俺は貴女の不死の騎士〜【不死】の魔法を使う俺は騎士団に捨てられて(愛の重い)悪の女幹部に捕まったけど、溺愛されて楽しく暮らしてます〜

平田直人

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第二章

第7話 -1 再会

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 俺がクオンの元に来てから一ヶ月が経とうとしていた。

「ほら、早く脱がせて?」

 いつものようにリビングのソファに座るクオンが俺の目の前に足を差し出す。 
 俺は指示されたとおりにクオンの靴を脱がせる。 
 黒いハイソックス越しにうっすらと見える綺麗な白い足が、汗と体温で熱気を帯びている。

 体臭と汗のにおいが混ざった独特な匂いが鼻腔を刺激するが、不思議と嫌な気持ちはしない。

「それも、ね?」

 クオンが甘い声で囁く。
 俺はその声に従うしかなかった。

「ちゃんと口で脱がさないと駄目よ?」

 俺が手で脱がせようとするとクオンが子供を諭すようにそれを止める。
 こいつ、どういう性癖なんだよ……。

「わかったよ……」

 俺は渋々手を止めて、クオンの足に顔を近づける。
 漂うにおいがより強くなる。
 本来なら嫌なにおいのはずが、クオンの匂いだと思うと逆に興奮してしまう。
 クオンに捕まってからのひと月で、俺も随分とおかしくなってしまったようだ。

「そう、指を嚙まないように気を付けて脱がすのよ」

 そういって椅子に座りながら俺を見下ろすクオンの顔が、歪んだ笑みを浮かべる。
 興奮を隠しきれていない感じがちょっと怖い……。
 俺は意を決してソックスのつま先部分に口をつける。
 汗に染みたソックスは以外にも何の味もせず、やや拍子抜けしてしまう。

 ……いや、拍子抜けってなんだよ。
 自分の抱いた感想にやや引いてしまう。
 見上げると、はぁはぁと息を荒げるクオンと目が合う。
 俺はすぐに顔を背け、作業を続ける。
 
 このままだとお互いにおかしくなってしまいそうなので、早く終わらせてしまいたい。
 俺は急いでソックスを脱がせる。
 
「ほら、あと少しよ」

 白い足が半分ほど出てきたころ、クオンが急かすように声を上げる。
 いい加減じれてきたのだろうか?
 その声に合わせるように勢いよく引っ張るとようやく脱がし終わり、雪の様に白い綺麗な足が姿を現す。

「よくできました、偉いわ」

そう言って、椅子に座るクオンの前で膝まずく俺の頭を撫でてくる。
そこだけ見ると、完全にペットと飼い主にしか見えない。
だが俺はそんな状況でも屈辱よりも満足や喜びを感じてしまう。
 
 ついに俺も毒されてしまったんだろうか……?
 言いようのない不安が胸をよぎる。

「……やめてくれ」

「本当は喜んでるくせに……。意外と強情なのね。なら、もっと撫でまわすわ……!」

 せめて言葉だけでも抵抗しようとするが、クオンはまるで本心がわかっているかのようにニヤニヤと笑みを浮かべ勢いよく俺の頭を撫でまわす。
 その感覚がやけに気持ちよく、癖になってしまいそうだった。

 一通り俺を撫でまわしたクオンは満足した様にため息をついて懐からナイフを取り出すと、傷一つない綺麗な足の甲に一筋の切れ目を入れる。

 そこからとめどなくクオンの血液が流れ、足から滴り落ちていく。

「ほら、舐めなさい」

 赤い血が垂れ落ちる足を俺の目の前に突き出してくる。
 クオンの表情は、先ほどよりもずっと蠱惑的で、妖しい艶やかさを醸し出している。
 
 舌先をクオンの足元へと向かわせる。
 まだ先端が触れてすらいないのに、クオンの顔は足先に流れる血の様に赤く上気している。
 俺の舌に、クオンの血液がしたたり落ちる。
 鉄の味が口内に広がり、未だになれない気恥ずかしさが全身を覆う。
 
 汚れ一つない綺麗な足に赤黒い血が流れ冒していく様は、色気すら感じさせるほどだった。
 
 俺はそのまま目の前にある親指を口に含む。
 汗の塩辛さと、血の鉄っぽい味が口の中で混じり合う。
言いようのない不思議な味が俺の味覚を支配する。
 
 味わうように親指を舐めると、クオンの体がびくびくと震える。

「く、くすぐったいわ……」

 身をよじらせて抵抗するクオンが愛らしく見えて、俺は更に舐め続ける。
 もはや親指には血も汗もなく無意味に舐めるだけのいやがらせでしかないが、身悶えるクオンに嗜虐心をくすぐられ、俺はその行為に集中していく。

「そ、それ以上は駄目よ……!」
 
 だんだんと、クオンの声に熱が帯びていく。
 その熱に比例して俺の興奮もどんどんと高まり、エスカレートしていく。

「ルイス……!」

 クオンの声に余裕がなくなる。
 俺はもっとその声が聴きたくて、別の指へと口をずらす。
 クオンの声が更に高くなりいよいよ危うい雰囲気になった時、リビングの扉が唐突に開く。

「あー、えっと……。お邪魔でした?」

 クオンの足から口を離し、開け放たれた扉の前を見ると、背の小さい女の子が立っていた。その姿には見覚えがあった。
 というか、忘れられるはずもない。言いようのない恐怖が全身を襲い、体中が震えてくる。

「別に、邪魔ではないけれど……。ルイス、大丈夫。あれは味方よ」

 クオンが震える俺の肩に手をのせる。
 ただそれだけの事で、俺の震えは嘘のように止まってしまう。

「ほら、取りあえず隣に座って? そのままじゃちょっと……」

 俺は自分の体勢を思い出し、急いでソファに座りなおす。

「あ、えっと……プレイ中なら終わってからでも全然大丈夫ですよ?」

「これはそういうのじゃなくて……!」

 咄嗟に言い訳するが、ナギサの瞳はもうどうしようもないほどに冷たく見えた。
 いくら敵だったとは言えこれはちょっとまずい……。
 
「ルイスは特殊な能力があって、そのために私の血液が必要なの。だから今飲ませていたのよ。別に変な事はしてないわ」

 クオンが代わりに説明してくれる。
 どうにかこれで納得してくれればいいが……。

「別にそれ、足からじゃなくてもよくないですか……?」

ナギサが冷めた声で言う。
正論すぎる……!

「いやほらあれなんだ、ちょっと気分が乗ったというか、そういう雰囲気になったというか、ちょっとした出来心なんだ……!」

「やっぱりプレイじゃないですか!」

「違う……! ちょっとした遊びみたいなものなんだよ!」

 俺は必死に反論する。
 流石に足舐めプレイをする人って認識にはなりたくはない……!

「……遊び? 私がやめてと言っても舐めるのを辞めないであんな声を出させたのが、遊びだったって言うの?」

 今度はクオンが怒りだす。
 隣に座る俺の顔をじっと見つめるその瞳が心なしかいつもよりも更に黒く見える。

「い、いやそういう訳では……」

 俺が答えに窮していると、ナギサが腹を抱えて笑いだす。

「お二人ともこのひと月ですごく仲良くなれたんですね! 大丈夫ですルイスさん、変な事してたわけじゃない位はわかりますから。……ちょっとびっくりはしましたけど」

 ナギサの言葉に気をよくしたのか、クオンの瞳に光が戻る。
 ……仲良く、なったんだろうか?
 確かに、このひと月で距離は近くなったと思うが……。

「遊び、ではないのよね……?」

 俺の顔を手で無理やり自分の方に向かせたクオンが、俺の瞳をじっと見つめる。
声は小さく、とてもか細い。
顔は険しく、真剣さがにじみ出ている。
 
「さっきのは、あれだよ……。クオンの声が可愛くて、もっと聞きたくなったというか……」

 俺が本音を言うとにわかに顔がほころんで、はにかむように笑顔をこぼす。
 ……相変わらずなんかこう、重い気がするのは気のせいだろうか?
 気のせいじゃないだろうなー……。
「あのー、もしもーし! そろそろいいですかー?」

 ナギサがわざとらしく大きな声を上げる。
 声の主を見ると、呆れたようにため息をつく。

「それで、今日は何しに来たの? あなたが顔を出すなんて珍しいじゃない」

 クオンが何事もなかったかのように左手で髪をかき上げながら尋ねる。
 ちなみに、右手は俺の手を握っている。

「あ、その前に一応自己紹介だけお互いにしませんか? 名前とかは知ってますけど、逆に言うとそれ位しか知らなくて……」

「……それもそうね」

 こうして、ひと月前に殺し合った俺たちはようやくお互いをより深く知る事になった。
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