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第二章
第7話-2 再会
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「それじゃ改めまして、私はナギサって言います。お久しぶりですね、覚えてますか?」
忘れるわけがない、あの日の恐怖は今も体に染みついたままだ。
「ああ、覚えてるよ」
「それはよかったです! いや、よかったんですかね……? 大丈夫ですか? 恨んだりとか……してません?」
恨む……。
確かに俺たちはあの日命の奪い合いをしたが、だからといって恨んだりとか憎んだりとか、そういった感情は全く湧いてこなかった。
「別に、そういう気持ちはないよ」
「本当ですか? ありがとうございます。お優しいですね」
ナギサがカンナ様に似た切れ長の細い目を更に細め、頭を下げる。
茶色いサイドテールが首元へと垂れる。
「逆にナギサは俺を恨んでないのか?」
「いえ、全く! 痛いのもまあ、慣れるというか受け入れてますので……。お互いお仕事でしたし、この間の事は水に流すということでいいですか?」
そう言うと、俺の座るソファの目の前に立ち右手を差し出してくる。
握手をしろ、という事だろうか……?
「ああ、そうしようか」
差し出された手を握る。
ナギサは顔を崩し、子供のような笑みを浮かべる。
無邪気でとても愛らしい。
体が小さいのもあいまって、小動物感が凄いな。
「意外と大きな手をしてるんですね、それに豆だらけ……」
握った俺の手を興味深そうに触る。
「……和解できたようでよかったわ、けどもういいでしょう? 離しなさい」
クオンが冷たい声で割って入る。
「えー、どうしようかなー?」
ナギサが煽るように駄々をこね、俺の手を離さない。
俺の右手を握るクオンの力が、どんどん強くなっていく。
……というか、めちゃくちゃ痛い。
「いいから離しなさい。これは私のものよ」
クオンが今まで見たことない位の険しい顔でにらみつける。
いや、誰のものでもないよ……。
「わ、わかりましたよ」
威圧感に気圧されるように、ナギサの手が離れていく。
クオンが満足した様に頷くが、やや気まずい空気が場を支配していく。
「あーえっと、俺はルイス=シュスラーだ。東門騎士団の“元”従者で、今は……無職だ」
自己紹介で無職だって言うの、滅茶苦茶辛いな……。
心が痛い。
「ヒモってやつですね!」
「ヒ、ヒモって……」
ナギサが笑顔で言葉の暴力をふるってくる。
ヒモ認定は酷すぎないか!?
……いや、ほかに表現のしようはないけど。
「まあまあ、いいじゃないですか! こんなに美人なクオンさんのヒモになれて、幸せなんじゃないですか?」
確かにクオンは美人だが、実年齢はともかく見た目年齢は俺より少し若い。
そんな人のヒモって言われるのは、かなり心に来るものがある。
「幸せかどうかはともかく、プライドがズタズタだよ……」
俺が肩を落とすと、ナギサが意外そうな顔をして口に手を添えている。
「へー、幸せってのは否定しないんですね」
「いや、まあ……」
クオンとのこの一ヶ月近くの日常は案外退屈せず、寧ろ楽しく過ごせていた。
幸せかと言われれば、否定することは難しい。
もちろん、騎士団に戻りたいという気持ちが無くなったわけではないけどな。
「複雑って感じみたいですね」
「そんなところだ」
右手を握るクオンの体温が、ほんの少しだけ上がっているように感じる。
こういう細かい体の変化がわかるのは、スライムになった影響なんだろうか?
そこら辺の細かい仕様、全く知らないんだよな……。
「よかったですね、クオンさん」
「そ、そうね……」
妙に歯切れが悪いのが気になってクオンの顔を見ると、視線を膝に落とし顔全体が赤く染まっている。
「ルイスさんはまだしばらくはここで暮らすんですか?」
「そうなる……と思う」
今の俺ではこの家から、というよりクオンから逃げ出すのは不可能に近いだろう。
「じゃあ私たちは同僚……になるんですかね?」
「いいえ、あなたは大切な部下で、ルイスは大切な人。全然違うわ」
クオンが割って入る。
「そ、そうですか……。ルイスさんはそれでよろしいのですか?」
「あー、うん。それでいいよ」
少し迷うが、良しとしておこう。
部下になるよりはだいぶマシだ。
「お熱いことで……」
ナギサが呆れたような表情でため息をつく。
場の空気が微かに重くなる。
「そろそろ自己紹介はいいでしょう? 早くあなたがここに来た目的を教えてくれる?」
クオンも気まずくなったのか、俺の手を離しソファから立ち上がる。
少しだけ、右手が寂しく感じる。
「クオンさん、あの屋敷のこと覚えてます?」
「あの屋敷?……あ!」
ソファの傍に立つクオンが、気まずそうにナギサから目をそらす。
「もしかして、忘れてました?」
「……ええ」
その言葉を聞いたナギサがうなだれる。
クオンがあんなに気まずそうにするなんて、何か大事な約束でもしてたのだろうか?
「結構大変だったんですよ? 誰も来なくて暇だし……」
ナギサがいつもよりもか細い声で責めるように言う。
「……誰も来なかった?」
クオンの声が急に低くなる。
なんか怒ってないか……?
「正確には偵察要因みたいな従者は来ましたけど、まともな戦力は誰一人来てません」
「……そう」
「それで、どうします? 後片付けしておきましょうか?」
なんの話をしているんだろう?
屋敷って言うのは、あの日の屋敷の事なんだろうか。
「あなた一人に任せるのはちょっと不安ね……。あれを運ぶのはちょっと大変だし」
「確かにそうですね、私もあれを一人で運ぶのは絶対に嫌です」
「あれ、ってなんだ?」
二人の会話についていけなかった俺は、気になって質問してしまう。
「私たち二人にとってすごく大切なものよ。いずれ教えてあげるわ」
逆に気になるが、それ以上は答えてくれそうになかった。
「クオンさん、出来れば一緒に着いてきてもらえませんか?」
「うーん……」
クオンが口元に手を置いて唸る。
相当悩んでいるようだ。
……もしクオンが出かけるなら、色々とチャンスかもしれない。
「ルイス、久しぶりに外に出てみたくない?」
悩んだ末、渋々と言った感じで俺に話しかける。
……外!約一ヶ月ぶりに外に出られるなら、これほど嬉しいことはない。
もしかしたらここがどこなのかも把握できるかもしれない。
「出たいな」
「……そうよね。わかったわ、三人であの日の屋敷に行きましょう」
苦虫を嚙み潰したような表情でそう言うと、一瞬のうちに黒いローブに着替える。
手元には、同じようなローブをもう一着持っている。
また時魔法を使ったようだ。
俺は心の中でガッツポーズをする。
やった……!久しぶりに外に出られる。
この家の居心地が悪いわけではないが、やはり一ヶ月も家にいるのは精神衛生上よくない。
「ルイスもこれを着なさい、出来るだけ目立たないようにしないと……」
「え? ああ、わかった」
逆に目立たないか?と思わないでもない。
どうやらナギサもそう思っているようで、苦笑いしながらローブを見ている。
「悪いけど、あなたの分は用意してないの。……時魔法を使えばすぐに仕立てられるから、作ってあげましょうか?」
「い、いえいえ! お構いなく!」
ナギサが大げさに腕を振る。心なしか普段より声も高い。
……内心で絶対嫌がってるよ。
「……そう?」
クオンが頭をかしげる。
小動物みたいでかわいいな……。
「ほ、ほら! 早くいきましょう? ルイスさんも早くそれを着てください!」
ナギサが俺たちを急かしてくる。
こいつ、誤魔化そうと必死だな。
「何をそんな急いでるの……?」
クオンは未だにナギサの態度が理解できないようだった。
忘れるわけがない、あの日の恐怖は今も体に染みついたままだ。
「ああ、覚えてるよ」
「それはよかったです! いや、よかったんですかね……? 大丈夫ですか? 恨んだりとか……してません?」
恨む……。
確かに俺たちはあの日命の奪い合いをしたが、だからといって恨んだりとか憎んだりとか、そういった感情は全く湧いてこなかった。
「別に、そういう気持ちはないよ」
「本当ですか? ありがとうございます。お優しいですね」
ナギサがカンナ様に似た切れ長の細い目を更に細め、頭を下げる。
茶色いサイドテールが首元へと垂れる。
「逆にナギサは俺を恨んでないのか?」
「いえ、全く! 痛いのもまあ、慣れるというか受け入れてますので……。お互いお仕事でしたし、この間の事は水に流すということでいいですか?」
そう言うと、俺の座るソファの目の前に立ち右手を差し出してくる。
握手をしろ、という事だろうか……?
「ああ、そうしようか」
差し出された手を握る。
ナギサは顔を崩し、子供のような笑みを浮かべる。
無邪気でとても愛らしい。
体が小さいのもあいまって、小動物感が凄いな。
「意外と大きな手をしてるんですね、それに豆だらけ……」
握った俺の手を興味深そうに触る。
「……和解できたようでよかったわ、けどもういいでしょう? 離しなさい」
クオンが冷たい声で割って入る。
「えー、どうしようかなー?」
ナギサが煽るように駄々をこね、俺の手を離さない。
俺の右手を握るクオンの力が、どんどん強くなっていく。
……というか、めちゃくちゃ痛い。
「いいから離しなさい。これは私のものよ」
クオンが今まで見たことない位の険しい顔でにらみつける。
いや、誰のものでもないよ……。
「わ、わかりましたよ」
威圧感に気圧されるように、ナギサの手が離れていく。
クオンが満足した様に頷くが、やや気まずい空気が場を支配していく。
「あーえっと、俺はルイス=シュスラーだ。東門騎士団の“元”従者で、今は……無職だ」
自己紹介で無職だって言うの、滅茶苦茶辛いな……。
心が痛い。
「ヒモってやつですね!」
「ヒ、ヒモって……」
ナギサが笑顔で言葉の暴力をふるってくる。
ヒモ認定は酷すぎないか!?
……いや、ほかに表現のしようはないけど。
「まあまあ、いいじゃないですか! こんなに美人なクオンさんのヒモになれて、幸せなんじゃないですか?」
確かにクオンは美人だが、実年齢はともかく見た目年齢は俺より少し若い。
そんな人のヒモって言われるのは、かなり心に来るものがある。
「幸せかどうかはともかく、プライドがズタズタだよ……」
俺が肩を落とすと、ナギサが意外そうな顔をして口に手を添えている。
「へー、幸せってのは否定しないんですね」
「いや、まあ……」
クオンとのこの一ヶ月近くの日常は案外退屈せず、寧ろ楽しく過ごせていた。
幸せかと言われれば、否定することは難しい。
もちろん、騎士団に戻りたいという気持ちが無くなったわけではないけどな。
「複雑って感じみたいですね」
「そんなところだ」
右手を握るクオンの体温が、ほんの少しだけ上がっているように感じる。
こういう細かい体の変化がわかるのは、スライムになった影響なんだろうか?
そこら辺の細かい仕様、全く知らないんだよな……。
「よかったですね、クオンさん」
「そ、そうね……」
妙に歯切れが悪いのが気になってクオンの顔を見ると、視線を膝に落とし顔全体が赤く染まっている。
「ルイスさんはまだしばらくはここで暮らすんですか?」
「そうなる……と思う」
今の俺ではこの家から、というよりクオンから逃げ出すのは不可能に近いだろう。
「じゃあ私たちは同僚……になるんですかね?」
「いいえ、あなたは大切な部下で、ルイスは大切な人。全然違うわ」
クオンが割って入る。
「そ、そうですか……。ルイスさんはそれでよろしいのですか?」
「あー、うん。それでいいよ」
少し迷うが、良しとしておこう。
部下になるよりはだいぶマシだ。
「お熱いことで……」
ナギサが呆れたような表情でため息をつく。
場の空気が微かに重くなる。
「そろそろ自己紹介はいいでしょう? 早くあなたがここに来た目的を教えてくれる?」
クオンも気まずくなったのか、俺の手を離しソファから立ち上がる。
少しだけ、右手が寂しく感じる。
「クオンさん、あの屋敷のこと覚えてます?」
「あの屋敷?……あ!」
ソファの傍に立つクオンが、気まずそうにナギサから目をそらす。
「もしかして、忘れてました?」
「……ええ」
その言葉を聞いたナギサがうなだれる。
クオンがあんなに気まずそうにするなんて、何か大事な約束でもしてたのだろうか?
「結構大変だったんですよ? 誰も来なくて暇だし……」
ナギサがいつもよりもか細い声で責めるように言う。
「……誰も来なかった?」
クオンの声が急に低くなる。
なんか怒ってないか……?
「正確には偵察要因みたいな従者は来ましたけど、まともな戦力は誰一人来てません」
「……そう」
「それで、どうします? 後片付けしておきましょうか?」
なんの話をしているんだろう?
屋敷って言うのは、あの日の屋敷の事なんだろうか。
「あなた一人に任せるのはちょっと不安ね……。あれを運ぶのはちょっと大変だし」
「確かにそうですね、私もあれを一人で運ぶのは絶対に嫌です」
「あれ、ってなんだ?」
二人の会話についていけなかった俺は、気になって質問してしまう。
「私たち二人にとってすごく大切なものよ。いずれ教えてあげるわ」
逆に気になるが、それ以上は答えてくれそうになかった。
「クオンさん、出来れば一緒に着いてきてもらえませんか?」
「うーん……」
クオンが口元に手を置いて唸る。
相当悩んでいるようだ。
……もしクオンが出かけるなら、色々とチャンスかもしれない。
「ルイス、久しぶりに外に出てみたくない?」
悩んだ末、渋々と言った感じで俺に話しかける。
……外!約一ヶ月ぶりに外に出られるなら、これほど嬉しいことはない。
もしかしたらここがどこなのかも把握できるかもしれない。
「出たいな」
「……そうよね。わかったわ、三人であの日の屋敷に行きましょう」
苦虫を嚙み潰したような表情でそう言うと、一瞬のうちに黒いローブに着替える。
手元には、同じようなローブをもう一着持っている。
また時魔法を使ったようだ。
俺は心の中でガッツポーズをする。
やった……!久しぶりに外に出られる。
この家の居心地が悪いわけではないが、やはり一ヶ月も家にいるのは精神衛生上よくない。
「ルイスもこれを着なさい、出来るだけ目立たないようにしないと……」
「え? ああ、わかった」
逆に目立たないか?と思わないでもない。
どうやらナギサもそう思っているようで、苦笑いしながらローブを見ている。
「悪いけど、あなたの分は用意してないの。……時魔法を使えばすぐに仕立てられるから、作ってあげましょうか?」
「い、いえいえ! お構いなく!」
ナギサが大げさに腕を振る。心なしか普段より声も高い。
……内心で絶対嫌がってるよ。
「……そう?」
クオンが頭をかしげる。
小動物みたいでかわいいな……。
「ほ、ほら! 早くいきましょう? ルイスさんも早くそれを着てください!」
ナギサが俺たちを急かしてくる。
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