得意なの」

 向かい側の席に座るクオンが誇らしげな顔で胸をはる。

「それは楽しみだ。食べていいのか?」

「もちろん。ルイスのために作ったのよ」

 まずは鳥肉のソテーに口をつけてみる。
 ……信じられないくらい美味しい。
 焼き加減もちょうどよく、バターの風味が素晴らしい。

「……口に合わない?」

 感動しすぎて何も言えずに黙っていたのが不安になったのか、こわばった顔で聞いてくる。

「すごく美味しいよ、正直感動した」

「ほ、ほんと? それはよかった。作った甲斐があったわ」

 一気に顔がほころび、喜びがこちらにも伝わってくる。
 
こいつ、意外と表情がころころ変わるんだな……。
もっとクールなイメージだったけどそういうわけでもないのか?

「なんでこんなに上手なんだ?」

 ふと気になって聞いてみると、クオンがやや寂しそうな顔をする。

「ほら私、ずっと独りだったでしょう?」

「ああ、そう言ってたな」

「だからする事とか、楽しみとかも無かったのよ……。だから、せめて食事位は楽しみたいと思って料理を始めたの」

 想像以上に悲しい理由だった。

「けど、今は貴方がいるから最高に幸せよ。誰かに料理を作るのがこんなに楽しいなんて知らなかったわ」

 そう言ったクオンの顔は、心底幸せそうだった。
 少しだけ、心が揺れる……。

「楽しんでもらえたならよかったよ。それに、俺もクオンの料理が食べられて幸せだよ、ありがとう」

 実際美味しいからな、うん。
 美味しいから幸せってだけで他に意味はない、はずだ。

「それなら、もっと食べていいのよ」

 それから暫く、気をよくしたクオンが次々に料理を進めてきた。
 孫に甘いおばあちゃんみたいだな、と思ってしまったのは心に秘めておくことにした。



「ごちそうさま。美味しかったよ、ありがとう」

 クオンが作ってくれた料理を食べきった俺は、お礼を言いながら食器を片付ける。

「どういたしまして。私も幸せな時間だったわ」

 なんかこう、一つ一つの発言が若干重い気がするのは気のせいだろうか。
 ま、まあいい。多分気のせいだろう。

「調理場はどの部屋だ? 運ぶよ」
 そう言った瞬間俺の手から、いや目の前にある全ての皿が消え去っていた。

「もうやったから大丈夫よ」

 また時魔法か……。

「あ、ありがとう」

「いいのよ、ルイスのためなら何も苦じゃ無いわ」

 聞いてるこっちが恥ずかしくなってくるようなセリフをさらりと言う。
 嬉しいしありがたいけども……。

「お風呂はどうするの? 準備は出来てるわよ」

 考えてみたら三日も入っていないのだ、そろそろ入らないと臭いだろう。

「流石に入ろうかな、臭うだろうし」

 俺がそういうと、クオンがすぐ近くまできて首元の匂いを嗅いでくる。
 クオンの綺麗な黒い髪がすぐ目の前にきて、甘い香りにほんのりと汗の匂いが混ざり漂ってくる。

 首元から感じるクオンの鼻息がいつまでも止まらない。
 ……ていうか、いつまで嗅いでる気だ!?

「お、おい」

 クオンの肩を押して首元から顔を離すと、ハッとした様子でこちらをみる。
 ……よく見ると、クオンの白い頬が赤く染まっている

「まあ、少しだけ匂うけど嫌な匂いではなかったわよ?」

 それはお前がおかしいだけでは?

「い、いや入らせてもらうよ。汗がベタベタして気持ち悪いし」

 ちょっと身の危険も感じるし……。

「もったいな……。まあそれなら仕方ないわね。ついてきて」

 黒い髪をかきあげて、努めて冷静な様子口調で俺を風呂場まで案内してくれる。
 今、もったいないって言いそうにならなかったか……?



 やや歩き、木製のドアの前で立ち止まるとクオンがその扉をあける。

「ここよ」

 中には脱衣スぺ―スがあり、その奥には木造で長方形の湯船があった。
 それなりに広いが、エレノアの家よりは狭めだ。
 入れるのは多くても三人位までだろうか?

 それでも、独りで暮らす庶民の家と考えれば破格の広さだろう。
 自由同盟の幹部が庶民というかは甚だ疑問だが……。

「木造なんだな」

「拘りよ。風呂の神に直接聞いたら、木造が一番良いって言うから真似してみたの。檜風呂って言うのよ」

 風呂の神とはこの国に風呂やらゲームブックやら学校やらを広めた、数代前の王様の愛称みたいなものだ。

「え、直接話したことあるのか?」

「ええ、あるわよ」

「どんな人だったんだ?」

 非常に興味深い。
「変人、かしら? とにかく話してることは殆ど意味が分からなかったわ」

「やっぱりそうなのか」

 ある意味想像通りだった。

「そんな彼との会話で唯一役に立ったのがこの檜風呂ね。石造りの風呂とは香りが違うわよ」

「へー、そんなに良いのか?」

「入ってみればわかるわよ。このためにわざわざ東洋の島国から買い付けたの」

 信じられない値段がしそうだ、聞かなかったことにしよう……。
 ていうか、こいつそれなりに独り暮らしを満喫してないか……?

「それは楽しみだ」

 実際すごく楽しみなので早く入ってみたい。
 クオンがこれだけ推すのだ、やはり石造りの風呂とは違うのだろう。

「ところで……」

 俺が期待に胸を膨らませていると、急にクオンがそわそわしだす。

「どうかしたか?」

「……お風呂、一緒に入りましょう」

 意を決した様に顔を上げると、とんでもない事を言ってくる。
 服装や髪が黒いせいで余計に際立つ雪のように白いクオンの肌が、今は熟れたリンゴのように赤く染まっている。

「流石にそれは……」

 俺が断ると、ムッとした表情で頬を膨らませる。

「ま、まあルイスは女性の裸も見たことのない初心な子供でしょうし恥ずかしいだろうけど、大丈夫よ? 私がリードしてあげる」

 風呂に入るのにリードもくそもないだろ……。

「裸くらい見たことあるよ」

 初心な子供と言われ少しだけ鼻についてしまった俺は、ついつい言い返してしまった。

「こ、子供の頃とかの話でしょう? そんなのは無効よ」

 直前に俺の事を子供といったことすら忘れている。冷静を装っているが、明らかに動揺しているのが伝わってくる。
 
「いや、三日前だよ」

 俺は、目が覚める日の夜にエレノアと風呂に入っていたことを思い出す。
 あれがなければ子供の頃までさかのぼるが、嘘はついてない。

「だ、だれの裸をみたのよ」

「エレノア」

 俺がそういうと、がっくりと肩を落とす。

「今日は一人で入っていいわ……」

 そう言って、クオンが風呂から出ていった。
 初めてクオンに勝てた気がするが、ほんの少しだけ心が痛かった。


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