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7 舞踏会〜恋がわからない

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舞踏会~恋が分がわからない

『シイ、あなたが男性に分化したら…私との結婚を考えてくれる?』
『うん、いいよ。』

「愛」があっても「恋」がない人物。
それが…この当時のシイだったのだ。
いや、シイには「恋」というモノが感覚的に分からなかったのだ。
*****

7の章で、私はシイについてそう述べた。

私の決死のプロポーズに対し、シイのライトな返事。
「うん。いいよ。」
思い返せば、だが…「シイのライトな返事」に対し、少々の引っ掛かりを感じていたのならば、私は自分に対してトーンダウンを強制実行し、この件について掘り下げるべきだった。
結婚観は様々…とは言ってもだ…「人生の一大イベント」である事は確かなのだから。
「脳内お花畑状態」の人間は、自分の思考を停止させるものだ。
嫌な事、辛い事が起きた時こそ…あれこれと思いを巡らせ、考えるものなのだだから。
これらの事は「酸いも甘いも経験した」からわかるものなのだ。
しかし残念ながら、その「酸いも甘いも」…この時点では不充分だったらしい。思い返しても、自分で自分が情け無くなるのだ。
「故郷との決別と二度の離婚」これ等の経験を以てしても、私は何も学べていなかったのだ。
シイとの「苦い恋愛経験」がプラスされ、私はそれらの教訓を得る事になる。

「人生最大の身に余る幸運」それが新たな地獄の入り口に繋がっていたとは…夢にも思わなかった。
それぐらい…私はシイに夢中になっていた。


最初にシイを見た時は「綺麗な人」だと思った。
それから、舞踏会で踊るシイの姿を見た時は「王子様そのもの」だと思った。
う~ん、舞踏会だったかな…パーティの名前や目的は、白状すると…余り覚えていない。
何しろ…当時の私が華やかな会場にいる目的は、ゲストやホストという立場では無く、「スタッフ」扱いだからだ。
華やかなドレスに身を包む…「ホスト」や「ゲスト」のレディー達。
そして皺ひとつ無く…光沢を放つモーニング的な衣装を身に纏った「ホスト」や「ゲスト」の男性陣。
私自身は…華のある衣装とは縁が無く、パーティにスタッフとして駆り出される時は「イートンコート」を思わせるセットアップを、いつも着用していた。
まあ、私は基本、「スタッフ要員」でしか…お呼びが掛からないのだけれども。
私の直属のBOSSでもある、シイの養父。
先の章で、BOSSが「病気の療養の為引退」と言ったが、この頃は「ご健在」だったのだ。
私は、BOSSに「オーラ分析能力」を重用されてはいた。
とは言っても、大ぴらに「私の仕事と存在」は公表されない。
『ロクのオーラの読みのおかげで助かった』
そういう類の…お褒めの言葉をBOSSよりいただいても、そこは所詮胡散臭さを伴う分野だ。
全ての人間が「見る事の出来ないオーラ」と「それに対するBOSSの功績の明確な紐付及び証明」それが難しい限り、私は影の存在なのだ。
当然と言えば、当然だ。
想像して欲しい。
華やかな衣装を私が身に纏い、会場に姿を現す。
当然「あの方は誰?」となる。
私の能力が、胡散臭さが切っても切れないモノである以上、そのシチュエーションは面倒でしか無い。
だからこそ「スタッフ扱い」なのだ。
その私から見て、キラキラと華やかな「ゲスト」や「ホスト」の光沢溢れる姿は眩しい。
とは言え、だ。
私の中で自分の「立ち位置」に関して、卑屈な気持ちを抱く事は皆無だ。
パーティ会場には、性別問わず「壁の花」と呼ばれる人種が誕生する。
光沢のある、華やかな衣装を身に纏っている…にも関わらず、ワルツの輪に加わる事が出来ずに、モジモジしながら壁際に佇む人々だ。
彼等は自分と同じく人種である「光沢のある衣装を身に纏った人々」に気に掛けられる。
気を遣った「お仲間」が「壁の花」達に声をかけ、ある程度言葉を交わした後…「救済された壁の花達」はワルツの輪に加わる。
が、スタッフの私は当然ながら…壁際に佇んでいても誰にも気に掛けられない。
そんな私は、心大気なくパーティの様子を観察する事ができる。
私のオーラを読み解ける能力は、仕事上で遺憾無く発揮されるが、こういった場では「純粋」に楽しんでいるのだ。
『ああ、あの人はBOSSの前では穢れなき「篤志家」って顔してたのに、ドレスから覗く女性の胸元や、大きく開いた背中に欲情してる!あのオーラの色…ああっ背中の時の…欲情ボルテージの上がり方が…ハンパない。背中フェチ?』
と言った調子だ。
ま、「家政婦は見た!」的な感じかな。
ぼんやりと眺めている時に感じる…時間の経過が心地良い。
この「冗長」とも言える心地良さを噛み締めている時に、私は思った。
死んだご先祖さまが、子孫達を見守るって…こんな感じかしら。
それとも身内なだけあって、達観した思いで見守る事なんか出来ず…ヤキモキしながら眺めているのかしら。
ふと、そこまで思い至った時だ。
シイが、私の視界に入って来た。
シイは「白寄りのグレー色、薄靄状態」のオーラを身に纏っていた。
うん。予想通りのオーラだ。
シイは自分を「無」にして「ホスト」のひとりとして…役目を遂行中だ。
そのシイの出で立ちは「光沢のある薄いグレーのモーニングと白い手袋」だった。
シイの性別は「未だ分からない」状態だが、公には「男性」扱いだ。
BOSSであるシイの養父の立場からすると、「自分の手足となる部下」は、男性の方がやり易いのだ。
それに加えてシイは、性格がやや男性っぽい。
例えば、「気乗りしない仕事」
シイは、これを基本自分を「無」の状態にして動き出す。
が、一旦、引き受けると、夢中で最後まで突っ走るのだ。
最後まで突っ走った後は、エンジン切れを起こしている事も多い。
私はその様子を…何度か見た事がある。
その様子は例えれば…登山のスタート時点から全力で突っ走り、途中で「気になった木を登る」という無駄な体力の消耗する行動を…後先考えず行い、下山後の麓に到達した時点では既に「ふらふら状態」の我が息子に似ていた。
一方、我が娘は、スタートからダラダラおしゃべりしながら歩き、時にはショートカットを行ういう「賢い逃げ」スキルを駆使する。麓に到着する頃には「疲れた」を連呼してたくせに、近くの休息用店舗では休憩所でバタンキュー状態の兄弟を尻目に、お土産選びに精を出す。もちろんそのお土産は「自分用」だ。
シイは間違いなく、前者の方だった。
その時だ。
シイのオーラに、ふと薄い緑色が差した。
オーラの量が先程よりも少し、増している。
「知識欲」が働いた時によく見る色だ。
シイの変化の理由を探るかの様に…私はシイの様子に釘付けになる。
シイの目の前に…女性が立っていた。
黒目がちの美しい人だった。
艶っぽい微笑みを浮かべながら、黒目がちの潤んだ目でシイを見つめている。
彼女のオーラはピンク色であり、「写真のフラッシュ」を連想させる放たれ方をしていた。
彼女のオーラは分かりやすくも物語っている。
「素敵な王子様、あなたが好き!」
オーラを見ずとも、彼女の表情と態度は誰の目から見ても、シイに恋していた。
しかし肝心のシイは…そんな目を向けられても何故か「知識欲」のオーラを出している。
変わった人だ。
私は改めて、シイの事をそう思った。
私なら、男女問わず見目麗しい子から「恋」オーラを向けられたら、心拍が爆上がりする。
きっと、私自身もピンクのオーラを放ち、見目麗しいお相手とピンク色共鳴を起こすだろう。
同性である限りは…その場限りの共鳴になってしまう可能性が強いが。
「美しさ」とは「恋」という情を強く揺さぶる武器なのだ。
そこまで思いを巡らせた後、私は再度シイの目線を探った。
するとシイは、黒目がちな彼女の頭上を凝視していた。
彼女の髪型はパーティ用に華やかな盛り方をされ、頭上に花飾りや鳥があしらわれた髪飾りが乗っている。
次の瞬間、シイと彼女の周囲から驚嘆と冷やかしの声が上がった。
彼女がシイに飛び付いて…キスしたのだ。
その瞬間、シイが驚いて後ろに後退りした。
肩透かしを食らったかの様に、彼女がシイのやや後に倒れ込む。
彼女が床に倒れる寸前、シイが彼女を抱き留めた。
「大丈夫?」
シイの声は聞こえないけど、口の動きがそう言っていた。
彼女は王子様に抱き留められ、嬉しそうな表情を見せた。
もう、オーラの色が、ピンク一色の花火状態だ。
シイにエスコートされながら、彼女は休憩室へ向かう。
その間、彼女は頬を薔薇色に染め…シイを見つめていた。
彼女のピンクオーラが雷神の背負う太鼓の様に「ドドン!パン!!」状態だ。
対照的に…エスコートするシイは…相変わらず緑色のオーラが、水面の波紋の様に放たれている。
そして彼女をエスコートしながらも、視線はずっと髪飾りに釘付けだった。
あんな美女から…好き好き攻撃を受ければ、異性に興味ある男性は年齢問わずテンションが上がるものだ。男性のわかり易い発情的なテンションの上がり方ならば、多少はピンクのオーラが出るのだ。
男性の方が性に結び易い分、赤色寄りのピンクオーラで出る事が多いが。
シイは、男っぽいが男っぽくない。
妙な矛盾に思いを巡らせていたその時だ。

「やあ」

渦中の人「シイ」が、いつの間にやら隣に立っていた。
私はびっくりして軽く後退り、壁に背中をぶつけた。
「大丈夫?」
シイが、シャンパングラスを自分の口元に当てながら、横目で私の様子を見て言った。
「ええ。休憩室に行ったんじゃなかったの?…彼女、平気?」
「うん。シャンパンを差し上げて、休んで頂いたよ…」
そう言いながら、シイは窮屈そうな首元の蝶ネクタイを指でグリグリと緩めた。
それから、自分の口元に当てていたシャンパンの中身を、近くの植物の鉢にするっとかけた。
「…何でそんな真似してんの?」
シイの行動が理解出来ず、私はギョッとして軽く問い正す。
「え、あ…まずかった?…ちょっと口元を消毒したくて…アルコールだと枯れちゃうかな?」
「かけちゃったものはもう仕方ないと、思うけど…変わった事するなって…」
「…消毒したかった。」
「まさか、美女の唇がお気に入り召さなかったの?」
私は、ストレートにシイに尋ねた後、少し滑稽な気持ちになった。
『これらの会話はまるで、シイが完全に男の子だと完全決定してるみたいだと』
私の思いを余所に、シイはしゃべり続けた。
「犬にキスされた事を、思い出してね…つい。」
「い、犬?」
「彼女、急にジャンプする様に…飛び付いてきたでしょ?…犬みたいだって思った…勿論、彼女が犬では事は分かっているけどね。」
やっぱり変わった人だな、と再度思いながら…私は適当に調子を合わせた。
「高級な血統書付きのお犬様ね。」
「『高級でも雑種でもやる事は同じだよ』これはニイ…私の友人のセリフだ。ソイツの犬にキスされた時に友人から言われたんだ。『口洗ってこいよ、コイツは食糞しているぞ』って。」
「まあ…」
「友人の飼っている犬種だけ…そういう真似するのかと、友人に尋ねたんだ…そしたら、『俺の犬は雑種だ。高級でも雑種でも犬は同じ事する』と言われてね。」
「食糞…」
私は戸惑った。
この華やかなパーティ会場と華やかな人々を眺めつつ、何を話しているのだろう…。
私の戸惑いを…一ミリも気にかけること無く、シイがしゃべり続ける。
「ふと、思い出したら…自分でもよく分からないが、消毒したくなってね。それでアルコールを…」
「ああ、そういう事…疑問がひとつ解消できたわ。」
私がそう言うと、シイが少し驚いた顔を見せた。
「…ひとつ?他にもあるの?」
「彼女の髪飾りを凝視していた時に…『知りたい』オーラ出ていたでしょう?何を知りたかったの?」
「…ああ、あれ、ね。…髪飾りのモチーフ。」
「モチーフ?」
「そ。彼女の髪飾り…鶴らしき鳥と薔薇の花、三日月と満月が合体した風の球体…あとこれが一番不明だが、斜めに吹く風らしきモノで構成されたデザインになっていたんだ。」
「…そう…」
「で、彼女に尋ねてみたんだ『それは花鳥風月をあしらっているの?』って」
「で…?」
「彼女…キョトンとしてて…尋ねるだけ無駄だな、と思い、私は休憩室から退散した。」
私はふふふ、と思わず笑ってしまった。
「面白い要素が、この話の中にあった?」
怪訝な表情を私に向けて…シイが尋ねた。
「いいえ違うの、ごめんなさい。あなたやっぱり変わった人だなって思って…」
「よく他人から言われる…君は、私の「どの辺り」が変わっていると思ったの?」
「あの美女の色気に当てられても…一ミリもブレないところ、かしら?」
「ああ………」
シイの声色が低いモノになった。
表情にもオーラにも…僅かばかりの苦々しさが浮き上がっている。
「疑問が新しく出来てしまったわ?…どうして苦々しい表情してるの?」
シイが、軽くため息を吐いて言った。
「…養父…BOSSから聞いてるんじゃないの?」
「何を?」
「またまた…惚けてるの?オーラ分析には諸事情の情報も併用されてるって聞いてる。」
シイが内ポケットからタバコを取り出し、口にくわえはじめた。
私は慌てて、タバコに火をつけた。
ありがとう、シイは小さく礼を言うと先程の話を続けた。
「ハニートラップ系のスパイ行為に…私が失敗した話。BOSSが君に共有してないと思えない。」
私は軽く面食らった。
そうだったんだ…方々からシイの事は「出来る人」と聞いていたからだ。
そのシイでも、失敗はあるのか…。
「まさか。BOSSは私に『関わらせる必要なし』と判断すれば、一切情報漏らさないわよ。」
動揺を隠して、私は答えた。
「ああ、そう。ま、いいんだけどね。私は本当に分からないから。」
「分からない?」
今度は、私が怪訝な表情になった。
すると、シイはあっけらかんと、私の質問に答えた。
「色恋事。先程の様な『美しい女性にキスされたら、喜ぶのが一般的である』…理屈は理屈として理解出来る。が、感情迄伴わない…これが失敗の要因。」
「ああ、そういう事。」
一番の疑問が腑に落ちた。
「気のせいかな?…『スッキリ!』って顔、君してるよね?」
「一番の疑問が分かったから、同じ女性の私でも…あんな艶っぽい女性にキスされたら、舞い上がるわ。」
「成程…そういうものか。私はニイ…先程の友人から、『色恋』座学は偶には教わるけど…今後は君にも座学レクチャーを頼んでもいいかもね。」
「…えっ!」
「友人の座学には、偏見が入っている様な雰囲気が感じ取れる。複数の意見を聞く事は理解を深める上で良い事だろう。」
「…」
なんか、本当に変わった人、だな。
私が少し引いていると、シイがチラッとダンス会場に目を遣った。
「今日はお開きだね…ご苦労様。君も帰ったら。」
コートを着用し、入り口に向かうゲスト達の姿が見える。
それらの様子を見ていると、楽団が機械的に演奏するワルツの曲が寂し気に感じる。
ああ、そうだ。
華やかな時間は終わりだ。
「養父はお開きの挨拶を終えたんでしょ?…休憩室に居た時に聞こえた。そして、私はパーティについて…ひとつ決めている事がある。」
シイにグレーのオーラに…新たに「黄色」が出現した。
期待を持つ時に出るオーラだ。
「希望に満ち溢れた事?」
私の問いに…シイが一瞬驚いた顔をした。
「すごいね。既にもう分かるんだ。」
「諸事情を聞いて無いから…細かい事は分からないわ。早く教えて。」
すると、シイがにっこり笑って言った。
「私がパーティを仕切る役目を獲得した暁には…私の今現在の「ダンス接待」の役目は、センに押し付ける。」
シイがある一団を、指差して言った。
指し示す先には…名残り惜しいのか、なかなか帰路に着こうとしない女性ゲスト達が居た。
その中心に居たのは、鼻を伸ばしながら華やかな女性達と談笑する男…センがいた。
側から見ると、その様はハーレムを牛耳る雄のオットセイの様だ。
彼のオーラは分かりやすくも、赤いオーラが炎の様に昇り上がっている。
因みに彼は、BOSSの遠縁の子だ。
先の章で述べた「BOSSの後継の後継」だ。
「ふふっ…喜んで…引き受けてくれそうだわ。」
「楽しめる奴が、やるのが一番だよ。…全く」
シイが、タバコを内ポケットに仕舞いながら呟いた。
「そうね。シンデレラタイムは、皆終わりね、帰らなきゃ。」
私が呟く様に言うと、シイがタバコを内ポケットに仕舞う手を止めて、私に尋ねた。
「毎回思ってはいたけど…君はパーティを楽しんでいるの?」
シイが、両眉をクイっと上げて尋ねてきた。
「…皆の様子を見物する事に注力して…楽しんでいるわ。」

私は、先に述べた『死んだご先祖さまが子孫達を見守る…』の話をシイに語り、その感触は満更でもない事を伝えると、シイは数秒ではあるが、神妙な面持ちで遠くに目を遣った。
それから、急に私に尋ねて来た。
「…君、ダンスは嫌い?」
「踊れないもの、ワルツ。」
シイの質問の意図が分からないまま、私は答える。
「試しに踊ってみる?」
シイが私の顔を覗き込みながら、そう言った。
それからエスコートする様に、私に手を差し伸べた。
自分の心臓がドキっとなったのを、私は確実に感じ取った。
何かテンション上がるものがあるわね…流石、見た目が100%王子様。
シイの思い付き且つ、お試しだと分かってはいても…私の心拍は爆上がりだ。
「ほら、早く!」
返事を寄越さない私に痺れを切らしたのか…シイが強引に私の腕を引っ張った。
シイは私をエスコートしながら、ホールの中央迄移動する。
私は『王子様のお相手が、こんな地味な女で申し訳ない』という気持ちになる。
「あ、その…シイ…」
「大丈夫…ちゃんとリードするから。」
私のおぼつかない足元を見て、シイがクスリっと笑った。
「…ゲスト達と踊っていた時より…楽しんでるオーラを出してるわ、あなた。」
ふふっとシイが声を上げて笑った。
「…すごい、分かるんだやっぱり。」
「ええ。」
私が頷くとシイが続けた。
「私の事を変な奴だって…思ってんじゃない?」
「すごいわね、あなたこそ。何で分かったの?」
「先程の話の流れから想像つくよ。『華のあるマダムやお嬢様達とは仏頂面で踊っていた癖に、着飾ってない自分と踊っている方が楽しそうだ』変わってるわって」
シイが、私の喋り方を真似して言った。
その真似が…なかなか似ていた為、私は踊りながら吹き出してしまった。
「あなたへの印象が変わったわ、シイ。」
「へえ、どんな印象持ってたの?」
「無機質で…根暗な感じ」
「結構傷つくな…今は逆に根明なイメージって事か。」
「ええ、ダンスが好きそう。」
「うん、指摘されれば…嫌いではない。いい思い出もある。」
シイはそう言うと、遠くに視線を遣った。
その様子は遠くの何かを凝視してる、と言うよりも…何かを回想している様だ。
「子供の頃、幼馴染の子と近くの村の祭へ勝手に紛れ、大人のダンスの群れに飛び込んで踊ったな…あれは楽しかった。」
さっきの笑った表情とは違い、シイが穏やかな表情を浮かべている。
その表情を見つめながら、私はシイの事を改めて「やっぱり綺麗な人」だなと思いながら尋ねた。
「…大人達は微笑ましく見守ってくれたの?」
「楽しそうに見守る大人と、呪い言葉を吐いてくる大人と…半々くらいかな。」
シイの表情は相変わらず穏やかだが、話している事が少し物騒だ。
「それは、事情を突っ込んでもいいの?」
「事情も何も…私の一族は身体的特徴が周囲と少々違っていたせいか、孤立気味だったしね…自分と違うモノは怖いって、だけの事だろう。」
先程と違った…暗い話題に私の本心は『どうしよう』の言葉が浮かぶ。
が、次のシイが吐くセリフから、『ダンス前のシイとの会話の中で唯一未回収な疑問』の回収を果たす事になる。
「…さっき、死んだご先祖様はヤキモキ…の話をしてたよね。私の考えを述べると『死人は何も思ってないと思う』希望的観測を大いに含んでいる事は否定しないが…死後は『無』であって欲しい。」
「…」
「生前が諸々と穏やかでないなら、死んだ後くらいは安らかであれ、だ…ほらあれ。」
シイが、ダンスを急にやめて、顎でホールに入って来た人物を差した。
その人は、シイの会話の中に出て来た幼馴染の「サン」だった。
帰路に着くのだろう。
夫君と共に入り口へ向かっている。
彼女の姿を見て、私は思い出した。
今日は彼女の結婚後…初の里帰りパーティだった。
私がそれを失念していた事を、シイに伝えるとシイは言った。
「第二のお里、だけどね。」
サンもシイ同様、BOSSの養子だ。
「あなたが話の中に出てきた『幼馴染』って、サンの事でしょ?今でも仲良いの?」
シイが軽く横に首を振っていった。
「『兄弟は他人の始まり』って言うからね…ま、はとこだけど。兄弟みたいに過ごしたからね。」
私は、軽く笑って言った。
「祭りで一緒にダンスしていた時は、仲良しだったのね。」
シイが横目で、サンを見て言った。
「いや、仲悪かったよ。嫌いだったね。」
シイが、無表情で言い放つ。
シイのオーラは「無」に戻った。
そこには「好き」も「嫌い」も浮かんでいなかった。
そして「嘘」も、浮かんでいなかった。
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