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6 「古きもの」と「新しきもの」

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「古きもの」と「新しきもの」

『諸々の課題を解決しなくちゃね…』
5の章での、シイの指していた「課題」…これはふたつの事柄を指す。
先ずは、「ひとつ目」の課題内容「シイの仕事からの引退」から述べた方が、内容の理解がスムーズだろう。
「シイの仕事からの引退」…これは勿論の事、私のBOSSも関係している。
なるべく手短に述べたいと思ってはいるが、BOSSも関係していると述べた以上、先ずはBOSSの社会的立場から説明しよう。
私やシイの住む地域一帯は、様々な「領主」が存在する。
私のBOSSも「領主」のひとりだ。
「異世界」であるそちらの歴史でも、場所は違えど「封建制社会」やら「乱世」やら、「領主」的な地位に該当する権力者が複数存在していた事があると聞く。
私やシイの暮らす地域は、そのイメージに近い。
そして、それまた2の章でも少し触れたが、シイは自分が幼少期を過ごした村を滅ぼされるという「惨禍」に見舞われた。
その後、紆余曲折があったものの…自分と同じく「惨禍」を免れた「幼馴染のサン」と共に、私のBOSSに引き取られた。
その後ふたりは、一定基準の礼儀作法及び学問を身に付けるべく「寄宿舎学校」へ放り込まれ、卒業後にはBOSSの養子となった。
BOSSには、「血の繋がりの有る」実子が二人存在するが、シイとサン以外の養子も複数存在するのだ。
「実子」「養子」これ等はBOSSの一族の財産や職務上の権限、序列等…明確に区別されている。
そしてお察しの通り、BOSSの持つ「全てを引き継ぐ」事が許されている者は、当然「実子」側だ。
だが、「不幸」というモノは、貴賤関係無く突然訪れるものだ。
無論、「実子」「養子」の区別も関係無く訪れる。
ある時期、BOSSは立て続けにふたりの「実子」を病気と事故が原因で失う。
不幸はその後も容赦無くBOSSに襲いかかる。
BOSS自身も病に倒れ、加療の為に引退を余儀なくされる。
さて、こきで「一番の問題」が発生する。
「誰がBOSSの後継者」となるか、だ。
最終的に、BOSSが養子の一人として迎えた「セン」という若者が「後継者」として選定される。
因みに…この「セン」は、BOSSの遠縁に当たる人物だ。
しかし、この「セン」はBOSSの仕事については「素人」だった。
苦肉の策として、「セン」が本格的にBOSS一族の「代表」として「使いもの」となるまでの間「暫定的代表」を立てる必要に迫られる。
そも「暫定的代表」として「白羽の矢が立てられた」のが、シイだったのだ。
勿論、シイに「白羽の矢が立てられた」のには、幾つか理由がある。
細かい事は割愛するが、三つだけ述べておこう。
「本格的な後継者」である「セン」と相性が良い。
BOSSの部下達の中で、シイは周囲からの信頼がある程度厚かった。
シイは、BOSSに対して「ある負い目」を有する為、造反のリスクが低い…依ってこの「暫定的代表」の役目を担うのに、一番適任だと。
因みに、「暫定的代表」となっても、一族の財産分与等…諸々の制限がある事に変わりは無かった。

「いいでしょう…「暫定的代表」ですか…?引き受けましょう…ただし、私からも条件があります。」
シイは、この件をあっさり引き受ける事を引き換えに…ある条件をBOSSに迫った。
BOSSは、後にこの時の心境を「何を条件に出されるのかと肝を冷やした」と、私に漏らした。
シイは、そのぐらい普段から「意に染まぬタスク」を「自分を無にして遂行」するタイプの人間だった。
その姿に、BOSSはシイを「私利私欲の無い」イメージを持ってしまったのだ。
しかし、シイの出した条件はBOSSを裏切らなかった。
シイの出した条件…それは「三年以内にシイ自身の引退を認める」というモノだった。
BOSSは、シイの、あまりの私利私欲の無さに…ある種の「不気味な怖さ」を感じたらしいが…シイを「引き留めたい」気持ちと、「不気味な怖さ」を両天秤に量った結果、シイの条件を飲んだのだ。
後にシイは「自分自身の引退」を条件に出した理由を次の通り、私に語っている。
「甘えを『家族の結束』やら、『一族』という足枷で誤魔化す厄介さ…懲り懲りだったんだよ。私の贖罪は「暫定的代表」とやらで帳尻が合うはずだ。」
自由気ままに残りの人生を小じんまりと過ごしながら、偶に「気の置けない友人達」と過ごす…それが夢だったらしい。
シイの「根無草人性」に強く惹かれる所は…実父譲りなのだろう、私はそう思った。
しかし、皮肉な事に「家族」が懲り懲りと豪語していた「独り身」のシイにも、結婚の必要性が出てくる。
それが、ふたつ目の「解決すべき課題」だ。
病に倒れたBOSSに複数の養子がいる事「ひとつ目」で述べた。
BOSSは「政治的見地」から、自分の養子や一族縁者及び部下達の結婚を、取り決める役割を担っていた。
端的に言えば、「政略結婚」を主導する役割だ。
「政治的見地」で結婚を勧める「仲人」みたいなものだと捉えてくれればいい。
しかし、他人の婚姻を…あれこれ口を出す「仲人」が「独り身」では説得力がない。
「面子」という観点から…シイの結婚は勧められた。
この話を先に進める前に…私とシイが住むこの地域の結婚観について、少し補足しておきたい。
お察しの通り…「一族の都合を最優先」した結婚観が罷り通ってはいるが、結婚相手の性別は「不問」なのだ。
何故なら、「政略結婚間」のお相手との間に、子を儲ける必要がないからだ。
むしろ、「政略結婚間」で子を儲ける方が、諸々の禍根を残す要因が強いと公言する人間もいる。
「お家が存続さえすれば良い」という考えが根強いのだ。
では、どのように子孫を残し「お家を存続」させるのだ、という話になる。
一般的には「政略結婚」後、お互いが他所に恋人を作るのだ。
そして、恋人との間に儲けた子を「正式な我が子」として迎えいれるのだ。
その為、この地域では「政略結婚間」で儲けた子の割合が低い。余談だが…BOSSの実子ふたりも、「事実上は婚外子」だ。
さて、話をシイに結婚に戻そう。
こにシイの結婚もmた、BOSS 一族への「障害にならない」事が…重要事項として「お相手」が選定される。
それに加えて、シイは「お相手」に対し、「ある程度の配慮」を自分の結婚で求めた。
数人に絞られた「候補」の中で、「お相手」の決定打なったのが、「既に配偶者と同居する者」を、シイが選んだのだ。
シイに言い分はこうだ。
「私とは、書類上だけで充分だよ…既に他の配偶者を有する人物ならば、今更二番手三番手が自分の側に来なくても、不満は持つまい?依って…私が引退後にBOSSと無関係となっても…婚姻関係の解消に難色は示すまい。」
以上が、シイのふたり目の課題である「婚姻関係の解消」だ。

*****
『かくして、好き同士のふたりは様々な問題を解決し、最後は結婚し幸せに暮らしました、とさ。』
童話の様にシンプル且つ、上手く事が運べば『めでたし、めでたし』となるのだが。
そうはいかないのが、現実の残酷なところ。
シンプルに物事が進む事を願う人間にとって、運命とは意地悪なものなのだ。
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